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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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伝言

挿絵(By みてみん)










 全てを包み込む彼女の光は溶解して、自分にも注ぎ込まれる。

あの日に感じたものは本物で、自分があと一歩を踏み出す助力となってくれている。


彼女が言葉をくれる時、彼女が笑顔をくれる時、彼女がただ自分を目にしただけの時でさえも、それは自分にとっての大きな原動力となって。


至近距離で見つめ合う時に、それは極限まで働いて、このままで居たいと毎回思ってしまう。


早く…早く一緒になろうな…。








 林の奥の二棟の家。

夜は漆黒の様相の手前側の家で、友喜が自分の部屋の机の席に座って功から貰ったネックレスを鏡越しで眺めている。


アンティーク調で決して煌びやかでは無い色合いのチェーンと、ペンダントトップの青い透明の石は派手さは無く灰色を帯びた落ち着いた青色だ。


着けて貰った時よりも、功に着けて上げた時に、より意識がクリアになったのが不思議だった。


同じ種類の石だから?

同じ形のネックレスだから?

それとも…。


考えてはみるけれど毎度の事ながらさっぱり分からない。



机の端にはハンカチの何枚か入った袋と長方形型の飴の包みが置いてある。

飴は何個か舐めて、残りは…いくつあるのか数えてみる。


お風呂に入る時は功からの飴を口にしてから入るのがここ数日間でのお気に入りだ。


ハンカチは寝入りばなまでの間に要るし、お風呂の時も寝る時にもネックレスは着けれないから、そうやって考えると、ほぼ全ての状況で対応し得るバージョンでアイテムを貰ったんだなと友喜は目を輝かせながら思った。





