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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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想いを重ねて

挿絵(By みてみん)











 山奥の神社。

祖父が奥で瞑想をしているのを目にしつつ、ノリコは端の方で小さな座卓の上にお手本とノートを広げて写本に勤しんでいる。

お手本とノートだった視界がいつの間にか入れ替わる。

ノリコの意識が何処かに飛んだためだ。

そこにはひとつずつが顔の大きさ程もある色とりどりの明滅する光が溢れ、光以外の周りは暗く沈んで見える場所だった。

ノリコは辺りを見回し見覚えのある後ろ姿を見つけて思わず叫んだ。


「女神様!」

その声に長い黄緑色のウェーブがかった髪を揺らしてキャルユが振り返る。


「あら、丁度良かったわ!」

キャルユは笑顔で言った。


慌てて近づいたのでつまずき前のめりに突っ込みそうになったノリコをキャルユが両腕で優しく受け止める。ノリコは、キャルユの顔を見上げて、はは、と笑いをこぼした。


「良かった。元気みたいね。」

キャルユは微笑みながらノリコの様子に安堵の表情を浮かべた。



「…ねえ、女神様。ここは何処かな?」

「何処かしらね。私があなたに会いたいって思ったら、辿り着いたのがここだったのよ。」


クッションにも似た柔らかな感触の地面にノリコとキャルユの二人は腰を下ろしながら話す。


「女神様が、私に会いたいって思ってくれたの?」

「ええ、あなたと会いたかったわ。」

地面はふかふかしていて若草の様な良い香りがした。



「…ここ、光がすごいね。」

「ええ、派手な光だわ。」

ちかちかと色とりどりの大きな光が代わる代わる明滅する様は見事で、見る度に光の残像を二人の目に与えた。

イルミネーションの光の中に投げ込まれたかの様に賑やかで、この中に居るだけでも元気が出そうだ。


「ねえ、女神様。女神様はどうしてこの世界に居るの?あなた達は確か、石碑のあるあの場所に居るって…私が子供の時だって、確かそうだったし…。」

キャルユは頷いた。


「私は自分の使命があってこちらの星に移って来たの。」

「使命?…もしかして私のミッションで?」

キャルユは真剣な面持ちになりながらノリコの問いに答えた。


「そうね、それもそうだし、それに…、」

「それに?」

「あの場所を守るためにも、私はこちらで活動する必要があるの。」

「あの場所を守る…。」

「そう。」

キャルユはノリコに頷いた。



「私達、あなたのミッションで行った場所で、きっとお互いに衝撃を受けたわよね…。」

「…うん。」

「この星の定め…今までは必要があってそれが機能してきた。何処から現れるか分からない否定的な想いも、それが必要であるとその働きをしてきた人達が居るの。でもね…、」


キャルユが明滅する大きな光に目を向けながら言葉を紡ぐ。


「それも、もうそろそろおしまい。この星には、そこまでの否定的な生産物は要らなくなって来ているの。」

ノリコはキャルユの言葉を静かに耳を傾ける。


「ただ、その否定的な生産物にしがみついていたい人達もある一定数居る。それが一部の混乱を招いている事も事実だわ。」

「…。」

「だから私はひとつの抑止力として、あなたや、他の協力してくれる人達と協力し合ってこの地で活動するの。それが私が…この星に来た目的。」


女神様の…目的…。

二人は明滅する光を残像を眺める。


「ミッション以外にも、私達は一緒に活動する予定はあるの?」

「予定?ふふ、そうね、予定ね。…あるわ。エールを正常に、受け取れる様にしないとね…。」

「エール?」

聞き慣れない言葉にノリコが首を傾げる。


「ええ、エール。軽やかな光の事よ。」

「あ、たまに降る…。」

「そう、それよ。」

キャルユがノリコに頷いた。


