懐かしさと新しさと
星空が途切れる事無く続いているただっぴろい草原で、ソウイチとノリコは隣り合って座っていた。
さわさわとそよぐ風に、草原に薄暗い波が立つ。
暗いけれども満天の星空に淡く照らされたその場所で、二人は言葉を交わす事無くしばらくの間、辺りの景色を眺めていた。
林の奥の二棟の家。
有津世が自分の部屋でラップトップコンピュータを開いて作業をしていた所、功からのメールが届いた。
内容はというと、どうやら友喜にまた変化が見られた様で、安定していないとの事だ。
帰ったら一旦体を休めると言っているのでよろしく、と、功は丁寧な言葉で有津世へのメッセージを綴っていた。
功とメールのやり取りを始めてから感じた事だが、功は男性にしてはこういった連絡が懇切丁寧できめ細やかだ。
友喜の事を心から気遣っているのが、その想いが文を透かして見えてくる様で、その情熱たるや有津世が時々顔を赤くする程だった。
自分よりも年齢は上だけれど、純情さにかけては功の方が勝っているかも知れない。
メール文章を表示したラップトップコンピュータのモニター画面を目にしながら有津世は思った。
有津世は顔を上げて友喜の部屋と自分の部屋との仕切り壁を何と無く眺める。
友喜は家に帰って来ていて、功のメール内容の通り、少し休むと言って先程隣の部屋に入って行った所だ。
友喜の変化に伴う可能性に想いを馳せて、有津世は自分の作業に戻った。
数え切れない程の白い光の粒が辺りを取り巻いている。
沢山の光の粒を集めて、沢山の光の粒を配る。
彼女からの伝言で私は今、ここに居る。
彼女はひと欠片の想いを託したまま、私の元から去った。
ひと欠片の想いは、今静かに、私の中で息づいている。
それは妖精の淡い光の様で、一見直ぐに消えてしまいそうで儚い印象のものだけど。
実は全然そんな事無くて、しっかりとそこに存在している。主張している。存在の仕方も、妖精のそれと似通っていて。
何故なら彼女の想いはそれだけ本物だったから。
ほんの僅かなひと欠片でも、その想いを受け継ぐには十分だった。
それをいつか、あなたに届けたくて。
私はいつもの様に、あなたを訪問するの。
ぽわぽわの意識は友喜を占領するかの様に寝入りばなまではその感覚が襲っていたけれど、眠ってしまってからはそれを夢で見るとかいう事は無かった。
自分の意識も、ぽわぽわの意識も両方途絶えて、暗闇をまどろむ様に熟睡した。
ただ、目を覚ます直前に再び流れ込み始めた意識が友喜とぽわぽわ両方のもので揺れ動き定まりにくい焦点をやはり抱えていて、目を瞑ったまま寝返りを打ちながら友喜は起きたくないなと思った。
ぽわぽわの動きが、意識が、手に取る様に分かる。
今じっとしている自分とは対照的で、暗いトンネルの様な空間をものすごい速度で移動していて、それを次元の通り道だと友喜は認識出来た。
目を開けると、こちら側での世界の感覚までもが一気に入って来る。
それは雑多で、眩しくて、抱きしめたくなる様な感覚で。
ぽわぽわの意識を受け取りながらも友喜はロフトの上に居る自分の体の感覚を確かに感じた。
有津世の部屋のドアがノックされて、同時に声がした。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
友喜の声だ。
有津世が部屋のドアを開けると、今起きましたとでも言えそうなぼうっとした表情の友喜が立っていた。
「目、覚めたんだね。どう?調子は。」
有津世は功からのメールメッセージを読んだらしく、友喜の様子を気遣ってくれた。
「うん、昼寝する前と変わらないけれど、ほんのちょっとは慣れた。」
有津世は友喜を見ながら、それなら良かったと頷いた。
「…ぽわぽわの、意識なの?」
「うん、そうみたい。」
友喜が答えて、有津世は友喜に、座りなよ、と、直前まで自分の居た机の椅子に友喜を座らせた。有津世は机の端に片手を添えて友喜の前に立ち、静かに嘆息した。
「あ…そう言えば、お兄ちゃん、ありがとう。」
友喜は功に会えた事を、そのきっかけをくれた有津世に礼を伝えた。
「うん。無事会えて良かった。それで、石は渡せたの?」
