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第1章 3 スカーレットとアンドレア

 アンドレアがコーヒーを飲み終えた頃・・・。


キイ・・・・


サンルームの木の扉が開く音が聞こえ、足音が聞えて来た。


「スカーレット?」


アンドレアが振り向くと、そこには淡いグリーンのロングワンピース姿のスカーレットが立っていた。太陽の光に輝くプラチナブロンドの髪の・・アンドレアにとっての美しい天使が・・。


「スカーレットッ!」


アンドレアは椅子から立ち上るとスカーレットに駆け寄り・・・強く抱きしめた。


「ア・・アンドレア様・・・。」


スカーレットはアンドレの胸に顔を押し付けると・・声を殺して泣き続けた。そしてアンドレアは愛しい婚約者の頭を彼女が泣き止むまで撫で続けるのだった―。




****

 


 アンドレアはスカーレットの細い肩を抱き寄せながら語り掛けた。


「どうだい?スカーレット・・・。少しは落ち着いたかい?」


今、2人は寄り添うようにベンチに座り、咲き乱れるバラの庭園を見つめていた。


「え・・ええ・・・。で、でも・・こんな風に泣いてしまうのに・・・私はお父様が亡くなってしまったと言う実感がまだ何も・・持てないの・・・。」


「スカーレット・・・。そうだよね・・・。まだリヒャルト様の亡くなった知らせは電報1枚だけだったし・・それに何より・・まだリヒャルト様の・・その・・ご遺体を確認したわけではないから・・ね・・・。」


アンドレアは言葉を選びながら語る。


「ええ・・そうなの・・・でも今朝ブリジットから少しだけ話を聞いたのだけど・・ヴィクトールがお父様が亡くなったと言われる国・・『ベルンヘル』に旅立ったそうなの・・。警察に詳しい話を聞くために・・・。」


スカーレットは涙をこらえながら気丈にアンドレアに語る。


「そうだったんだね・・。スカーレット、僕はね・・こんな時だからこそ・・・ずっと君のそばにいてあげたいと思っているんだ。だけど・・・リヒャルト様の事もはっきりしないまま急いで式を挙げるのも・・すごく不謹慎の気がするんだよ・・。」


スカーレットはシュバルツ家の1人娘で後継ぎがいない。一方のアンドレア・リストは伯爵家の一番末の四男であった。当然後を継ぐこと等できない。そこでスカーレットと結婚後は、婿養子としてシュバルツ家に入ることになっていたのだ。


「ええ・・そうよね・・・。分かるわ・・アンドレア様の言う事は・・最もだと私も思うの・・。」


スカーレットはアンドレアの胸に顔をうずめながら言う。


「スカーレット・・・。」


アンドレアはスカーレットの顔を両手で挟み、顔を自分の方に向けさせるとゆっくりと唇を近づける。スカーレットもアンドレアの思いを知り、そっと瞳を閉じた。

するとアンドレアの唇がスカーレットに重ねられる。初めはただ触れるだけのアンドレアの唇がやがて強く押し付けられ、口を開けられそうになった時・・。


「ま、待って!アンドレアッ!」


スカーレットは我に返ったようにアンドレアの身体を強く押して、身体から逃れた。


「スカーレット・・・。」


そこには傷ついた顔を見せたアンドレアがいた。


「あ・・・。」


途端にスカーレットに後悔の念が押し寄せて来る。


「ご・・ごめんなさい・・アンドレア・・。わ、私・・・。」


「いや・・いいんだよ。スカーレット。つい・・・君が愛しくてあんな真似を・・こちらこそ悪かったね。」


アンドレアはスーツを直しながら言った。


「本当に・・・ごめんなさい。貴方を傷つけるつもりは全くなかったの。ただ・・・お父様の教えで・・結婚までは貞淑であるように・・ずっと言われ続けていたから・・。」


申し訳なさそうに身体を震わせながら謝るスカーレット。そんなスカーレットをアンドレは悲痛な思いを胸に抱えたまま見つめる。


そう・・2人はいつも会えばこのようなやり取りを何度も繰り返してきたのだ。アンドレアはスカーレットの事を愛しており、大切にしたいと思う一方で21歳というまだまだ若い青年である。

自分の友人たちは皆女性の肌を知っているが・・・アンドレアはスカーレット一筋であった為に女性と肌を重ねた経験はまだ無かった。なので時折、スカーレットと唇を重ねると先ほどのような情欲が沸き上がって来る事もあったが、愛する女性が結婚までは清い身体でいたいとの願いから、ずっと理性で耐えてきたのである。

だから今のように謝られると・・自分がどうしようもなく情けない人間に思えてしまうのであった。


 そして・・この事がきっかけで・・やがて2人の間に決定的な溝を作り出してしまう事をまだ2人は気づいていない―。

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