「こっちでは私が、あちらでは他の二人が動いてくれている。協力し合えているから、きっと大丈夫。」


「…全部で、三人居るの?」

ノリコの問いにキャルユがゆるゆると首を振った。


「いいえ、正確にはもっと多く。今までの、その役割をしてきた人達も、協力し合っているから、もっと沢山。あなたも、その一人でしょう?」


「あ…。」

ソウイチくんも…。

ノリコは膝を抱えてソウイチの事を思い出す。


私達には使命があって、役割があって、互いにそれを理解していて。

ソウイチとの先日の逢引を思うと、一瞬全身に電気が通ったかの様にビリビリする感覚が走って、ノリコの頬は一気に赤く染まった。


「…ねえ、女神様。女神様は、好きな人って居るの?」

急に話題が変わったのを受けて、キャルユは一瞬きょとんとしてから穏やかな表情に戻る。


「ええ、そうね。居るわ。愛しても愛しても愛し尽くせない程に愛おしい人が。」

目を輝かせて言う彼女の言葉に胸を打たれて、ノリコは続けての問いを発した。


「その人とは、会えるの?」

「会えるといえば会えるし、会えないといえば会えないわ。いずれも…、私視点からの話だけれど。」

「え、それは…どういう事?」


聞き返すノリコの顔を、キャルユはじっと見つめてから言葉を発した。


「私がこの前、水の流れる場所であなたに言った事を、覚えてる?」

「え…?ああ、うん。」

ノリコが頷く。


「つまりは、そういう事。」

明滅する様々な光を目で追いながら、キャルユは呟く様に言った。


「え、でも、それは…。」

唇を一文字に結ぶキャルユの姿をノリコは呆然と眺めた。


「辛く…ないの?」

ノリコの言葉を耳にしてキャルユはふぅっと息をつくと、微かに頬を緩めた。


「…辛さの中には留まれないわ。私には動くべき使命がある。だから私のこの想いは…自由に表現するだけだわ。」

「女神様…。」



キャルユの言葉で思い出したのはノリコ自身が前から抱いている想いだ。


暗闇の空間に浮かんでいる小さな丸い星。その上で仲睦まじい男女がやり取りをしているイメージを得てから感じる様になった想い。


「表現するだけ…。」

「ええ、そう…。」

ノリコは感情を味わい尽くすと決めていて、女神様は女神様自身の想いを表現すると言った。

行動自体は違う様で、その二つは何処か似通っているとノリコは感じた。


表現…。表現…か。


途端にちかちかと明滅する光の乱舞が激しくなる。

その光に照らされて、キャルユは前を向いていた顔を隣のノリコに向けた。


「あ、分かったわ。ここは…。」








 特段、変わった生活をしている訳では無い。

ただ、縁あって、本業の後に副業のオフィスに立ち寄るくらいだ。


小遣い稼ぎで始める者が主だとは思う。


特別に複雑な技術が要る訳でも無く、マニュアル本にある指示通りに進めるだけだ。

それがそれだけの作業では無いと気付くのに時間はかからなかった。


以前付き合っていた彼女に、興味深い仕事があると誘ってみて、自分の感動とは裏腹に何とも軽い反応だったけれど。


それでも彼女も作業に参加してくれた事で、それなりの満足を得ていた。それなりの満足だが。


ただ、ここに来て、自分と同じ想いでもって作業に参加している他の者の存在を知り、平面的だった自分の感情が揺さぶられた。

自分と同様に作業の根幹を追及し、その先を見据えている。


だから彼の話は興味深かったし、自分も彼との話なら進んでしようと思った。



「…食べ終わったか?」

縦に細長いパフェのグラスの底を長いスプーンでしつこくほじくり返している隣の彼女の仕草を見て俺は声をかけた。


「あと、もうちょっと。ここのクリームの所、勿体無い。」

…俺には充分に見えるけれど…。食い気すごいな、こいつ…。


毎度毎度の穂乃香の反応に半ば呆れながらも、辰成は飽きずに見守る。


グラスの底よりも幅広いスプーンのため思う様に出来なかったのかクリームをほじくるのをどうやら諦めたらしく、穂乃香はスプーンを入れたままのパフェのグラスを奥に追いやって、今度は残りの飲み物をゆっくり飲み始めた。


