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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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続・会えたら

挿絵(By みてみん)










 林の奥の二棟の家。

手前側の有津世達の家では朝食時間が無事に過ぎ、予定を聞いたら友喜は今日は家に居ると聞き有津世はとりあえずの安心を得た。


早朝に起きた出来事をひとまず功に知らせておく。


とても有津世一人で抱えられる問題じゃ無かった。

友喜を全力で守りたいと思ってくれる人物が友喜の傍らに居て本当に良かったと有津世は改めて思う。


今日も続けて借りている家族共用のラップトップコンピュータの画面を開くとメールボックスを開いてなるべく簡略的に内容をつづる。


メールの文章を打ち終わり送信ボタンを押した後、有津世はログハウスの方を席から眺めた。

立ち上がってコンピュータのモニター画面を閉じると部屋のドアから出てドアを閉めたのと同時に友喜の部屋のドアを見つめてから有津世は階段を下りていく。


「ちょっと隣に行って来る。」

リビングに居る両親にひと言声を掛けると靴を履いて玄関の外に出て行った。


 直ぐ隣にあるどっしりとした構えのログハウスの玄関前に立つと有津世はドア横のインターホンを押した。


今日は日曜日だけれど有津世にとってはちょっとした緊急事態だったから雨見に意見を請おうと思っての行動だ。


有津世と雨見は学校のある時の平日は大抵行きも帰りも一緒だし、帰った後でも作戦会議で一緒に居る事が多い。

だから土日は敢えてあまり一緒の予定を詰め込まずにお互いそれぞれの時間を持とうという決まり事がいつからか二人の中であるのだ。


それでも昨日の朝だって雨見は有津世と話をしたくて家に訪ねてきたし、この決まり事もどうやらそろそろ崩れそうだと思いながら有津世はインターホンからの反応を待った。

「…。」

返事が無い。


雨見が居なくても、雨見の両親が代わりに応対してくれるのが割と常だったからインターホンを押しても返ってくるのが無音なのが有津世には気になった。


雨見から聞いていなかったけれど、今朝は早くから家族総出で外出しているのかな。

日帰り?それとも…。

夏休みだからそんな事も珍しくは無いだろうけれど、スケジュールを聞かずとも把握させてくれる雨見が今日の予定を有津世に伝えていないのがちょっと引っかかった。


有津世はログハウスの玄関前で佇み考える。


「ただいま。」

直ぐに戻ってリビングの奥に居る両親に挨拶をすると2階の自分の部屋へと引っ込んだ。


有津世は何だか釈然としない気持ちを抱えながら机の席に座り一人考え込む。


机の端に転がっている飴色の石は今日もきらきらと輝いていて、有津世は石を手に取り見つめると、途端に石から光が漏れ出し有津世の体を包み込んだ。








 住宅街の一角。

休日の朝の吉葉家で功がスマートフォン片手に難しい顔をしていた。


「何、お兄ちゃん。また友喜のお兄ちゃんから?」

なつが功の表情を読んで話し掛けてくる。


「ん?…ああ。昨日起きた友喜ちゃんの変調が今朝もまた起きて…。昨日よりも激しかったって…。」


「なるほどね…。友喜、大変だなあ。お兄ちゃん、今すぐ友喜に会いに行きたいでしょう?行ってきたら?」

「いや…でも昨夜突然、家に押しかけたばかりだし…。」


行きたいけど…。

功は今の状態にもどかしさを感じる。


「出来たら、有津世くんにお願いして明日にでも会えるか聞いてみるよ。」

なつが功の言葉に真顔のまま頷く。


「お兄ちゃんのさ、ネックレスとかハンカチとかってそれに効かないの?」

「…効かなかったんだよ。ネックレス着けてたんだけどそれが起こったからさ…。それでさ、昨日の今日と言うのもあって対策がまだ考えついていないから、有津世くんがかなり焦ってる感じだ。」

