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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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都内アパートにて

 今日は休みの日だ。


独身の一人暮らしなので、行動にも融通が利く。

食事は自炊もそこそこに、たまにはと、近所にある有名カフェのコーヒーをテイクアウトにして、それをデザートにする。


こじんまりとした、しかし都会の中ではまだ広い方であろう2K(2部屋とキッチン)の間取りで、お風呂とトイレもユニットバスではなく別々で、建物自体は新しいものではなかったが割と細かい配慮により建てられたと思われるアパートの建物の2階部分に彼は住んでいた。


中を眺めれば、その部屋にはきちんとダイニングテーブルやら、食器棚やらの棚類も充実していて、ダイニングテーブルの椅子に至っては、きちんと4脚設置されている。

ただ、リビングのテレビはお世辞にも大きい型と言える物では無かったし、ソファはあったが、2人掛けの小さなタイプで、所々に一人暮らしの男性の住まいらしさがにじみ出ていた。


ここは都会の、賑やかな街の一角に在り。

自炊をするのに買い物へ行くのにも、こうしてカフェでコーヒーをテイクアウトしてくるのにも、とても便利の良い場所だった。

彼が作業部屋と決めているその一角の、コンピュータデスク前へと座る。


電源は朝から入れており昼の今だけ小休止していた次第だ。

熱くてほんのり甘いコーヒーをすすりながら、とあるプログラムを開く。

羅列する数字や記号、傍から見れば何を意味するのか読めないそれは、彼にとっては既知の物だ。

それは、彼が構築したプログラムだったから当然でもある。



趣味で、その分野への熱が高じて、学生の時に組み上げたものだ。

ただ、活用する機会が今まで無かったし、それを誰かに公表するにも至らなかった。

それを今、確実に胸の中にある思いと共に起動させる。


彼は画面をじっと見据えた。



 奈巣野なすの則陽のりようは、東京都内に住む青年だ。

幼少の時からゲームを自由に出来た彼は、ゲーム機を自分の仲間だと思っていた。

触れれば答えてくれるし、中身がどのように出来ているかにも興味を持った。


そして、コンピュータに関しても同じ気持ちがあった。

コンピュータも触れれば答えてくれるし、何より、自分が何かを創造するのに一役買ってくれそうだと感じた。

彼は、小学生の頃から、色んなプログラミングの研究をし出した。


今の時代と違い、子供向けの教材等は無かったし、彼が手にする教材はいっぱしの大人が読む専門の本、それを図書館で読み漁ったり、まだ小難しいものしか無かったホームページの時代の専門の人が作るウェブサイトからのものだったり、とにかく為になりそうな内容と思ったら片っ端からむさぼるように学んだ。