友喜が嬉しそうに頷く。そして思い出した様に、
「あのね、功お兄ちゃんが言うには、石に神獣が入ってるって。」
「…やっぱり吉葉さんには分かるのか。」
「えっ、お兄ちゃんは知っていたの?」
「うん…。」
「…。」
有津世が言うには、一度白昼夢でツァームの意識と繋がってからは、自分の石の神獣の事には気付いていたそうだ。
「そうか、私今まで、それ聞き逃していたのかも。」
一方有津世はその話を友喜にしていなかったのは認識していたけれど敢えてその事は口にしなかった。
「え、ひょっとして……お兄ちゃん達の石の神獣って、一角獣なの?」
ツァームとアミュラの元に現れた一角獣の事を思い出して友喜が尋ねた。
「そう、当たり。ぽわぽわが知ってたの?」
「ううん。ただ、そうかなって。」
友喜はまた考える。
「ねえお兄ちゃん、ツァーム達の所に居る一角獣って…ひょっとしてお兄ちゃんの石の…?」
鋭い指摘に有津世は頷いた。
「ツァーム達の所に一角獣を送ったのは、お兄ちゃんなの?」
更に思ってもみない指摘に、有津世は素直に頷いた。
雨見には様々な件での詳細を知らせてはいるけれど、友喜にはそれほど有津世は説明していない。
友喜がキャルユでぽわぽわだからというのがその理由だ。
何も思い出していない友喜に対して覚えの無い情報を次々押し付けるのは酷だろうとも思ったし、その考え方についてはツァームに通じるものがある。
だけれど今友喜はこうしてぽわぽわの意識をこちらの世界と合わせて認識していて以前とは事情が違ってきているのも事実であって。
だから今回の様に友喜が疑問を抱いて質問してきた際にはきちんと答えようと有津世は心構えとして思っていた。
「友喜、石はさ、想いを届けてくれるんだよ。」
有津世が友喜にぽつりと話す。
「想い…?」
「うん。少し前に、俺と雨見はあちらの世界の自分達の関係の険悪さに参っていて…、何とか打開策は無いものかと、記憶の一端を得ようとここで石を見つめていたんだ。」
有津世が机を指し示して話した。
「そしたら石から声が聞こえてきてさ…。願えば叶う…って。」
「願えば、叶う?」
「うん。石がそう言ったんだ。正確には…そう言ったみたいに感じた。それでさ、ものの試しに願ってみたんだよ。そしたら雨見の見る夢も自分が見る白昼夢も、その直後から変化した。」
…それで一角獣があちらの世界に…。友喜が感心して有津世の話に聞き入った。
友喜は時折こちらの世界の意識とぽわぽわの意識との狭間に捕らわれていた感じがしたけれど有津世との会話にそこまで支障は出なかった。
友喜は揺れる意識に対応するためにか、たまに体を緩く揺らすと目を閉じて、再び有津世を見る。
「友喜、今もずっと繋がっている感じ?」
友喜の様子を見て有津世が尋ねた。
「うん。ぽわぽわの意識がね、ずっと繋がってる。」
「じゃあさ、これからは友喜が夜お休みなさいって言って部屋に籠ってもさ、」
ぽわぽわで有津世の部屋に来るなら、その時また互いに会っている事になるんだね、話は出来ないけどさ、と有津世は言う。
「夢でね、一度見たのはそうだけど…さっき寝ていた時はぽわぽわの夢、見なかったの。」
寝入りばなまでは両方の世界の意識と繋がっていた事、寝入ってしまってからはどちらの世界の意識も認識していなかった事を有津世に言った。
「だから一概には言えないけど、起きていればお兄ちゃんの言った通りかもね。」
話したい事をひと通り話して落ち着くと、友喜が有津世の席を立ち上がる。
「友喜。」
「うん?」
「あんまり無理しないで。慣れるまではさ。」
「うん、分かった。ありがとう。」
友喜が有津世の部屋を出て行ってドアが閉まると有津世は自分の席に戻り、一旦畳んでいた作業途中のラップトップコンピュータを再び開いた。
「おっ、意外に早かったね。おかえりなさい。」
なつが遅めの昼食にインスタントラーメンをずるずる音を立てて食べながら、玄関からリビングにやって来た功に発した言葉だ。
「あれ?本は返さなかったの?図書館は?」
「それがさ…、」
手に持ったままの大きな本を見てなつが不思議がり、功は図書館での事の経緯を話した。
