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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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挿絵(By みてみん)










ワンツー、ワンツー。


ワンツー、ワン……。


「まただわ。」


小人達が多数詰め寄る空間で、トネルゴが呟く。


異常があって、また作業が停止した様だ。


流れなくなったブロックのトンネルを見ると、トネルゴが休憩の号令をかける。

綺麗に列をなしていた、トネルゴよりも小さなサイズの小人達の列が途端に崩れてごちゃごちゃになった。


潰れとんがり帽子を被り直しながら、トネルゴはシステムが再稼働するのを辛抱強く待つ。


一方、ツピエルそっくりの小人達は、またわいわいがやがやひそひそと、この停滞についてある事無い事を様々に囁き合っている様だ。


微細な動きに気を払いながら、トネルゴは再開の兆しを感じ取ろうとしていた。








 飲み屋街の一角。

365日24時間いつでも好きな時に寄れるこのオフィスに、辰成は今日も立ち寄っていた。


土曜日に続いて日曜日の昼間も居る事に、なんの躊躇も感じない。


むしろ、この作業に関わる事が出来るのが光栄な事だと思ったし、則陽との出会いが更にその想いを加速させた。


最近則陽は日曜には来ない。

以前は目にしたと思ったが。


ただ先日の話は穂乃香も聞きたいとの事だったし、作業後の時間のある時にしても、彼女も一緒に居る時が妥当だろう。

おそらく…平日になるだろうか。


明日もこのオフィスに来ようと予め穂乃香に誘いをかけていた辰成は、作業の傍らそんな事をつらつらと考えていた。








 普段は食料の調達とたまに寄る好みの服屋以外にはあまり気にしていない路面店の集合した通りの中に、石屋を見つけた。


…こんな所に。

功は外側から見えるガラスの向こうの石の結晶達を眺め、店内へと入って行く。


「いらっしゃいませ…。」


中に入ると、自然音と言うのか環境音と言うのか、小鳥の声や、ちょろちょろと水が流れる清らかな川の流れの音がBGMで再生されていて、ちょっとした異空間に感じた。


不意に大きな鳥の声を耳にしてびくっとなる。


振り返ると、それはBGMでは無くて本物の鳥が発した声で、功が驚いた顔を見せるとその反応が愉快だったのか鳥かごに入っているその鳥が首を縦に小刻みに振っている。


…何だ、びっくりした。

気を取り直して石が様々に並べられた什器に振り返る。


…どれが何なのか。

見ると石の入れてある数々のガラス容器にカードが添えられて説明が丁寧に書き記されている。


今までに石を見に来ようなんて気は一度も起こらなかったけれど、これは今だから目にして良い光景だと思った。

神獣こそ見当たらないが、それぞれにたまにきらりと脈を打つ様に石が見えるのだ。


主張の激しいのは、石の上にその姿を覗かせている。


功が見えるのを知って、アピールに余念の無い者すら居た。


「…。」


でも功が探しているのは…。

功は注意深く視線を移し、石を見定めていった。








 林の奥の二棟の家。

雨見がまだ有津世達の家に居る。


「あ、分かった。じゃあこうしよう。」


雨見の友喜への声掛けで最後に不安の尾ひれが付いていたのを耳にして、有津世は思いつく。

友喜がにこにこ顔で大丈夫と答えたが、それでも心許無いのは確かだ。


有津世は自分の服のポケットの中から石を取り出して、石に集中する。


「…なるほど。」


雨見が理解して、自分も持って来た石を手提げ袋の中から取り出して、雨見も石を見つめて集中した。


「?」

友喜は二人を不思議そうな顔で見守る。


と、有津世は頭を上げて、


「これで完了。」

と言い、それを受けて雨見も、


