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烏と僕と霊障と  作者: 愛猫家 奴隷乙
中学生編 第1部
19/28

僕と僕と妖し



 「こ…ここは」

 僕は気が付くと真っ暗な場所にいた。


 「よー、目が覚めたか、安心しな、後は俺が変わってやるから、寝てていーんだぜ」

 そう言って来たのは僕そっくりな誰かだった。

 「君は?」

 問い掛けると口端を歪めて笑いながら僕そっくりな男の子が語りかけてくる。

 「ふんっ、決まってるだろ、お前だよ」

 「僕?」

 「そうだ、俺はお前の中に封じられてた、お前の妖しとしての核さ」

 そう言いながら男の子はぶつくさと何か別なことを呟きだす。

 「くそっ、身体が言うこと聞かねーな。折角、封が解けたってのに」

 苛つきだした男の子が僕に文句を言う。

 「たくよっ、俺もお前の一部だってのに、なんで封じられなきゃなんねーんだよ。折角、封が解けたって身体が言うこと聞かねーし」

 「何を言ってるのか、わかんないよ。…それよりっ、タカシは」

 タカシが大怪我していたことを思い出した僕は男の子に聞く。

 「あっ、はん、タカシなら、狐のばばあに治して貰って、妖怪になったお前を見て逃げてったよ」

 男の子は意地悪そうにそう言った。

 「狐のばばあって、玉藻前様のこと、良かった、タカシは無事なんだね」

 「なんだよ、妖怪になったお前を見捨てるようなやつのこと、どうでもいいだろ」

 男の子は心底嫌そうにそう言いながら、僕に掴みかかる。

 「さっきから、訳わかんないことばっか言って、タカシは裏切るようなやつじゃない」

 「けっ、いい子ちゃんぶりやがって、期待されて大切にされて、後ろ暗いことは俺に押し付けて封印してたくせに」

 「いい加減にしてよ、早くタカシたちと合流しなきゃいけないんだ。ここを出してよ」

 そう言うと、男の子は笑いだした。

 「まだ、気付いて無いのか、ここはお前の中、今のお前は魂そのものだよ。俺は妖しとしての核だって言ったろ。お前が封印を解いたんで出てきたんだよ」


 ここが僕の中…

 そうだっ、淡島や蛭子はっ

 「たくっ、あんな分身体に苦戦しやがって、まあ、お陰で封印も解かれたし、このまま成り代わってやるよ」

 この子は僕のせいでここに閉じ込められたのかな、そんなことを思ったら、何となくこのまま変わってあげてもいいような気もしてくる。

 どうすればと思っていると、タカシの声が聞こえて来た。

 「縁殿、正気に戻るでござる」

 真っ暗だった世界の隙間からタカシの姿が見えた。

 「タカシ、僕はどうなってるの」

 僕の声は届かないみたいで、タカシが殴りかかろうと振り上げた拳を振り下ろすより前に、タカシの脇腹に黒い羽根のようなものが突き刺さる。羽根からは刀が飛び出していて、それがタカシの脇腹から背中へと貫通していた。

 「タカシっ、くそっ。おい、さっき、偉そうなこと言ってただろ、タカシを刺したやつを倒してくれよ」

 僕が男の子に向かって思わず怒鳴ると、男の子は心底楽しいといった態度で文字通りお腹を抱えて笑いだした。

 「あー、笑える。本当にわかってないんだな。ここはお前の中って言ったろ。あのガキを刺したのはお前だよ」

 僕…僕が刺した。

 「何、訳わかんないこと言ってんだよ。くそっ、タカシ、今、助けるからっ」

 「けっ、いいじゃねーか、あんなうざいだけの雑魚がどうなろうと、お前だって、ござるござるって纏わりつかれて迷惑してたろーが」

 なんだ、こいつ、さっきから、こいつは僕なんかじゃない。

 「ふざけるな、いいよ、お前を倒して、元に戻る、さっさとタカシを助けなきゃ」

 僕がそう言うと、男の子は殺気を放って斬りかかってくる。

 「こんなんも避けられねーくせに良く言うわ」

 呆気ないくらい簡単に斬られた僕は袈裟に斬られた自分の身体を治すために神力を使おうともがく。

 「くそっ、なんでっ」

 力がうまく使えない、浅く斬られただけで然程痛みは無いのに集中できない。

 「はん、俺らの身体はあのガキに止めをさしてやる気らしいな、丁度いい一緒にお前もここに封じてやるよ。そうすりゃ、身体の制御も出来んだろ」

 そう言って構えだした男の子、視界の端ではタカシを斬ろうとする羽根が見えた。

 