穂乃香との会話は辰成がそこまで反応しないので弾む訳も無く、穂乃香が黙りこくる毎に起こる沈黙で後ろのテーブル席の会話が聞こえてくる。


いや、何も盗み聞きとかでは無いが。


それでも昼、ここで飯を食った時に、則陽は躊躇無く自分を誘ってくれた。


突飛な話だけれど、確実に副業の作業と関係のある話をするから、聞くと興味深いかもと則陽は言っていた。


どう突飛なのかと聞くと、別の星の人格での同時存在、次元移動、幻の生き物、小人、と、辰成が唖然とするキーワードが次々と出てきた。


自分の作業内容が内容なので則陽の言葉は軽々しくは聞き逃せなかった。

冗談でも何でも無くて、真剣そのもので言っているのが辰成には分かったから。


今行っている会話は正にド直球でそれで、事前に則陽にそうと聞いていなかったら全く理解不能だっただろう。

所々がとびとびで聞こえてくる会話を、恋焦がれでもしたかの様に辰成は聞き入っていた。


「はい、飲み終わったよ。」

穂乃香の声に、辰成はぽかんとした。


「…え、何、行くんでしょう?」

辰成の反応にいぶかしんで穂乃香が聞いてくる。


「ん、ああ。行こうか。」

穂乃香に言われた意味にようやく気がいって、辰成は平然と答えた。

それでも辰成は則陽達の会合にまだ興味惹かれていて、一瞬名残惜しそうな表情を見せた。


「…。」

穂乃香が変なものを見たとでも言う風に、目をしぱしぱと瞬かせる。


「ああ、会計してくるわ。」

「え、私も。」

「お前は良い。挨拶しとけ。」

穂乃香はふう、とため息をつく。

そして言われた通りに則陽達のテーブル席に近づいた。


「うちら帰るわ。」

「穂乃香さん、そうなの?帰っちゃうの?」

「うん。」

穂乃香の声にテーブル席の会話が一旦止まり、梨乃や則陽、そして功が様子を見守る。


梨乃は穂乃香に答え、則陽や功も穂乃香に軽く会釈をした。


辰成が会計をし終わり、則陽達のテーブル席に近づく。


「あ、俺らの分は支払い済みだから。」

「分かった。」

「後、出来れば今日の話…後日聞きたいかも。興味がある。」

「…今、」

「え、ああ、いい。今日は帰る。」

則陽が辰成の答えに頷く。


「そう?じゃあ後日に。」

「ありがとう。話、中断して悪かった。じゃあ。」

無表情ながらも律儀に一同に軽くぺこりと頭を下げて、辰成は穂乃香と共に喫茶店のドアの外へと去って行った。








 大好きな人達が周りに居て、同じ時を過ごせる。

なのにハンカチを外してしまうとぽわぽわの意識が混じってこちら側の意識が混濁してしまう。

その状況下に居る時の自分は何だかふわふわしていて、まるでぽわぽわの体感を伴っているかの様だ。


