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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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行き来する世界

挿絵(By みてみん)











 住宅街の一角。

功と歩いて吉葉家の目の前までやってきた友喜は、玄関ドアを開ける功の後ろに立っている。


「ただいま。」

「おかえりなさい、お兄ちゃん。あ、友喜!」

リビングの奥からなつが覗いて友喜の姿を見つける。

ちょっと待ってて、と功が友喜に言い、功だけ靴を脱ぎ家の中に上がった。


「公園でさ、会ったんだ。ちょっとさ、一緒に…、図書館行ってくるわ。」

功が友喜の方を見て微笑むと、なつに向き直ってそう告げた。


「ふ~ん、そうなんだ。あ、お兄ちゃん昨日、本返し忘れてたでしょ?」

そう、それを返しに行ってくる、と功がなつに答え、なつが分かった、と答える。


「行ってらっしゃい。お昼あたし適当に食べるからさ、二人でのんびり行ってきなよ。」

なつは事情を呑み込んでいるのか、二人を眺めながらそう勧める。

今回はそうさせて貰うかも知れない、と、なつに告げて、大きな本を手にして功が玄関に戻って来た。


「お待たせ、友喜ちゃん。行こうか。」

功が靴を履き直して、じゃあ、なつ、行ってくる、と功が言って、友喜もなつに手を振った。





 外に出て、住宅街沿いの道路を歩く。


「…。」

友喜が無言で功の顔を眺める。



…今日、本当は何をする予定だったんだろう。

そう言えば、土曜日に会うのと、学校がある時はカフェでのなつを迎えに来る時にひと目見る以外には、功の事をそんなに知らない。副業のオフィスに行くのだって、話だけで、何処の街に行くのか知らなかったし、…。


「どうした?」

功が優しい眼差しで友喜に問いかける。


「うん。…今日、本当は、何をする日だったのかな、って。…急に、こうして会ってもらっているから。」

友喜がじっと功の顔を見る。


「あ、特に予定は…。強いて言えば家事とか食料品の買い足しくらいで…。あ、こんな話つまんねえか。」

友喜がゆるりと首を振る。


「…功お兄ちゃん、偉い。お母さんみたい…。」

「…。」

功が母という言葉にふと想いを馳せる。


「…ま、必要最低限の所な。そんな気負ってやってねえし、気楽なもんだよ。」

「そうなの?」

「そう。」

功は前方を見ながら、微かに口角を上げる。


友喜は難しそうな顔をして、口元に片方の手の拳を寄せている。


「ん?」

友喜の反応を見て功が疑問の声を出した。


「うん…一緒になるって言う事は、そういうのを、自分がする様になるんだろうな…って。お母さんのお手伝い、もうちょっと積極的にやろうかな。」

「…。」

功が友喜の発言に思わず赤面になる。そしてふっと笑うと、


「してくれるのは嬉しいけど、でもさ、それも気負わなくて良いと思うんだよ。則陽がさ、言うんだ。パートナーはお手伝いさんなんかじゃ無いって。俺もそれはそう思うし、それ聞いてあいつやるなあ、って思ったよ。…俺もさ、動くし。一緒にさ…。」