 壁を隔てた隣の部屋では机の上で家族共用のラップトップコンピュータを開いた有津世がモニター画面を確認していた。


そこには功からのメールの文章が表示されていて、今夜の夕飯時での友喜の意識がしっかりしていた訳が記されていた。


これでひと安心か…。

有津世は功にお礼の返信メールを打ち込んで送信ボタンを押した。



功の行動力には毎度、頭が下がる思いだ。

それだけ友喜を真剣に想っているって事だろうけれど。


だからこそ気になった。



前に、功に聞いてみた事がある。

友喜本人とはメールでやり取りをしないのか、と。


友喜自身がどう思っているのかは知らないが、二人の仲を取り持つのを手伝った身としてはどうにも気になったからだ。


すると功からの返事は、こんな調子だった。


『そうだね、メール出来れば良いとも思う。

けれどもそれだと自分の想いばかりを伝えてしまいそうで、何とも健全さを欠くと思ったんだ。だからさ、わがままだけれど君とのやり取りを継続させてはくれないかな。

連絡先を交換し合うのは…彼女が学校を卒業してから、かな。』


彼がどれだけ律儀でどれだけ真面目かを、そのメールの文章は物語っていると感じた。

友喜をどれだけ想っているのかも。



…喫茶店で皆と会った時にも、功は友喜を随分と気に掛けていたし、途中から友喜にしか注意が行っていないとも感じた。




友喜は…愛されているな。

有津世はしみじみと思った。



そんな事を思っている内に、今夜も天窓からぽわぽわが現れる。

有津世はいつもの様に手を伸ばして、ぽわぽわを迎え入れた。


直接手に乗るのでは無いけれど、手のひらの上を僅かに浮かんで浮遊している。

友喜は今夜はもう寝ているのかな、それとも…。


淡く白い光に魅せられて、有津世はいつまでもぽわぽわを眺めていた。








 祝福を、届けるために、存在したの。


ただ祝福を、誰の元へも、届ける為に。


祝福を感じる為には、胸の奥が繋がっていなきゃだめ。


そんなに厳しく無い条件だと思うな。


だってね、皆、胸の奥は繋がっているものだから。


ただそれを、意識してね。すると活性化するから。


私からの祝福が届くよ。


私はただ祝福を、誰の元へも、届けたい。








 樹々で鬱蒼とした森の中を、友喜はゆっくりと一人歩く。

草の葉の陰に、何かを見つける。

友喜は屈んでそれを手に取ると、手のひらに載せてじっと見つめた。







 功が見渡すと、そこはもう何度か見た石の遺跡のある草原の風景だった。

時折爽やかな風が吹く。


…また、来れたのか。


今夜も家で風呂上りにダイニングテーブルで2冊の本を広げて読んでいた所、石碑の傍の草原に意識がいつの間にか飛んでいた。



功は友喜の姿を探す。


けれども見渡す限り、草原が風にたまになびくだけで、人影は自分一人のがぽつんとあるだけだった。


…会えたら。

この所、毎回会えていたのが奇跡の様なものだから。

自分に言い聞かせてみるものの、ものすごくがっかりしている自分が居て。


ただっぴろい草原に功は腰を下ろす。


…会えたら。

林の道で友喜の話した言葉が胸の奥でこだまする。


…会えたら。

功が俯き、草原を眺めていると、後ろからしなやかな腕が功を抱きしめてくる。

伸びてくる腕は薄ピンク色の袖をまとっていて、功にはそれがもう一人の友喜なのだと瞬時に知れた。


「会えたら…って思ってた。」

背中側から聞こえた友喜の声は、泣き声めいて聞こえて。

功は友喜の表情を見ようと自分に回された腕を優しくほどいて振り返ると、


友喜は、やっぱり泣いていた。








 ねえ、私が消えたから、ひょっとしてまたこっちに来れてた?


そうだよ、そっちに行けたんだ。君に会えないとは分かっていたけれどね。


その時、落とし物しなかった?


…落とし物?


ええ、とっても綺麗な…。


気付かなかったけれど、もしかしたらそうかも知れない。


これは私が貰っても?


ああ。是非とも。それだけでも君との交流が出来たかと思うと、私は嬉しいよ。


…そうかな。


少なくとも私はそう思うけれど…。君はそうじゃ無いのかい?


…私も、嬉しいわ。


だったら、良かったよ。そしてこうして、君の声がまた聞けて、私は喜ばしいと思っている。


…それ前にも聞いたわ。


何回も言っちゃだめなのかい?


そんな事無いけど…。


じゃあ良いじゃないか。


…そうね。








 「…何か、あったのか?」

友喜の表情に驚いて功が尋ねた。

友喜は首をゆっくり振って、そうでは無いと答える。


「ただ、会いたかった…っ。」

正面に向き直した功に、薄ピンク色のドレスを身に纏った友喜がもう一度抱き着く。


「…俺もさ、会いたかったよ。」

抱き着く友喜の顔を覗き込みながら功が言う。


「だからさ、会えて嬉しいよ。」

涙に濡れた友喜が顔を上げて功を見る。

功は友喜に微笑んだ。



草原では時折さわさわと風が吹いて二人の肌や髪を撫でつけていっている。



「前回さ…。」

功が口を開く。


「突然目の前で消えちゃったものだから、焦ったし、ちょっと…ショックだったよ。」

友喜は功の背中をはっしと掴むのを止めずに抱き着いたままだ。友喜は功に顔を埋めながら頷く。


「あれは、不可抗力だったのか?」

友喜はもう一度頷いた。


「そうか…。…ひとつさ、友喜ちゃん自身から君に伝言があって…。君と会ったら是非とも君に伝えて欲しいって頼まれているんだけれど…。」

友喜が功に再び顔を上げて見せた。

涙はようやく止まった様で、涙の跡が見えるまま、ぽかんとして功を見てくる。


「彼女が…?何?何て言ったの?」

「えっとさ…、」

功は頬を指でぽりぽりと軽く掻き、バツの悪そうな顔を一瞬見せてからひと息置くと、友喜の耳元に顔を寄せて何かを囁く。


途端に友喜は頬を紅潮させた。

功も赤面しながらまたぽりぽりと頬を指で軽く掻いている。


「…ホントに?」

「友喜ちゃん自身も、実は望みをかけてそれを言ってくれたんだ。」

「彼女が…望んで?」

功は頷く。


「…どうして?」

「友喜ちゃん自身も、俺と同じ気持ちだから…かな。」








 林の奥の二棟の家。

手前側の家の、天窓の内側の友喜の部屋では、友喜がロフトの上ですやすやと眠っている。

机の上の石は赤やオレンジや黄色、金色に色を様変わりさせながら脈打つ様に光っていて、友喜の胸の奥からも光が灯り連動して同じ色で光っていた。








 鍵、あったから開けておくよ。良い?


彼の言葉の意味は分からなかったけれど、友喜は頷いて答えた。

彼の声が耳に心地良い。

胸の奥へ奥へと繋がって、明るい光の筋が接続され活性化されて熱を帯びる。




 大丈夫だよ、ほら、約束しただろう?

