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板チョコ

作者: 鵜塚 夕

 


 寒いから板チョコを食べていた。



 板チョコは不思議なもので、暑い時期だと溶けて包装にくっついてしまって食べづらい。寒い時期だと口に入れてもプラスチックのように硬く、噛み砕いてもまるでロウソクのようにもそもそとしていて美味しくない。



 そして今、寒さで体温も下がってしまって、口の中の温度も低い。だからチョコレートが溶けてくれない。




 そこで思った。

 このまま胃の中、腸へと下っていったチョコレートはちゃんと消化できるのだろうか。体温が低いと固形のまま腸の壁に張り付いて固まってしまうのではないか?と。



 それにしても寒い。

 冷えた湖の前にいるわけでもないのに、霧のかかった湖面を見ているわけでもないのに記憶の底から引っ張り出された映像が目の前にちらつく。水の生臭い匂いも眼球が冷たくなるほどの風も、思い出されたもの全てが繰り返され積み重なり寒いと訴えてくる。




 なんて懐かしい。





 小さなことで怒るな。


 自分は人の失敗を馬鹿にして大袈裟に笑う癖に、自分がちょっとした失敗をして笑われたときに怒髪天を衝くように怒鳴り散らし、人の失敗を笑うな‼︎と般若のような形相で睨みつけてくるのはおかしいだろ。




 そう思ったことまでも思い出した。





 あれは確か、そう、やっぱり寒い日だった。


 クリスマスイブの日に家族集まってテーブルを囲みご飯を食べたんだ。

 ペットのガーナもテーブルの下で丸まっていた。白いネコね。

 暖房をガンガンつけて、テーブルの上には銀のお皿のオードブルが並んでいた。スーパーで売っているクリスマス用のオードブル。ハンバーグとエビフライと卵焼き、蟹の甲羅グラタン、申し訳程度のレタスとプチトマトが印象的だった。

 それとお寿司。これもスーパーに売っているクリスマスの詰め合わせのもの。ガリの袋が横に大量に積み上げられていた。それと醤油と、わさびの袋も。


 割りばしが配られる。


 テレビではバラエティー番組の笑い声が響いていた。






 今でもあの味は思い出せる。

 だって普段スーパー行ったら買える味だもの。


 でもそれくらいしか思い出せない。

 どうしてだろう。



 ある程度食べ終わったら、ガーナにチュールを献上。私なんかよりも美味しそうに食事をするその姿が愛らしい。素敵ですガーナさん、尻尾の揺らぎまでかわいらしい。


 そして、クリスマスケーキ入刀。

 ここで一等重要なのはいかに均等に平等に切り分けられるか。兄弟がいる人たちならわかるだろう、この思い。負けられない戦いが、ここにある。飾りのチョコも争奪戦。



 それでだ。

 揉め事を嫌ったのか、食べたかっただけなのか、母親がひょいと飾りを口に入れた。


 プレート状の、飾り文字の印刷されたあれ。

 メリークリスマス!


 咀嚼、そして。微妙な顔で、そのプレートは口から出された。味がしない。プラスチックかも。


 ケーキ屋の罠。

 食べられます?食べられますん?どっち??


 笑う兄弟、怒る親。

 怒り方が大激怒すぎて引く兄弟。





 板チョコ、罪なやつだ。






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