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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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光の桟橋

挿絵(By みてみん)










~第八章 光の桟橋 


 そよ風が草の端を撫でながら草原を通り過ぎる。

始めに降り立った場所からは今は遠く離れ、この位置からだと石碑は豆粒くらいの大きさに見えた。



ソウイチは森の入り口に立っていた。


いつまでこの場所に居れるか知れないが、彼女に会えはしないと始めから理解はしている。

今回は見渡した所、他の誰も見当たらなかったので何と無しにこちらまで足を延ばして来てみた。


目の前のそびえ立つ樹々を眺めるとソウイチは足を一歩、森の中へと踏み入れた。







 「友喜、おはよう。」

1階のリビングに下りてくると有津世に声を掛けられる。


「おはよ~。」

この所、友喜の意識がおぼつかないのを有津世がサポートして親に変に思われない様にしている。

父と母にも友喜は朝の挨拶をした。


今朝も父母が仲良くダイニングに立っている姿を傍目にしながら有津世の座るソファの横に座った。


「今もダブってる?」

「うん、まあ…。」

意識がぽわぽわと同時進行なのは同じだったけれど、昨夜の草原での、功との一幕を想うと友喜の胸の奥は、かっかと熱を帯びた。

友喜が頬を上気させているのに有津世が気付く。


「ん?何か具合悪い?」

「ううん、違うの、違う。大丈夫。」

慌てて友喜が否定して、有津世に微笑んでみせる。


すると有津世は頷いて、友喜だけに聞こえる声音でぽそりと話した。


「友喜さ、昨日の夜、俺の部屋に訪問しに来たぽわぽわの意識は入って来た?」

「…ん~、いや、多分もう…寝てた。」

「そっか。あ、ちょっと気になって…。」


有津世が考え込んで俯きがちになった所で、友喜がおもむろに呟いた。


「あ、誰かなあ…。」

「え、何が?」

「ん~?えっとねえ、ぽわぽわが…。」

言いながら体勢が辛いのか、腕を回して有津世にもたれかかる。


「…。」

その仕草は、まるで酔っ払いの様だ。

これは昨日も思った事だけど、日に日に意識の混濁度が上がってきてる。

これから朝ご飯だと言うのに。


「友喜、友喜。」

有津世が小さな声で友喜に呼び掛ける。


「あのさ、ハンカチか飴、下に持って来て無いの?」

「…ん~ん。」

意識の狭間で友喜が有津世に首を振って答える。


「どこ?どこにあるの?今持って来るから。」

「えっとねえ~、…部屋のロフト…。」

「分かった。」

有津世が脇のクッションを自分の体の代わりに友喜に添えて、自分は急いで2階の友喜の部屋へと駆け上がっていった。


友喜の部屋のドアノブを勢い良く回して中へと入る。


友喜の部屋は相変わらず濃厚な花の香りが充満していて、ここはフラワーガーデンかと突っ込みたくなるくらいだ。…とは言っても、フラワーガーデンでもこの香りは嗅げないけど…。