「ふ~ん。」


「その変調に対峙したのが2回とも有津世くんだからな。俺はまだ見た事が無いから何とも言えないけれど…。」


功は僅かに肩を落とす。

ダイニングテーブル脇の棚に置いてある石が、今朝も力強く光り輝いていた。








 林の奥の二棟の家。

手前側の家では友喜が部屋のロフトでごろごろと寝っ転がり姿勢だったのを起き上がって近くのクッションを引っ張り寄せると足とお腹の間に挟み込んで前かがみに座り直した。


身に覚えの無い出来事がまたひとつ増えて友喜は考える。

覚えが無いから考えても仕方の無い事かも知れないけれど。


私はまた手から光の玉を出した…。

友喜は自分の手のひらをじっと見た。


それは、きっと、こうやって…。


友喜は試しに両手を合わせてみる。

中央を膨らませてそっと開くと、そこには小さな光の玉が三つ、手のひらの直ぐ上で浮かんでいた。








 「ねえ、こっち、こっち。」

手を引かれて有津世はよろつきながら導かれる方へ進む。


はっと気が付いた所で辺りを見てみると細長いトンネルみたいな場所だった。

ぼうっとしていた意識が戻り、我に返って自分の手を引いている手を辿ると目の前に居るのは友喜とそっくりな姿の…キャルユだ。


「…キャルユ!」

「こっちだよ!」

キャルユは有津世の驚いて発した声にはあまり反応せずに、ただひたすらに有津世の手を導く。


ついこの間、友喜と入れ替わった時のキャルユが友喜に戻る直前に見せた表情とは乖離かいりしていて、有津世は小さく戸惑った。


「キャルユ?会えて良かったよ。」

「そうだね、こっち!」

キャルユはまたもや有津世の言葉にあまり取り合わずに一心に有津世を何処かへ連れて行こうとする。向かっているのは、トンネルの先みたいだ。


アミュラと仲違いをしていたのとはまた違ってはいたけれど、それでもその時の事を彷彿とさせる肩透かしな印象を受けて有津世は状況を聞き出そうとした。


「…キャルユ、これは一体何処に向かっているの?」

「有津世、アミュラを探しているんでしょ?こっち、こっち!」

あちらの世界と今の自分の姿との名前がごっちゃになってキャルユが発言する様は有津世に違和感を感じさせた。


「アミュラの所に連れて行ってくれてるの?…アミュラに何かあったの?」

「…有津世はそれで今回ここに来てるんでしょ?」

有津世の質問に不思議がってキャルユが聞き返す。


今回石に触れた事で気が付くと飛んでいた。

それがアミュラの身に何かがあったから飛んだのだとキャルユに聞かされて初めて知った。


雨見からはアミュラに何かあったとは昨日の朝の時点では聞かされていないし、何かあったのなら今朝方の夢でだろうか。それとも…。


それと先程も思った事だけどキャルユは自分の事をツァームでは無くて有津世と呼ぶし、口調もいつものキャルユのものと違う。


果たして目の前に居るのは本当にキャルユなのかと勘ぐってしまう。

でも誰かがキャルユの真似をして得するとも思わないからきっと目の前に居るのはキャルユだろうけれど…。


そんな事をうだうだと考えている内にトンネルを抜けてキャルユと有津世はいつの間にか空中移動をしていた。

トンネルの中も明るかったけれどトンネルから出た世界は更に明るく見渡す限りが綺麗な青空だ。


キャルユに手を引かれながら、空をその足で自然と歩いている。

遥か下には草原らしきと森らしき緑が見えた。



自分達の高度が歩きながらぐんぐんと下がってきて、だんだん大きく見えてくる地上の風景に石碑を見つける。

その動きは不思議と怖くは無くて、有津世はキャルユと二人、穏やかな心持ちで空に見えない階段があるかの様に下りていく。


「キャルユ、ここにさ、アミュラが居るの?」

「そう、ここに居るよ。」

音も無くふわりと地上に着くと二人は軽い足取りで草原の地を踏む。

地上に着いたのを確認してからキャルユは有津世の手をぱっと離した。


「アミュラを、連れて帰って上げて。」


もうお別れだよと言わんばかりにキャルユが言葉を放つ。


探すのなら一緒にすれば良いのに。

有津世は思う。


屈託無く明るいキャルユの姿に有津世は目を潤ませた。

クリスタルの中で会った時にも前回の友喜のキャルユへの入れ替わりの時にもそこまでならなかったのが今この場での瞬間、彼女への想いが湧きあがってきた。


それは、多分、今のツァームの心情とも織り重なっていて。


「キャルユ、君は行かないの?」


有津世からの問いに、キャルユはただ柔らかに微笑んだ。


「…一緒に行こうよ。」

有津世の発する再度の言葉に彼女は今度はゆっくりと首を振った。


キャルユは依然として穏やかな表情のままでその場に立っており、有津世の動くのを見てそっと手を振った。


「キャルユ、まだきっと…これからも…毎晩、会えているよね?」

有津世の言葉に、キャルユは頬を緩めて有津世に笑顔を見せた。


キャルユの返事を笑顔という形で受け取り、有津世はキャルユから離れる方角へと足を運び始める。

キャルユは何も言わずに、遠ざかる有津世を穏やかな表情でただ見守る。

有津世は時々振り返って、まだ留まっているキャルユの姿を確認した。


