青空の下で
風がそよぐ、石碑の見える青空の草原で、功ともう一人の友喜が腰を下ろして話し込んでいた。
「星…?」
「ええ、そうよ、星。誇張でも何でも無くて、私達は星。星そのものなの。それ以上でもそれ以下でも無いわ。」
「…。」
功は友喜に言われた言葉を喉の奥で反芻してみる。
「こればっかりは感覚に訴えるしか無いんだけれど、記憶の片隅にでも置いておいてくれればそれで良いわ。」
そう言って友喜は軽く微笑んだ。
「俺達が皆、星だって事はさ、君が真似事だって言ったキャルユは星じゃ無いのか?」
「いいえ、彼女も確かに星だわ。キャルユのは私が編んだ術の結果よ。」
先の地面を眺めて、功は友喜の言葉に耳を傾ける。
「あの子は…バランスと、あなた達の居る世界での役目の為に生み出したの。それがあんなにも感情豊かで、特定の人への愛情まで抱くなんてね。」
それは今ここでその発言をしているもう一人の友喜にも当てはまるのではないだろうかと功は思った。
対する友喜は言葉を紡いでいる今、その事を意識しているかどうか功には分からなかったけれども。
「…それを聞いて良かったよ。」
「え…?」
「想定外の事象がそれだけ渦巻いているんだったら、君の存在に関する事だって想定外は十分に有り得るだろ?」
友喜は功の目を見て、大人っぽさが抜け落ちた表情で一瞬呆ける。一拍後、
「そうとも言えるわね…。」
そう言って俯いた顔ははにかんでいた。
「…。」
はじめはぐいぐい迫ってきたもう一人の友喜が、ここにきてピンポイントでいじらしそうにする。その仕草は友喜自身そのもので、話しているとたまに錯覚してしまう。
それでも彼女は現時点では友喜自身の意識とは分かれて存在しており、一緒くたにすべきでは無いのは功は分かっていたけれど。
考え込んでいたらいつの間にか彼女が近くに寄って来ていて功に顔を近づけてきた。
「友喜ちゃん…。」
「いつ消えてしまうか分からないから…それまでは…。」
友喜が情熱的な視線で功の目をじっと見ながら言うと功の唇に自らの唇を近づけた、その瞬間。
功の目に映るのが草原の景色だけになっていた。
直前まで功の肩に触れ、前髪に触れてきていた友喜の手。
功を見つめていた美しい顔、その一切がこの空間から抜け落ちている。
答えようとした自分の挙動全てが空虚となって。
功は空間を、友喜の立ち消えた空間を唖然と見つめた。
濃淡様々な緑色の中でぽっかり空いた穴の場所には白色と虹色の光が渦巻いている星。
アミュラがツァームの助けを得ながら、ツァームの術を共に行い完了した。
周りに吹き荒れていた風の渦は嘘の様にぱったり収まり、辺りには穏やかさしか残っていない。
「これが…いつもの…?」
「これに似ているよ。今回のは…またある場所に特化したものだったみたいだね。」
今しがたの術を思いツァームはアミュラに答えた。
「あたし…役に立ったかな…。」
「勿論だよ。アミュラが入ってくれた事で今回はより柔らかく優しいものになったと思うんだ。」
アミュラはその言葉に頬を緩め、また何かを感知したらしいツァームは表情を引き締める。
「これも…一緒に出来るかな、…続けて行ってみようか。」
「?」
何の事か分からず首を傾げて再び瞑目するツァームを見ると、アミュラも石碑側へと前に向き直り、目を静かに閉じてみた。
天井の高い部屋。
奥の壁には一見窓に見える窓枠型のデザインの大きな照明が今日も煌々(こうこう)と照っている。
デスクを背に寄りかかった長身がぴくりと動いた。
意識が戻り、手元の石を見ると辺りを見回し、ソウイチはデスクの席に腰掛けて再度石を眺めた。
林の奥の二棟の家。
奥側にある、夜も明るい印象を醸し出す大きなログハウスでは、雨見が2階の自分の部屋で夢日記とピンク色の豪奢な装飾のノートをベッドの上で胡坐をかきながらそれぞれのページを開いていた。