「うん、こっちも。」

続けて顔を上げると有津世に頷いてみせた。


二人は友喜に振り返り、微笑み掛ける。


「私達ね、友喜ちゃんが安全に過ごせます様に、って石に想いを伝えたの。」

「へえ…。」

友喜がきょとんとして雨見の言葉を聞く。


「これが役立ってくれたらと思うと、心強いよね。」

「うん。危ない事は無いに越した事無いけれど…それでもお守り代わりにね。」

有津世の言葉に雨見が補足しながら同意する。


「雨見ちゃん、お兄ちゃん…ありがとう。」


自分を守るための想いを、願いを二人は石に伝えてくれた。

愛情深い二人に支えられて、友喜は胸の奥がじんわりと温かくなる。


…そうだ、自分の石。


二人がそれぞれに石を手にするのを見て、友喜はソファを立ち上がる。


「友喜ちゃん?」

「私も石を持って来る。」

ハンカチを鼻に当てながら、友喜は一旦廊下に出て行った。





 …ふと気が付くと、兄の有津世と二人で玄関先で雨見を見送る所だった。


「じゃあね、有津世、友喜ちゃん、ありがとう。ばいばい。」

雨見に声を掛けられて、友喜が、う、うん、と答える。




…私、今何をしていたんだろう。


友喜は記憶を辿ってみる。


…そうだ、私、石を2階の自分の部屋に取りに行って…。


その時からの記憶が今の今まですっぽ抜けている。

顎に手を当てて考えていると、有津世が気遣わし気に友喜に話し掛けてきた。


「友喜、部屋に行く?」


友喜が頷くと、じゃあ、と、ぱたぱたとリビングに歩いて行き、友喜の石を手にして、


「これ、運ぶよ。」

有津世が友喜に石を見せながら言った。


…いつの間に石を1階に持って来ていたんだ、私。


「うん、ありがとう。…。」

二人は階段を一緒に上がって、友喜は自分の部屋のドアを開ける。


「何処に置いておこうか。」

「机の上。」

友喜の指示通りに机の上に石を置くと、有津世は、じゃあね、と言って部屋から出て行く。


「…。」

友喜は無言で微笑むと、有津世も部屋を出る直前に微笑んで答えた。


「ふう。」

有津世が部屋のドアを閉めたのを確認すると、ロフトに上がってハンカチを当てながら寝っ転がる。


…何が、あったのかな。

友喜は分からなくて、悶々と考えようとするも、次第に瞼は重くなって意識は静寂の中に沈んでいった。








 住宅街の一角。

兄の功が気を取り直して外出した後の家のリビングで、なつは悠々とお茶をしていた。


毎度思ってしまうけれど、兄は純粋だなと今回も思った。


下手したら友喜にも涙を兄は見せた事があるのかも知れない。


そう思うとなんだかほっこりと感じてしまう。

そういうつもりは微塵も無いだろうけれど、本人は深刻なんだろうけれど…。


恰好つかないし、強くも何とも無い。

それを露呈してしまう自分の兄を、心から素敵だな、と、なつは思った。








 有津世達の家の玄関ドアを閉めて、雨見は外に出た。

日の長い今の時期はまだ暗くはなっていなかったけれど、ようやく涼しい風が吹き始めているのを肌に感じる。


自分の家の玄関ドアを前に、ふと小首を傾げて一瞬考え込んだ後、雨見は玄関ドアの向こうへと入って行った。








 それはなあに?

…飾りよ。

飾り。

あなただけの。唯一の。

皆、こういうの、持っているの?

そう。一人一人、違うのを持っているの。

私が持っているのは、飾りなの?

そうよ。何があっても、あなたは癒しを振り撒ける様に、この飾りには、そういった意味が込められているわ。

癒し…。

そう、癒し。

でもね、それはあなたがそう望んだのよ。私はあなたに合わせて、それにしただけ…。


私、覚えて無い。

それで良いのよ。覚えていても、覚えていなくても、遂行する役目はきっとこなせるから。

…でもそれだと不便じゃない?

不便かも知れないけれど、また違った発見の仕方が出来るだろうし、一から体験出来るから、それはそれで貴重よ。

…そう?

