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まっくろな優しいナニカの話

それは不思議で優しくて

作者:

小さい頃の思い出。


何があったのかは覚えていないけれど、私は一人で泣いていた。

ただ、声を殺して泣き続けていた。

そんな私を慰めてくれる人なんてだれひとり居なかった。

だからかずっと、泣き続けていた。


ここまではきっと誰にでも経験のあるかもしれない。

そしてここからが普通ではない記憶だった。


それはいつの間にかそばに居た。

泣き続ける私の顔を心配そうに覗き込んで、慌てて。

そして私の頭を撫でてくれた。


それは真っ黒なナニカだった。

赤い目がポツンと2つ並んでいるだけの細長いナニカ。

足はなくて手は棒切れのように細くて指は三本。

そんな手で撫でてくれた。


ようやく私もそれに気づいて目が合った。

私はそれが何か知らなかったし、今もわからない。

顔を上げてもぽろりと零れる涙を見てそれは私を抱きしめてくれた。

暖かくもないし冷たくもないそんな抱擁。

酷く優しい抱擁に私はまた涙が出るのだが今度は私も抱きしめ返す事ができた。


たった一人で泣いていた寂しさは既になく私はそれが大好きになった。


そんな思い出。


ふとした時に私はそれを探したけれどあれ以来会うことは叶わなかった。


ある日見た何かの映画で忘れられた時、人はまた死ぬんだと言う言葉が響いて、不安になった。


あの優しいナニカが消えてしまうのが怖かった。

忘れない様に絵に描いたら周りの人は不気味がった。

ただ一人、「俺もソイツ知ってる。」なんて言う子が居ただけで。


私たちは今も、それを探し続けているんだ。


それを見つけることが出来たのはそれから幾年か経った頃だった。

彼はいつもカメラを片手に持つようになって私も一緒にあちこち歩き回るようになった後。


女の子が一人で声を殺して泣いていた。


その傍にそれは居て、かつて私にしてくれたように頭を撫でていた。

何とか笑わせようとしているのか不思議な動きをしているそれを見つけて私たちは一瞬止まってしまった。


彼はカメラを構えてそれを映そうとした。

他の人にも知ってもらうために。


だけど私は違うなって思ってしまった。


「こんなチャンス二度とないかもしれないんだぞ。」


「そうだね。」


確かにその通りだ。

でも私はそれよりも思ったんだ。


「泣いている女の子を餌にして世界に知ってもらったって、そんなの、お互いに不本意だと思うんだ。」


泣いている女の子を笑わせようとするそれを見つけて気づいたんだ。


私たちは確かにそれらに救われた。

救われたから、今も求めている。


でもきっと。


私たちが探さなくてもそれらは忘れられて消えたりしない。

それらはまた泣いている子供を見つけたら

そっと傍に寄り添ってまたその悲しみから救うんだ


私たちが世界に教えなくても大丈夫なんだって今更気づいたんだ。


そうやって、世界は回っているんだって。


カメラを回してさっきまで怒鳴っていた彼にそう話せば彼も少し俯いて、「そうだね。」と言った。


きっと彼も気づいたんだ。


勝手に忘れられたら消えていくんだと思い込んでいた。

いや、そうなのかもしれない。

でもまたそれらは現れて、きっと誰かを救うんだ。


私が救われたように。

彼が救われたように。


きっとまた、誰かの涙を掬いあげてぎゅっと抱きしめてくれる。

だから今は。

私は歩き出す。

泣いている女の子の元へ。

ある日見た夢の話。

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