数十歩ほど歩いた時に降り返ると、遠目になったキャルユが透けて見えた。



 どちらに行けば良いのか分からぬままにとにかく足を進めた。

草原には人っ子一人居ないと感じたのでとりあえず森の入り口へと進む方角を決める。



有津世は思った。

ここは、ツァーム達の星では無いと。


この地がここまでツァーム達の星とそっくりな訳は何故なのかは分からないけれど…。



広い草原を縦断して森の入り口まで辿り着いた有津世は樹々に埋もれて薄暗い森の奥に目を向ける。

ここからどちらの方向に進もうか。


有津世は当てずっぽうに歩き始め、鬱蒼とした森の中を奥に入って行った。








 林の奥の二棟の家。

手前側の家の中では友喜が部屋のロフトで自分の手のひらを凝視していた。

自分の手のひらの直ぐ上に浮かぶ、それぞれの色が違う三つの小さな光の玉…。


…何だろう、これ…。


自分は見た覚えは無いけれどこれについての事なら以前に功から、そして有津世からは先程の早朝時に聞きはした。自分がこういう事をやってのけたと。


これが…術?

…何の術?


分からないんだったら意味が無いんじゃあ…。

友喜は目の前の現象に理解が及ばなくて一人悩む。


術は思い出してもこれの意味は思い出さないの?私…。


綺麗…。


ただ、綺麗なだけだったりして。

単純な自分の考えに友喜はくすりと笑った。


…そうだ、お兄ちゃんに話そう。


友喜はロフトの梯子を下りて、自分の部屋から出る。

廊下を歩いて隣の有津世の部屋の前まで来ると、部屋のドアをノックした。


「お兄ちゃん。ちょっといい?」


返事の無いのに友喜は首を傾げて、あれ、居ないのかな、と思う。


開けちゃダメなら返事をするよね…。

友喜はちょっとドキドキしながら、ゆっくりドアを開けてみる。

すると目に入ってきたのは青白くぼんやりと光った網目の光だった。


…え?


………何これ…?


友喜は呆然としながら後ろ手にドアを閉め、目は前方へと見張る。


机付近から有津世を囲う様に眩い青色の光の網がドーム状に張り巡らされた空間の中で有津世は半分透き通り机の席で固まっていた。



「お、兄ちゃん…。」


友喜はびっくりしてその場にへなへなと座り込んだ。






 私は祈った。


無事でありますように。

笑顔が見れますように。

温かい手が触れられますように。


共に笑えますように…。

これからも、ずっと……。






 友喜の視界が暗転する。


友喜はその場に倒れ込み、固まった有津世の姿と相まってその場は一時異様な光景になる。


数秒も立たない内に、ドームをかたどる光の網目の穴から何かが躍り出た。

半透明で白色の毛玉だ。

ふわふわと浮いている。


淡い白色の毛玉は友喜を見つけると、友喜の胸の奥にすうっと浸透して消えていった。

同時に、友喜の身に着けているネックレスの金具部分が壊れて友喜の首元から外れた。








 住宅街の一角。

図書館に行って来ると言ったなつに一緒に行こうかと提案したけれど一人で行くと言われ断られた功が、なつを玄関先で見送った後に1階のダイニングテーブルの席で石を見つめていた。


脇には大小の妖精の本が置いてある。



一週間。僅か一週間だ。


一週間前は、自分のオーラに浸ったアイテムが友喜にとって有効だと内心どこかで得意になっている部分もあった。

それが今回の件では何の効果も無かった事に、一週間経った今、途方に暮れている。


「…。」





 笑顔が見える。


いつでも守りたいと思わせる笑顔だ。


「…友喜ちゃん。」


功は目の前に居るのが友喜だと分かり驚く。

辺りはもやに包まれていて自分と友喜以外には何も見えない。


「友喜ちゃん、ここ…何処だか分からないけれど、また会えたな。」

功が嬉しさに頬を緩ませて、友喜も屈託の無い笑顔を功に見せる。


友喜は功に抱き着いてきて、功は友喜に答えて腕を背中に回して友喜をそっと自分の胸に寄せた。


温かい。

オーラが、温かくて。


友喜は真剣な顔で功を見つめると自分から唇を寄せてきた。


功は軽く首を振って我先にと友喜の唇を包み込む。

二人は何度も見つめ合って、何度も唇を重ねる。


唇を重ねる合間に、友喜が功の耳元で何かを呟いた。


功の耳には言葉としては聞き取れなくて、功は友喜の顔を見て聞き返したそうな表情になる。

友喜は功の反応ににっこりと笑うと、功を再び、ぎゅっと抱きしめた。


ほんの一瞬の、束の間の温もりで。


目の前に居たはずの友喜が、砂を散らした様にいつの間にか霧散していた。





 功が、ぱっと跳ね起きる。

頬杖をついていた肘ごと、体がびくっと動いて。


見るとそこは何の変哲も無い自宅1階のダイニングテーブルで。

対策があまりに思いつかなくて、いつの間にか眠り込んでいた様だ。


夢…だったのか。


今回のは友喜と何回か会った草原でも無かったし、箱の様な明るい黄緑色の空間でも無かった。もやが全体的にかかっていたので場所の認識すら叶わなかったから、ひょっとしたらその場所だったかも知れないけれど。


