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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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気付いて…

 林の奥の二棟の家。

有津世達の家のリビングのソファで、お互いの意識が戻ったのを目を合わせて確認する。


「今回、飛べたね。」

「うん…。何処に行ってた?」

雨見が有津世に聞く。


「キャルユに、会ったんだ。」

「キャルユに?」

雨見が驚く。


「雨見は?」

「私は、トネルゴの所…。」

「トネルゴ、懐かしいな。」

「ねえ、キャルユの話を先に聞かせて。何を話したの?」

「それがさ…。」


話を続ける前にひと息つこうと有津世は座卓に置かれていたマグカップを手にする。雨見もそれを見て自身のマグカップに手を伸ばした。


そうして二人は口元にそれぞれマグカップを運びながら友喜の姿を目にする。

友喜は寝息もほとんど立てずに今も座り姿勢のままで眠り込んでいた。






 …聞こえるかな…聞こえる?


その時私は交信を試みた。


だいぶ…そう、だいぶ混乱をしていたし、この状況下では無理も無い。



もうすぐあなたを迎えに光が差し込むわ。

だから光を見たら、その近くに行くのよ。



私は伝えた。そして出来得る限りの励ましを、エールを彼へと送った。


彼が今ここに居るのは自らに課した宿命かも知れない。


でもこれからは違う。


彼はそれを理解した上でこの地に光を宿す為に、光を強める為にここに降り立ったのだ。


でもそれを始めから理解していたら、彼はもう少しこの場で強く居れただろうか。


…いや、もっと心が壊れていただろう。


だから今はこれで良い。


ここまでは闇に包まれた世界でも、彼のこの先はそうでは無いから…。








 友喜は遠くの空飛ぶ虹色の龍を仰ぎ見る。


石碑の傍の草原。


友喜は、龍をひと目、視界に入れた時からその光景をとても懐かしく思った。


初めて見るのに、何故だかとても自然に感じて。

じんわりと、胸の奥から感動が込み上がってきて。


…私、彼を知ってる…。


そんな言葉が胸の奥から突いて出た。



龍は悠々と優雅に泳いで。


徐々に高度を下げたかと思うと、風と一挙に差し迫り、友喜の目の前へと降り立った。








 林の奥の二棟の家。


有津世達の家のリビングのソファでは有津世と雨見がクリスタルの中で体験した出来事を話し合っている。


「じゃあ…キャルユの言ったそれって…。」

「うん、アミュラが石碑の前でキャルユを見失ったってタイミングで考えると話が繋がるんだ。」


二人は手元のマグカップを見ながら考え込む。


「知らず知らずの内に記憶が混ざっている…そう考えられるよね、ほら、私達が意識を失っていた間にも…。」


…ずっと平穏な毎日を過ごしている夢を見続けていた。

エールを送る樹が一本、立ち枯れた事以外には。


何か、からくりがあるかも知れないとまでは考えた事があるにせよ、分からないのでそっとしておいた話題だ。

クリスタルの中の空間でのキャルユと有津世との会話は、そこから一歩を踏み出すきっかけともなる内容だった。


「…こちらの世界の知識を持ち帰ってくれたキャルユって、小学生の方の友喜ちゃんなんでしょ?そしたら純粋にはキャルユじゃ無いって事になるし………途中から友喜ちゃんに入れ替わっていたと考えられない?」

「そうかも…先程話したキャルユは、こちらの世界の事を見知った様子が何一つ無かったんだ。」


二人は再び同じソファで眠り込んだままの友喜を見て顔を見合わせた。








 一瞬吹いた力強い風が、龍の降り立ちの瞬間最大級になり、その後ぴたりと凪いだ。


石碑の傍の草原。

遠目で眺めた龍が瞬時に友喜の目の前に現れて、友喜はほおっと驚きと感動の声を上げた。

じっと友喜の前に佇み、何やら話をしたそうな様子だ。友喜は龍の姿から龍の想いを感じた。


「あなたは…普段は石の中に居るの?」

目の前の龍に試しに話し掛けてみる。



…神獣は石に宿るものなのかも知れない。

功から石に神獣が居ると聞いて抱き始めた考えだ。


すると龍のその目がそうだと友喜に言った気がした。

友喜は龍のこちらを向く目を注意深く見て、確かにこちらとやり取りをしてくれている感触を持った。


「誰かに言われて、この草原に来たの?」


龍は今度は頭を自分の背に回して、何かを指し示す様にしてからまた友喜を見つめた。


「?」

背中?

