全てが仕組まれている!
「蛍さん、どうか俺と付き合ってください」
はい、出オチ!
さてさて冒頭から不吉な出だしでスタートしてしまった私"紫乃目 蛍"と申します。振り仮名は"しのめ けい"。初見の人にはむらさきのめと読まれることもあります。残念ながら私の目は黒目です。さてさて私がなんでこんな状況に陥ったかを遡ることものの数分前のことである。
私はいつものように高校への通学路を歩いていた時だった。てくてく歩く私に横から悲鳴。きゃー!と言う女の子の声に何事かと顔を向ければ、あれまそこには如何にも頭の悪そうな輩が美少女を囲んでいるではないか。朝っぱらから何してんだあいつらと言うツッコミはさておき、私は取り敢えず警察に通報しようと携帯を取り出した矢先のことであった。
「紫乃目さん、ここは俺に任せて」
突然肩をポンとされ振り向くまもなく絶世の美丈夫登場。あれまこのお方は我が校で雲雀の君と呼ばれる双竜院 灼様じゃありませんか。イベントが多過ぎて何や何やと固まる私を差し置いて彼は華麗に輩たちの元へ突っ込むとそいつらを全員ボコった。
「ーえっ」
はいそうして冒頭に至る。
まてまてまてと心の中で待ったたがかかる。あの、雲雀の君がガタイのいい輩を全部吹っ飛ばした?その光景が信じられず口をぽかんと開いていると何故か拍手する美少女と、これまたなぜか私に告白する新君の図が出来上がってたと言う。ほんとうに待って!?
「ちょっと状況を整理させて欲しいんだけど」
「うん、いくらでも待つよ」
「それはありがとうございます。では失礼して.......なんでこうなった!?」
読者の皆様からしても私の疑問はもっともなはずである。美少女をイケメンが不良から助けた、と言うテンプレートな図に関しては何も言うまい。けれどここで告白されてるのが私であるということがおかしい。ここは、イケメンの奮闘に心を奪われた美少女が告白する場面だろう。間違っても完全にモブポジションだった私が告白される場面ではない。
「いや、俺は震えながらも携帯を出して懸命に助けを呼ぼうとする君の姿に心打たれたんだ」
「心読まないでください。というか私震えてなかったです」
むしろ美少女には悪いが、いざとなれば見なかったことにして逃げようと言う算段すら立てていたクズである。立派な志なんてかけらもない。
それでも灼君の熱い眼差しは私に注がれたままだ。こいつでは話にならんと私は助けられた美少女の方へ目をやる。すると、そこにはなぜか不良たちとともに拍手する彼女の姿が。あら不思議いつの間にか仲良くなってたのね.....なわけあるかい!
「ちょっとそこの美少女!さっきまで絡まれてたはずじゃ」
「.....あら、えっと、きゃー!また不良が襲いかかってきますわ!」
「浅野さんもう手遅れっすよ。撤退撤退!」
「あら、そうですの?では失礼いたします、灼様」
「いや待てコラァ!?」
なんでか私が不良みたくなってしまった。が、私の凄みなんて全く効果がなく美少女と不良たちは突然現れた黒塗りの車に乗ってさっていった。嵐のような人たちだったね.......。
「と、言うわけで付き合って欲しいんだけど」
「待て待て待て話を進めようとするな。あれ完全に灼くんのお仲間だよね!?というか様付けって何!?」
「チッ、気にすることはないよ」
「今舌打ちした!今舌打ちしたよ!?」
まさかあの雲雀の君が舌打ちするなんて、と言うか今更だけど雲雀の君に告白されたなんて知られたら私は学校中の女子から血祭りにあげられる。ただでさえ高校デビューする間もなく友達のいない私のことだ。全員からけにょんけちょんにされる未来が見える。
全く意味がわからない状況だが、私が下す真実はいつも一つ!
「丁重にお断りさせていただき」
ドゴォ!
「え、ごめん聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」
「はいよろこんでぇーーー!!!」
コンクリートにめり込んだ彼の拳なんて見てない。見てないから。
さてさて時間は過ぎましてお昼頃。私はようやく現実に戻ってきた。と言うより朝のあれこそが夢だったのではないか......?と思い始めていた。普通に考えてあの美丈夫で有名な雲雀の君が某名探偵のお姉さんみたくコンクリートを破壊することなどできまい。
「いやー、白昼夢なんて困っちゃうなぁ」
「大丈夫?寝不足なんじゃないかな。俺の膝使う?」
「きぃゃぁぁぁでたぁぁぁふががが」
私の絹を割く乙女の叫びはあまりにも美しすぎる手によって塞がれた。わぁ白魚のような手ですね誰か全然わかんない!
「灼って呼んでよ、蛍?」
「双竜院君初めまして」
「初めましてじゃないよね。朝のこともう忘れちゃった?」
そう言って双竜院くんは飴を煮詰めたような酷く甘ったるい目でこちらを見てくる。そしていつの間にか現れた数々の女生徒たちは私を射殺さんとする目で見てくる。うん、死んだな!私!
「ははははは、あんまりにもあんまりだったので夢かなって思っちゃって。いやほら、ショックな出来事があると人って現実逃避しちゃう生き物ですからね。だからできればそっとしておいて欲し」
「まさか俺の告白に答えてくれたことも忘れた、なんてわけないよね?」
「はい覚えてます!!」
あまりにも可哀想な私。双竜院くんの全く笑ってない目に見つめられて思わずいい返事をしてしまった。すまない全ての女子。でも私は犠牲者なんです。私の返事によりあちこちで阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれているけど私ほんとに悪くないと思うんだ......。
「というか、今更なんだけどなんで双竜院君は私なんかに告白を?と言うか本当に何者?」
「灼でいいよ」
「いやそこはまだ」
「ん?」
「灼さんと呼ばせて頂きます」
クソ雑魚に権力と戦う術はないんだよ。私は視線を下げながら己の非力さを嘆く。
「告白の理由はまだ教えない。君が覚えていないみたいだし」
「えっ?」
「でも何者かに関しては教えてもいいかな」
そう言うと、突然灼くんは白いシャツに手をかけ一気にそれを脱ぎ捨てた。......脱ぎ捨てた!?
「わ、ぅえぇ!?」
とんでもなく女子らしくない声が出た。周りからはぎゃあああとこちらも女の子らしくない歓声が聞こえてくる。雲雀の君の半裸に鼻血を出すものもいた。
「いきなり脱いでなに、えっ、露出狂なの!?」
「いや、見て欲しいのは背中かな?」
そう言って私の失礼すぎる発言を華麗にスルーして、双竜院君は私に背を向けた。そうして出会う私と"両目"。
わぁ、双竜院君なだけあって背中に二匹も龍を飼ってるんだねぇ。へへへ。
ってこれ、刺青じゃん?え?
「ヤ、ヤのつく人だやだーーー!!!!」
「若!こんなところで刺青を見せちゃダメですよ!」
「なんか草むらから出てきてるううう」
「双竜院組若頭、双竜院灼。蛍、これからよろしくね」
「いい加減話を聞いて!?」
拝啓家にいるお父様お母様。
私の人生初の彼氏はヤクザの跡取りでした。