「それで良いの?」

「うん、それで良い。挑戦したい事があれば、やってみれば良い。枠組みに囚われず、柔軟にさ。」

二人は話しながら、遊歩道へと続く横断歩道を渡った。

友喜は功の言葉を反芻しながら、頬をほんのり赤らめる。


前方を向き歩く功を横から見る。


…もう決めてる。…もう決めてるんだ。

友喜も前に向き直って微かに頬を緩める。


「暑いね…。」

「ああ、うん…。」

日の照り付ける遊歩道で、友喜が功に言って、功が何と無く答えた。

胸の内で考えているのはお互い別の事だったけれど。



 図書館に着いて、二人は自動ドアを通り抜け館内へ入って行く。


返却口は本用のローラー滑り台になっていて内側に検品する人が常駐している。


功は本を返却口に入れようとすると、大きくて突っかかりそうだったので、両手を添えて、丁寧に押し込んだ。


本を返すと、よし、行くか、と友喜に声を掛けて、その場を後にしようとした。

すると、


「あの、すみません。今、本を入れた方ですか?」

返却口の内側から職員の人がこちら側からも見えるカウンターへと体をずらして功達に声を掛けた。


「すみませんけれど、これ、うちのじゃ無いみたいです。」

そう言って、一度返却口に入れた本を功にまた渡してきた。


「はい?」

「それ、ここの図書館のじゃ無いです。すみませんが…。」


功と友喜は顔を見合わせる。


そんな事無いはず…と反論しても良かったが、功は本の特異な性質を思うとその言葉かけもする気が無くなり、ここは素直に職員の人の言葉と本とを受け取る事にした。


「え、ああ、…そうですか。間違えてすみませんでした。それじゃ…。」

功は職員の人にぺこりと頭を下げた。



不思議に思いながらも、功は受け取った本を手に、入り口の方向に向き直る。

そして本を軽く掲げて口を開いた。


「返した後でさ、この本の事を話そうと思ってたんだ。だからこうして、手元に現物が残る事はこっちにとって好都合ではあるけれど…。でも何で…。」

功は本の背表紙を見てみると、付いていたはずの図書館の整理用ステッカーが何処にも見当たらない。


「んん?」

裏表紙を開いて見ると、そこにも図書館の印が記してあったのに、それも無くなっている。


「…。」

本を閉じた功が、友喜ともう一度顔を見合わせる。


「…えっとさ、この後なんだけど、今言った様に話、したいからさ、ゆっくり話が出来る場所で昼、摂ろうかと思うけど…。」

何処にするかな。

功が友喜に言いながら二人は考える。


友喜が提案をするのに功が頷いて答えて、二人は自動ドアの外へと歩いて行った。








 山奥の神社。


今日も日差しが照り付けていて、それでいて気持ちの良い風は神社の建物の中まで入り込んでくる。


ノリコはいつもの様に小さな座卓に写本の手本と自分のノートを広げ、筆記具を片手に写本に精を出していた。

ノリコの祖父も相も変わらず瞑想に多くの時間を割いていて、一日の内のほとんどの時間を、口数少なくこの頃は過ごしていた。


ノリコは集中して取り掛かっていると、いつの間にか自分の目の前に映る景色が変わっている。


あれっ?ここは…。




見ると四方八方が厚い雲で折り重なった曇り空の様な灰色で、方向感覚も、どっちが上か下かも曖昧になっている。


そんな中で、同じ色の大きな四角い箱の様な物の上に自分は座って居て、ノリコは周りを見回してみた。



『そんなにきょろきょろしなくても…私はここに居るわ。』


その声を受けて隣を見ると綺麗な緑色の瞳をした中肉中背の女の子がこちらを見て笑っていた。


その姿は僅かに発光していて、肌は浅黒いのか色白なのか分からない複雑な色味だ。

サラサラと長く美しい銀髪を何処からともなく吹く風にそよがせ、クリーム色のドレスの裾もそれに合わせてふわりと動いた。


『聞いたわ。彼女から。私あなたの事だいぶ前から知っているけれど、あなたもそういう気持ちになる事があるのね。』

「…。」


ノリコは珍しく、直ぐには口を開かなかった。

この女の子が口にする『彼女』が誰の事かは分かったし、言わんとしている事も分かった。


『あなたはいつも元気だと思っていたわ。』

「…うん。私は元気だよ。………多分ね、この感情も味わいたいだけだと思うんだ。だからこうして味わせて上げてるの、自分に。」

慈しみの溢れる美しい緑色の瞳をした女の子は、流石ね、と言い、


『じゃあ私があなたの話を聞くのはもしかして必要無いかしら。』

ノリコの顔を見ながら告げる。


「それは…。」

しばらく無言になって次に動きが見られたのはノリコから流れた一筋の涙だった。

緑色の瞳の女の子が首を振って、


『やっぱり、必要だったわ。あなたが望むなら…それを私に話してちょうだい。』

「あなたはそれが役目なの?」

『役目?ええ、そうね。私の役目。私はそれを喜んで請け負っているわ。』

ノリコは女の子の言葉を聞いて口角を上げた。


二人で四角い箱の上で足をぶらつかせながらお喋りをする。


何処までも灰色のこの空間は、不安を感情をどんどん湧き立たせて胸に秘めておく事は出来なかったから、ノリコは自分の感じている想いをありのままに彼女に示した。


『それでもあなたは進んで行くのね。』

ノリコの話に静かに聞き入っていた女の子が微笑みながら言葉を添える。


『素敵だわ…。』

女の子の言葉に、ノリコは先の見えない灰色の景色を眺めた。


『話したくなったらいつでもここに来てちょうだい。私はあなたと話すのはとても好きだし、あなたは始めから答えを知っている。思い出している。それでもそうやって想いを抱えてしまう時があるという実際を、私は学ばせてもらう事が出来るわ。』