乗ってくれ?…違うよね。

龍は何かを表したのだが、今度は意味を汲み取れなかった。


「…あなたは私の石の神獣?」

友喜は更に質問を投げ掛けてみる。


龍はぶいんぶいん、とゆっくり首を振って、違う、と答えた様だ。


「私のじゃ無いんだ。」

目の前の見事に虹色に輝く龍を見て、友喜は質問する事が無くなり、見呆けていた。






 この場所から帰る前に、彼女の前に立ち寄ると龍は言った。

私は、好きにすると良い、と龍に答えて、龍の動きをその背にまたがり見守っていた。


この空間においても、彼女の術は健在らしい。

私の事は一切見えなかった様だ。


彼女は2、3、龍に質問を投げ掛けて龍とのやり取りを試みていた。

その答えは分かりやすいのと、分かりにくかったのと両方だったみたいだ。



…果たしてこの先、私は彼女と関わり合う事はあるだろうか。


もう一人の彼女とは、もうずっと前から、言葉だけのやり取りとは言え深く関わり合っているというのに。

ソウイチは静かに、龍と友喜とのやり取りを眺めながら思った。







 有津世達の家のリビングでは、ソファで変わらず眠り込んでいる友喜を時々見ながら、有津世と雨見が話しを続けていた。


「え?作業が中断していたの?」

「うん。何だかいつもは起こっていない事だったみたい…トネルゴがそんな風に言ってた。」



世界のプログラミング。

その動きが止まるとはどういう状況だろう。

…調整?変換?準備?


前に則陽からのメールで梨乃が入り込んだ時の話を聞いた所では、そこは則陽が副業オフィスで行う修正などは反映されていないとの事だった。

修正される前の段階の場所。

だからまっさらな、始めの場所、と言えるだろうか。


その場所が一旦止まる、停止…。

端的に言って、結構な異常じゃないかと有津世は思った。


「で、その後は動いてたんだよね?」

「うん。作業、再開してた。」

雨見の答えに有津世は、うんうんと頷いて、理解の及ばない出来事に想いを巡らせた。








 …今日は晴れているから、外に干せるな。


住宅街の一角。

功は洗濯機から洗い終えた洗濯物を取り出すと、2階のベランダへと洗濯物を入れた籠を運ぶ。


鼻歌を歌いながら洗濯物を次々に干していき、友喜に貸していたハンカチをその手に取った。


「…。」

功は薄っすら赤面になりながらもハンカチを物干しのピンチに止めた。


「ねえ、お兄ちゃん?」

なつがベランダに出てくる。


「どうした、なつ。」

「それ、友喜に貸したハンカチ?下もそうだったけれど、友喜、すごいね。」

「…。」

それを言いに来たのか。


確かに今、功が感じたのもそれだ。


友喜の濃厚な花の香りが洗濯した後も尚も充満している。


洗濯機が回った時に、周りにも振り撒いたのだろうか、1階にも香りが漂っていた。


「うん。なつ…、俺思うんだけど、この香りもさ、きっと俺達だから分かる香りなのかな。」


友喜が求めた功の香りはきっと物理的なものでは無くオーラに因るものだった、と分かったから。

友喜のも、そうなのでは無いか。


「あ~。友喜が言ってたのって、そういうのだったんだ。香り…そっか。なるほど、そうなのかも。」

「あ、それとさ、なつの石は、何とも無い?」

「石?何とも無いってどういう意味で?」

功は息を吐くと、なつに答える。


「俺の石さ…活性化したのか…様子が変わったんだよ。」

「想いを伝えて、きらきらしてきたのじゃ無くて?」

「それとは違う。これ終わったら見せるよ。」

「うん。…。」

その場から動かないなつに功が、ん?という表情で伺った。


「お兄ちゃん。オーラ…変化した。」

なつのひと言で、功は再び赤面を露呈した。








 …聞こえるかな…聞こえる?


