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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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贈り物

挿絵(By みてみん)










 肩を支えながらゆっくりと一緒に歩いてくれる兄の手は温かくて安心するものだった。

友喜は余裕が出てきて有津世に話しかける。


「お兄ちゃん、どうしてあの通り歩いていたの?」

「…図書館に行ってたんだ。その帰り。」

「…ああ。」

友喜は納得する。


「友喜は吉葉さん家からの帰りでしょ?」

「そう。」

「…。」

きっと友喜の変調は功と別れてから起きたものだろう。

会っている時に起きていたのなら、功が放っておくはずが無い。


有津世は友喜の首元のネックレスを眺めた。


ぽわぽわの意識が入り混じり混濁するのは防げても、今度は別の要因が入って来て歩くのも危うくなるなんて…。


有津世は友喜を支えながら歩きつつ、ネックレスから友喜に視線を移す。


「友喜…。」

見ると友喜は、有津世に穏やかな笑みを見せていた。

先程の状況から一転、よっぽど安心出来たのだろう。

友喜は有津世に自分の五感の代わりを一手に委ねて、胸の奥から流れ込んでくる光の渦に浸っていた。


そう、それはまさしく渦で。


有津世の目からは、それが渦として視認出来た。

思い出すのは公園と河原で見かけた、功が言うには魔法陣だけれど、有津世からは空気の渦と見えたそれと似通っていた。


友喜に、魔法陣…?

功が見たら分かるだろうけれど、自分にはその区別が付かない。


魔法陣以外で、こうした動きをする別の何かが他にもあるんだろうか。



前を見て歩きながらも友喜の様子をこまめに見ていると、渦が湧き起こったり、収まりがちになったりを小刻みに繰り返している様だ。


友喜の言う、胸がとくんとする、現象の波が有津世の目にする渦と合致している。

丁度友喜が足をすくませそうになるのがその瞬間だと友喜が教えてくれたのと、有津世から見て渦が湧き起こるタイミングでそうなっているのを何度か目にしたのが、そう感じた理由だ。