ええ、そう。

…なら…分かった。


あなたはあなたで居て大丈夫。


…うん。








 林の奥の二棟の家。

夕飯の時間になって、友喜を呼んで来てくれと有津世は母から頼まれた。


2階の友喜の部屋の前に来た有津世がドアをノックして声を掛ける。


「友喜、夜ご飯だって。下に来なよ。」


…。

返事が無い。

有津世は気になってドアを開けて中の様子を見てみると、案の定、ロフトの上で友喜は眠りこけていた。


「友喜…。」

ドアノブから手を離し、部屋のロフト近くに寄って友喜を見上げる。


「友喜、起きれる?夜ご飯だって。」

大きめに声を出し、友喜に呼び掛ける。


「う~ん…。」

寝返りを打った友喜が、ぱちっと目を開けてロフトの下の有津世を見た。


「ん?何でお兄ちゃん、ここに居るの?」

「何でここに居るの?って…。友喜がさ、ドア越しに声を掛けても返事しないから…。夜ご飯だって。下に行こうよ。」

「ああ…。」

友喜が理解して頷く。


「大丈夫?」

「うん、平気…。」

友喜は傍に落ちていたハンカチを手にして鼻につけると、起き上がってロフトの梯子を下りてくる。


「私どれくらいで起きた?」

「割と直ぐ、かな。」

「なら良かった。」

梯子を下り終わって振り返り、友喜は安心して肩を撫で下ろす。


「行こう。」

有津世が口角を上げて言って、友喜も、うん、と答えて二人は部屋を後にした。








 暑い朝でも街路樹の緑の色が清涼感をもたらす道路の脇にある小ぶりな6階建てのビル。


4階にある則陽と功の会社では朝から活気良く会議が行われている。


「誰か、質問は?」

功が全体を見回して、質疑を受け付ける。


すると端から声が掛かり、功は真剣な表情で頷き丁寧に答えていた。




 会議から戻ってきた功に、則陽がくるりと椅子の向きを変えて話し掛ける。


「どうでした?順調でした?」

「まあまあ…と言った所かな。何だよ、お前の方はもう直ぐだろ?」

「ええ。最後の調整に入っています。」

お互いに進捗状況を報告し合った。




 会社の入り口の観葉植物ノーリの前に、パイプ椅子を2脚広げて則陽と功が座る。

ひと息つこうと功が言って休憩にやって来ていた。


「土曜日、楽しかったですね。」

「そうだな…。」

「友喜ちゃん、帰りは大丈夫でした?」

「大丈夫だったよ。だけどあのままじゃ、ちょっときついからさ…。」

功がノーリの光を見つめながら静かに嘆息した。


「何か、対策が?見た所、功が友喜ちゃんに作用している様に見えましたけど…。」

功が則陽の言葉に赤面になる。


「うん、まあ…そう。」

「そこは堂々と言って良いのでは?」

則陽が功にくすりと笑う。


「…。」

触れ合ったり、自分の匂い(オーラのだが、多分)を友喜の意識が混濁する歯止めになるってのは、なかなか言いにくい。

それをこいつは…。

功は自分で考えながらますます赤面するのを感じて顔を背ける。


「…何考えているんですか?」

功の反応に対して則陽が更に突っ込む。


「いや、何って…。」

傍目からしても、功の頭から湯気が立ち上りそうなのを見て、則陽は勘繰る。


「何かあったんですか?」

「…いやさ、…もう良いだろ…。」

「…。」


この純情男は本当に参っているみたいだ。


則陽はからかうのを止めて口角を上げると顔を背けた功の姿を嘆息して見守った。






 林の道を抜けて、商店街に向かって歩いている。

夕方に差し掛かるこの時間の外気は、たまに涼やかな風が吹いて、暑さの中にも過ごしやすさを感じた。


…秋が近づいてきているのかな。

友喜は肩から下げた鞄から功のハンカチが覗くのを見ると、すっきりとした表情で歩いて行った。



カフェに着くと、いつも座るガラス戸の向こうのテラス席が空いているのを確認してから注文レジへと並ぶ。


友喜の頬の膨らみが動きを見せると、口の中でコロンと飴が転がった。







 就業時間が終わると、功は早々に帰りの準備をする。

則陽から見ても、功は嬉しそうだった。


「じゃ、俺、先帰るわ。」

もう少し居残りを続けそうな則陽に声を掛けて、職場の他の人にも挨拶をして、先に出て行った梅に続く。


梅は相変わらず素早くて、梅の乗るエレベーターが下の階へと移動しているランプの案内表示を目にすると、功も下へのボタンを押してエレベーターを待つ。


振り返ってノーリを見つめると、功はノーリに対して微笑みを見せてから戻って来たエレベーターに乗り込んだ。







 ひょっとして、なっちんも居るのかな…、なんても思ったから、今回は一人なんだな、とテラス席に着いて改めて思う。


飴が口の中で随分と小さくなってきた所で、友喜は脇に置いた鞄の中から功のハンカチを取り出す。


ハンカチを小さく畳んで、鼻先につける。


……オーラの香り。


こんなに良い香りなのは、オーラの香りだから?


