新生活と淡雪とサプライズ
第2章始まりです。
4月になり、墨田区立第3中学校に通うこととなった僕は制服のブレザーに袖を通して入学式に参加していた。
すさのお様から貰った縁紬はスカーフリングを使って細く折って首もとに巻いてある。
『あー緊張するなー』
僕は念話飛ばして淡雪に語りかける。修行のお陰でこんなことも出来るようになったけど、この後の大仕事に僕は不安でいっぱいだった。
『大丈夫ですよ、落ち着いていれば失敗なんてしませんから』
淡雪から念話が返ってくる。でも、式次第が進むに連れて緊張は高鳴る。
「新入生代表挨拶、木ノ下縁君」
ついに出番がくる。なんで僕が代表なんだろう。はい、と返事をして登壇すると僕は用意した原稿を置いて前を向いて挨拶を始める。今日まで練習して頭に入っている挨拶はつかえることなく出てくる。
何とか無難に終わらせて壇上から降りようとした時、新入生席から強い殺気を感じて咄嗟に振り向いてしまう。殺気は一瞬で霧散したものの段取りにない動きをしてしまい、降壇してからの手順が頭から飛んでしまう。
『どっどっ、どうしよ、どうするんだっけ、淡雪』
『落ち着いて縁、先ずは来賓席に礼をして、先生方の席、それから在校生に向けて礼をしたら席に戻ればいいのですよ』
冷静な淡雪の声に落ち着いて行くとともに、気のせいだったのかなと思い始める、いくらなんでも入学式に殺気を飛ばしてくる人はいないだろう。なんて考えてたら余計にぼーっと突っ立ってるだけになる、急がないと。
その後、着座した僕は恥ずかしさで式に集中できず殺気のことは忘れてしまった。
式が終わり各クラスへと移動して自己紹介と担任の先生の挨拶があって今日は終了だ。席は入学式と同じくまだ名簿順なので廊下側に近いやや後ろな位置でクラスメートの大半は視界に入る場所だ。
当たり前だけれど何事もなく終了して、お父さんやお母さんに誉められて帰宅する。途中でお父さんが予約したレストランで食事した。入学祝いにはすでに今日も着けているスカーフリングにカフスを貰っている。
「縁ちゃん、男の人はあまりじゃらじゃらとアクセサリーを付けても下品になるけど、そういう然り気無いおしゃれは女の子には受けるわよ」
なにやら力説されて、となりでお父さんが苦笑いしている、我が家のコーディネートはお母さんが決めているのだ。ちなみにすさのお様から貰った縁紬は、なんとすさのお様がわざわざ両親に見えるように現れて
「先日、お宅のお子さんに大変にお世話になりまして、つまらないものですがお子さんにお礼として差し上げました反物とこちらをお納めください」
と頭を下げて東京銘菓ぴよこくんを持って来たときはびっくりした。すさのお様曰く、普段は絶対使わない刀は兎も角、身に付けるために渡した反物は両親からすれば、出所のわからない得体のしれないもので、そんなものを子供に持たせておくとは、子供想いの両親では考えられないため、アフターケアに来たらしい。見た目のわりに配慮がすごい。
その時のお父さんは威厳たっぷりなすさのお様に恐縮して、いえいえこちらこそと頭を下げていて、お母さんはこんなすごい反物、貰えませんと断っていたが、すさのお様が
「可愛らしくかっこいいご子息には良く似合うと思いますよ、スカーフにしたら映えるじゃないですかね。首にまくにも、肩に掛けるにも丁度いいサイズにしてありますから」
と言うと、お母さんは僕を誉められて嬉しいのか、ホントにぴったりですわね、なんて上機嫌で受け取っていた。すさのお様は出来る営業マンだったらしい。
家に帰りついて、自室で寛いでいると淡雪が話しかけてくる。
「縁、私も努力をして新しい力を手に入れました。いずれお目にかけると思いますが楽しみにしていて下さいね。今日はおめでとう」
うん、とっても楽しみだよ、淡雪の新しい力も僕の成長した力も新生活も全部、とっても楽しみだ。