「へええ~…。」
なつの反応に、不思議だよな、との相槌を功が打った。
兄から本を受け取ると、あ、ホントだ、シールが消えてる、と、なつは食事の手を止めてシールを剥がした跡すら見当たらないまっさらな背表紙を眺める。だろ?と功が答えて、なつから再び本を受け取る。
「ん。とにかくさ、なつ、ありがとうな。しておきたいと思った話は伝える事が出来たよ。」
「うん。もっと長くても良かったんだよ。」
「それなんだけどな…。」
「?」
功は友喜に起こった変化をざっくりとなつに話した。
「友喜また変わったんだ。」
なつは冷静な反応で功に返す。
「まあ、そういう事。」
これ以上長くは無理そうだったから家まで送って来たよ、と功は言った。
「…あ、それとさ、この石…友喜ちゃんからのお土産らしい。」
功はポケットにしまっていた石を二つ、なつの目の前に差し出した。
「これは俺ので、なつのはこっちだってさ。」
「!…お兄ちゃん、これ…。」
「ああ。何時ぞやか俺達が見かけたあれかもな。」
神獣が駆け回ってその風を心身ともに気持ち良く浴びた日。
功となつはそれがあった日に別々の場所でそれを見かけ、カフェからの帰り道でなつが話題に持ち出していた。
すごかったね、と口々に言いその日出逢った不思議な現象を共有したのを思い出す。
その神獣の内の二体が今、功の手元の石の中に居る。
「これ、友喜が拾ったの?」
功が頷いて、河原に行った時のものらしい、と説明した。
「河原?友喜、河原に行ったんだ。」
なつは功の手のひらから友喜がなつへと選んだ石を受け取ると、親指と人差し指で石を摘まみ、花が咲く様に見える虹色の内包物を感心して眺めた。
「綺麗…。」
なつの言葉に功が口角を上げて頷いて見せる。
「なつにぴったりな石だな。」
なつのオーラの色と良く合っている、功は思った。
「お兄ちゃんのもね。」
功の言った言葉の意味合いを理解してなつも同じく返した。
良いも悪いも無い。
一回一回、その都度、自分の選択があるだけだ。
私は今までそれをしてきた。
隣に座っているソウイチは、ノリコにこれ以上は言葉でもって何か話題を持ちかけるでも無く、ただ静かに隣に居るだけだ。
しばらくの沈黙の後、ノリコはソウイチの横顔を見つめた。
一緒に居た最初の一か月間。
彼はまだ幼く、何も喋らなくて、声すらも発しなくて…。
それがここまで成長して、穏やかに言葉を発する事の出来る様になって。
その彼が今日ノリコの元に来て、明確に自分の意思を述べた。
勢いそのまま…と思ったが小川に居た後半から今も、共に過ごした最初の一か月間の時の彼に戻ったかの様にただ存在する彼が居る。
ソウイチの瞳の奥には、いつも一抹の悲しさが詰まっていて、決して忘れる事の無い想いを抱えている事はソウイチの他にはノリコがきっと一番良く知っている。
「…石。私が願ったら、ソウイチくんの元にも飛べるの?」
ノリコがいつものノリコらしく無い、トーンを抑えた声音でその沈黙を破る。
「?」
「ソウイチくんが今日自分の場所から抜け出してこうして会いに来てくれて、この前は私の飛んだ場所に危険を察知して助けに来てくれて…。私もそれをソウイチくんにする事は出来るの?」
「…。」
「まずは石に聞いてみる、か。」
ソウイチは思い詰めると声が出なくなるのか、ノリコを見つめ返しながらも無言で返す。
それでもノリコはソウイチの言いたい事は理解出来た。
「喉を、触ってもいい?」
ノリコが無言のままのソウイチに尋ねる。
依然声の出ないソウイチは、僅かに頭を縦に動かし答えた。
ソウイチの返事を受けて、立ち上がってソウイチに寄るとそっとしゃがんだ。片方の手を伸ばし、ソウイチの首の前辺りにノリコにはよく見えている停滞した空間の渦を優しくまさぐる。
その仕草で渦の変化がノリコの目には確認出来たのか、今度はその手を直接ソウイチの喉元に触れさせた。
「大丈夫。大丈夫だから。」
ソウイチの状態が落ち着く様に、一見落ち着いては見えてはいてもそうでは無いから今のこの状態となっているソウイチを、手から発する淡い光のアプローチで融解を図る。ノリコもこれをやって見る事は今回が初めてで自分でも驚きながら行っていた。
