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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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寝言

挿絵(By みてみん)










 兄の功と友喜を送り出してからなつは一人図書館に行く準備をしていた。


2階の自分の部屋で、図書館に返却する予定の本と勉強道具を鞄に入れる。近くに置いていた友喜から貰った綺麗な透明の石とこの前学校帰りに功と一緒に行った石屋で買った緑色の石が目に入り、なつは表情が柔らかくなった。


なつは持って行く予定では無かった2つの石を鞄の中に収めた。




兄は友喜と上手く接しているかな。

心配はしていないけど。

どっちにしたって、兄は泣く時は泣くし、どうしようも無い純粋さとあの気性は見守るしか無いから。

悲観に沈んだって、いずれむくむくと起き上がっていくしか無いんだから。


最近自分が目にした功の涙の元である彼女が、今の友喜の中に収まっているんだと知ってはいる。

でも大丈夫だと、なつは思った。


兄は、友喜を諦められる様な人では無いから。


きっと大丈夫。




穏やかな表情で部屋全体を見回すと、なつは鞄を手に取り部屋の外に出て行った。






 辺り一面が雨が降る直前の曇り空の様な灰色に包まれた、どちらが上でどちらが下なのかが全く分からない空間。


その中にぽっかりと浮かぶ四角い箱の上に、あたしは立っていた。


あたしは箱の端に足を投げ出す形で座り込む。


すると体の全体が淡く発光している美しい女の子があたしの隣に現れた。

女の子は自分と同じく足を投げ出して座っており、銀髪の長い髪とクリーム色のドレスの裾をふわりと揺らしながら、綺麗な緑色で慈愛たっぷりの瞳をこちらに向けてきた。



『気付いてくれたのね。』

「気付いた?あなたはたった今、ここに現れたんでしょ?」

『いいえ、私は始めからここに居るわ。』


浅黒いのか色白なのか分からない複雑な色味の肌の女の子は、自分の腕をもう片方の手で撫でながら答えた。

あたしは首を傾げて彼女に聞く。


「何であたしはここに居るの?」

『あなたが話をしたいからじゃない?』

「話?」

『ええ、話よ。私は誰かが話をしたい時に傍に寄り添う為にここに居るの。』


慈愛たっぷりの瞳を興味深そうにこちらに向けてきて、彼女はあたしが話を始めるまで隣でもそもそとドレスの裾を掴んで手遊びをしていた。








 小学校脇の公園で、功と友喜が中央奥のベンチに座って居た。


彼女は自分の認知内の話題に関しては意外にも軽やかな笑顔で答えてくれた。

彼女の認知していない話題に差し掛かると途端にぼうっとなって聞いているのか聞いていないのか分からない薄い受け答えになる。


これまで功に対して見せていた彼女の反応はつまりわざとでは無くて。

それが分かっただけで、功の心の一片は救われた。



「有津世くんからさ、聞いたんだ。…君はこの生活の中で今の所、食べる事は楽しんでいるって。」

「有津世が?ああ、うん。」


もうひとつ分かった事がある。

話題を持ち出す枕詞に有津世の名前を添えると、彼女との会話がスムーズにいくのだ。


「だからさ、今日の昼ご飯も楽しみにしてるんじゃないかと思って。土曜日は大抵は一緒に食べてるんだ。こうして会った時にはさ。それでさ…何が食べたい?」


友喜は目をぱちくりと瞬かせて功を見てきた。

功が発した言葉に反応して目を輝かせているのが分かり、功の表情が緩む。

昼食の話題に乗り気なのは伺えたけれど、今発した功の問いに答えようとする気は無いらしい。


少し待ってみて、友喜から言葉が発せられる様子の無いのを見て功が口を開く。


「…。」

「じゃあさ、友喜ちゃん、いつも行っている場所でも良いか?」

「良いよ。」


「…よし、じゃあ決まりだ。」


ベンチから立ち上がった功が、友喜の目の前に自分の片方の手を差し出した。