今日初めて会った梨乃や則陽の事、友喜を常に気にしていた功の事、有津世の多分見たであろう白昼夢…。雨見は豪奢な装飾のノートに書き記して考え込む。
石の話題になった時に、雨見のでは無い知覚が不意に入り込んできたのを思って。
その場では特にそれを皆に話す事も無くやり過ごしたけれど、自分にとっては衝撃的だった。
多分それは、河原の先の小川で体験したのと同じで…。
ノートの脇に置いてある飴色の石を手に取って見てみる。
…この石の、何かかな…。
有津世との対の石と功から言われた事を思い出して、雨見はほんのり頬を染めた。
山奥の神社。
夜も更けて、開放されたままの縁側に涼し気な風が時折入ってくる。
祖父は今日は夜も瞑想に勤しんでいた。
縁側に小さな座卓を移動させて写本をしているノリコが祖父の姿をちらりと見る。
薄水色の四角い空間で、ノリコの祖父の杉は会話を交わしている。
「それでは、今回また段階が進んだのですね。」
「ええ、その様です。」
杉と話すその男性は髭を生やしていた。何年かは伸ばし続けないとそうはならないくらいに長い髭だ。
「まだまだ油断はなりません、くれぐれもお気を付けなさります様にお願いいたします。」
「重々承知しております。少し前に、彼が結界を強化する装置を持って来てくれまして…。」
「ああ、例の彼ですか。」
頷いた杉に長い髭の男性は穏やかな表情で頷き返す。
「ひとつ、覚えておくと良い術があります。」
「術、ですか?」
「ええ、是非とも…あなたに授けましょう。」
髭の男性は杉ににっこりと微笑んでそう言った。
林の奥の二棟の家。
手前側の深緑色の屋根と黒色の外壁の家。
今夜も黒さは際立ち、重厚な雰囲気が醸し出されている。
屋根の天窓のひとつを覗くとロフトで功のハンカチを枕に敷いた状態で友喜が眠り込んでいた。
薄暗い部屋の中、机の上に置いてある小さな石が突如として光り始めた。
光は徐々に強まって眩い赤色の光を見せたかと思うと矢が放たれたかの勢いで放射されて一瞬で友喜に到達した。
すると光は友喜の胸の内側で輝き始め、赤から淡い色へと様々な色味に変化を見せながら広がっていき、眠っている友喜の体全体を包み込んだ。
石碑の傍の草原。
意図せず、またここに来てしまった…。
と言うか、意図して来たい場所に来れた事は未だ一度も無い。
友喜は軽く息を吐くと、幼いキャルユを探して見回してみた。
けれどもキャルユは何処にも居なそうだ。
でもその代わりに他の人影なら見つけられた。
ドキッと胸打ち鼓動の速くなっていくのを感じながら、友喜は進む毎に歩調も速くなりあっという間に彼の傍へと駆けつけた。
「功…お兄ちゃん。」
草原に膝をついた後ろ姿の功が、友喜の声にびっくりした顔で振り返った。
消えたもう一人の友喜に戸惑いを隠せないまま意気消沈していた所に、不意に自分を呼ぶ声がした。
功はまさかと思って後ろを振り返ると、パジャマ姿の友喜が功に向かって微笑んでいた。
きらりと光は灯るの。
今まで見えなかった事すら感じさせないくらいに。
一度灯ったら吹き消す事も出来ないの。
だってそれがあなたの元だから。
いくら光が影響を受けてその強さが弱まろうとも光はそこに存在しているのだから。
弱めようとしている力に弱められているというのも幻想。
だからね、安心して良いの。
あなたの光は今日もきちんと光っている。
一瞬の風が吹き、ソウイチが草原へと降り立った。
ちらと振り向き見ると、数十歩先に石碑が見える。
石碑の前には誰も見当たらない。
ソウイチは辺りを見渡すと草原の中を歩いていった。
林の奥の二棟の家。
手前の家のもう一つの天窓の内側では、有津世がロフトでクッションにもたれかかりながら、ぽわぽわの訪問をいつもの様に迎え入れていた。