そしてそれをしながら不意に気が付く。
もう一段階、上に行く時に差し掛かっているのが今だという事を。
私は彼を助けるためにここに居る。
今までも、これからも。
そして彼を助けるためならば、方法は何ら厭わないだろう。
ミッションは続いている。たった今、その事に気付いて。
必要な時に、自分が彼の目の前に居れば良い。
そうして彼の癒しを促し増す事が出来ればそれが本望だ。
ノリコの手から幾ばくかの青白く淡い光が放たれ、ソウイチの喉を優しく照らす。
「…あ、ノリコ、ありがとうございます。」
かすれ声だけど、ソウイチの口元から声がやっと出てきた。
ノリコは慈愛の眼差しをソウイチに向けながら緩く首を振る。
「こちらこそありがとう、小川に居る時、この草原に以前来た時も、一生懸命話をしてくれて。私はそれを受け取るよ。これからも、ずっとね。」
「ノリコ…。」
ノリコは感嘆を込めた表情を見せるソウイチの耳近くに両手を添えて、いつものノリコらしく無いトーンでまた声を出す。
「安心して。これは純粋な…エネルギー交換だから。」
ソウイチの耳元でノリコは囁くと、口元をソウイチの鼻辺りから唇へと僅かに触れながら移動させ、互いの片頬を体温を確かめる様にぴたりと合わせた。
「あ…の…。」
ソウイチが戸惑い、ノリコに声をかける。
ノリコが頬を離し、ソウイチの顔をじっと見る。
「いいのですか?」
問いかけるソウイチに、ノリコは短く、うん、と答えた。
「あの…変な事を聞く様ですけれど、ここでだけですか?それとも…」
「戻っても…だよ。」
依然座り姿勢のソウイチにまたがる様にしてソウイチの両肩に手を添えながらノリコは答えた。
返事を受けたソウイチは僅かに笑みを取り戻して、自分の肩に触れているノリコの腕を掴んで近くに引き寄せようとしたのにノリコが、わあっ、との声と共に体勢を崩してソウイチの上にドサッと尻餅をついた。
「あ、ごめんね、ソウイチくん、痛く無かった?」
ソウイチの太ももに体重のかかった状態のままで、ノリコがいつもの声色に戻ってソウイチに聞いた。
「いえ、今のは私のせいですし…。むしろ、もっと…密着して下さいませんか。」
ソウイチは言葉を添えると、更に腕を引き寄せて自分の胸元にノリコを抱き寄せた。
またもや体勢を崩してノリコの顔面がソウイチの胸元に沈み込む。
「…。」
ノリコは素に戻ってソウイチを見上げた。
「ソウイチ…くん?」
遊んでる?とノリコは自分がからかわれているのでは無いかと尋ねると、ソウイチは一瞬だけ目を丸くした。
「いいえ、あくまでも…本気です。」
ソウイチはバツが悪そうに笑い、ノリコは彼の反応に頬が緩んだ。
「じゃあお互いに…本気で。」
どんなに歳を重ねてもノリコの本質は変わらない。無理に年上ぶって接するのに無理を感じて肩の力を抜いた。
やっとお互いがいつもの表情で笑い合うと、満天の星空を望む事の出来る柔らかな草原の大地の上に、二人はゆっくりと倒れ込んだ。
ソウイチとの一連のやり取りは、何故だかとても胸の奥を温めるもので。
何故だか、と言うのは語弊があるのかも知れないけれど、初めて体験するにしてはその初めましてという感情よりも、ようやく…という安心感の方がずっと強かった。
この状態を前々から求めていたかの様な、約束がやっと果たせたかの様な、安心感。
初めての出来事のはずが、懐かしくて。
ソウイチの何もかもが愛おしくて。
目の合うソウイチを至近距離で見つめながら、ノリコの目からは涙が出てきた。
ソウイチはノリコの目の端をそっと指で触れて拭うと、その箇所に唇も触れさせる。
「ノリコ、大丈夫ですか。」
ソウイチがノリコの様子を気遣い声をかけた。
「うん…大丈夫。ソウイチ…くん。」
「はい。」
額に汗を浮かべてソウイチはノリコの呼びかけに答える。
「なるべく…この瞬間が、続く様に…」
覆い被さるソウイチの背中に腕を回して言葉と共に願いを込めた。
今のこの瞬間もだけど、この先も何度もソウイチとこうして想いを重ね合いたい。そう願って。