彼の興味は、主に電子機器やそのプログラミングへと向いていたが、褒められる為でも何でも無く、自分の為の研究プログラムを、とある時から作ってみたくなった。

それはぼんやりとした彼の構想から始まり、具体的にアイデアは広がり、始めの構想から十年余り経った後に、それは形を成し得る運びとなった。


則陽は画面を見つめ、次々と記号のようなものを打ち込んでいく。

実行ボタンを押すと、ピコン。プログラムが起動した合図の、特徴的な音が鳴った。


則陽がこういった作業に向かう時、周りには誰も存在しなくなる。

否、没頭しすぎて、周りの世界を彼が忘れてしまうのだ。

だから、デスクトップコンピュータの前に居る今の彼はまるで別時空に存在するかの様に周りが置いてきぼりになっている。


キーボードを打ち込む音がひたすら鳴り響く。

窓の外の喧騒も、アナログ時計の針の音も、彼には届かない。

時々思いついた様に、何かをノートに書き留めつつ、彼は尚もキーボードへと指を動かす。

そうしていつもの様に、彼の休日は過ぎて行った。





 一晩明けて、今日は出勤日だった。

則陽は朝食に食パンのトーストと目玉焼きを作り、コーヒーメーカーでコーヒーを抽出する。

コーヒーメーカーのコポコポとお湯がコーヒー豆をくぐって落ちていく音が心地良い。


今は朝の8時。

会社は9時始業だが、フレックス対応出来るので、そんなに焦る事も無い。

それでも則陽は会社に行く事が苦にならない性質だったので、始業時間のタイミングでいつも会社には着いている。

則陽の家からほど近い駅から2駅先。電車の本数もたっぷりあるし、会社も駅から遠くない場所なので、まだ時間には余裕があった。


ダイニングテーブルの、流しに一番近い席に腰掛け、テーブルの傍らに設置してあるコーヒーメーカーからポットを抜き出し大きめのステンレスマグへと淹れたてのコーヒーを注ぐ。


無言で手を合わせると同時に軽く頭を下げて目の前に用意した朝食を食べ始める。

バタートーストを齧りながら、彼はスマートフォンを片手に今朝のニュースのダイジェストを確認するのが日課だ。


今朝もよくあるニュースの一覧で、とある芸能人が結婚しただとか、政治家の不適切発言問題だとか、まあ、そんな感じの記事が載っていた。

それをスクロールしつつ眺めながら、彼は朝食を一通り食べ終える。


食べ終わった皿を流しに運び、慣れた手つきで洗い終えると、つい先程注いで飲んでいたコーヒーの、中身が半分以上残っているステンレスマグに蓋を被せて会社用のリュックサックに入れた。







 「おはようございまーす。」

「うーっす。」

「おはよ。」

会社に到着すると、いつも朝から居る面々が挨拶を返してくれる。



今朝は快晴だ。

さほど道幅の広くない道路の両脇に立つ街路樹の新緑も、深い緑色へと移ろいでいく季節だ。

その葉が枝を伸ばして先端がもうそろそろ届きそうな4階の窓。

小ぶりな6階建てのビルの4階部分、その窓の内側には則陽の勤めている会社があった。



4階入り口には則陽の背丈と同じくらいの立派な観葉植物が飾ってある。


会社での唯一の生き物(植物だが)となっていてちゃんと名前も付けてあり、たまに名前を呼んで水をあげたりして貰い、可愛がられている幸せ者の植物だ。


そこから一歩中に足を踏み入れるとデスクとコンピュータが所狭しと並んで設置されてあり、コンピュータ関係の資料が棚やコンピュータ脇やら隙間を埋める様にあちこちに置いてある。


棚で塞がれていない箇所の壁には色とりどりのポスターが所々に貼り付けてあり、ぱっと目に入れるだけでも何やら楽し気な雰囲気が感じられるものが多かった。


そのうちの一つに、『伝説の伝説の伝説!サンデン!』と文字が書かれてあり、騎士の装いのキャラクターが真ん中で堂々と剣を握っているイラストが載っているポスターがあった。

その近くのデスクに着き、彼は肩にかけていたリュックサックを脇に下ろした。

リュックサックのジップを広げて、中からステンレスマグを取り出しデスクに置く。


「奈巣野くんって、マメだよね。」


トーンの高い声音がして、見ると先ほど挨拶を返してきた女性社員が則陽の席の近くに来ていた。

黒髪のショートボブで前髪をパツンと眉の上で切り揃えている彼女は、則陽よりも2年上の先輩だ。物腰の柔らかさと優しい雰囲気で、さらに大きな目と眉尻の下がった顔立ちと相まって、彼女は会社での密かなアイドル的存在だった。