ゆっくりとした足取りでようやく商店街を抜けて、遠目に林の道の入り口が見えてきた。


「友喜、後もうちょっとだよ。帰ったらさ、休みなね。」

「うん…。そうする。」

友喜の答えを受けて有津世は僅かに口角を上げると、友喜を支えながら林の道へと向かって行った。



無事に林の道に入り、自分達の家が視界に入ってきたくらいの場所まで歩いた頃、奥側のログハウスの玄関前の段差に座る人影が見えた。


「雨見!」

有津世が気付いて声をかけると雨見は立ち上がり、有津世が友喜の肩を支えている姿に驚いた顔になって二人に駆け寄った。


「有津世、友喜ちゃん、どうしたの?友喜ちゃん、大丈夫?」

「雨見ちゃん。」

友喜はにこにこと笑っているが、明らかに消耗してそうだ。


「…商店街で会ってさ…。例の、前回ネックレスを外そうと思ったきっかけの変調がまた起きたみたいで。」

二人は友喜の顔を見守る。


「とにかく、友喜は休もうか。雨見、またね。」

「…うん、分かった。友喜ちゃん、お大事にね。」

「雨見ちゃん、ありがとう~。」

友喜は力無く笑って返した。

ドアを開ける一瞬前に有津世は雨見に微笑んで、雨見は微かに頬を緩めて有津世を見つめた。


有津世達の家の玄関ドアを有津世が開いて二人が家の中に入って行くのを見守った後で、雨見も自分の家に戻って行った。




 有津世が友喜を介抱しながら友喜の部屋まで一緒に行くと、友喜がロフトに上って休む体勢になったのを確認してから部屋から出てドアを閉める。

自分の部屋に戻って、朝から親に借りたままのラップトップコンピュータを有津世は机の上で開いた。


すると途端に犬の鳴き声が聞こえてくる。


きゃんきゃんキャンキャン、なかなかに賑やかだ。


見るとツピエルが出現していて、ツピエルの足元には犬のキャラクターが尻尾を振ってツピエルに催促をしていた。


「…犬?」

「そーなのよ!わんちゃんよ!あら初めてかしら。」

「…うん、初めて見た。」

「アタシの家族なのよ!か~わいいでしょう!」


嬉しそうに犬を両手で抱えて持ち上げて見せる。

犬のキャラクターは小さな尻尾をこれでもかという風に振っていて、可愛いか可愛く無いかで言えば確かに可愛かった。


「うん、可愛いね。あ~、でもさ、こっちはそれどころじゃないんだよなあ。」

メールボックスを開きながら、有津世は文字を入力し始める。


「あっそ。ま、こっちはこれからわんちゃんと楽しいティータイムよ~!今日は、何にしようかしら!」


如何にも楽し気に話すツピエルは、腕組みをしながら画面の中でうろうろと歩き回っている。


「…。」

文章を打ち込みながら、ふと手を止めた有津世は聞いてみた。


「ねえ、ツピエルってさ、魔法陣とか結界とか…見えるの?」

「は?…そうね。大概のものは見えるっちゃあ見えるわよ。…それがどうかしたの?」

興味無さそうにツピエルが返してくる。

ツピエルに言ってもしょうがないかな、と思いつつも有津世は何と無く独り言の様に話してみた。


「うん…。友喜のさ、胸の所に、何故かそれらしき渦がさっき見えたんだよなあ…。」

「あら、そう。影響受けて無ければ別に良いんじゃない?」

「それがさ、めちゃめちゃ影響受けてるんだよ。」


お茶の用意を自身の小さなキーボードを出して進めていたツピエルが、有津世の顔をちらと見る。


「まあ、そういう時期よね。」

「時期ってあるの?」

「…今、段々とそれが増えてきているのはアンタも知ってるんでしょう?」

「ん…まあ。」

有津世は自分がそれを知っているのをツピエルが認識しているのが何とも不思議だった。

存在自体が不思議だから、何を見透かしていても当たり前なのかも知れないけれど。


「まっ、だから、人の体を通してそれが起こっても不思議じゃ無いわね。」

「…いや、不思議でしょ!」

「…何よ、うるさいわね。」

お茶を淹れ終わった様で、今度はお菓子の作成をするみたいだ。


画面の中に用意された丸いテーブルの上にお洒落なティーカップがソーサーと共に置かれると、またもやツピエルの手元にあるキーボードらしきを、ちまちまと打ち込んでいっている。

その光景を眺めながら有津世はツピエルと交わした会話を反芻していた。


「…。」

ツピエルの言葉が数拍後に有津世の中で響いてくる。


「…人の体を通してそれが起こっても不思議じゃ無いの?」

「…現にそれが起こってるならそう思うしか無いじゃない。」

「…。」


…なんだ、ツピエルとしてもその発言に大した意味は無かったみたいだ。

有津世はため息をついてツピエルの姿を眺める。


「ふふ~ん、今日のお茶菓子は、アップルパイよ~!」

「…。」

皿の上に載ったアップルパイを見せながらすごく嬉しそうに教えてくる。


「あらあ、わんちゃんも欲しいの~?しょうがないわねえ!」

依然、催促で鳴いている犬のキャラクターに向かって猫なで声で答えつつ、ツピエルはキーボードの手を更に動かし始めた。どうやらもうひと皿作成するらしい。


有津世はツピエルの動きを傍目にしながらもメールを作成し終わり送信ボタンを押した。




 有津世の部屋と壁を隔てて隣にある友喜の部屋。

友喜はロフトの上で横になりながら、ものを想いつつも、うつらうつらとし始めていた。


ネックレスをしていてぽわぽわの意識とはごっちゃにならなくて大丈夫なはずなのに、胸の奥から光の情報が突如強くなって押し寄せ始めたその時に、友喜は混乱して足がすくんで動けなくなった。兄の有津世が来てくれていなかったら、自分はあの場でしゃがみ込んでしまっていただろう。


着けたままのネックレスのペンダントトップを友喜は持ち上げて見る。


胸がとくんとなるのを外した時にもなるかどうかを検証しようとしてネックレスを外した時に記憶が無くなってしまったので、その後は検証しようにも出来ないけれど、…きっと…ネックレスのせいでは無いと思う。