「ええ、私もそれを、願っています…。勿論。」
ノリコの耳元で囁く。
二人の体が重なった状態のまま、白い光の細かな粒子が二人を包み込んだ。
視界が一瞬白塗りになって見えなくなったかと思うと、視界は神社の建物の縁側の景色を映した。
意識だけ飛んでいたという事実を互いの衣服が乱れていない状況を見ても確認が取れた。
「ノリコ、私の所に来ますか。」
「…うん。」
差し出すソウイチの手にノリコの手が触れた。
そのまま手を互いに握り合って、ソウイチの今夜泊まる小さな一室に通じている戸の向こう側に二人は姿を消した。
次の土曜日までの一週間は、友喜は予定を入れずにゆっくりと家で過ごした。
雨見と有津世がもう一度河原に行くと言うのを自分は断り、自分のこちらの友喜としての意識とぽわぽわとしての意識の狭間で、意識を合わせる調整を、この状態に慣れる様に、色々と試してみた。
まず始めに、手元のものを触る。
自分の拾った石。父から借りた家族共用のラップトップコンピュータ、机、自分の頭…。
何故そうしようかと思ったかは、功に送ってもらった時の林の道の途中でのやり取りが友喜の記憶に強く残っていたからだ。
あの瞬間だけは友喜の意識を妨げられはしなかったから、それをヒントに色んな物に触れてみる。
最初に触った石は、こちらの意識に寄るよりもその逆でぽわぽわの意識に寄ってしまう事が分かった。
有津世が持つ石は別の石だけど、有津世が石を眺める事で白昼夢を見れるのは、同様の作用があるからかも知れない。
色々な物を触って石が目的とは逆の作用があるのを知って、友喜は改めて功を思い浮かべる。
可能ならば功が自分の手の届く場所に居てもらえれば…なんて考えてみたりもしてしまったけれど、そんな事どうやったって叶うはずも無い。
友喜は深いため息をついて、どういう方法なら自分の今しようとしている目的に叶うかをうんうん考える。
それに飽きてきた友喜は、先程から開いていたラップトップコンピュータのモニター画面に記号だけの名前のアイコンのあるのに気が付き、
「あれ、何だろ?これ…。」
クリックして中身を開いてみた。
すると現れたのはずらずらと文章の羅列している画面で友喜はその文字数に圧倒された。
「これって…。」
きっとこれは、有津世が有津世の分の豪奢な装飾のノートに書き込んでいる文章をより詳しく時系列を整理して綴ったものだ。
文章の最後を見てみると、自分がぽわぽわの意識と繋がった所までを軽く記述してあり、有津世は豪奢な装飾のノートには自分の体験した事柄だけを記入するのに対し、今表示されているこの文章の中には友喜と雨見の体験も織り交ぜて文章化しているみたいだと分かった。
結構長い文章なのでざっとしか目を通してないけれど、有津世がしている作業、最近部屋に籠って居た訳もひょっとしたらこれかも、と思った。
家のお兄ちゃんは結構マメなのね…。
友喜は見ているのにも面倒くさくなって画面を閉じた。
気を取り直して友喜は最初の目的に立ち返る。
こちらの世界で一番自分にとって刺激の強いのが功の存在だから…。
友喜は顔を赤くしながらどうしても功の事を考えずには居られなくなる。
こうなったら何かを功に強く握ってもらって、功の残り香を嗅ぎながら過ごす…
いやいやいや、それってともすれば変態さんぽく無い?
想像した友喜は一人で顔を真っ赤にした。
「…。」
他の様々な策を思いついて試すも、最後には功を頼る案に行きついてしまう。
メール出来なくて正解。
友喜は思った。
自分の案はどう考えても良い案だとは思えなかったし、いちいち功にメールして質問していたらきっと引かれてしまうだろう。
その前に功には、どうせ自分は、会いたい、としか打てないだろうから。
友喜は自分の文才の無さで、功へ募る想いはそのたった4文字に集約してしまうのを知っていたから。
しまいには案を考えるのもやっぱり面倒くさくなって、友喜はロフトに上がり込んで目を閉じた。
・友喜が有津世の部屋に行って話をする場面での行を加筆修正しました。
・文の言い回しを複数箇所で修正しました。(2026年1月18日)