友喜はもう寝たかな…。
もし寝ていたのならこのぽわぽわからの意識は友喜に通じていなくて、起きているのだとしたら対策を講じていなければこのぽわぽわの意識が直接友喜に繋がっている事になる。
…意識が繋がる前に何回かあった様に、もし寝ていたとしても後日この状態を夢として見る事はこの先あるのだろうか。
ぽわぽわの不可思議さには毎度ながら目を見張る。
ぽわぽわが両方の世界を行き来する可能性。
友喜は友喜自身とぽわぽわの意識を併せ持っている。
それをどの様に活用出来るかは分からないけれど友喜の意識の安定がまずは第一だ。
ぽわぽわの断続的に淡く光るのに合わせて同じ調子で光る飴色の石を眺めながら有津世はそんな事をつらつらと考えていた。
功がまじまじと友喜を見る。
着ているパジャマに、友喜の表情。
あんまりまじまじと見つめてくるものだから友喜はだんだんと恥ずかしくなってきた。
「…何?あ…パジャマだから?何か変かなあ…。」
頬がますます上気して、髪の毛を手で梳きながら自分の恰好に視線をぐるりと巡らせ、もじもじし始めた。
「あ、いや、ごめん…。パジャマなのは、うん、えっと特別な感じしちゃうけど…じゃ無くて、」
功が言葉に詰まり、赤面を露呈しながら、
「今ここにさ、たったさっきまで、もう一人の友喜ちゃんが居たんだ。だからちょっと…疑う、じゃ無くて、今、目の前にいるのは友喜ちゃん自身だよな、って、自分で確認するのに…。」
「もう一人の私と会っていたの?」
「うん、そうなんだ。」
友喜が想いを巡らす。
もう一人の自分。いつか消えてしまうと自分で理解している自分。
彼女はまた功と会えて、さぞかし嬉しかった事だろう。
切ない気持ちが胸から立ち込めてきた。
「あ、言ったかな、ていうか覚えているかな。昼間の喫茶店での時も、俺、もう一人の友喜ちゃんとこの場所で遭遇したんだ。」
「…全然聞いた覚えが無い…。」
友喜が首を傾げる。
「うん、いいんだ。それどころじゃ無かったもんな。でもやっぱり…、」
「うん?」
「…こういう空間だと、友喜ちゃんぽわぽわの意識に引きずられないんだな。」
「ね。何でだろ…。」
功に言われて友喜が考え込む。
友喜は功の隣に膝を抱えて座り込んで話を聞いた。
「…何もかも想定外…。」
「そう言ってた。」
功は続ける。
「友喜ちゃんの中に、もう一人の友喜ちゃんが存在し続ける可能性もその言葉で見えてきやしないか、って、その時思ったんだ。」
功と友喜の二人の間には、もう一人の友喜をこのまま消したくは無い、そんな想いが芽生えていて。
功の話は確かに希望をもたらすものだと思ったし、二人の表情は明るくなった。
それにしても…。
「功お兄ちゃん、さっきはあんなにじろじろとしつこいくらいに見てきたのに、何で今はそっちばっかり向いてるの?」
疑問形ながらも功の反応は友喜の恰好に因るものだと薄々気付いての発言を友喜がした。
「えっ、いや…その、今の話の…考えてて…。」
適当な返しを功がしてきた。平静を装っているけれど内心はそうでは無い事を功の反応が物語っている。
…普通の恰好で来れていれば、もう少しこっちを見てもらえたかも知れないのに。
友喜はパジャマ姿で来てしまった事に不満を感じた。
「…せっかく、同じ場に居られるのに、功お兄ちゃんだって、こっちを向いてくれないなんて…。」
言いながら口を尖らせる。前に友喜が功から言われた台詞を言い返した形だ。
「いや…あの…。白状するよ。その恰好…刺激強すぎ…。」
功がちらと友喜を見て口を手で抑えながら言った。
友喜のパジャマはどこからどう見たってユニセックスの襟付きの上下分かれたパジャマだ。
色味だって爽やかな水色のチェックだし、功が言う程かなあと友喜は疑問に思った。