「功お兄ちゃん…。」

やっぱりもうちょっと、会っていたかったな…。

友喜はネックレスを見て功を想うと、眠気に負けてペンダントトップを持ち上げていた手を下ろして瞼を閉じた。






 「ちょっと出かけてくるよ。」

有津世がリビングに居る両親に言って玄関へと向かう。


「何処に行くの?」

「小学校脇の公園。ちょっとさ、行ってくる。」

有津世はそう言い残して、靴を履いて外に出て行った。








 喫茶店で則陽と梨乃と一緒に居た功のスマートフォンが振動して通知を知らせた。


「ちょっとごめん。」

二人に断りを入れて、スマートフォンの画面を開き、内容を確認する。


画面から顔を上げると、功は口を開いた。


「有津世くんからだ。会って話がしたいらしいから、俺、行くわ。」

「何かあったんですか?」

「うん。友喜ちゃんが家からの帰りで変調を起こして…ちょっと危なかったらしい。」

梨乃と則陽が顔を見合わせる。


「結果的には無事だったって事ですか?」

「…ああ。途中で…有津世くんと偶然、会えたらしいから。」

功が僅かに眉を寄せる。


「大丈夫だって聞いて、安心しました。」

「うん…良かった。無事だったのなら何よりだね。」

梨乃も則陽に相槌を打つ。


立ち上がる功を見て、二人は功に挨拶をした。


「今日は、ありがとう。有津世くんによろしくね。」

「功、ありがとう。気を付けて。」

「ああ、分かった。こちらこそありがとう。じゃあな。」

店の入り口で自分の分のコーヒー代金を支払って、功は足早に店を出て行った。




 大丈夫だと思って友喜を一人で帰してしまった。

自分は何故今ここに居るのだろうと、自分の選択に後悔して。


乗り込んだ電車のドアの近くで佇みながら、功は思った。





 「有津世くん!」

小学校脇の公園に着いて、中央奥のベンチに座る有津世を功が見つけると傍に寄っていって勢い込んで声をかけた。


「吉葉さん。」

有津世が顔を上げて答えた。


「有津世くん、ごめん、友喜ちゃんの事。…有津世くんが居なかったら、どうなっていたか…。」

真っ直ぐ目を見て有津世に謝った後、功は一瞬目を伏せて唇を僅かに噛みしめた。

功の表情に有津世は首を振って穏やかな声音で、いいえ、と話す。


「友喜も帰り始めるまではそれが起こって無かったって言っていたし、今回の類の変調でここまでなるのも初めてでしたから。本人が分からなかったし、周りはもっと分からなかったというのが、正直な所じゃないかと。」