カフェラテを飲むのにハンカチを外してまた夢うつつになっている友喜。

友喜の様子を目の前の有津世と隣の席の功が気遣わし気に見ていた。


「友喜…大丈夫?」

「う?ああ…うん。」

有津世の声を何とか拾う事が出来て答えるも、その実全然大丈夫そうには見えない。

何と無しに有津世と功の目が合う。

人目を気にしなくても良いのなら功は今直ぐにでも友喜を抱き寄せたかった。

でもそんな状況になる訳も無く、どうすれば良いのかを功は考える。

手持ち無沙汰の手が、自身の鞄にこつんと当たった。


思い出してゴソゴソと鞄から大きく分厚い本を取り出すと、テーブルの上に置きながら功は言う。


「今日さ、俺この本持ってきたんだ。」


一同の目が功の示す本に向けられた。



 本を前に、功は今までの経緯を皆に話した。


「その本が、ゲームのクリスタルと同じ様な作用をするんだ…。」

「ああ、でかくて重いけどな。持ち運べる点については一応ポータブル。」

今ここで本を開いてみたらどうなるだろう。

有津世が功に尋ねた。


「どうだろう。あ、でも開いても何も起こらない時もあるし…。」

きらきらと金色の光の噴水を噴き出している以外はな…、功は思った。


「ぽわぽわの入った事のある本…。友喜ちゃん、あ…。」

雨見の反応で友喜を見ると、本を開いても無いのに、ゆらりゆらりと頭が船をこぎ始めてしまっている。


「友喜…。」

その様子に梨乃と目を合わせた則陽が口を開く。


「何度かこういう状態って起こってるんですか?」

「俺が知る限りではこれで2回目…有津世くん、どう?」

「この状態になってからはまだ一度もこの状態になったのは自分は見て無くて。でもそれ以前では眠り込む事は1回あったのと、帰って来て見てみたら家で既に寝ていたのが1回、ありました。」

有津世が話して雨見も頷いた。


「友喜ちゃんはその後普通に起きたの?」

「はい、家で、起きるまでそっとしといて、それで…。」

「図書館でもぽわぽわが出てった後で目が覚めてたな…。」

その前に目が覚めてたと思って話しかけたら何だか寝ぼけていたみたいだったな…。

功は思い返した。


「じゃあ、今回も目が覚めるはず、そういう事ですよね。」

「…。」


大丈夫なはず、有津世と功は則陽の意見に頷いて、席には静けさが通っていった。

意識が両方に繋がった状態で居る事は気力も体力も削ぐものなのだろうか。

功は友喜を自分に寄り掛からせる。


直後、テーブルに置いていた本のページが勝手に見開いて、風も無いのにぱらぱらとページがめくれた。その光景を目にしたかと思いきや、ここでは無い何処かへ功の意識は飛んだ。