 「斬るでござるよっ! 拙者は死んでも魂は死なんでござる。縁殿を正気に戻すのは、臣下である拙者の、いや、親友である僕の務めだっ!!」

 タカシがしがみついて吠える。流血や痛みで意識だって飛びそうなのに、吠え続けてる。

 「姿かたちなんて、どうだっていい、でも、貴様は縁君じゃない、縁君を返しやがれっ!!」

 そう吠えるタカシが拳を打ち込む。

 「くそ! やめろっ、なんだ、力が抜けてく、ふざけるな、また封印されてたまるかっ!!」

 男の子が動揺しだして、暴れだす。

 僕はなんでか落ち着いて来て、胸に受けた傷も治っていた。

 「うん、タカシ、今、戻るよ。僕はたかしの尊敬すべき主君で、誰よりもかっこいいタカシの友達だからね」


 僕は咎切を構えると静かに息を整えた。

 「ごめんね。僕は君を受け入れる、封じるんじゃない、ともに生きるんだ。僕に力を貸して欲しい。だから君を倒すよ」

 「けっ、いい子ちゃんが、雑魚の分際でほざくんじゃねーっ」

 

 もう一人の僕が構えをとるより速く僕が紡ぐは縁の閃き、廿(はたえ)と織り成す桜の葬送。

 「桜花廿散華(おうかはたのさんげ)

 斬撃が縦横無尽に走り、桜の花弁が舞う。

 「けっ、甘ちゃんが、もう少し眠っといてやるよ」

 そう言ったもう一人の僕は嬉しそうに笑って消えていった。


 やたらかっこいい姿に変貌した縁殿は、あっという間に蛙人間のような姿をした化け物へと躍りかかると、あちこちに生えた刀で滅多斬りにして倒したでござる。

 「強い、強いでござるよっ。玉藻前様っ!!」

 五月蝿いでありんすねーと素っ気ない返しの玉藻の前様を尻目に縁殿が木乃伊のような男に斬りかかるでござる。

 「いい加減にして欲しいね。母上の神域も限界だ、これでお暇させてもらいますよ」


 「あら、まだまだ遊んでいっていいでありんすよ。お兄さんをおいて逃げるんでありんすか」

 玉藻前様が挑発してるでござる。しかし、あの蛙人間は、木乃伊男の兄なんでござるか、全く似てないというレベルではござらんな。

 それにしても、見捨てるとはひどいでござるよ。まあ、闘っているのは縁殿でござるゆえに、ここで仕留めて欲しいでござるが。

 「ふん、大陸の女狐が。どうせ、我等が分身体だと気付いてますでしょうに」

 「だとしても、手に入れたものは置いていってくれると嬉しいでありんすね」

 青筋をたてる勢いで怒りに震える木乃伊男でござったが、そんな隙だらけなところを縁殿に襲われたでござる。間一髪というべきか、木乃伊男は逃げてしまったようでござったが、それにしても縁殿がおかしいでござる。

 姿が変わっただけでなく、凡そ理性を感じないでござる。

 「玉藻前様、縁殿は元に戻るでござるか」

 そう聞いた拙者に玉藻前様は可笑しそうにしているでござる。

 「戻れるかはわからないでありんすな。そも、あのままなら、妖しとして覚醒した自我に呑まれるのも時間の問題でありんすな」

 「なっ! それでは縁殿では無くなってしまうではござらんか」

 こうしてはおれんでござる。

 手足は依然として動かんでござるが、こんなもの気合いでござる。

 「あらあら、ホントに死にに行くだけでありんすよ。見捨てればいいでありんしょう。今の縁ちゃんは荒ぶる神でありんすよ」

 「縁殿は神だとか、妖怪だとかの前に拙者の親友でござるっ!!」


 そう言った拙者に玉藻前様は微笑んでござった。

 身体が自由を取り戻して、何故か活力が湧いて来るでござる。

 「いいでありんす。力を少し貸してあげるでありんすよ。簡単には死なない程度の加護で、痛みも苦しみもそのままでありんすが」

 「十分でござる。縁殿が正気に戻るまで、家臣としてぶん殴って来るでござるよ。縁殿を殴る以上は拙者だけ、痛くも痒くもないでは不公平でござろう」

 玉藻前様が爆笑するなか、拙者は縁殿をぶん殴りにいったでござる。



 全く、可笑しな子供でありんすよ。

 普通なら泣いて逃げ出すほどの相手に臆することなく向かっていって、腹に穴を開けられながら、本当に殴って来るなんて。


 縁ちゃんが解かれた封印を戻して帰って来て、タカシちゃんの傷もその余波で塞がって行ってるようでありんすね。

 縁の紡ぎの神たる権能でありんすかね。魂に繋がりが出来て、タカシちゃんはこっちに引き込まれたようでありんす。

 本当に縁ちゃんの家来になっていくでありんすか。

 あの須佐乃男に誓いを立てた縁ちゃんのように。

 主従揃って似た者同士でありんすな。


 今は二人とも寝てるでありんすよ。

 あとはわっちが何とかしとくでありんす。



 

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