何があっても、俺達は一緒だって、あの星の上で確かに約束し合っただろう…。

俺はちゃんと覚えているよ。

だから消えるだなんて幻想で、離れ離れだなんて、もっと幻想なんだ。

だから安心して良いから…。



「覚えて…いるの?」

「何を…?」

功が息をつきながら友喜に聞き返す。


「…良いの。何でも無い。」

「…?」


友喜に覆い被さり額に汗していた功が友喜を抱き抱えながら座り姿勢になる。


「…そういうのは、だめだ。後で、悔やむ事になるから…。」

功が友喜の髪を手で丁寧に撫でつけると顔をよくよく覗き込みながらゆっくり話す。


「だから…言ってくれないか。…何を言おうとしていたのか。」


一言一句も逃せやしないと友喜に請う。


友喜の気持ちの、ほんのひと欠片でも、大切なものは大切で。


友喜は功の態度に少し戸惑う。

触れ合う事で直に入って来た功の内から聞こえる声を、友喜はキャッチしていて。

通じるだろうかと弱気を表情に漏らし見せながらもおずおずと友喜は功に告げる。


「………私達、ずっと遠くに約束してたの。それをあなたが覚えているのか、…覚えているって、あなたから聞こえてきて…。」

「……俺から?」

呆気に取られて聞き返す功に友喜が頷いた。


「…友喜ちゃんは…それ、最初から覚えていたのか?」

「勿論…私はあなたを探していたんだわ…。」

「見つけた時に、…喜んでくれたのか?」

友喜が無言で何度も頷き、功は息をつきながら合間合間に友喜とくちづけを交わしながらも友喜に告げる。


「俺の中からそれが聞こえたんだったら、俺の何処かはそれを覚えているのかもな。残念ながら今の所は思い出せてやしていないけれど…。」



「でも…君からそれを聞けて、それを知れて、…嬉しいよ。」








 天井の高い部屋。

奥の壁には一見大きな窓に見える窓枠型の照明がはめ込まれている。


ソウイチは部屋にたった一脚のデスクの席に座りながらデスク脇に置いてある石を眺めると、手に取りまじまじと見つめる。

見つめている内に、表情が柔らかく変わった。


頬を微かに緩ませて、ソウイチは石に何かを呟いた。








 まだ閉じこもってるの?