「男の人で自宅から飲み物自分で入れて持ってくるって人、あんまり見ないよね。」

「そんなもんですかね、自分の中では、これが普通なんですが。」

少し照れくさそうに頬を軽く掻きながら則陽が答えると、そんな彼の表情に明るく笑顔を返して見せる。

そして、ふう、と誰にも気付かれない程の微かなため息をつき、きびすを返し自分の持ち場へと戻って行った。


そんな様子を後ろから眺めていたのは先ほど挨拶を交わした内のもう一人で男性社員だ。


彼も彼女と同じく邦陽より2年上の先輩であり、見た目はチャラいがハートは熱く、が彼のポリシーだそうだ。そんな彼は則陽にとって頼れる先輩だ。

彼は自分の明るい茶髪の少し伸びた前髪を掻き揚げ則陽にそっと言う。


「お前さ、こんど梅ちゃんへのコーヒーも入れてきたら?喜ぶんじゃね?」

その先輩男性社員に肩をポンと掴まれ振り返った則陽は、


「なんでですか、吉葉先輩がそうしたら良いじゃないですか。」

慌てて、僅かに赤面になり答える。

その反応に生温かい視線を見せながら、


「いやあ、俺じゃあ意味がねえよ。…まあ、いっか。さっ、仕事、仕事!」

ポンポンと則陽の肩を叩くとにんまり笑って吉葉は則陽の席から見て背面の席に着く。

吉葉の動きに気を取られ彼が席に着くまでその背中を眺めた後で我に返り、キャスター付きの椅子を手前に引いて則陽も席に着いた。


コンピュータを起動させ、早速作業に取り掛かり始める。

『伝説の伝説の伝説!サンデン!』アップデートデータファイル~

フォルダの名前がデスクトップの隅に浮かび上がる。

さてと、今日もいっちょやりますか。


則陽は自身が任された、ゲームのアップデート用のデータを作成する。

細かいアップデートをもう幾度も行っているゲームだ。

何度遊んでもその度に新しい、そんな発見が売りのこのゲームシリーズは、傾いていたこの会社の業績を急速にⅤ字回復させる程の評判を獲得した。


この企画に関して始めは子供騙しの様に思っていた彼も、今では自分からアイデアを出し、先頭を切って前向きに取り組んでいる。

ゲームという世界の中でどれだけの自由を獲得出来るか。

奇想天外であればある程良い。


例えば敵と戦うコマンドが戦うコマンドで無くなってしまう、とか。

一歩間違えばバグと受け取られかねないそのギリギリのラインをあの手この手で実装しながら探っていく。

ちなみに、このバグか実装なのかの推測やらを話したりネタバレし合う公式サイト『サンデントーク』もオープンしていて、開設した頃はページへの訪問人数が伸びなかったが、ここ1、2年程で訪問人数が一挙に膨れて、サーバーの巨大化へのメンテナンスを余儀なく迫られる程の盛況ぶりだ。