ああ、素敵な場所に居るね。良かった。安心した。

もうこれであなたは大丈夫。

回復するだけだから。


あなたにあなたからの預かり物を授けるわ。


…はい。これで、あなたの遠い記憶の欠片が届くかしら。


あなたが自分でそうすると決めてきた、約束の。


あなたが遠い遠い奥底で綿密に組み立てた魔法を。


ようやく思い出すかしら…。








 住宅街の一角。

吉葉家のリビングで、功がなつに自分の石を見せた。


「わっ。本当だ…。」

功の石を見つめて、なつも部屋から持って来た石を功の石と見比べた。



「…ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんのオーラもだけど、友喜と何かあったでしょ?」

「うっ…、ま、まあ…。」

「…。」


…動揺し過ぎだ。

なつは功を見て思った。


「でも変化ってそういうのでしか起こらないのかな。だとしたらあたしのは変わらないままか。」

言いながら、なつは自分の石を手の中でひっくり返しながら眺める。


それでもなつの石も、友喜から貰った時に比べると変化はしていた。


…想いを伝えるのを、なつも行ったのだろう。

最初に石を見た時よりも随分ときらきらして輝いていた。


「何で友喜ってこんなに不思議な事をいっぱい運んでくるんだろう。」

なつが呟いて、功の顔を見た。


「霊格?霊統…?に、因るものなのかな…。」

「ふうん?」

分からなそうになつが相槌を打つ。


功もそうだとソウイチに言われたけれど。

でもそしたら同じ能力を有している妹なつだってそうなのでは無いか。


ソウイチに聞いたら分かるだろうか。


彼にもう一度会って話をしてみたい。

改めて功は思った。








 安寧の地に居た。

全てが暗くて全てが静で、全てが温かく包められていて。


自分はただここに座っていれば良い。

何も心配する事なんて無い。


だってもう役目は終わったのだから。


納得している自分が居る。


全ての流れがここでは止まっている。


自分もその中に含まれていて。


何も憂う事は無いという自分からの声は、次に突き出る自分の別の部分からの言葉にかき消される。


「違う!私が居たいのはここじゃ無い!」








 林の奥の二棟の家。


手前側の有津世達の家のリビングのソファで、友喜がもぞもぞと動きを見せる。


「あ、友喜ちゃん…。」

雨見の声掛けで有津世も気付き、二人で友喜の様子を見守った。


薄目を開けて、大あくびをした友喜はぼうっとした目で二人を見ると、


「あ…雨見ちゃん、お兄ちゃん…。」

呟きさながらのふにゃふにゃした声を出した。

それを見た有津世はすかさず脇に置いてあったハンカチを友喜の鼻先に近づけて友喜に宛てさせた。

すると友喜の目に途端に力が帯びる。


「あ…れ?私、寝てた?」

急にしっかりする口調での友喜の問いに、雨見と有津世が頷いた。


「ハンカチ外した直後から、友喜ちゃん寝始めてたんだよ。」

「俺ちょっとメールしとく。このままじゃ、やばいよね。」

有津世の言ったのは功に対してのメールの事だろう。

有津世は友喜が思ったよりも功と綿密に連絡を取り合っている様だった。


立ち上がって廊下に行く有津世の姿を目で追ってから、雨見は友喜に問い掛けた。


「何か夢を見たりはした?」

「…夢っていうか…、またあの草原に飛んでた…。」

「石碑のある?」

「うん、そう。」