まだ後もう少し。

私はあっちもこっちも行き来してるよ。

うん。忙しそうだね。

う~ん、そうでも無いよ。楽しいよ。

楽しそうだもんね。

うん。だってね、あっちでもこっちでもツァームとアミュラに会えるもの。

あなたの大切な人達…。

そう。とても大切な人達…。






 天窓から降り注ぐ光が瞼の上から感じられる。

起き抜けにぽわぽわの意識が今朝も目覚めと共に入り込んできて友喜は目を開く前から、ふうと息をついた。


枕元にはハンカチと飴と、ネックレスが置いてある。


友喜はぽわぽわと友喜自身との意識がごっちゃになって、ぼうっとなりながらも目を開けると起き上がり、功から貰ったネックレスをもぞもぞと手を動かして何とか装着した。


とくんと胸を打つのを感じた。


意識がすっきりと友喜のみのものに研ぎ澄まされたのは明白だが、今のは何だったのか。

友喜は胸を押さえて胸の奥の高鳴りの余韻に浸った。








 住宅街の一角。

朝食の席で、なつが兄、功の胸元に見えるネックレスに注目する。


「へえ、綺麗。友喜とお揃い?」

当然といった感じでなつが聞いてくる。


「うん。…ハンカチの代わりにさ、対策で…。」

なつがオレンジジュースを飲みながらグラス越しに功を見る。


「ふ~ん。」

答えながら照れている功を見て、なつはにっこり笑った。


「…変かな。」

「あ、そういう意味じゃ無くて、…意外と似合ってるよ。」

「…友喜ちゃんにもそう言われた。」

「良かったじゃん。」

なつは功に再びにっこりと笑って見せる。


自分でも見えているんだろうけれど…。

なつは功のまた起きた変化に、今回は声を出さずに見守った。







 石碑の傍の草原。

草原に座って手のひらの上に載った何かの欠片を眺めている友喜の元に、黄緑色のウェーブがかった長い髪を揺らしながらキャルユが現れた。


キャルユは友喜の隣に腰を下ろす。


「なあに?それ。随分と綺麗ね…。」

「ええ。綺麗でしょう…。」

手のひらの上の欠片を瓜二つの顔が眺めた。


キャルユは視線を友喜に移す。


「…素敵ね。」

「でしょう?」

キャルユはやんわりと首を振る。


「それもだけれど、今のはあなたに向けて。」

「…ありがとう。…彼と、会えたの。」

「そうみたいね。」

キャルユは綺麗に頬を染めた友喜に微笑みながら頷いた。







 林の奥の二棟の家。

きらきらした朝日が二棟の家の屋根に降り注ぐ。


手前側の有津世達の家では、昨日の夕飯時に続いて今朝も安定した様子の友喜を見た有津世が安堵の息をついていた。

なんせ友喜の状況があのままどんどん重症化していたら、有津世でも友喜をサポートし切れたかどうか分からないと半ば真剣に思い悩んでいたからだ。


朝食を食べ終わってお茶のマグカップを片手にソファに座る友喜は、けろっとした顔をしている。

先に食べ終わってソファに腰掛けていた有津世は隣の友喜を見て頬を緩ませた。


「ん?」

友喜が有津世の微笑みに反応した。


「いや、良かったな、って思って。」

胸元にちらりと覗くアンティーク調のネックレスを目にして有津世が言った。


友喜は有津世の視線に、


「ああ、これ。…うん。」

友喜が胸元に下がるペンダントトップを手に取り、笑顔を見せた。


「功お兄ちゃんと、お揃いで…。」

「吉葉さんも、それ着けてるんだ。」

「…そう。」

友喜は頬を紅潮させて有津世に答えた。


…友喜は功の話題になると途端に女の子らしくなる。

有津世は友喜の変化につられて僅かに赤面しながらも、へえ、と頷いた。







 爽やかな風が吹き抜けて、功は思わず振り向いた。


出勤時で会社近くの街路樹の通りまで来た所だった。


風の通る先を一人何と無く見つめながら、すると別の通りからひょっこり則陽が姿を見せた。

則陽は功を見つけて、足を速めて功に追いつく。


「…はよ。」

「おはようございます。…?」

出社時に耳にする功のいつもの挨拶と違うのに反応して、則陽は功の顔をじっと見る。


「…何だよ、何か付いてるか?」

我に返った功が、則陽の視線にいぶかしんだ。


「いいえ。振り返った先に、何かあったんですか?」

「ん?…ああ、…またさ、神獣が駆け抜けていったもんだからさ…。」

「へえ…。あ、そうだ。」

則陽が功の言葉に興味深げに相槌を打ちながら、何かを思い出した様に声を発した。


「功、梨乃と俺の石の神獣って、どういうのでした?知りたいねって梨乃と昨日話してたんですよ。」

「…ああ、確か…。」

功は前に向き返り則陽と横並びで歩きながら則陽の問いに口を開き掛けた。


「…。」

功が顎に手を当て考える。


「?」

「上に行ったらな、紙とペンあるだろ。それで描いて説明するわ。」

「お願いします。」

言葉で形容し難いのか、功は言葉に詰まった後で則陽にそう告げた。



二人で会社の入っている6階建てのビルに着き、エレベーターに乗って4階に上がる。

入り口の観葉植物ノーリに二人は挨拶をすると中の仕事場へと入って行った。


「おはよ。」

「うーっす。梅。」

「おはようございます。」

功と則陽は梅に挨拶をしていそいそと通り過ぎていく。


「?」

梅はいつもよりせかせかと自分の席に移動していく二人に小首を傾げた。


自分の席に通勤用鞄をどかっと置くと、功はデスクの引き出しから小さなメモ帳とペンを取り出しておもむろに絵を描き出す。

そして描き終えると後ろの席の則陽の所に移動してメモを差し出した。


「こんな感じの。」

「…。」

則陽が絵を見て一瞬固まると功に振り向く。


「何でしょう…、これ。」

「うん。何だろうな…。」

功が難しい顔をしながら則陽に同意する。