一方、功は薄手のシャツにスウェット素材のゆったりとしたパンツスタイルだ。
寝る前はいつもそういう恰好なのかな…。
「…功お兄ちゃん、私が前に寝ていたって言っていたけど…その時の私、今のと同じ恰好してた?」
友喜が思いついて聞いてみた。
「ん?あ、ああ、そう…。」
功が赤面で答えるのを聞いて、友喜も、かあっと更に頬を赤らめた。
起きている分には平気だけれど、寝ている姿なら功の今の反応は友喜にも理解出来る。
だってそれって…。
友喜は頬を赤く染めたままで尚も功に尋ねた。
「その時はキス、してくれたのに、今はしてくれないの?」
顔中にキスをしてくれたと言っていた。
パジャマ姿の友喜に。
なのに起きている今の友喜に対して、顔も向けてくれない状態になるのは…それって逆なんじゃないかと友喜は思った。
ぐいぐいと言葉で迫る友喜に、功はたじたじになる。
「いや、ちょっと待って。こればっかりは…あの、事情が…。」
友喜に寄って来られて功は慌てふためく。
「…。」
友喜は功の目前でぴたりと止まって顎に手を当て考えてみた。
「!」
ピンポーンと、正解の合図が鳴ったかの様に閃いて功の意味する所をようやく汲み取った。
「えっと、つまり、それは…。」
功が片手で顔を覆って、友喜の理解して出かかった言葉に、ああ、と呻く。
「いや、どうしようも無いけど、これ以上近づいたらだめ。」
赤面の功に制止させられる。
「…。」
友喜がごくりと唾を飲む。
…ホントにだめなのかな。
だってここは…。
友喜をなるべく見ない様にしている功に、もう一歩近づいて、友喜は功の頬に唇を触れさせた。
功が驚いた顔で友喜を見る。
と、友喜は今度は功の唇に自分の唇を情熱的に重ねた。
功の首に腕を回して功を引き寄せながら。
「…だめだ…、友喜ちゃん…。」
功が友喜の目を見ながら呟く。
「何が、だめなの…?」
ここは意識体だけだって、二人共知っている。
それならば、許されるのではないか。
たとえ功が、現時点ではそれはまだ無いと決めていたとしても。
「…前に言ったでしょう?私はもっと、功お兄ちゃんと触れ合いたいの…。」
友喜は功の髪に手指を梳き込む。
「だから…。」
友喜は続けて、功の耳元で言葉を呟いた。
「………。」
信じられないくらいに、長かった。
なのに、戻ってきたら、多分飛んだであろう時刻から、そう遠くはない時間で。ほんの数分、経っただけだったと感じる。いや、ほんの数秒だろうか。
これから寝る時間だ。
住宅街の一角。
功は手元にある大小2冊の妖精の本をぱたんと閉じた。
なつはもう彼女自身の部屋へと引っ込んでいて、ダイニング含む1階は冷蔵庫やらの家電の通電音と時計の音以外には静寂を放っていた。
本と同じくダイニングテーブルの上に置いてあった石を見つめる。
一瞬、石が炎を帯びているかの様に見えた。
功は本をテーブル脇の棚にしまい、石をスウェットパンツのポケットに入れ込むと、ダイニングテーブルの席を後にした。
林の奥の二棟の家。
手前側の家の、友喜の部屋では相も変わらず友喜がロフトで眠り続けている。
ただ、先程胸に宿った光は尚もろうそくの火の様に淡く灯り続けており小さな光を放っていた。
天窓からの光を感じて友喜が目覚める。
…朝だ…。
友喜は薄目を開けながら眩しそうに天窓から見える空を視界に入れる。
意識はぽわぽわと自分との間を揺れ動き、枕もとのハンカチをはっしと掴んだ。
鼻に当てて急速に友喜のみの意識に戻るのを感じながら脇にある緑色の豪奢な装飾のノートをちらりと見る。
…どうしようっかな、書こうかな…。
友喜は頬を赤らめつつ、ハンカチの香りを大事そうに吸い込んだ。
糸、全部配れた?
うん、配れたと思う。
ちょっと余ったかな。
余った糸はどうするの?
え、余らないはずよ。
そうなの?