そんな事を一瞬思いながらも迷わずロフトへの梯子を上って、枕の上のハンカチと傍の飴の包みを直ぐに見つけてその手に収めた。

直ぐ傍には友喜が河原から持って帰ってきた石が転がっていてそれを目にした有津世の動きが一瞬止まった。




 行きは思わず駆け上がってしまったが、帰りは平静を装い階段を下りる。それでも急いではいたから歩調は速目だった。


素早く友喜の居るソファまで戻ると、友喜の口元にハンカチを付けて手には飴を握らせる。


「あ…、ありがとう。」

急に目力も戻って友喜が頬を赤らめながら有津世に礼を言った。


「うん、良いよ。これちょっと、早急に次の手が必要だなあ。」

言いながら思わず友喜の頭を撫で付けると有津世は俯いて考え込んだ。







 住宅街の一角。

朝の食卓の席で、なつよりもひと足先に食べ終わった功がぼおっと呆ける。


「…お兄ちゃん、どうした?」

なつがいぶかしげに功に聞いてきた。


「え、いや、あ…、何でも無い。」

そんな受け答えで何でも無いはず無いんだけど、と、なつは思いながら、横目で功を見つつ、ご飯を口の中に入れた。








 振り出しに戻る…じゃない。

少なくとも、大きく前進した。思いがけずに。


以前もこんな事があった。


自分の歩みを自分の胸の内で決めて、それならば徒歩で、と、歩みの速度を設定したと思った所にいつの間にかジェットコースターに乗っていたパターンだ。


…今回も同じパターンで。


でもそれは、自分が行動しなければ成り立たなかった事案だ。

だからどうこう言おうとも、結局は自分の責任で。

…全部が、自分の責任で。


結果、彼女の愛おしさをますます知った。

知れた。


だからこそ。



それはきっと、約束で。

指切りみたいなものだと思う。

約束のための、指切りげんまん…歌詞に出てくるあんなに怖い決まり事は実際には無いが。


今回の事が、彼女との約束を結びつける魔法であろう事を、きっとそうであろう事を、胸の奥深くの何処かで功は理解した。








 林の奥の二棟の家。

午後になって手前側の柚木家に雨見が来た。


「お邪魔しまーす。あ、友喜ちゃん、こんにちは。」

友喜もソファに同席しているのを見て、雨見の声色が明るくなった。


「こんにちは。ふう~。」

手元のハンカチを一瞬どけて雨見に挨拶をした後、友喜はハンカチを当て直して深く息を吸う。


「あ~…。」


…そっか、友喜ちゃん、それが必要な状態、続いてるんだもんね。

この所の友喜を目にする度に、雨見は静かに衝撃を受けていた。


紅茶のマグカップを3つ手に持ちソファ前の座卓へと運びながら有津世が雨見に話し掛ける。


「今朝もさ~、ちょっと危なくて…。焦ったんだよね。」

「焦ったって?」

「ほら、親にさ、余計な心配かけたくないし…。」

「ああ、…そうだよね。それで?大丈夫だったの?」

うん、何とか…、と有津世は答える。


有津世と友喜の親は二人で買い物という名目のデートで街に出掛けている。

だから今日は日曜の休日だったけれど、珍しく作戦会議を決行した。



「友喜がこんな状態でこれを言うのもなあ、って思うけど…、」

友喜と雨見が有津世を見る。


「前にさ、雨見、ぽわぽわがリアルタイムであちらの世界とこちらの世界を行き来しているってのが本当だったら、こちらからのメッセージを届けられるかもって話していたじゃない。」

雨見は頷き、友喜は、へええ、そんな事を話していたんだ、と感心する。


「でさ、実際に今、友喜がこうして意識がぽわぽわと友喜自身のがごっちゃになっているという事は、」

「友喜ちゃんが、メッセンジャー…!」


雨見の言葉に有津世が頷いて、友喜が、へ?という顔をした。


「実際に友喜ちゃん、アミュラと一緒に居る時に友喜ちゃんぽい発言してたし、上手く行けば…。私と有津世は夢で見た後でしかアミュラ達の動向を知る事が出来ないけれど、友喜ちゃんが直接アミュラ達とメッセージを取り交わす事が出来れば…。」

そんなに画期的な事って無い、と、雨見が興奮して饒舌じょうぜつになった。


「うん、だからさ、友喜が安定してきたなら、その可能性がものすごいあるな、って。」

…今の所、安定とは反対の方向に行っちゃってるけどね…、と有津世は付け加えた。


有津世と雨見がハンカチを鼻に当てている友喜の顔をじっと見る。


「あ~、う~。なるかな、そういう風に。」

そんなアイデアは微塵も浮かばなかった友喜が気後れしながら聞き返した。


「なるよ!だってね、友喜ちゃん昨日の喫茶店でもアミュラ達とこっちの世界との繋がりを教えてくれたでしょう?だから…あ、そしたらもうこっちにはそれをしてくれているって事か。」

友喜ちゃん、ありがとう!と、空いている方の友喜の手を両手で握り、興奮冷めやらぬまま雨見が言った。


「…状況を伝える事だけだったら今でも出来るよ。えっとね…。」

言いながらハンカチを外す。


すると途端に友喜は、くぅ~っと寝息を立てて眠り込んでしまった。


「…。」





 世界を編む場所…。

そんな言葉が胸の奥から紡がれた。


雨見は辺りをきょろきょろした。


有津世と雨見は友喜が目の前で突然眠り始めてしまったのとほぼ同時にゲーム機が作動してクリスタルの画面がテレビに表示されるのを見ると雨見と目を見合わせた有津世が無言でコントローラーのAボタンを押してみた。