何故だか急に、友喜を手伝いたくなって…せめてもの僅かなスキンシップを功は求めていたのかも知れない。

本当は彼女に、堪らなく触れたかったから。



友喜は功の手を不思議そうに眺めてから功の顔へと視線を戻した。


「あ、立ち上がるのに便利かと…要らない?」



まだ動こうとはしない友喜の反応にたじろいだ功がもう片方の手で頬を軽く掻きながら困った顔で笑う。

乾いた笑い声は直ぐに途切れて表情に力が無くなった。



表面を取り繕うにも、根が繊細過ぎて彼の中の動揺は掻き消せない。

先程来た感情の波が今この場面でも再び功に押し迫って来ていた。


きっと自分は…求め過ぎたのかも知れない。


功が自分に対して微かに首を振って、差し出していた手を引っ込めようとした瞬間に。



友喜の手指が功の手のひらにそっと添えられる。

友喜は真顔で功を覗き込んできて。

もう片方の手も功の手のひらに届き、功の手を友喜の両方の手のひらで包み込む形で掴むとベンチから腰を上げた。


「うん。立てた。」


友喜は頷きながら端的な感想を言うと功の手を離した。


ほんの一瞬感じられた友喜の手の温もりに、功は胸がいっぱいになる。

感情の波はより高まって、功の瞳にその結晶を残した。



友喜は立ち上がってからも功に注目している。

彼の目の端にはきらりと光る雫が載っていて。

功は自分の涙を見せない様にと後ろを向こうとしたけれど友喜が功の腕を掴んで彼がそっぽを向いてしまうのを止める。

功は友喜の動作に驚いて彼女を見つめ返した。


「…いや、あのさ…。これは…何でも、何でも無いんだ。」

目の端を拭いつつ、功は誤魔化す。


「何でも…無いの?」

友喜が不思議そうに聞き返してきたその時、今度は小さな妖精の姿がぱっと功の目に飛び込んできた。



妖精は空間を素早く飛び回りながら功をじろじろと見てくる。思わず妖精を目で追うので功の視線も忙しなく動いた。

妖精は功の周りを縦横無尽に飛び回って功を観察し終わると何処かへ飛んで行ってしまった。



友喜は変わらず功の表情に注目していたから、彼女には今の妖精の姿は見えて無かったんだと思う。

尚も功への視線を外そうとしない真顔の友喜を見て功は僅かに口角を上げると、行こうか、と言って二人は公園を後にした。








 戸を叩く音が静かな部屋に響き渡り、部屋の奥に居た私は数歩進んでドアに近づく。

内側の錠前を外してドアを開けると、見慣れない顔の人物が数人、石畳の部屋へと入って来た。

彼等は私を見ると僅かな微笑みと共に話し掛けてくる。


私は首を振った。

私には身に覚えの無い話だったから。


彼等は私の受け答えに頷いて見せると、彼等の一人が腕を伸ばして部屋の空間の上の方で何かを掴み、両手でそれをもぎ取って私の手のひらに載せてきた。


それは、ドーム状に丸みを帯びたとても美しい光だった。



彼等の一人が私にひと言添えると、私の手のひらから光を注意深く受け取り、それを取り出した空間に再び嵌め込み、視界からその箇所は確認出来なくなった。


ただひとつ明確に感じ取れたのは、それを再び空間に入れ込んだ瞬間からその場の空気がぴいんと張った事だ。


彼等は私に柔らかな微笑みをくれると直後、その姿は霧散した。








 林の奥の二棟の家。

奥側のログハウスの雨見の部屋では、雨見が勉強道具を広げながらも頭の中では先日有津世とした話の内容がぐるぐると回っていた。


こちらの世界での空白の時間、それに、人間では無い姿の雨見が別の世界に赴いていた。

全ては覚えていなくて有津世が教えてくれた事だったけれど。

彼が話したのなら多分そうだったのだろうと雨見は有津世を疑いもしないけれど。


ただ、次に体験するのなら自分も記憶していられたらなと思った。

すごく素敵な事だと思ったし、自分が別の姿で有津世と会ったらどういう気持ちになるのだろうかとも思ったから。



有津世や友喜や雨見の三人は他の星の人格も持っていて、有津世と雨見の二人は更に神獣の一部分も抱えているんだとしたら。


だとしたら友喜ちゃんも…?