「…うん、分かった。」

ノリコが屈託の無い笑顔を見せると、緑色の瞳の女の子も笑った。


「あっ、ねえ。」

『?』

「ううん、何でも無いの。あなたはただ、聞いてくれるだけだったもんね。」

ノリコはふと浮かんだ質問を再び自分の胸に閉まった。


『ふふ、そう。私はただ、話を聞くだけ。』

ノリコは頷くと、銀髪の女の子は、慈愛たっぷりの眼差しでノリコを見つめた。








 神社の建物の手前の、木々の鬱蒼とした場所に白色の小さな車が来て止まった。

エンジン音が消えてドアを開けて出てきたのはソウイチだ。


ソウイチは建物に向かって歩いて行く。


開放されている建物で一番大きな社内の空間を覗くと、ノリコの祖父は背を向けて奥の方で座っており、入り口近くの隅には小さな座卓に向かって俯いた姿勢のノリコの姿があった。


ソウイチは靴を脱いで縁側から中に入ると、そっとノリコの隣に座った。


「ノリコ…。」

彼女の様子を伺い、胸元の形の変わった石のペンダントをちらりと覗く。

ソウイチは座卓の上に載せてあるノリコの片方の手を静かに握った。





「ノリコ、そこで何をしているのですか。」

振り返ると灰色の空間にソウイチが立っていた。


緑色の瞳の女の子はいつの間にか姿を消していて、自分が戻ると思っていたのに何故だかこの空間に取り残された様だ。


「女の子とお話していたの。帰ったつもりだったんだけど、…帰れて無かったみたい。」

「じゃあ一緒に…帰りましょう。」

ソウイチに手を差し伸べられてノリコはその手を握る。


「…。」

胸の奥に灯る温かさを感じて、ノリコはふとソウイチの顔を見た。

ソウイチは微かに頬を緩めると、二人の目の前の景色が消えた。




 いつもの空気を感じて、意識の戻ったのを知る。

ノリコの右手にはノリコのでは無い手が重なっていて、その手から腕を辿って見上げると、目を閉じたソウイチの姿が近くにあった。


ソウイチは綺麗な切れ長の目をそっと開いた。


「ソウイチくん…。」

「ノリコ、戻れたのですね、良かった。」

ソウイチが穏やかに言うと、


「ソウイチくん、いつからここに居たの?今日は泊まれるの?この前は石で私の所に助けに来てくれたって言っていたけれどそれってどうやるの?ソウイチくん、教えてくれる?」


今まで息を止めていてやっと呼吸し始めたみたいな勢いでノリコはソウイチに質問を投げかけた。


「…あ、ごめんね。今、そういうの、晴らしてきたばかりだと思ったのにな…。」

ノリコは口に手を当てる。

ソウイチはノリコを見ると、


「ノリコ、大丈夫ですよ。ひとつずつ答えます。」

微かに頬を緩めた柔らかな表情でノリコに言った。


「先ず、ここに着いたのは少し前です。誰の気配も飛んで来ませんでしたので、自らこの場所を覗かせていただいた所、おじいさんはあの様に瞑想中でしたし、ノリコも顔が俯いていて私に気付きませんでした。ですから今先程ノリコが目にした様に手を握って、ノリコの意識の場所へと飛びました。」