そして今回飛ばされたのがこの空間だ。



有津世が何回か来た場所だ…。


空間の奥側にはツピエルそっくりの小さな小人達が何やらわいわいがやがやひそひそと寄り合い囁き合っている。


「はーい!皆、聞いてちょうだい!」

ツピエルとは違った顔でひと回り大きな小人が先の折れたとんがり帽子を被り直しながら、たむろしているツピエルのそっくりさん達に呼び掛ける。


「これは一時的なものだからね。作動し始めたら間髪入れずに作業を再開するのよ!い~い?分かった?」

通りやすい声で先折れとんがり帽子の小人は言うと、ツピエルのそっくりさん達は、は~、だの、う~、だの、はっきりしない受け答えを一斉にするから雑音にしか聞こえない。


そんな様子をふっとため息をついて眺めた後で、先折れとんがり帽子の小人が雨見の方をちらと見た。


「あ、…前に有津世がここに来ませんでしたか?」

雨見は有津世から聞いた話の記憶を辿りつつ言葉を発した。


「私は雨見で…、ここは初めてなんですけれど、有津世は何回かこちらに来たみたいで…。」

「ああ、そうね。有津世ね、確かにあの子は2度ほど来たわ。あとね、梨乃って子も、ここに来て鋭い質問を投げ掛けていったわね。」

自分の顔よりも随分と小さい小人から発せられる声は不思議な事に雨見の声の音量とそう変わらない。

というか、自分はどれくらいに巨人なのかと感じる程、ここに居る小人達より雨見だけが、でかかった。



「梨乃さんも…。ああ、それも有津世から前に聞いた事がある。」

「そう?私の名前はトネルゴ。ここは、」

「世界を編む部屋…。」

「あら、あなたも分かるのね。」

「ううん、それは、有津世から聞いたから。ただ覚えていたの。」

胸の奥で紡がれた言葉の事をすっかり忘れて雨見は返した。


「…ふうん、そう。」

「あれ、でもね。有津世からの話だと、ここはひっきりなしにブロックを運んで壁に当て込めていたとか…。今は休憩時間なんですか?」

「言ってしまえばそうね。強制的な休憩時間。…本来そんなものは有りはしないのだけど…。」

「今までは無かったって事?」

雨見の問いにトネルゴが頷く。


「じゃあ何故今それが起こっているの?」

「決まりよ、取り決めよ。」

「えっ、でも今、今までに無かったって…。」

どういう事だろう…。


雨見はトネルゴの説明が呑み込めずに首を傾げながら辺りを眺めた。








 林の奥の二棟の家、その手前側の家の友喜の部屋では、ロフトの上に転がり落ちている石が眩く光った。


同時に1階リビングのソファで眠り込んでいる友喜の胸の奥が光を湛え、友喜の体を覆っていく。


同じソファに座って居るはずの有津世と雨見は友喜の変化に気付かなかった。

彼等もまた、この瞬間クリスタルの中に意識が飛んでいて。


ほんの一瞬の事象が、時を同じくして各々に起こっていた。








 …もう1個、鍵を外すから。

彼の声が聞こえる。


その意味は分からなかった。けれども彼の声音は心地良かった。



きっと、これで…。

流れを、もたらす事が出来る。


俺の役目は…これで果たす事が出来るか…。








 住宅街の一角。

洗面所にある洗濯機の前で、功が洗濯物を次々と洗濯機に投入していた。


そこで動きが一瞬止まる。


手にあるのは友喜から回収した自分のハンカチだ。


「…。」

自分の匂い…?