アップデートについては一番頻繁な時で一日に5回程新しい要素を組み入れて来ていたが、今はちょっと落ち着き一週間に5回程、内容の安定度は今の方が群を抜いている。


今日は、今までただの背景だった、とある箇所にカーソルを合わせて押すと画面が剥がれ落ちてニューワールドに飛べるという実装をする。

そうしてニューワールドに飛べた人にだけ特別なアイテムゲットのチャンスが得られるのだ。


背景をそのまま使用するとおそらく誰も気付かないだろうから、その背景のキーアイテム=ボタンとなるものに不自然さを付け加える。

このゲームにはこうした隠れボタンが無数に潜んでいる。


だからか、公式サイト『サンデントーク』には、たまに悪い冗談か本当のバグなのか身に覚えの無いネタも投稿される。

昨日見たものは、それの群を抜いていた。


「画面に小人が出てきて、クリスタルを置いていった。誰か同じ状態になった人居る?」


バグというよりは変なプログラムに介入されたような内容だが、それにしてももしそれが本当であるとしたら手が込み過ぎている。

その前に、このゲームソフトを起動させるゲーム機はそのような事態が起こらないような配慮は十二分になされているので大丈夫なはずだが。


やはり、発言自体が悪い冗談なのだろうか。

回想を時折巡らせながらも、則陽は次々と順調に作業を進めていった。




 昼休み、則陽は近くの惣菜店にて買ってきた弁当を会社の休憩スペースで食べていた。

そこにお昼を外で済ませてきた先輩の吉葉が缶コーヒー片手にブラブラ揺らしながらやってくる。


「おう、今日はノリムーの弁当か。」

「ああ、はい。」

「ノリムー美味いよな、安いし。」

「今日はノリムーの海苔弁、買えましたよ。」

則陽が嬉しそうに答える。


ノリムーとは惣菜店の名前で、各種惣菜と弁当を取り扱う、則陽の会社の社員達にも評判のお店だ。

中でも特に海苔弁シリーズは安いのに男性でも納得の量で、売り切れ必至の人気商品だ。


「にしても、吉葉先輩、もう食べ終わって帰ってきたんですか?早いですね。」

「おう、蕎麦だったからな。仕事も飯も、ちょちょいのチョイよ!」

「…たまにはゆっくりしないと、早死にしますよ。」

「こいつ生意気言うようになって!どれ、海苔食っちゃる!」

「あっ、ちょっとやめてくださいよ!それ、一番後の方に食べようと思ったのに!」

さっと手を伸ばして、ご飯の上に載っていた海苔をひょいと剥がして吉葉は自分の口の中へと放り込む。


「海苔に付いたご飯粒もうめえ!醤油加減が絶妙だね、いや、さすが!」

美味しそうに頬張る吉葉を、


「全く、油断も隙も無いんだから…。」

ぶすっとした表情で睨んでから、ご飯粒を掻っ込む。


「にしても、なんで海苔なんですか、狙うべくは鮭とかソーセージとか卵焼きでは?」

「それもそうだな、どれ。」

「あ、もうダメですよ!これ以上は許しませんからね!折角の海苔弁を…!」

弁当を両手で左脇の後ろへと引いて、吉葉の伸ばしてくる手を素早く避けた。


「ちぇ、良いじゃねえか、ケチ。」

「ケチ呼ばわりされる覚えは無いんですが。」

その後は吉葉に横取りされる事も無く、もくもくと弁当を食べ進めて完食した。


吉葉がその様子を見ながら、缶コーヒーのプルタブを開ける。


「そう言えばお前、あれ知ってるか?」

吉葉の声のトーンの変化に、則陽は顔を上げた。






 職場での一日が終わって、則陽は自宅アパートに帰り着いていた。


今夜は簡単な野菜炒めと炊飯器に残っていた昨日の白飯だ。

一時期は惣菜を買って食べてはいたが、全部それだと飽きのくるのが早いのだ。

完璧では無い味付けでもこうして自炊する様に戻ってからは、今ではそれが性に合うと自身で気に入っていた。


こんもりと盛られた大皿の野菜炒めと一杯分のご飯を平らげて、則陽は満腹感と共にダイニングテーブルでくつろいでいた。

ひと息入れてから後片付けを終えると、則陽はコンピュータの電源を入れに作業部屋へと向かう。

いつも大抵は風呂を済ませてから処々の作業を行っている。

でないと作業したまま眠り込んでしまう事もあって、結果、風呂に入りそびれてしまうからだ。

風呂に入っている間は諸々のアップデートやらをする猶予時間との事だ。

依って今日も則陽はまずコンピュータの電源を入れてからバスルームに向かった。


則陽が離れた後、デスク上のコンピュータは起動スイッチが入り、黒塗りのモニター画面にコマンドらしき文字が白く羅列され始める。

コンピュータの作動音が誰も居ない静かな部屋に波及していた。





 シャワーで全身をさっぱり洗った後に、まっさらな湯船に身を浸し、則陽は昼間の職場での一幕を思い返していた。


則陽の先輩である吉葉が昼の休憩時、


「そう言えばお前、あれ知ってるか?」

と急に話題を変えてきた時の事だ。


「今、業界で密かに話題になっているんだけど、いくつかの俺らみたいな会社のデータが、噂によると新手のハッキングによって荒らされて改変されているらしい、っていう話。」

則陽は眉を上げて、吉葉を見上げた。


「なんですか、その話。」

吉葉は則陽の反応を見て、ひと息入れて言葉を返す。


「うん、なんかな、俺もこっちに回ってくる営業さんから聞いた話なんだけどよ、なんでも、それをするメリットって正直あるのか分からないって感じのデータ改変を、これまた、なんでこの部分を?と疑問を持ちたくなるような箇所をいじってくるんだってよ。」