友喜はハンカチを鼻に当てながら、今飛んでいた草原での出来事を思い返す。


「すごく綺麗な龍が居た。」

「え、龍?」

「そう。白地に、淡い虹色がかって光る、すごく綺麗な龍。」

「へえ…。」

雨見が感心した。


「でも友喜ちゃんの石の神獣は龍じゃ無いねえ?」

「あ、そうみたい…。でも何で雨見ちゃん、それ分かるの?」

友喜の素朴な疑問に、雨見が、あれ?っと首を傾げた。

う〜ん、と唸って考えを捻り出そうにも、雨見は今自身がどうしてその問い掛けが出来たのかが導き出せなかった。



 有津世がラップトップコンピュータを脇に抱えて戻って来た。


「今、ちょっとメール打っちゃうから。」

有津世はラップトップコンピュータの二つ折りになっている画面を開く。


メール画面を開き、所々止まりながらも文章をキーボードで打ち込んでいった。


…文字、打つの速いな。

友喜は自分で文章を打つ時と比較して思った。








 メールの着信音を受けて、功が置きっぱなしにしていたスマートフォンをダイニングに取りに行く。


「あ。有津世くんからだ。」

「へえ。何て?」

功がダイニングテーブルの上のスマートフォンを手にすると、なつの居るリビングの座卓へと戻って座りながら文面を目で追った。


「…友喜ちゃんの状況が…重めだって。」

「友喜、大変続きだね。」


功がなつの言葉を聞いて、なつに目をやる。


「記憶、失ったりな…。」

「うん…それに…、…その前にも友喜、キャルユの気持ちに引きずられたりで大変だったんだよ。」


なつの言葉に功が目を見張る。


「それってどういう事だ?」

「うん…一時期ね、友喜、ぼろぼろだったんだよ。」



 なつは簡単に事の経緯をかいつまんで功に話した。


「…それでもね、友喜はある時期から持ち直して、元の友喜へと戻ったの。そのきっかけはね…もしかしたら、お兄ちゃんと会った事かも知れない。」


「…何で。」

「その時を境に、友喜がね、友喜らしい色味を帯びたの。黄緑色の光のもやとは別にね。」


功は、なつの話にショックを受けながらも、話を聞き続けた。


「だからさ、友喜にとってはお兄ちゃんが本当に鍵なんだと思うよ。友喜らしく在るための、鍵。」


功は我慢しようとしたが、その目には涙が溜まっていた。


友喜の事が好きだが、友喜も自分の事が好きだが、友喜と重なる同じ顔が友喜の兄の有津世を前にする度に熱く抱擁をする姿をこの目にしていた事。

それがどんなに自分に衝撃的だったか、…それを見ても、見ない見えない振りをしていた自分に、やっぱり限界はあって。


キャルユが友喜とは別の存在と知った今でも、目に見えるその情景には胸を締め付けられるものがあって。


功の目からぽろりと涙がこぼれる。


「お兄ちゃんのオーラ…一部寂しそうなのが見えていたのはやっぱりそれなんだ。大丈夫。友喜はさ、お兄ちゃんの事が好きだよ。」

「…ああ。」

…そうだよな…。

言葉にならずに功はなつに答える。


それでもなつは、功の反応には納得していて。


「伝えられない辛さもあるだろうけれど、そんな時はさ、遠慮せずにあたしに言ったら良いよ。…色々知ってるよ。」

なつは功に微笑む。


「…ありがとう…、なつ。」

そうさせて貰うよ、と、功は答え、手の甲で涙を拭う。


そして静かに深呼吸をした。








 あ~、あ~。

…そろそろ良いかしら。


あ、また場所を移ったのね。


随分と寒そうな場所だけれど、大丈夫?