じゃあまだ配れるところがあるはず…。
言葉なんて、さして必要では無くて。
一緒に居る事が一緒に過ごす事が言葉よりも自分の気持ちを表していると思ったから、言葉の重要性を見出してこなかった。
コンパクトなワンルームマンションで、電子レンジにその日の食事をセットする辰成の姿がある。
電子レンジの作動している間、自身のスマートフォンを弄る。
画面に映っているのはゲームの様だ。
電子レンジの出来上がりの音が鳴ると、辰成は薄っすらと勝気な顔を浮かべてスマートフォンの画面を見おさめ電子レンジの扉を開ける。
何ひとつ不便な事は無いが…。
電子レンジから温められた弁当を取り出すと、細身の小さなダイニングテーブルにこれまた細身のデザインの小洒落たパイプ椅子に座り、蓋を開けて食べ始めた。
ただ、目の前のもうひとつのパイプ椅子が空いている事には小さく息を吐いた。
…あいつが遊びに来てくれる時は、いつでも面白かったのにな…。
なのに今では顔を付き合わせただけで飛んでくるのは不平不満、文句ばかりだ。
自分にとってはそんなつもりは無いのに、どうしてあいつはああ喧嘩っ早いんだろう。
辰成は不思議に思っていた。
…俺の、言葉足りなさか?
いや、でも、あいつはそれが良くて一度付き合ったんじゃないのか。
とにかくあいつは我が儘だ。
俺の気も知らないで。
目の前のパイプ椅子を眺めると、辰成はまたひとつ小さく息を吐いて箸で摘まんだ弁当のおかずをひと口、口に入れた。
簡単な夕飯を作って食べていると、スマートフォンが鳴った。
メール着信の通知音だ。
…また?
このところ連日の様に来る、副業オフィスへの辰成からの誘い。
しかも土曜日は家まで来て誘ってくる。暇にも程があるってものだ。
穂乃香は仕方無しに、
『いいよ。』
簡潔に返事を入力して送信すると残りの味噌汁をすすった。
1、2、3、4…。
数を数える誰かが居る。
1、2、3、4…。
それは何かの暗号の様で。
1、2、3、4…。
ただの人数確認なのかも知れない。
1、2、3、4…。
ううん、違う。これは、今、この地に必要な魔法陣の…。
「…分かった?」
「うん!」
アミュラが喜んでツァームに答える。
緑の星の石碑の前で、ツァームは引き続きアミュラを自分の胸元に寄りかからせて、ツァームの行う交信を共に感じ取っていた。
「…何度も数を数えるのが伝わってきたけれど、いつもあんなに数ばっかり数えているの?」
「うん、そうなんだ。数はいわば、全ての元になっている。それを変換してもらえるように、僕はその情報を届けるのを受け持っているんだ。」
それは胸の奥から出てくるものだけど、とても興味深いんだ、とツァームは続ける。
「他の人の声も聞こえたんだけど…あれは…石碑の主なの?」
「主…そうだね、大局的に見ればね。ただ、この地の石碑に位置している人達とはまた違うよ。」
アミュラは分かった様な分からない様な顔をしながら頷いた。
ひとつの流れは更なる流れを汲み、それは豊かな潮流となってこの地に注ぎこまれる。
軽やかさは重たさを徐々に押し流し洗い清める。
足枷がちょっとずつ解けるかの様に。
それは今、この星に必要な事で。
「先程のと今行ったものが主要な術なんだ。それが今必要とされている。」
アミュラはツァームの言葉に興味深く耳を傾けて頷いた。
「それを、ツァーム一人だけじゃなくて、」
「アミュラもだよ。」
「関わり合う全ての人が行っている…。」
「そういう事なんだ。」
「キャルユも…。」
「そう。彼女は、僕達とは違う基点から、広範囲に動いてくれている。そう僕は感じているよ。」
キャルユへの愛情のこもった言葉が、ツァームの事で散々思い悩んでいたキャルユの姿をアミュラに想起させる。
「とにかく、この調子でこれからも一緒に術を執り行う事が出来ると思うと、心強いよ。」
ツァームはそう言うと、目の前の石碑を見据えた。
今まで石碑の脇で草を食んでいた一角獣が二人の傍に近づいて顔を寄せてくる。
「一旦休憩をして、君の背に乗せてもらって森を散策させてもらおうか。」
遠慮無しに押し付けてくる一角獣の頭を撫でながらツァームが言う。
「あたし、花冠を作らなきゃ。」
「じゃあ先にそこに連れて行ってもらおう。」
微笑みながらツァームがアミュラに言った。
文の言い回しの修正を複数箇所で行いました。(2026年1月22日)