「…本当にごめん。」

「大丈夫ですよ。…座って下さい。」

目の前で立ったままの功に有津世が言った。


功は静かに息を吐きながらもベンチに座り、隣の有津世を見た。


「今は、友喜ちゃんは…。」

「部屋で休ませています。それで今度、友喜に会ったら確認してみてもらいたい事が…。」



有津世は自分が見えた渦の事を功に話しながら、自分達の足元の少し先にある地面を指しながら説明した。


「…どういうものなのか分からないけれど、友喜が変調を起こしている時にそれが見えました。吉葉さん、今日友喜と会った時には、どうでした?」


「そういうのは、見えなかったよ。ただ…。」

功はひと呼吸置いて、友喜が会っている時に不意に泣き出した事を有津世には告げる。


「消耗しているのか、途中で泣いてさ…。落ち着くまで待っていたんだ。…それで回復して、大丈夫そうだと思って一人で帰したのが間違いだった。」

深いため息と共に功は話す。


「…友喜が、泣いた…。」


有津世が功の言葉を受けて、昨日の友喜の反応を思い出した。

有津世は功をまじまじと見つめて、友喜の涙の訳を、きっとそうだと一人理解する。



「重ねて…悪かったよ。」

功は友喜の涙についても自分に責任があると有津世の視線を受けて素直に詫びた。


「…いいえ、そういう意味じゃ無いです。それも…吉葉さんのせいでは…。」

有津世が表情を和らげて誤解を解こうとする。


友喜はすごく気にしていたから。

功に有津世との事が知れてしまうのを。

きっとそれを…功の顔を見て思い出してしまったのではないだろうか。


功は太ももに両肘をついて足元の先の地面を俯きがちに見つめている。


「吉葉さん、…あの、友喜は…。」

功が力を失くした表情で有津世の方を向いた。


「友喜は…吉葉さんの事が本当に好きだって言って…昨夜、涙を見せたんです。」

友喜が涙したのはその延長で、有津世の前では堪えていたのが本人を目の前にして、その想いが溢れ出てしまったのではないかと有津世は続けた。


「泣く程…あなたの事が好きみたいですよ。」

「…。」

功は恥ずかしげも無く放つ有津世の言葉に呆けた表情になりながらも昼間の友喜の姿を思い出していた。


自分を好きで、泣いていた。

ただ消耗していたのでは無くて。

いや、でも泣くのは、やっぱり消耗しているからか…。


功が頭に手をやり考え込む。



日は沈んで、もう直ぐ夜がやって来る。

昼間から涼しかった外気に加え、少し肌寒く感じるくらいの涼やかな風が時折二人を通り過ぎていく。

有津世と功はベンチに座りながら、しばし物思いにふけていた。



「あのさ…有津世くんと一緒に家の前まで行って、外でちょっと会わせてもらえないかな。」

功が遠慮がちに有津世に尋ねた。


「良いですよ。じゃあ、行きましょうか。」

「ありがとう。」

功が僅かに頬を緩めて礼を言うと有津世は頷いて二人は立ち上がり、公園を後にした。



有津世の家へと向かう道すがら、二人は話を続ける。


「有津世くんはさ、有津世くんと雨見ちゃんは、友喜ちゃんみたいな変化は何かあるのか?」

前にはそういった事は無いと聞いて、改めて友喜以外の二人について聞いてみる。


「友喜みたいな、体調に影響するというのまでは無いです。ただ…。」

有津世は功に説明を続ける。


「白昼夢…。」

「はい。その時は一瞬で気付かないんですけれど、時間が経つ毎にそれだったと思い出すんです。それがこの所以前よりも頻繫になってきたのは感じています。それと雨見は…。」