「…じゃなくて、功の絵がですよ。…。」

「え、俺の絵?」

「…俺の画力が無いのは小人に指摘されて思っていた所ですけど、…これは…俺のより、ひどい…。」

則陽が功の絵を再度見ると、メモ帳を逆さにしようとする。


「そっちじゃない、こっちが上で良いの!」

則陽の手を止めて、メモ帳の向きを直す。


「いや、これを見て解れ、って言うのが無理ありますって…。」

げんなりした則陽の表情を見て功が反論する。


「おまっ則陽、何だよその顔!俺の画力…そんなにねえか?」

功がメモ帳を手元に寄せて自分の絵を見返す。


二人が騒いでいるのを聞きつけて梅が寄って来た。


「どうかしたの?朝から張り切ってるみたいだけれど。」

「梅、これ何に見える?」

功がメモ帳を梅に突き出す。


「ん?雲?」

ふにゃふにゃな曲線を見て、梅は首を傾げながら答える。


「雲に目が付いてるの?可愛い。これから作るゲームのキャラクター?」

更に発展して答えをくれた。


「自分もそういう風に見えました。」

「ぐぬぬ…。」

功が二人の受け答えに納得いかなそうにメモ帳の自分の絵を凝視する。


「二人共、朝から仕事熱心なんだね!」

梅が感心して、明るい笑顔でその場を後にした。








 とくんと胸を打った。

友喜は思わず胸を押さえる。


「友喜?」

有津世が友喜の仕草に気付いて声を掛ける。


「どうかした?」

「あのね…朝にこれを着けた時にも感じたんだけれど、胸がとくんとなって…。」

有津世が目を見張りながら友喜の言葉を注意深く聞く。


「それって大丈夫そうなやつ?」

「…分からない。」

有津世が自分たちの座るソファの前の座卓に目をやり考え込む。


「友喜、今日も無理しないで。」

「うん、ありがとう。」

友喜は自分の部屋に戻るために、ソファから立ち上がった。





 部屋に戻った友喜が机の席に座って鏡を眺める。

黄緑色の光のもやのキャルユは今日も笑い掛けてきていて、友喜は笑い返してから自分の胸元にあるネックレスを見つめた。


…これってすごく強いものなのだろうか。

胸がまた、とくんと打ったのを感じて友喜は思う。


胸が再び、とくんと打つ。

その波は強力で、友喜は一旦ネックレスを外してみようと思った。

外しても起こるなら、ネックレスとは別の要因だと分かるから。


感触を確かめながら留め金部分を探り当てると留め金を外した。


机の上に置くと意識が混濁し始めてぼうっとする。

胸が再びとくんと打つかどうかを確かめる前に、友喜の意識は混濁する意識の波間に溺れていった。








 奥側の家のログハウスでは、雨見が自分の部屋で勉強をしつつも脇には夢日記とピンク色の豪奢な装飾のノートを置いていた。

勉強の手を止めた雨見はシャープペンを置いて豪奢な装飾のノートを手に取り開く。

そこには、つい先日に起こった出来事が雨見の丁寧な字で書き記されていた。


…私も有津世も彼女の想いを知っているから…。

雨見は小さく息をついた。


 


 手前側の有津世達の家では、友喜が自分の部屋のドアを開けて、廊下を見回す姿があった。


友喜は直ぐ隣の有津世の部屋のドアをノックした。


「はい。なあに、友喜。」

ノックに答えてドアを開けた有津世が友喜に問い掛け、一拍後に有津世は友喜の異変に気が付いた。


「友喜、ネックレスは…?」

首元に見当たらないネックレスの事を有津世が聞き終わらない内に、友喜は有津世に抱き着いた。


「ツァーム…。」

抱き着かれた有津世が友喜の顔を見て今の言葉を確かめようとする。


「キャルユ?」

有津世が静かに息を吐いて、友喜をそっと引き剥がす。


「キャルユ、また君なのかい?」

有津世の問いに、友喜は嬉しそうに笑う。


「素敵じゃない?あなたに声を掛ける事が出来て、あなたに触れる事が出来て、あなたに抱き留めて貰う事が出来る。普段は…素通りだもの。」

悪びれた調子は欠片も無く、ただただ嬉しそうに有津世に告げた。


「普段…?」

聞き返した有津世に友喜が頷いた。


「ああ…まあ、とにかく良いや。あのさ、そっちの部屋に行こうよ。ハンカチか、ネックレスがあるでしょ?」

「…?」

有津世は首を傾げる友喜の肩を優しく支えながら、友喜の部屋へと誘導する。


…友喜、何でネックレスを外したのかな…。それよりも…。


有津世は友喜を引き剥がした時に、友喜が河原で拾った石を手にしているのを確認した。


…石を友喜の手の届く所に置いておくのは危険なのかな。

いや、それでも…。

この石を選んで持って帰ってきたのは友喜だし、それを隠すのもな、と思い、有津世はこの前は友喜の机の上に自ら運んだ。


雨見は理解しているものの、前回のを見た時もきっとショックだっただろう。

態度に示さなかっただけで…。


功にも言うべきか。

…今は目の前の事象に対処するのが先だ。


友喜の部屋に入ると、有津世は友喜を机の席に座らせる。


「何をするの?」

「…友喜を戻さなきゃ。」

有津世の言葉に、微かに寂しそうな表情を見せる。

有津世はネックレスが机の上に置いてあるのを見ると、手に取って、留め金を外した。


友喜の首元に渡すと、鏡に映る彼女と目が合って微笑み合う。


留め金を留めようとして、有津世は一瞬思い留まり、手を止めて鏡の彼女を前にして口を開く。


「キャルユ。ツァームも、アミュラも、君の事を愛しているよ。愛しているんだ。だから…。」

言った後で、鏡を見ると、友喜は一筋の涙を流していた。

直後、有津世は、ネックレスの留め金を留めた。



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