 「ねえ、今度っていつ?」

「は?何の話だよ。」


歩きながら穂乃香が辰成に聞く。


「奈巣野さんに、今日の話を聞きたいって言ってたじゃない、珍しい。」

「…何も珍しくねえよ。お前が言ったらさ、珍しいってなるけど。」

「何でよ?」

「何でも。ま、今度オフィスで会った時、それも互いにその後時間のある時じゃねえの?」

言いながら、辰成は楽しみだと言わんばかりに微かに頬を緩めている。


「…もしかして恋してる?」

は?という顔に辰成が再びなる。


「…奈巣野さんに。」

続けて発した穂乃香の言に、


「馬鹿も休み休み言え。」

無表情でつっけんどんに返した。


「そっちこそ比喩表現ってものも知らないで直で受け取って腹を立てないでよね。」

穂乃香も負けじと言い放つ。


「それだけさっきの話に魅入られたって事でしょ?良いじゃん、私も知りたい。だからその時は…私にも教えて。」

「…。」

自分の興味が意外にもきちんと穂乃香に伝わっていて辰成は驚いた。


「じゃあ私電車乗るから。ばいばい。」

手を振って解散しようとする。


「送ってくよ。」

「良いよ、そう言って部屋にまた来ようとされても困るし。」

穂乃香が突っぱねて丁重に断った。

そうして今回は喧嘩別れにはならなかったにせよ、最後にばっさりと切られた。

背を向けて手を再び軽く振り歩いて行ってしまう穂乃香の姿を眺めながら、


「くそ、何だよ…。」

辰成はくやしそうに呟いた。








 初めて迷い込んだ時と同じ風景だった。

青空の下の、傍には石の遺物がある草原。

何処からか風がそよぐその場所は至極空気が良かった。


数歩先に見えていたと思った黄緑色の長いウェーブがかった髪の歳の頃は3歳か4歳ほどの幼い少女は光だけ残して何処かへ立ち消え、功は広がる草原を見渡す。


石の遺物を振り返り見た時に、立ち消えたのとは別の少女が石の遺物を前に屈んでいる姿があった。


功は何と無く彼女の近くへ寄って行く。

消えてしまった少女よりも大きいが小学生くらいか?功は思った。草原をさわさわと音を立てながら歩いて行くと、少女は功に振り返った。


「…え?は?」

功は目を見開いた。


それは、かつて出会った頃の小学生くらいの友喜だったからだ。

先程、有津世達の間での会話にもその話題が上っていた。

それと同じ現象を今目の当たりにしているのか。

見ると友喜は唇を僅かに震わせていて、その目は大きく見開かれている。

表情だけを見ると小学生らしからず矛盾を感じて功は眉をひそめた。


「えっと君は…?」

功が問いを発しかけたと同時に友喜は目をきらきらと潤ませて、細い腕を伸ばして飛び込む勢いで功にしがみついてきた。


「会いたかったっ…。」


その感触と視界に功は自身を疑った。

何故なら今の一瞬の中で目の前の友喜は今現在の友喜と同じくらいまで成長した姿に変化したからだ。

功に顔を埋めて密着したままの友喜に目をやると、彼女はふわふわの薄いピンク色のドレスを身に纏っており、小学生らしいラフな装いだったはずが服装まで変化した様だ。


「えっと…友喜ちゃん…。君はもしかして、もう一人の友喜ちゃんか?」






 リンリンリン…リンリンリン…

鈴の音が聞こえる。


「何?この音。」

ノリコがキャルユに尋ねた。


二人は大きなボールさながらの光達がふわふわと浮かぶ空間でふかふかの地面に腰を掛けてお喋りをしていたが、その時間もそろそろお開きの様だ。


「時間よ。」

「時間?」

「そろそろ…私はかつてあなたと行った場所へ祈りを捧げるわ。」

「…。」

「あなたも戻ってそれを私と一緒にして欲しいの。」

ノリコが頷く。


「普通に、祈れば良いの?」

「そうね、それと…柔らかな光が当たるイメージも。」

ノリコがうんうんと頷いた、それは知っていると言いたげな顔で。


「かつて私があの場所を目にした時に、いつか祈ると、約束したわ。約束の時が来た合図ね。今のこの音は…。」


リンリンリン…リンリンリン…

鈴の音はまだ鳴り響いていた。


ここには無かった白い光の細かな粒子が現れ始めて、二人の姿を包み込み始めた。

キャルユはノリコの手を取り彼女の目を見つめる。


「覚えていて。私も、あなたも、役割を果たせているわ。そして果たし続ける。それはここに…存在する事なのだから。」

「知ってる。」

ノリコは笑顔で答えて、キャルユは微笑み返した。

光の包み込み具合が一気に加速して視界は光で白塗りになった。


直後、光の残像がその場に残った。



 慣れ親しんだ神社の香りに自分の腕が小さな座卓に寄りかかっている感触を感じた。