それでも今のは、自分の願望がそのまま投影された夢だろうと功は思った。

…投影されるのなら、どうせならもっと長い夢が良かったかな。


功はリビング中央の壁に掛けられている時計を見て、静かに息を吐いた。








 都内アパート。

雲のような光の残影は石を僅かに離れて浮かぶばかりで他の動きは特には見せなかった。


昨夜見たものと同じくこれもやがて消えるのだろうと梨乃と則陽は予測してその光景を目の端に捉えながらも互いに触れ合い始める。


「今日もマッサージ、しようか。何処が良い?肩?腰?」

耳元で囁いてから耳を唇で挟み込む。


梨乃が体を微かに震わせて、返事をしようと則陽を見上げる。

口を開こうとした拍子に則陽から唇を塞がれて、塞がれながらも則陽の手は梨乃の体を優しくまさぐるので返事が出来ずにただ吐息を漏らしてしまう。


肩も腰も優しく丁寧に触れられてじんわりと温まってきた。

温かくて気持ちが良い。

そのまま則陽に任せて、梨乃は呼吸を浅く、時に深くついた。

梨乃の様子を観察しながら動かしていた手を則陽がそっと止めて梨乃に優しく話し掛ける。


「梨乃、ちょっとは、ほぐれた?」

頬を赤く染めた梨乃が則陽を見つめて何度か頷く。


「則ちゃんの手は魔法の手みたい…。」

「それは最高の褒め言葉だよ。」

則陽が梨乃を愛おしそうに見つめ返して微笑みながら返す。


則陽の腕に包まれながら部屋に浮かぶ雲の様な形の光の残影に梨乃の目が行った。


「ねえ、則ちゃんあれ、今日はまだ消えないね。」

「うん、本当だ。」


二人が眺めていると、薄っすら白い光だったのが徐々により色味を帯び始める。


「見えた?今のあれ…。」

「うん、なんかさ、光ったよね…。」

梨乃と則陽が石から放たれる光に注目する。


残影だった光がくっきりとその輪郭を現して、中に稲妻の様な黄色い光が時折縦横無尽に走るのを二人の目は確認した。


則陽は真顔になって梨乃に回している腕に思わず力が入る。


「大丈夫かな…。」

「…大丈夫じゃない?だって、友喜ちゃんがくれた石だし、それに…神獣でしょう?」

梨乃が則陽に振り返って顔を見上げながら言う。


「神獣、なのかな、あれ…。」

「そんな気がする…。」

目の前で様変わりする雲の光の現象を見つめながら、梨乃は則陽に答えた。







 自分と同じ色味の欠片は、私にとても馴染んだ。


私は欠片を大事そうに両手に抱き、胸にそっと当てた。


温かな想いを胸の奥から感じて。


以前、不意に聞こえてきた声と同じ印象を受けた。


深い愛が胸から伝わってくる。


胸の奥から聞こえるのは欠片の落とし主への愛の告白の様で。


欠片は返事のラブレターみたいだなと私は感じた。








 山奥の神社の建物裏に隣接している小さな畑で、ノリコは土いじりをしていた。


二人で食べる分には十分な広さのその場所で、季節毎に適した野菜を植えて育てている。

良くある畑とは違って、そこには別の植物も繁茂していた。

だから作物を探し当てるのにはコツが必要で、度々祖父に教わっていた。

始めは分からなかったノリコにも段々とその区別がつくようになってきて、育ってきた野菜の数々を眺めるのがたまの楽しみになっている。


野菜を眺めながらノリコは先日の祖父からの言葉を思い出し、ソウイチの事も思い出す。

語弊があるかも知れない。

何故ならノリコは、ソウイチの事を思い出さないで居られる時の方が少なかったから。


今度はいつ出番があるかな…。

ノリコは野菜を見ながらもソウイチに想いを馳せていた。








 ツァーム達の居る世界で見られる程の数は飛び交ってはいなかったけれど、この森にも淡い光が時折飛び交い舞っていた。


有津世はたまに自分の近くに舞う光に目をやりながら奥へと足を運ぶ。

だいぶ歩いたけれど、アミュラの気配を感じるには至っていない。

キャルユが言ったからきっとこの地に居るんだと思うけれど…。


考えていると自分の体の中央に、下から上にすっと光が走り抜けた感覚を得た。


その場に立ち止まって、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。


もう一度目を開くと、見定めた様に方向を決めて再び足を踏み出し始めた。








 一脚のデスクセットの他には、床に物が置かれていない天井の高い部屋。

デスクの席には座らず脇に立ち、石を手にして中を覗くソウイチの姿がある。

 

