おさらい
※ガサツな魔女の狂詩曲の本編完結後のイアンのお話です。
本編を読んでから読むことをおすすめします。
イアンはまぎれもなくスピネル国の第一王子であり、王位継承順位第一位にあたる、正真正銘の王子である。
襟足までの白銀のさらさらの髪に、青い瞳はやや灰がかっていて垂れ目がち。鼻筋が通っていて唇は薄い。細身で手足が長く、立っているだけで絵になる美青年の王子そのものだ。
しかし、性格は尊大で自己中心的。周囲の目を気にすることはなかった。そんな調子だから、二十歳を過ぎても婚約者は決まらず、立太子すらさせてもらえない。その理由が自分にあるとも気が付かなければ、考えようともしない。
それでもイアンは、自分が王を継ぐと信じてやまなかった。ついこの間までは……。
かつて、イアンは子供の頃から好意を抱いていた、五大侯爵家である東部のダリア・グラッドストンを婚約者に据えようと画策し、失敗に終わった。
そして国王主催の夜会で、国王から公開説教を受けた。
「今のお前に王位を継がせる気はない!婚約者を据えるなんてもっての他だ!しかし、幸い私もまだ王位を譲る気はない。そこで、お前には三年の猶予をやる!この三年間で今の自分を捨てて生まれ変われ!それが出来なければお前を王族から除籍とする!そして、王位はシャーロットに継がせる!」
国王はいつまでも王子の自覚がないイアンの性根を叩き直すために、ある条件を出した。
スピネル国一番の魔法使いと噂される、魔女リスベット・ヨークに、弟子入りをすること。
そして、リスベットの祖父である頑固で偏屈と有名な、ジェイコブ・ラザフォードに講師となってもらい、政や平民の暮らしまで一年間学ぶこと。
そして二年目からは、北部の辺境シュトックマー領にて、鬼の指揮官シドの元で修行し、極寒の土地で命の大切さと厳しさを身を持って知ること。
「そして三年が経ち、見事変わることが出来たならば、私自らの手で政について教えよう。私はその日が来ることを楽しみに待っていよう!」
そしてイアンは、招待客が固唾をのんで見守る中で、リスベットに呪いをかけられた。
「ではイアン殿下。あなたは今の自分を捨て三年かけて新しく生まれ変わります。そして王位を継ぐに足る人間になれた時、あらゆる祝福を受けるでしょう。もしもそれが叶わなかった時は、王族から除籍されます!」
イアンは絶叫して泣いた。その情けない姿を晒して初めて、自分がいつまでも立太子出来ない理由を自覚したのだった。
そして、イアンの厳しい修行が幕を上げた。