有津世は続けて雨見の状況についても、ざっくりと説明をした。


「なるほど…。そう言えば、今まで有津世くん達二人についての話にはあまり触れて来なかったな…。」

功がしみじみと言う。


有津世との連絡は主に友喜が主体で、友喜がどうした、友喜がどういう状態だ、という内容が常だったから。


功の言葉に、有津世は頷く。


「友喜の状態については、連携が必要だと思ったんです。その…入り組んでいるので…。」


入り組んでいる…。

功は有津世の発言を理解して頷いた。




 功と有津世の二人は柚木家の前まで着いて、有津世は友喜を呼んできますと言って家の中へ一旦入って行った。


薄暗くなり始めた林の道の行き止まりで、点灯した玄関口の明かりを眺めると、功は静かに息をついて一人佇む。



家の中に入った有津世はただいまの第一声と共にすぐさま2階へ上がると、友喜の部屋の前まで来てドアをトントンとノックする。


「…はい。」

「…友喜、入るよ。」

有津世が友喜の部屋のドアを開けて中に入ると、友喜はロフトの上でごろごろしていた。


「お兄ちゃん。」

「…友喜、起きてて良かった。家の前にさ、吉葉さんが会いに来てるよ。」

有津世の言葉で友喜は飛び起きた。


「えっ、功お兄ちゃんが?」

友喜はいそいそとロフトの梯子を下りて、机の前の鏡で自分の姿をチェックする。


「…暗くなり始めたし、そこまで気にしなくても良いんじゃない?」

「そういう訳にはいかないよ!」

友喜が頬を赤らめ口を尖らせながら言う。

有津世は友喜の反応に口角を上げた。

どうやら先程の変調はひとまず落ち着いたみたいだ。


階段を下りて玄関の外に行く前に、ダイニングで夕飯の準備を進める母の隣にそっと立ってひと言告げた。


「家の前にね、功お兄ちゃんが来てるから、ちょっと会ってくる。」

小声で恥ずかしそうに告げる友喜に、母は温かい笑みで頷いた。


玄関の方に行く友喜を目で追って、ソファに座る父が、


「友喜は何だって?」

興味を持って母に尋ねる声が聞こえた。



 友喜は急いで靴を履いて玄関ドアを開けると、ドアの開いた音に振り返る功を見つけた。

友喜は玄関前の段差を素早く下りて、功の目の前まで駆け寄ったのを、功は友喜の腕を優しく掴んで抱き留める。


「友喜ちゃん。」

「功お兄ちゃん…、どうして?」

「友喜ちゃん、ごめん。大丈夫だと思って一人で帰してしまって…。」


友喜はぽかんとした顔をして、功を見る。

功は友喜の調子はどうかと確かめようとして顔を近づけ見つめてくる。

それだけで友喜は頬が紅潮した。



「え…、功お兄ちゃん、もしかして昼間の事を家のお兄ちゃんから聞いて、それで来てくれたの?」

驚きで目を見開いて聞いてくる友喜に功が真剣な表情で頷いた。



「今回は…いや、今回も、だな…いつも、協力してもらってるしな…。友喜ちゃんの事、有津世くんに助けてもらったよ。無事で本当に…良かった。」

「…それは偶然、だし…。」

友喜は俯いて静かに話す。


友喜の反応に功は僅かに口の端を引く。



偶然でも何でも、助けたのは有津世だ。

功はその場には居なかった。

その悔しさも増して、功は友喜の頬に手をやると、おもむろに唇を重ねてきた。




嬉しいけれど、触れ合いは求めてはいるけれど、ここは家の前で…。


友喜が戸惑いながらも功のくちづけを受けると、功は友喜の腰に手を回し、明かりの当たる場所から陰になる所へと友喜を抱き上げ移動させる。



友喜は功の動作に驚いた表情を見せつつも、次の瞬間くすりと微笑んで、自らも功の首に手を回す。

そのまま耳に手を触れさせると耳の形に添って指を這わせた。

途端に功が重ねた唇の隙間から熱い息を漏らす。

功が微かに困惑して友喜の目を見ると、友喜は頬を緩ませて功の反応を楽しんでいるみたいだった。


「…友喜ちゃん…。」

功はゆっくり唇を離すと友喜を見つめた。


「そろそろ…夕飯の時間だろ?」

友喜が無言で頷いて答える。


「今日は2度も会えて嬉しかった。……今度はさ、もっと気を付けるよ。その…安全に帰れる様にな。」

功は自戒の念からか寂しさの混じった笑顔を見せた。

友喜は功の表情に気付き、功の目を覗き込む様に観察する。


ひと息後に、友喜はいつか功が見せたぎこちない笑みに対してした様に、功を見つめて柔らかい笑顔を見せる。

笑顔に寂しさは要らないと、温かみを持った笑顔で居て良いと、功に知らしめる様に。


友喜につられて功の表情は友喜を愛おしみ慈しむ温かい笑みに移り変わる。


…それで良いの。


友喜は何も喋って無いけれど、彼女が今この瞬間、功に言った気がした。

表情からそう読み取っただけかも知れない。


「…ありがとう、友喜ちゃん。」

「功お兄ちゃんも。わざわざ、ここまで来てくれて…ありがとう。…ねえ、今日は……3度目も…あるかもね。」

友喜が最後に付け足した言葉は、自分達だけの秘密の言葉で。

友喜が言ってくすりと笑うと、功も思わず笑みをこぼした。


「だと良いな。…まあ、今日と言わず、…いつでも。」

「私も。」

友喜の間髪入れぬ返事に功が真顔になる。


「私も、いつでも。…そう思ってる。」

静かに驚く功に満面の笑みを見せながら友喜は重ねて発言した。

驚いた表情から穏やかな笑みになった功が言葉を添える。


「…あ、ご両親も有津世くんも、きっと友喜ちゃんの事を待ってる。ごめんな、こんな時間帯にこんなに時間取ってしまって…。…あの、よろしくと伝えて欲しい。」

「…?うちのお父さんとお母さんに?」

功は頷きながら続ける。


「後、有津世くんにも。彼に最後に礼を言おうとしたんだけれど、言いそびれたから。…後でメールもするけどな。」

「…分かった。伝えとく。」

小首を傾げた後で頷いて了承した友喜は、功の目を見つめて、じゃあ行くね、と告げる。


「ああ。おやすみなさい。」

「おやすみなさい。これ…一応ね。」

「分かった、一応な。」

功が嬉しそうに友喜に返して、互いに後ろ髪を引かれたまま、二人はその場を後にした。



文の言い回しの修正を複数箇所行いました。(2026年1月24日)

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