…そのために着込んでいるのね、オッケー分かった。


じゃあ、これから私が、あなたにまた新たにこれを授けるわ。


これはいわば…ひとつの通信機器ね。


そう、あなたが既に持っている、あなたの作ったのと大差無いわ。

それの…天界版と言ったら良いかしら。


既に私の声はあなたの能力で聞こえているから、チャンネルを増やす感じね。


ちなみに私からはそのチャンネルに直接は繋がれないから、後日あなたに様子を聞くわね。


じゃあ…楽しんで。








 小さいながらもお洒落な路面店が建ち並ぶ通りで、功は一人歩いていた。


なつと話をした後、有津世にメールの返信をして、思い立って出てきた次第だ。


何と無くぶらぶらと歩いているとその先に、ガラスの向こうの什器じゅうきに様々な石が並べられている小さな店が目に入る。


友喜に石を貰って、石の不可思議さに触れて興味を持った功が、ふと店内へと入って行った。








 「メール、送っておいたよ。」

有津世がラップトップコンピュータの画面を閉じて、友喜と雨見に告げた。


有津世達の家のリビングでソファに座った三人は、紅茶のマグカップを口にしたりお菓子に手を伸ばしたりとしながら、ゆったりとした時間を過ごして居た。


友喜は閉じられたラップトップコンピュータをじっと見る。


「…。」

ぴこん、ラップトップコンピュータのお知らせ音が鳴った。


有津世が画面を再び開くと、そこには功からの返事が送られてきていた。


「…明日、例のカフェで待ってて欲しいって。」

「カフェ?」

「うん、いつもの、って書いてある。いつもの例のカフェで、って。夕方にだって。」

友喜が頷く。

明日は功は仕事の日だ。だからだ。


「友喜、明日、行ける?一緒に行こうか?」

有津世の言葉に雨見が目を丸くする。


雨見の反応に、


「え?だってさ、危なくない?」

友喜の状況を指し示しながら、有津世は雨見に訴えかける。


「何とかなるよ。だって、折角の…、ねえ?」

雨見が友喜に言う。


「うん、大丈夫。抹茶ラテくらいだったら、ハンカチ半分に畳んで、鼻に付けたままにして飲む。」

…頼むのは抹茶ラテと決めているみたいだ。

それはともかく。


「…そうだね。折角、吉葉さんが言っているんだから、大丈夫だな。」

友喜の返事も聞いて、有津世が考え直して言った。


「そうそう!大丈夫!…でも気を付けてね、友喜ちゃん。」

友喜を案じる気持ちを言葉の端に露呈させる雨見。


友喜は朗らかに笑って雨見と有津世に、大丈夫!と答えた。








 きらきらと澄み渡った空気は、それだけで元気が貰える。


こんなに沢山の石達と毎日触れ合う事が出来て、私はなんて幸せ者だろうか。


石の上を歩く様に、石の中を泳ぐ様に、様々な動きを見せながら存在する生き物達は、いつだってノリコの目を楽しませていた。


何においても、この何気無い毎日が、ノリコの心身を素直に真っ直ぐに育て上げる。


しんと静まり返っている様に見える山の中も、こうして数え切れない輝きやざわめきに囲まれていて。

自分の祖父には見えなかった石の中の生き物が、自分には見えて。その事がきっと全員が見えるものでは無いのだ、という気付きにも繋がって。



祖父は言っていた。

気付きが一番大切なのだと。

祖父の言葉を胸に刻んでいたノリコは、この瞬間にも、気付きの宝物をまたひとつ得たと自身で感じた。

だから尚更、このざわめきや輝きを感じられる事に、有難く思う。感謝する。



ノリコが胸の奥からのメッセージを初めて受け取った時も、この小川に居る時だった。

何故だか彼女は自分のミッションの事を知っていて、協力してくれると言う。

成功するとも言ってくれた…。





 極狭い川幅の小川の流れを前に座って居たノリコは、自分が小さかった頃の事を思い出していた。

今はより活発になっている、石の中の生き物達の動きを見守る。


それは煌びやかで、たおやかで、澄み切っていて。


自分が珍しく落ち込んでいた時に、ソウイチがここに来ようと言ってくれて、その言葉が心底嬉しかった。


だからノリコの石にはこう伝えた。


彼が必要とした時に、共に居れます様に。

彼が必要とした時に、元気になれる場に連れていって上げたい。

彼が心身ともに、前向きで在れます様に。








 天井の高い部屋。


気付くと、ソウイチは石を持ったままデスクの脇で佇んで居た。

戻った時には大抵そうやる様に、今回も部屋の周りを見渡し、その場を再確認した。


気を取り直すと、ソウイチは部屋にたった一脚だけのデスクセットの席に座る。


「…はい。…どうぞよろしくお願いします。」

ソウイチは何かに答えると、コンピュータのモニター画面に目を向け、キーボードの上に載せた手を素早く動かし始めた。



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