戻って来たこの感覚をじっくり味わうのも良いけれど、今はキャルユが言っていた祈りを捧げる時だ。


ノリコはそのままの姿勢で瞑目して、胸の奥から湧き出てくる光を自身にまとわせ目的の場所に光が降り注ぐイメージをもって祈りを捧げた。





 一部緑色が欠落しているがその場所以外は緑色に埋め尽くされている星。

欠落しているその場所には白色と虹色の光がきらきらと渦巻いていた。


石碑の前でアミュラを密着する様に座らせ彼の額の石に手を導いて触れさせているツァーム、前にもそうしていた二人の姿が今日もあった。


「…。」

「あれ…。」

アミュラの声に、ツァームが目を開いた。

アミュラが彼女自身の背にぴったりとくっついているツァームに振り返り、


「…あの生き物達って、あの星にも居るの?」

驚いて尋ねた。


「うん、そうなんだ。」

ツァームが答え、説明を添えた。






 「あ、待って。」

石碑の傍の草原。


功と話していた友喜が何かを感知したのか慌てて石碑前へ足を運ぶ。


功は友喜を目で追った。

友喜は自分に背を向けた形になると、石碑を目の前に何かを執り行っている様だ。

功もその傍に寄って行った。

友喜から数歩後ろの場所で立ち止まり、彼女につられて瞑目した。





 天井の高い部屋。

デスクの席にかけていたソウイチが、デスク脇の透明な石を見つめる。


目の前のコンピュータのモニター画面に目を移すとキーボードを打つ手を進めていった。


ひと段落すると再び石を見つめて、手はキーボードの上に置いたままでそっと瞑目した。






 緑の星。

ツァームが何かを察知して、アミュラに目配せをする。


「一緒にしてみるかい?」

ツァームが柔らかい表情でアミュラに聞く。


「してみて良いの?」

ツァームは頷いて、


「僕達は二人でひとつなんだ。していけないなんて道理は無い。じゃあ、行くよ。」

シートベルトを締めるかの様にツァームは両腕をアミュラのお腹側に回すと、何かを唱え始めた。


ツァームの胸の奥から凄まじい光が産出し始め、連動してアミュラの胸の奥からも優しい光が産出され始める。


空気の渦が出来始めてやがてそれは竜巻になった。

竜巻は激しさを増すかの様に見えたが、中の二人はいたって穏やかな表情のまま光の産出を強めていった。






 すんげえ、何だ、これ…。

試しに目を閉じてみた功が受け取ったのは、ものすごい勢いで寄せてくる光の潮流の競演、その映像だった。


それはものすごい熱量に光量で、神獣達が駆け抜けたのを街で見掛けた時の熱とも似通っていて。

圧倒的なそれを、理由は分からずとも功は心地良く感じた。


心身共に洗われるみたいだ…。

自分もこれに加われば良いのか。


功は自分なりの理解で、映像に更なる光を胸の内で想像して加える。


すると何処にあったのか黒い墨の様なもやが見え、光がそれに向かっていってそのもやをシャワーで流すかの様に散らしていった。


その現象に功は興味惹かれた。


「…ありがとう。済んだわ。」

友喜の声で我に返って目を開けると、清々しいくらいに美しい草原と青空と、彼女の姿が見えた。

功はぼうっと立ち尽くす。


これが彼女の言う役割や作業の一端なのだろうかと、言葉にまではならなくてただ友喜を見つめた。

なのに友喜にとっては今のはいつもの事と言った感じで、それよりも目の前の功に明らかに夢中で。

愛おしそうに功を見つめ返してくる。


そんな友喜が口を開いた。


「こうしてここでまた会えるかも知れない可能性が増えた。そう思えて嬉しいの。それでも次があるとは限らない。だから…。」

友喜は功に身を寄せて彼を見上げる。

気後れしてまだ呆然としている功に友喜はつま先立ちになって肩に手を添えると唇を重ねてきた。





 光が降り注がれる。


ツァームとアミュラが先導を切って執り行うそれは、空気がより気持ち良くなる瞬間だ。


ぽわぽわは光を浴びながら心地良さを感じた。



 カフェラテ、美味しい…。


清々しい光と共にある空気と口元で感じるカフェラテの風味の感覚がごっちゃになって友喜の目は傍から見ても分かるくらいにはぼうっとしている。


古めかしい印象の喫茶店。


功の意識が戻ってきた。周りの様子を見た感じでは時間は経っていない様で、特に皆の注目を浴びたりとかも無かった。

不思議だったのは勝手に見開いてページがめくれたはずの本は閉じられたままだったのと、隣の友喜がいつの間に起きたのか、カフェラテのマグカップを手にして、一見皆と談笑している様に映った事だ。