いや、そんなものは分からないが、ひとつ確かなのは友喜が漂わせる濃厚な花の香りはしている。


功はハンカチをじっと見て首をぶるぶると振ると、ハンカチから目を逸らして洗濯機に続けて投入した。


そして洗剤を入れると蓋をしてスタートボタンを押す。


功は一人赤面になって頬をぽりぽりと掻くと、静かに息を吐いた。








 薄水色の四角い空間の中央に、気付くと有津世は立っていた。


誰も居ない。

辺りを見回して、何も無い地べたにとりあえず腰掛けようとした時だ。


目の前に、ぱっと人影が現れて、有津世を見ると勢い良く抱き着いてきたので、有津世はどたっと尻餅をついた。


「わっ、と…。」


びっくりしながら、抱き着いてきて自分に身を寄せている彼女を見る。

その姿は肩を上下させていて、酷く嗚咽を漏らしている様だ。


「あの…キャルユ?」


黄緑色のウェーブがかった長い髪と、半透明で薄黄色の生地が幾重にも折り重なったドレス。


有津世はひと目でそれがキャルユだと分かったが、キャルユは今までに見た事の無い程に動揺していた。


「ツァーム、ツァーム…会いたかったの。もう会えないかと思ったの。ひっく、ひっ…ツァーム、ツァームっ…。」

泣いても泣いても泣き止まない。

それ程までにキャルユは動揺して涙を流して、有津世にすがりついた。


キャルユが泣き止むまでは話をしようにもまともに出来ず、有津世はキャルユが落ち着くまで待った。



 「ひっく…、あれ、ツァーム…額の、石が、無い?」


やっと泣くのが収まり、けれども泣き過ぎたので嗚咽の名残を引きずりながら、有津世の顔をまじまじと見ると、キャルユは有津世への疑問を口にした。


「それに髪の…色、長さも。あれ?」


キャルユは自分の知るツァームとの違いを何箇所も見つけて、きょとんとした表情になっていく。

一方有津世は今ここに居るキャルユがどの時点でのキャルユなのかを考えながらキャルユの疑問に答えた。


「俺はさ、ツァームだけど、別の世界でのツァームなんだ。あれ、でもキャルユって確か、それを知ってるんじゃなかったっけ?」

有津世は首を捻りながら言った。


「何の話?えっと…じゃあ、ツァームはツァームなのね、一先ずは…。それは、良かった…。」

キャルユは自身が呑み込める箇所だけ有津世の説明を受け取って、ほっと息をついた。


「ええと…、キャルユ、どうして泣いていたの?」

「…もう、あなた達には会えないと思って…。」

「それで、今こうして会えたから泣いているの?」

「ええ。まさかあなたとこうして会えるなんて思っていなかったわ。」

言いながら、キャルユはまた有津世に抱き着いた。

抱き着かれた状態で有津世はキャルユの顔を覗き込みながら聞く。


「えっとさ…何でもう会えないと思ったの?」

「…別の世界に吸い込まれたからよ。ちゃんとした…お別れもしないままに来てしまったの。アミュラとは最後一緒に居れたけれど、ツァームには…顔すら見ずに、何もせずに来てしまったの…。でもここで会えた…。」