口の中の飴が薄っぺらくなって溶けて無くなると友喜は抹茶ラテのマグカップを手に取り口にした。

直前までの飴の味が影響して、抹茶ラテなのに爽やか風味だ。

友喜はちょっと面白く感じて一人口角を上げる。


そして目の前の通りのたまに通る人波をゆったりと眺めていた。




 「友喜ちゃん。」

肩の端から声が掛かる。


びっくりして見上げると、アイスコーヒーのグラスを載せたトレイを持った功が直ぐ傍に立っていた。


「功お兄ちゃん…。」

もう少ししてから来るかと思っていたから、不意打ちの登場に友喜は頬を赤らめる。


功は友喜の隣の席に座って、コーヒーのグラスを手に持ちストローからひと口すする。


「上手い。」

言いながら頷くのを見て、友喜は、ふふっと笑った。


功が友喜の表情に頬を緩ませると、話を始めた。


「来てくれてありがとう。ここまで、大丈夫だった?」

「うん。大丈夫だった。」

「良かった。」

功は微笑むと、実はさ、と言いながら自分の通勤用の鞄をごそごそと探る。


そして取り出した小さな紙袋の中から、箱を二つテーブルの上に出した。

功がそれぞれの蓋を開けると、そこにはアンティーク調のアクセサリーが両方の箱にひとつずつ入っていた。


友喜は目を丸くして二つをよく見ると、それぞれには青みがかった石がペンダントトップで付いている。


「功お兄ちゃん、これ、ネックレス?」

「そっ。この街で見つけた石の店でさ…。昨夜と今日の日中、俺のオーラの範囲内に浸したから、こういう形でも機能するかな…って思って。」

友喜は興味を持って功の話を聞く。


「触っても、良い?」

「うん。どちらでも好きな方を。あ、俺さ、もうひとつのを着けようと思って。時々取り換えっこして対応すれば良いのかな…って思いついてさ。」

功の提案を友喜は頬の血色を良くして反応した。


友喜は両方を見比べて、…でも、どっちも着ける事になるのならどっちでも良いかと思い、片方の箱を手元に寄せる。


箱から取り出し、石に光を透かして見ながら友喜は言う。


「こんなに素敵なのが売っている所があるんだ…。」

「俺も今まで知らなかったよ。その…着けてみる?」

功が友喜に聞いてみる。


「うん、着けたい…。」

「じゃあちょっと貸して。」

ハンカチを鼻に当てたままなので片手が使えない友喜に代わって、功がネックレスの金具を取り扱うのに挑戦してみる。


「何だ、これ。…あ、ここか。」

留め金を外すと、席を立って友喜の背中に回る。


「ちょっと…どけるな。」

遠慮しがちに友喜に言うと、友喜の豊かな髪の毛をまとめてそっと右の肩の前に寄せる。と、友喜のうなじが当然ながら見える様になる。


功は内心ドキドキしていたけれど、大きく深呼吸をすると意識して冷静さを保ち、友喜の首元にネックレスを渡す。


友喜は着けて貰っている途中のペンダントトップを手のひらに載せて見ていると、


「あ、これ、表裏あるかな。」

功が気にして友喜の後ろから声を掛けた。


「あ~、ん~?無さそう…じゃない?」

友喜が頬を僅かに上気させながら、ペンダントトップをひっくり返して両方を見て功に答えた。


「じゃあこれで良いか。」

留め金を留めると、功はネックレスがきちんと装着出来た事を確認して口角を上げた。


友喜は自分で髪の毛を後ろに戻して、自分の首元のネックレスをもう一度よく見る。


「ありがとう、功お兄ちゃん。」

友喜は席に掛け直す功にはにかんで礼を言った。



「功お兄ちゃんは、着けないの?」

友喜がもうひとつのネックレスを見て功に聞く。

「うん、着けるけど…今、ここでか?」

友喜が頷き、功は僅かに赤面する。


「あ~、そうだな。着けるか。」


ネックレスが入っている箱を手に取り、中からネックレスを取り出すと留め金を外す。


自分の首にネックレスを渡して後ろ手に留め金を留めようとするが、どうも上手く留まらない。


「あ、私、やる。」

功が苦戦しているのを見て友喜が立ち上がって功の後ろに回った。鼻先に付けていたハンカチをテーブルに置く。

ネックレスの端と端とを功の手から受け取って、留め金をスムーズに留めた。


「出来た。」

友喜が嬉しそうに自分の席に戻り、功を見る。


ラフなシャツの中にネックレスをしまい込んで、それでもちらりと見えるそれは、意外に似合っていた。


「…こんなの、柄じゃねえけどな。」