呆然とした表情でノリコはソウイチの言葉を聞いていた。


「そして今日泊まれるか、の話ですが、…おじいさんから許可を貰えるのなら、喜んで。後で聞いてみます。」

ノリコの表情が僅かに明るくなった。


「最後の質問ですが、石にお願いするのは…ただ、話しかけるだけですからノリコも知っていると思っていました。やって見た事は?」

ノリコが首を振る。


「では今度、やってみて下さい。石に意識があるのを知っている人ならば出来るはずです。ただ、お願いしてみれば良いのです。ノリコがそれを知らないはず無いのですが…。」

ソウイチはノリコを真っ直ぐに見据える。



「…質問、もうひとつあるの。ソウイチくん、私の事が、見える?」

ソウイチはノリコの思いがけない質問に、僅かに首を傾げる。


「何を言っているのですか。見えるに決まっているでしょう。現にこうして、会話をしているではありませんか。」

ソウイチの静かな返事を聞いてノリコは、元々丸い目をますます丸くしてその目に涙を溜めながらソウイチにしがみついた。



 ノリコお気に入りの山の斜面の道なき道の途中にある小川の前でノリコとソウイチは膝を抱える様に座って話をしていた。


ここに来よう、と提案したのはソウイチで、ノリコはソウイチに同意して二人は山の斜面を滑りそうになりながら生えている木の枝を掴み移動してここまで辿り着いた。


「じゃあその三人にはノリコの姿が見えなかったという事ですか。」

「…うん。自分がもうこの世界には居ないのかと…。」

ソウイチは小川の先のきらきらした小石達を見つめる。


「ノリコ。ノリコも私も役割において言えば少し特殊です。そしてその意味をノリコは理解している。違いますか。」

ノリコは頷く。


「それによって…きっと波長域が違うのでしょう。彼等とは、交わらない…その必要があって、見えないのでは無いかと思います。」

ちょうど、石碑の前で作業をする彼女がもう一人の彼女と分かれて互いの交流の無いまま存在する様に…。ソウイチは胸の内で思う。



「女神さまも同じ様な事を言ったけれど…そう言えば女神さまからは私の事が見えてた…!」

ソウイチは頷く。

ソウイチの説明でノリコはようやく気持ちが落ち着いた。


「でも何で今日来てくれたの?」

「今日は…実は抜け出して来てしまいました。あまりにもノリコからのSOSが来ないものですから、たまには何も無い時でも来てみようかと。」

ソウイチが穏やかな表情で言う。


「それ、平気?後で大変な事になっていたりとかは…?」

「問題無いです。そろそろ、私の現段階での作業は落ち着きます。ですからその時はもう一度、こちらに訪問させていただけたらと思っています。」


ソウイチの言葉を受けて、ノリコは小川の流れを目にしながら嘆息した。

ソウイチはノリコの様子を見ながら言葉を続ける。


「ノリコ…私は前に言いました。今ここに命あるのは、あなたやおじいさんのおかげだと。あなた達無くしては私は今ここに存在していない。そして私は、恩返しをしたいと考えています。」


「あ、それなんだけど、私ね、良い言葉を思いついたの。前にそれを言えば良かったな、って思っていて。それはね、…こんなに大きく立派に育ってくれてありがとう、それがもう恩返しだよ。…って。だからね、もう、してくれたんだよ。恩返しは。」


ようやく調子を取り戻したノリコが笑顔で返した。

ソウイチは微かに頬を緩めて反応すると、真剣な表情をノリコに見せる。


「では恩返し云々抜きで話しましょう。ノリコ、私はあの星空の草原の空間でも話した様に、ノリコと様々なものをこれからこの先も共有したいのです。たとえそれがどんなものであったとしても…。この意味を、分かってくれますか。」








 バーガー店の店内飲食用の注文口に、功と友喜が並ぶ。

実は二日続きで昼が同じ店だが、友喜は全く覚えていないので気にせずこの流れになったし、二日続けである事に関しては功も別に構いやしなかった。


「今日はアボカドのが良いな。」

友喜が直ぐに決めて、功は自身が割とよく頼む種類に決めた。


赤いポップなテーブルと白い椅子の席に座ると、番号札をテーブルの脇に置いて功が早速友喜の顔を見て話し始める。


「この本でさ、昨日の夜、実は友喜ちゃんの居る場所に飛んだ。」

テーブルの上に置いた本をぽんぽん叩いて功が僅かに赤面しながら言った。


「え?飛んだ?」

友喜の問いに功が頷く。


「俺さ、有津世くんから友喜ちゃんが友喜ちゃん自身に戻って無い事を教えて貰ってさ、本開きながらその事とか色々…考え事してたんだわ。そしたらさ、…いつの間にか景色が変わってて…。」