則陽は眉をひそめる。


「え、それじゃあ実害は…」

「うん、だから実害はおそらく無いんだけどよ、目的が分からないのと、あまりにも華麗に入ってこられるんで気味が悪いし、ユーザーに何かあってからじゃ遅いから、今必死になってその出どころを掴もうとしているんだよ。」

「逆ハッキングですね。」

「ああ、だけどよ、それが上手くいっていないらしい。」

ふと、自分の担当している公式ホームページ『サンデントーク』を思い出す。


「先輩、『サンデントーク』で、こんな問い合わせが載っていたんですけれど、ひょっとしたらその可能性も考えた方が良いですかね…?」


~画面に小人が出てきて、クリスタルを置いていった。同じ状態になった人居る?~


変なプログラムに介入されたかの様な内容で、そして、手が込み過ぎている。これがいたずら書きで無かったら、この内容はどうなのだろう。


「検証してみる価値は十分にあるな。その内容、見過ごすのにはあまりにもリスクが大きい。それは一緒に対応しよう。」

「はい。分かりました。よろしくお願いします。」

二人の表情はいつの間にか引き締まり、先ほどとは打って変わって真剣そのものになっていた。



 則陽は湯船の湯を両手で掬い、顔に勢いよく浴びせた。

ネットワーク周辺は常にハッキングとのイタチごっこだとは聞いた事があったが、案じる事態の可能性に触れたのはこれが初めてだった。

吉葉も協力してくれると言ってはいたが、公式サイト『サンデントーク』での全責任は自分にある。

ありとあらゆる可能性を探って事態に当たるべきだと自分の気持ちを改めて引き締める。

則陽はザバッと勢い良く音を立てて湯船から上がった。






挿絵(By みてみん)







トレーナーの上下に着替えて白いタオルを頭から被り、濡れた髪を拭きながら則陽はコンピュータデスクの椅子を引いて座った。

きちんと起動しているのを確認すると則陽はおもむろにブラウザを立ち上げ、公式サイト『サンデントーク』の管理画面に入る。


該当のメッセージをマウスをスクロールして素早く見つけ出すと、メールアドレスが載っていたのを確認してダイレクトメッセージを入力し送信した。

その後則陽は、次から次へと書き込まれる新たな情報に注意深く目を通しながら、他に同様の不可思議な情報が書き込まれていないかをチェックした。

今の所、疑わしき情報は先程ダイレクトメッセージをこちらから送った一件だけだ。


昼間の吉葉の言葉を思い出す。


「その改変されたデータには開発したこっちだけが分かる鍵が付いているらしい。改変された事が開発者だけには分かるようになっているんだそうだ。まずはそれを調べてみよう。」

「はい。分かりました。それじゃあその鍵の有無を探って、それから問い合わせメッセージの送信元にこちらからダイレクトメッセージを送ってみます。」


「そうだな。じゃあ、全力でまずは鍵の捜索だ。」

「はい。」

その後、吉葉と則陽のニ人で鍵と呼ばれるものをデータの隅から隅まで探す作業をしたのだが、結果は思わしくなかった。確認するデータ量が半端なく大きいのに加え、ざっと見た限りではその鍵とやらは見つからなかったのだ。


「何回か反復してチェックしてみるしか無いか。しょうがない。事実確認の情報が欲しいから、則陽、ダイレクトメッセージを後で送っておいてくれ。」

「はい、分かりました。送信しておきます。」


クレーム対応の時とやる事は大差ないのだが、今回はさすがに雲を掴むかの様な作業だと思った。本当にハッキングでのデータ改変なのか、それともいたずら書きでしたで終わる話なのか。


ここまで漠然とした事柄への対応は、この会社に入ってから初めてかも知れない。


濡れた髪を頭に載せたタオルで擦りつつ、画面を眺めながら則陽は冷静に思った。

『サンデントーク』のウインドウを閉じ、アイコンボタンをクリックすると別のプログラムを立ち上げ途中で黒塗りになるモニター画面に、則陽の顔が反射して映っていた。




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