友喜は既にぽわぽわという他の星の人格の別形態を併せ持っている。


有津世と初めに話をした当初、世界はこんなにも広がるなんては思っていなかった。


ちっぽけだと感じている自分が、それだけの存在では無いんだとしたら。

枝は多岐へと渡って、どれもこれも私だとしたら。

何とも壮大な物語だと、雨見は感じた。

そして少し…嬉しく思った。








 一滴ひとしずく、落ちてきた。

私は手のひらで受け止める。


私は思わず微笑んだ。

手のひらに載った一滴がとても温かな光だったから。


手のひらの上で光がころころと踊るのを見守って。

次の瞬間、光は細く美しい糸へと変わって手のひらを突き抜け、その熱さに私はそっと目を閉じた。








 繁華街に埋もれて存在しているワンルームマンションの建物。

その中の一室の辰成の住む部屋の中には幅の狭いベッドで寝返りを打つ辰成の姿があった。


自分の動きで寝汗と共に目が覚める。

ちかちかと何やら不自然に光の眩しさを感じたけれど、きっとこの体調のせいだ。


「…。」

半身を起こそうとして、くらりと眩暈めまいを感じて額に手をやる。

その後何とか起き上がって、手洗いに辿り着けて用を足した。


今は…まだ朝だったか。

手洗いから居室に戻った時に午前中である事を認識し、長ったらしい欠伸をした。


ベッドの足元近くにある申し訳程度のキッチンで、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してごくごくと飲む。

