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烏と僕と霊障と  作者: 愛猫家 奴隷乙
中学生編 第1部
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タカシとキツネと覚悟



 拙者は結局、水守殿と二人で用具倉庫の整理を仰せつかったでござる。まあ、懲罰でござるな。

 「いやー、参ったでござるな」

 「参ったはこっちのほうよっ」

 そう、いきりかえす水守殿に苦笑するでござるが

 「そうは言うでござるが、水守殿がペア組みでズルをしようとしたのは事実でござろう」

 「それなら、あんただってそうでしょうがっ」

 それを言われては立つ瀬が無いでござるな。会話も続かずに作業を淡々と進める二人でござったが、如何せん、取り敢えず何か罰をと言った風に適当に決められたものでござるゆえか、そもそもにそこまで整理をする必要がないんでござるな。必然、あっという間に手持ち無沙汰になるでござる。

 「加藤先生には取り敢えずは終わりまでいろと言われたでござるから、適当に時間を潰すしかないでござるか」

 そんな風に一人ごちておったでござるが

 「ねぇ、あんたのその変な口調なんなの」

 突然に水守殿に絡まれたでござる。いや、言い分は全うでござろう、拙者だって、「何々でごんす」なんてのが知り合いにいれば、間違いなく突っ込みたくなるでござろうからな。


 「これには深い訳があるでござるよ、少なくとも拙者は縁殿を支える侍になると決めたでござる」

 「変人だ変人だとは思ってたけど、重症ね」

 「歯に衣着せないにも程と限度があるでござるよ」

 しばらく、水守殿と話していると、水守殿がそわそわし始めたでござる。

 「お花摘みでござるか、先生が来たときは拙者が対応するゆえ、行ってくるでござるよ」

 「変人なのに察しはいいのよね」

 「ディスるのか、褒めるのかどっちかにして欲しいでござるな」

 「褒めてないわよ。じゃあ、行ってくるから、悪いけどよろしく」


 「さて、暇でござるな~」

 拙者は片付けの済んだ倉庫で適当な場所に腰を下ろして背伸びしたでござるが、ふと、なにやら視線を感じて振り返ったでござる。

 「狐…でござるか」

 倉庫入り口、水守殿が出ていくさいに閉めたはずの扉が開いて金毛に顔の辺りだけ綿毛のように白い狐がそこにいたでござる。

 「白面金毛とは面妖な、まるで玉藻前でござるな」

 拙者がそんなことを漏らすと、狐はさも可笑しそうに口を剥いてから喋りだしたのでござる。

 「侍になろうとしてる、変わった御仁ではありんしたが頭は良いのでありんすね。そう、察しの通りの玉藻前でござんすよ」

 「玉藻前様は淡雪様のお師匠様と縁殿から聞いたことがあるでござる」

 腰を上げ、先程、片付け作業で把握している得物となりそうな長物にこっそりと手を伸ばす、手汗が酷いでござるな。目の前の妖しが味方か敵かわからんでござるゆえ、とりあえず時間を稼ぐでござるが、水守殿が戻る前に何とかせねばでござるよ。

 「警戒してるでありんすね、感心でありんすよ、でも、急ぐ方が良いでありんす、縁ちゃんと淡雪ちゃんがピンチでありんすよ」

 「なっ! それはどういうことっ!」

 「おー、口調が素になったでありんすね、貴重貴重。藤崎嬢に憑いた黄泉津大神の神域に縁ちゃんが引き摺り込まれたんでありんす。淡雪ちゃんは今、消えた藤崎嬢を追っているでありんす」

 拙者は手にした木柄のモップを構えたでござる。

 「今のは、本当でござるな、して、どうやれば拙者は縁殿の助太刀が出来るでござる」

 「やー、肝が座ってるでありんすね、案内は任せるでありんすよ、神域には淡雪ちゃんが目印をつけてくれたでありんす。伊佐那美ちゃんから預かった護符があるでありんすから、神域に入るのは簡単でありんすよ」

 「では、すぐに行くでござる」

 そう、急かした拙者に玉藻前と名乗った狐が歩みよる。

 「本当にいいんでありんすか、縁ちゃんと違って、まだただの人間のおんしでは死にに行くようなものでありんすよ」

 「拙者はそうと決めたでござる。足を引っ張るようなら、体を盾にしても守るでござる」


 そう言うと狐が笑っていたでござる。




 全身が痛い、このまま死ぬのだろうかと、そう思っていると、縁君の絶叫が聞こえる。

 くそっ、僕が役立たずなせいで縁君がまた危険な目に、そんな風に思って見上げた先には、黒と白の帯を全身に纏いながら、どんどんとその姿を変化させていく縁君がいた。

 「縁…君 助けなきゃ、縁…」


 大丈夫でありんすよ、約束でありんすから、おんしは治してあげるでありんす。


 縁ちゃんの本当の姿をよーく見るでありんす。


 僕はそんな声に身体の自由を奪われる。

 縁殿、どうしたんでござるか。



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