ただ友喜に関しては気のせいだった様で起きてはいるもののマグカップを手にしている腕から上半身は僅かにゆらゆらと揺れている。

かなりぼうっとした状態だ。


「あれ、友喜ちゃんって…。」

何時起きたのか知りたくて功は周りの皆に意見を仰いだ。


「割と直ぐでしたけど、功も一緒に見てませんでしたっけ。」

「そうだったのか、いや、実はさ…。」


ぼそりと言う功の言葉に友喜以外のテーブル席の一同は注目した。

ほんの僅かな時間に意識が別次元に飛んで小学生の姿の友喜に会い、彼女が何某なにがしかの活動をするのを見かけ、更には真似して目を閉じたらその内容が垣間見えた事を功は説明した。


「すごいじゃないですか、功、それを同時に体験したりした人は、他には居ないのかな…。」

興味深げに則陽が皆を見回すも、皆も同じ様に功の話に感心していて別次元に飛んだ者は他にはいなさそうだった。

ただ一人、友喜を除いては。


友喜は所々の功の説明は耳に入ってきたらしくカフェラテのマグカップを手にしたまま、ゆらりゆらりと揺り動いた状態で唐突に口を開いた。


「今ね、ツァームとアミュラもしてるんだよ。」


功が隣の友喜の表情を覗いた。

皆の注目も友喜に集まる。

友喜は意識はぽわぽわと合わさりつつも今は会話を交わせる状態らしい。


「友喜ちゃん、今ぽわぽわはツァーム達と居るの?」

「そうなの。気持ちの良い光をいーっぱい出してね、お届けしたんだよ、ほら、こっちにも届いてる…。」


両手のひらを上に向けて、気持ち良さそうに友喜は目一杯呼吸をした。

それには皆は唖然とした表情になり、功だけが頷いた。


「いや、分かるよ。あれはホントに洗われる様だった、何もかもがな。」

「浄化、みたいな事ですか?」

則陽の問いに、功は、ああ、と頷いた。


「自分も勿論分かります、あちらの世界での主だった活動がそういったものだから。」

有津世の言葉に雨見も頷く。


「今感じるかどうかはまた別で、でしょう?」

「そう、流石に今ここに居る自分は感じられなくってさ…雨見もだよね?ここで分かるというのは流石ぽわぽわ、それとも友喜の感性がなすものなのか、はたまたその両方か…。」


友喜は口元にマグカップを寄せてカフェラテを口にしてから、ひと言、呟いた。


「繫がってるんだあ。」

「…そうだね。」

雨見が友喜に微笑んだ。


梨乃と則陽は不思議そうにそのやり取りに見入って、有津世と功は雨見と同様、感慨深げに友喜にこくりと頷いた。



色んな世界が、実は繋がっている。






 天井の高い部屋。

奥の壁には窓枠型の大きな照明が取り付けられていて、日が外から差しているみたいな光が部屋に届く。


デスクの席にかけているソウイチが、閉じていた目をそっと開くと、自分にだけ聞こえてきた声に答えた。


「ああ、君か。」

穏やかな表情になると、声の主に気を集中させる。


「…それは…、良かったじゃないか。さぞかし喜んだだろう。」

部屋に沈黙が走る。


「いや、それについては私は知らない。それならば彼に聞けば良いだろう。」

また少しの間を置いて、


「今回は…だから次回の時にでも…。」

ソウイチは相手の声を確認しつつ口を開く。


「君は…時々私に当たっていないか?君だって先程そう話したじゃないか。…とにかく、会えて良かった。」

ソウイチは僅かに苦笑してから再び相手の声が届くのを待った。

文の言い回しの修正を複数箇所で行いました。(2026年1月21日)

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