一気に飲み過ぎたからかその行為は極端に身体の冷えを誘い、ぞくぞくと身震いをした。

辰成はペットボトルを冷蔵庫の中へしまうと両肩を手でさすって暖を取りつつ再びベッドに戻る。


薄手のブランケットを体全体に覆って横になると意識は程無く微睡まどろみの中に溶けていった。








 バーガー店へ向かいながら友喜と二人で歩いていて思ったのは、公園に行くまでの道と違ってスムーズにその道のりを歩いて行けた事だ。


自分と隣り合って歩くのにただ慣れただけなのかも知れない。

それでも功の行く方向を気にせず歩く友喜の姿に、ひょっとしたらこの道のりは今の彼女の記憶の中に残っているのではと功に思わせた。



「有津世くんがさ、言ってたんだ。こっちでの生活の仕方が分からなかったから一通り教えたんだって。覚えるの、大変だった?」

「う~ん、ううん。大変じゃない。楽しい。」

「そっか。それなら良かった。」


有津世からのメールで、日常生活について彼が友喜に手取り足取り説明したとあった。

全てがそうなら、下手したら手洗いや風呂にまで一緒に入ってレクチャーする他、方法が無い気がする。


でもそこまでの事は有津世は書いて無かったし、して無さそうだとも思った。いや、している訳が無い。

考えただけで、功は少しいらいらした。

あってはならないだろ、そんな事。


とにかく、ちぐはぐな点が多くて矛盾も多いがそこは友喜らしいとも言える。

今彼女の体に収まっているのはキャルユだろうが、キャルユの中に友喜らしき片鱗を見つけられて功はまたほんのちょっと心が救われた。



 白いペンキで荒く塗り固められた小さな2階建ての建物の前に二人は辿り着いた。


建物近くに寄って行って、功は友喜に話し掛けた。


「…どれにする?」

店に入る前に、テイクアウトの為の外の注文口の手前に立て掛けられているメニューを二人で眺める。


「これ。」


キャルユと入れ替わる前の友喜がよく選んでいたアボカド入りのバーガーセットを友喜は指差して見せて、功は一瞬だけ胸の内に淡い期待を持った。


「それに決めたのか。」

「うん。」

「飲み物は?」

聞かれた友喜がセット飲み物の欄にあるマグカップの写真を指差す。


「それは…カフェラテかな。よし、分かった。」


友喜を誘って店内へと入り、入り口の近くにある席を確保すると注文口に並ぶ。


座ってて良いと友喜に声を掛けたけれど後をついてきた彼女に功は思わず頬が緩んだ。


「ん、一緒に並ぶか。」

落ち着き払って何でも無い風に言ったが表情からは功の想いが透かして見えた。


友喜は注文口をきょろきょろと眺めている。

注文や調理している様子に興味を持った様だ。


「食べ物の場所…面白い。」

「うん。良い香りがするな。」

「良い香り…、うん。」


友喜は喜んで返してくる。


反応の率直な所が、まるで幼子の様だと功は感じた。

友喜自身とも、もう一人の友喜とも違う反応だ。


功が財布を出す場面では、あ、お財布…と呟き、友喜は自分のを鞄から取り出そうとするが功が、良いから、と友喜を止めて、前に友喜自身とも交わしたやり取りを彼女ともする。

飲み物を先にトレイで受け取って席へと移動した。


 適当に空いているテーブル席を功が選び、席の奥側へ座る様に友喜を促して功は手前側の椅子に座った。

トレイから功の分のコーヒーグラスを受け取り手元に置き、友喜の分はトレイごと友喜の目の前に置いた。


友喜は、目の前に置かれたマグカップに鼻を近づけると香りを吸い込んでにっこり微笑み、いただきます、と言ってマグカップを手に取り口に付けた。


ふと目にした挙動に、友喜自身が戻って来たかと一瞬錯覚を起こして、功は自身を顧みた。


これまでは、友喜自身と居る時にはもう一人の友喜の片鱗を彼女の中に探し、もう一人の友喜と居る時には彼女の中に友喜自身の片鱗を探してきた。

今は、今の彼女の中の何処かに友喜自身は居ないかと探している自分が居て。


友喜自身や、もう一人の友喜については、そうあっても良いと自分で思うけれど、今の彼女は、梨乃や有津世達の言葉を借りるのならば、いくら友喜の一部分から生み出されたものであっても、彼女は彼女独自の人格を持っている。