功は涙を流して異次元に移行した事は端折って、友喜に説明を続けた。


「…そしたらさ、友喜ちゃんが居たんだわ。すげえ不思議だと思ったけど。」

「うん、不思議…やっぱりその本って…。え…でも私覚えて無い。それってもう一人の私だったの?」

「…いや、見た限りでは多分…、友喜ちゃん自身の方だと思う。ただ、…寝てたよ。」

「寝てた?だから私、覚えて無いの?」

「ああ、多分。」


友喜は功の言葉を反芻し、


「ね、寝てた…?」

もう一度尋ねながら赤面した。


「ん、ああ、寝てた。あ、やっぱりこんな場所で話す話題じゃねえな…。」


何で俺、さっきの公園に居る時点でこれ話さなかったんだろ?

と功もますます赤面しながら返す。


「起こそうとしたんだけど友喜ちゃん起きなくて…とうとうずっと寝たままだったよ。」

焦ったけどさ、と功は続ける。


「起こそうと、してくれたの?」

友喜が興味を持って聞いてくる。


「ん。まあ、そう、起こそうとしてみた。」

「どうやって?」


…それを聞くか。

功が赤面している顔を片方の手のひらで覆いながら、


「いや、ちょっと、…キスを…。」

すごく小さな声で言う。


友喜はドキドキしながら功に顔を寄せていった。


「何処に?してくれたの?」

「…顔中。全体に…。」


何の我慢大会だよ、これ。

功自身が持ち出した話題ながらも、もう勘弁してくれ、という心境だ。


「良いな。寝ている私。そんな事をして貰って…。」

顔を赤くしながら口を尖らせた友喜に、功はぽかんとなった。


友喜にとっては覚えて無ければ友喜自身に対してまでやきもちを焼くものなのか。

功は思わず笑いを漏らした。


「まあ、じゃあ、今度…か、後でのお楽しみ。」

「…。」

開き直って微笑みながら言う功に友喜は頬を綺麗に染めながら笑みをこぼした。








 きらきらと輝く石が沢山転がっている地面にごく幅の狭い小川を目の前に、ソウイチがノリコに返事を仰ぐ。


まるで時間が止まったかの様に固まるノリコを見て、ソウイチは真剣な表情でノリコに訴えかけた。


「私は本気です。ノリコ、これをずっと前からあなたに伝えたかった。行く先がどんなものであったとしても、私はその全てをノリコと分かち合いたい。つまりそれは、人生を共にするという事です。」


ノリコはゆっくりと何回か首を振った。


「私は大人だよ?」

「ノリコが私より歳が上なのは知っています。ですが、…私ももう大人です。ノリコと、そう変わりませんよ。」

表情の硬いままのノリコを見て、ソウイチは続ける。


「あなたは幼い頃の私に石を一つ、この場所でくれました。その石はこうして今手元に大切に持っています。」

ソウイチが自身の胸元のポケットから石を取り出してノリコに見せた。


「…あ。」

「やっとお気付きになりましたか。」


ソウイチに渡した石が、ずっと前からノリコが大切に持ち続けている透明な石と対である事を今やっとノリコは認識した。


「石はずっと前から、私達がペアである事を知っていたみたいですね。」

「私達はペア…。」

「ええ、あなたが認めてくれさえすれば。」


真っ直ぐな眼差しから真剣な想いと決意が伺える。


今こうしてこの姿で関わっている物事は有限…。

ソウイチは誰かから聞いた言葉を思い返す。


その言葉はソウイチをここまで突き動かした。


「今回もこれからも、ここに来る度に、そして帰るまでの間は、私はこうしてノリコに訴え続けるでしょう。」

覚悟をして下さい、と言葉を添えると、ソウイチはまた小川の流れに視線を移して静かに眺める。


ノリコはソウイチの横顔を見て、ソウイチの視線の先を辿り、一緒になって小川を眺めた。


文の言い回しの修正を数か所行いました。(2026年1月17日)

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