キャルユはまた嗚咽を漏らし始める。


…辻褄が合わない。


キャルユが言っているのは何の話だろう。

キャルユがあの世界を発つ前に、ツァームもアミュラもしっかりとその場に居たはずだ。


だけれど今キャルユが話している内容は有津世の知るそれとは随分と食い違っていた。


「ごめん、キャルユ。…もう一度始めから説明してくれない?」








 石碑のある草原。

時折爽やかな風がふわりと通り過ぎる。


ソウイチはその風も通って行きづらい大きな樹々に囲まれ鬱蒼とした森の中をゆっくりとした歩調で一人歩いていた。



…良く出来ている。


彼等の住むもうひとつの星も、おそらくはこんな感じなのだろうか。


更に奥へと歩みを進めようとしたその時、ソウイチの元に大きな風が巻き起こり、直ぐ側には虹色の龍が舞い降りた。


ソウイチは龍に振り返ると、その目を見つめた。


「ああ、遅かったからかい?見ての通り私は大丈夫だ。」

龍に柔らかな微笑みを返す。


「でも出来れば…多少歩き疲れたから、乗せてくれると有難い。」

虹色の龍はその場で円を描く様に身をくねらせると、次の瞬間にはソウイチを自分の背に乗せぐんぐんと高度を上げて行く。


「お願いだ。森を観察したいから、もう少し高度を下げて欲しい。」

龍の耳に届く様に、ソウイチは背をかがめながら龍に請う。

龍はソウイチに答え、即座に樹々のてっぺんすれすれへと下降する。

その後は速やかに速度も下げて、悠々と森の上空を泳ぎ始めた。


「ありがとう。」

ソウイチは龍に礼を言うと、龍の飛翔で森の探索を続けた。








 「はい、はい、はーい!ほら、ブロックが回ってきたわよ!再開っ、始めっ!」


はい、ワンツー、ワンツー。



トネルゴの号令でばらばらだったツピエルのそっくりさん達がぴしっと整列する。


先頭の者から小さな丸いトンネルに近づいて、滑らかに流れてくるブロックをひと欠片受け取る。

すると次に並んでいたツピエルのそっくりさんが前に進んで同じくブロックを受け取る。


続けて見ているとまるでループに見えるその場面は、一人一人が違う小人だという事を忘れてしまいそうだ。


今度は受け取ったブロックを手にした小人を目で追うと、小人は凹凸のある壁にてくてくと近づいて行き、ブロックの形に見合った凹みにブロックをはめていく。


すると新しい凹みが新たに出来て、次に来た小人がその凹みに見合ったブロックをはめていくの繰り返しだった。


不思議だけれど見ていてちょっと面白いと雨見は思った。


「ねえ?それが、世界を編む、って作業なの?」

雨見はトネルゴに尋ねてみた。

トネルゴは雨見の口から言葉が発せられたのにぴくりと反応して、ツピエルのそっくりさん達に指揮を執りながらも首だけ回して雨見の方を見て答える。


「まあ、そうね。可視化をすると…といった感じかしら。」

「可視化…。」

「ひとつの表現ね。」

「へえ…。」


返事が聞けた所で発現し始めた白い小さな光の粒子が雨見の体に触れその数は増え続けて次第に光に包まれていく。それを見たトネルゴが目を丸くして、


「一同、一旦、止めーい!」

号令を出してから雨見の方へ振り向き、


「っ違うわ、それじゃない。あなたはこっち。」

雨見の額に親指を近づけると、親指だけがむくむくと大きくなる。


雨見がぴっくりしてトネルゴの巨大化して接近してくる親指に目を見張る。その指先には何かきらりと光るものが見えた。


雨見はトネルゴの親指が自分の眉間に触れたのを確かに感じて、眉間から胸の奥に何か温かい感覚が通るのを感じた。


「トネルゴ…今のは何?」

「あなたから授かったものよ。何かはあなたが一番良く分かっている。」

トネルゴはそう言い残すと、


「はいはーい、一同再開、始めっ!」

定位置へと戻り、雨見に背を向けながらツピエルのそっくりさん達に再びリズミカルに指揮を執り始めた。



ワンツー、ワンツー。


トネルゴが待ったをかけた拍子に雨見の周りを覆い掛けた白い小さな光の粒子は霧散していた。


「えっと…?」

雨見がどうして良いか分からずに小首を傾げてトネルゴに声を掛けようとすると、トネルゴが再び首だけ動かし顔を雨見に向けて、


「深呼吸するのよ。」

ひと言だけ言った。


「?」

トネルゴに言われるまま深呼吸をしてみると、まるで雨見が何処かの高層タワーに一気に上り詰めたかの様に、元々手のひらサイズ程に小さかったトネルゴ達の大きさが米粒くらいに縮まった。


その遠近感の急速な変化にくらくらすると、いつの間にかソファに座る体感を得て、意識が有津世達の家のリビングに戻っている事を知った。








 草原に風が吹き、肌をするりと優しく撫でていく。


友喜は夜に次ぎ昼間の今も、自分がいつの間にか石碑の傍の草原に飛んで佇んでいる事に気が付いた。


またこの場所…。


辺りを見回した所、今回も幼いキャルユの姿は見当たらない。


ふと動きを目の端に捉えて振り返り見た森の上空には、虹色に輝く煌びやかな龍が森の樹々へ光をこぼしながら泳いでいた。



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