でもまあ対策だからなと功は照れながら言う。

どちらかと言うと友喜に似合いそうだと思い選んだので、自分に似合うかは度外視だったのを功は思い出す。


「そんな事無い。功お兄ちゃん、似合ってるよ。」

友喜は頬を染めて目をきらきらと輝かせながら言った。


テーブルへと置かれたハンカチを功が見て指摘する。


「ありがとう、友喜ちゃん。…ハンカチ外してから、どう?」

見た所、友喜の目線はしっかりとしていて大丈夫そうだ。


「着けて貰った時にも思ったの。でもね、功お兄ちゃんに着けるのを手伝った時に、留め金を留めた瞬間にね、もっともっと、何だかすうっとしたの。」

「俺のが、着けられた時に?」

「うん。そう感じた。」

友喜は不思議がって自分に着けて貰ったネックレスと功の首元のとを見比べた。






 家への道を功とゆっくり歩く。

早目に帰り始めたので、ぎりぎり懐中電灯が無くても歩けそうだと、林の道の入り口に辿り着いた時に二人は思った。


「…。」

「あのね、」

「うん?」

「また草原で、会えるかなあって…。」

友喜が功の顔を見て言って、その言葉に功が薄暗い中で赤面を露呈する。


「…会えると、良いな…。」

「うん…。」

友喜が真っ直ぐに功の顔を見る。


「友喜ちゃん、この前言ったあれ…、本当に良いのか?」

「?…ああ、うん。そう、良いの。むしろ…。」

友喜が最後は呟く。


その声は、功には聞こえて。

友喜の言っているのは真剣味を帯びていて。

そこで思う。

友喜は友喜なんだと。



「功お兄ちゃんは、本、読むのはいつも夜なの?」

「ん、そうだな。もう寝るだけってなってから。友喜ちゃんは?昼間だって言ってた時あるけれど、この前のは確実に夜だよな…。ゲームしてたのか?」


「ううん、何にも…。私多分寝てたと思う…。」

「それであの場所に飛んだのか…。」

「うん…。」

入れ替わった時にも、何回かそういう事があったと友喜は再度、功に説明する。


「だからゲームのクリスタル無しでも飛んじゃう時は飛んじゃうの。勝手に。」

友喜が不便そうに話した。


「でもね、功お兄ちゃんに会えた時は、…飛んでしまって本当に良かったって、思うの。」

「…。」


しみじみと語る友喜の言葉に、何故か胸が打たれた。

友喜が心からそう思ってくれている、それが功にも伝わって来て。


「…暗くなってきたな、流石に。」

功は視界の悪くなってきたのを感じて友喜に言う。


「うん。ぎりぎり、見えるよ…あれ。」


功の顔を見ながら彼の目がきらきらとしているのを友喜が発見する。


「何で…、…もう一人の私の事で…?」

前に涙してくれた事を思い、小首を傾げながら功に友喜は聞いた。


「いや……、うん…、………そうかもな。」

はっきりしない答えを受けて、友喜は首を傾げた。


「…本当に、そう?」

「…。」

功が頷きも首を振りもしない姿を見て、友喜は功の顔を覗き込む。


「案外、私よりも、涙脆なみだもろいなあ…。」

友喜は功の両頬に手のひらを当てると、功の流れ落ちそうな涙の溜まった目を見つめる。


「そんな顔してると、こっちでも…。」

…抱きしめたくなっちゃうんだから…。


友喜は功の背中を両腕で抱え込んで、自分の傍に寄せる。


本当はね、本当は…。

帰りたくないよ…。

功に自分の唇をそっと重ねながら、友喜は思った。




 「大丈夫?」

「大丈夫。あれは、ちょっと…感動しただけだから。」

功が珍しく友喜に突っぱねて見せる。


「そんなに強がる事無いのに…。」

「いや、強がってなんていないよ。」

明らかに強がってしか見えない功の表情に、友喜がいぶかしんだ。


「もし、今夜も会えたら、この続き、追及しちゃうからね。」

友喜が嬉しそうに話す。


「お手柔らかに頼むよ。」

友喜の言葉に、功は、やっと頬を綻ばせた。


「良かった、笑ってくれた。」

友喜が柔らかい表情で功に笑い返したその瞬間に、今度は功が友喜を引き寄せて友喜の口元に自分の唇を強く重ねた。


ふと離した息継ぎの間に、至近距離の友喜が功に話す。


「…本当に…、良いんだから…。約束して。彼女と…。」

功は友喜の目を見つめて、息を吐きながら無言で頷いた。



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