その内にソウイチに交信してくる者が出たのか、ソウイチはそれに答えて席へと座った。


キーボードを打つ手が一瞬止まる。


「…分かりました。」

一拍後にソウイチは答えると、キーボードを手早く打った。








 草原に風がそよいでいる。

見回すと石碑があって、またここに来たんだと知る。


変わらず空気は良くて、私は大きく伸びをした。

見上げた空はどこまでも青く、美しい光がいつになくきらきらと降ってくる。


のんびりしようと、私は腰を下ろした。








 涼しい日が続いていて、会社の入っている建物の通りの街路樹は枝葉がさわさわと風になびかれてより一層の涼しさを風と共に演出している。


4階にあるゲーム会社では則陽と功と梅の三人が今日も朝一番に出社して午前中の時間は順調に過ぎていった。


午後の休憩時間の折に会社入り口に飾ってある立派な観葉植物ノーリの前にパイプ椅子を持ち出して陣取った功を見かけて、則陽が自らもパイプ椅子を広げて隣に座ると功に話し掛けた。


「功、土曜日、有津世くんはどうでした?」

「うん、結局大丈夫だったって会ってからも話で聞いたんだけどさ…。」

「何か問題でも?」

則陽が功の顔を見て尋ねる。


「その場では何も。でも昨日、またそれが起こったって有津世くんからメールが来てたんだよ。」

「友喜ちゃんの変調がですか?」

「ああ。それも一昨日起きたのよりも随分と激しかったらしくてさ…。その…一部友喜ちゃんが覚えて無いって言ってるらしくて。対策も今の所は思いついて無くてさ…。」


功に頷いた則陽がふと考えて疑問を口にした。


「あれ…?功がその抑制に役立っているんじゃ…。」


「いや、効かなかったから起きたんだ、今回のは…。」

「それは、残念ですね…。」

皆と会っている時に功が友喜に対して熱心に向き合っているのを見ていたからこそ尚の事則陽は思った。


「友喜ちゃんは?今は大丈夫そうなんですか?」

「ん?ああ…昨日のメールに返信したんだけれど、有津世くんからの返事がまだなんだ。だから様子は分からないけれど、まあ、有津世くんが傍に居る事だし…。」

大丈夫だろうと続けながらも、功は顎に手を当ててそっぽを向いて言った。


「…功、俺に対する反応みたいになってますよ。」

「…は?」

「いえ、何でも無いです。」

「…?」


本当は、今日会えるのならば友喜に会って状況を彼女本人からも確かめたかった。

その時にもし何かあったとしても自分が隣に居て力添えをしたいと思ったし、自分なら対応出来ると思ったから。


メールには友喜に会えるかの打診も載せてあるけれど、返信が無いという事は今日友喜がカフェに来る事は多分無いのだろう。

でも一応帰りにそっち周りで帰っておくか。


功はノーリを見ながら一人考えた。


「そうだ、功、話は変わるんですけれど…。」

則陽の言葉に功が顔を上げた。





 順調に今日の仕事を済ませた功は就業時間の終わりと共に退社する。

有津世からのメールの返信も結局帰りまでに貰う事は無かった。


自宅の最寄り駅まで着いて、駅前のスーパーで食材を何点か買い足す。

お菓子コーナーに回ってなつの好きな菓子を買い物かごに入れると、隣の飴コーナーで友喜に渡す種類の飴も見掛けてそれも入れた。


買い物が済んで店から出るとカフェの方向へと歩いて行く。

家に直接帰るのよりはちょっと遠回りだが、カフェは駅から近いしどのみち大した事は無い。

路面店の立ち並ぶ路地を足早に通り過ぎて行くと、一角だけ小高い丘になっているカフェの敷地の草地の斜面が視界の一部に入ってくる。


テラス席が見渡せる所まで来ると功は立ち止まって遠目から席を眺めてみたがそこに友喜の姿は無かった。


功は息を吐くと、踵を返して家路に向かい始めた。


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