先程思った事と矛盾するけれど、今の彼女を否定するのは違うのではと思った。


友喜自身に会えない自分に悲観する想いが無いとは言えない。

胸が押しつぶされそうな想いを感じるのは事実だ。


でもそうしているだけでは彼女は見えてこない。


仕事帰りになつを迎えに行ったカフェでのほんの数分の友喜とのやり取りがあったこの一週間、そして今朝ここに来る前までの自宅でのやり取りではその場に妹なつが居た。

今の彼女はなつが居る前ではどうもなつに傾倒しがちだったから、公園に連れ出す事でようやく二人で話が出来て、幸運な事に昼になった今の時間も一緒に過ごせている。


どうせ、何をどうやったって功は目の前の彼女からは目を逸らせはしないから。

惹かれてしまうのは仕方が無いし、今の彼女が別の方向を向いているのも仕方が無い。

この状況を、自分を、彼女を、認めるしか無い。

ありのままの今を、率直に見つめてみようと改めて功は思った。



 後から席に運び込まれたテーブルの上のバーガーセットを友喜が満面の笑みで眺めている。


「食べようか。」

「うん。いただきます。」

手を合わせて言った後でセットのポテトをぱくりと食べて友喜は頬を綻ばせた。

功も、いただきます、と呟いて、ポテトを摘まみながら友喜を見て楽しそうに笑った。








 森の中で紫色の瞳の美しい少女が一人作業をしていた。


先程自身が光の粒になって紛れ込んでいた空まで届く光の柱はそのままに、少女は周辺を歩き回る。

ぴたっと止まり、片方の手を地面に向けてくるくると回した。手のひらからは綺麗な光の渦が発生して地面にきらびやかな光の柱が出来上がる。


光の柱は少女が次々に動作を繰り返す毎に誕生し、巨大な光の柱と共に、きらきらと輝いた。

その光景に少女は嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。

髪の色とよく似た色味のドレスが少女の動きに合わせて揺れ動いた。

周りには淡い光達が遠巻きながら少女を見守るかの様に浮遊していた。


近くには樹の巨大な根っこが地面からせり上がっており、それを見つけた少女は直ぐ様寄って行くと手を掛けて軽々とよじ登った。

少女は根っこの上に座り、足をぶらつかせながら巨大な光の柱と今誕生したばかりの小ぶりな光の柱の数々を満足げに見渡した。

少女はふと上を見上げる。


巨大な樹々の隙間からは綺麗な青空が顔を覗かせている。

虹色がかった光を放つ白色の龍がゆっくりと通るのが見えて、その動きを少女は目で追った。


龍は森の上空を優雅に回遊していて、空からこの地を見守って居る様にも映った。








 山奥の神社に、秋の訪れの風が吹く。


社内で一番広い空間、その片隅で写本をしていたノリコに、とある情景がイメージで舞い込んできた。



奥深い森の中、一人の少女が佇み、両手のひらを上に向けて空からひらりと落ちてきた虹色の欠片を受け取って。

大事そうに手のひらの中の欠片を見つめると、次の瞬間、欠片は数え切れない程の光の粒に変わって少女を席巻する。


全体が光に飲み込まれたかの様に見えた少女の胸の奥に光の渦は流れていき、その光はやがてノリコの元まで到達した。

少女と同じ様にノリコも一瞬で光に飲み込まれて。


そのエネルギーは彼に似ていた。むしろそれは、彼そのもののエネルギーだとノリコには分かった。

光はノリコの体中の細胞一片一片までを残さず包み込み、光からは彼の温かさがじんわりと伝わって来て。

下りたイメージは、彼からの贈り物だったのだとノリコは知った。



 場面は移り変わり、色とりどりの花々が咲き乱れる地にノリコはいつの間にか飛んでいた。


ああ、ここは…。


感慨深げに花々を眺めつつノリコはゆっくり歩き始めた。



何層にもなっていて同時に幾つもの空間が発生する場所。


同じ景色だからといっても同じ場所とは限らない場所。


この地を訪ねた彼が自分を必要だと感じるならば二人の居る層が重なってそれぞれの場所が一体化する。


すると初めてお互いが出会える様に出来ているのだ。

彼は…ソウイチは…今の所自分を必要としていないみたいだ。


少なくともSOSは出していない。ノリコのも彼のと対の石だからだろうか、ソウイチの石と同じくに、彼からのSOSが発動しない限りはこういった場所での逢瀬もおそらく発生はしない。


彼の顔をこの地で見るのが叶わない事は良い兆候なのだと、ノリコは自分に言い聞かせる。

自分の感情は、もっと何かを言いたがっていたけれど。

大丈夫。十分にそれは分かっているし蔑ろにはしない。


ノリコは歩みを止めると胸に手を当ててから目を閉じた。


自分に湧き上がる感情を存分に感じるために。

何度か深呼吸を繰り返した後で、ノリコはそっと目を開けて緩やかに口角を上げた。


花の咲き乱れる中、止めていた足をもう一度動かし始めて進んで行くと、遠くに佇む人影を見つけた。

ソウイチかと思って名前を叫ぼうとしたノリコは、その人影が違う人物だと気付いて開きかけた口を閉じた。それでもその人物の傍にノリコは近づいて行く。


近づくにつれ徐々にその姿がくっきりと鮮明になってくる。


その人物の目の前に着いた時、相手もノリコに気が付いて顔を上げた。



『ここは…何処だろうか…。』


相手からのテレパシーが伝わってきて、ノリコは僅かに目を見開いた。


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