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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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泡のベッド

 石碑の傍の草原。

友喜が一人、ぽつんと草原の中に居る。


幼いキャルユに歩み寄って行ったらキャルユの姿が目の前から突然消えた。

友喜はキャルユの居た辺りを見回すと、ふうっとひとつ、ため息が出た。


これは今見えなくなっているだけで、次の瞬間、ぱっと何処からかキャルユが現れたりとか…、しないかな…。


しばらく待ってみたけれど、キャルユが再び現れそうな気配は無かった。


そう言えばこれから自分は寝ようと思っていたんだ。

ここの気温は丁度良くて寝ても冷えなさそうだな。


そんな事を考えながら友喜は仰向けに寝っ転がると真上に広がる鮮やかな青空を見上げた。








 バーガー店に着いて注文を済ませた功と友喜は、店前に設置されているベンチに座った。

功は隣に座る友喜を眺めると、黄緑色の光の霞は彼女の周りに一切見えない。つまり今も、入れ替わった友喜のままだ。


「…前にさ、消える、って言っていただろ?あれってさ、友喜ちゃん自身に取り込まれるとかじゃねえのか?」

友喜は緩く首を振る。


「消えるだけよ。私は彼女の術で存在しているし、段階が済んでしまえば、私が居なくても彼女は彼女として成り立つの。…役目としてね。」

「役目…。」

「そうね。」

功が顎に手を当て考える。


「…それについてもう少し詳しく教えてくれねえか?それ、友喜ちゃん自身も知りたがるだろ。」

友喜はまた首を振る。


「そうは言っても、彼女をかえって混乱させるだけだと思うわ。時がくれば思い出すんだし、それはひとつずつ、彼女自身が獲得していかないと。」

「…俺が聞いても、ダメか?」

功は粘ってみる。


「言ったらあなた、彼女に話すもの。もう、彼女に知らせたくて堪らない、そんな目をしているわ。」

友喜の返答に功が少し肩を落とした。


「じゃあさ、質問変えるけど…今回そうして入れ替わったのには、何かきっかけがあるのか?」

「きっかけ…そうね、きっかけは、彼女がくれたわ。私は予め、用意をしていたの。」

「友喜ちゃんが?彼女はそれを分かっているのか?」

「残念ながら、そうね、きっと彼女はそれについては気付いたと思うわ。だから今日が…あなたとこうして会える最後のチャンスかも知れないの。」

そう言って友喜は微笑んだ。








 飲み屋街の一角。

割と背の高い女が女よりも更に背の高い男と一緒に路地を歩いていた。


「何で土曜日の休日にまでここに来なきゃいけないの?平日だけって決めていたのに。」

文句を言う穂乃香を横目で見ながら辰成が言う。


「分かってねえなあ、これだからノリだけで動く奴は困るよ。お前どんだけ重要な事してるのかまだ理解していないだろ。」

「何よ、良いじゃない。動かし方は知ってるんだから。」

作業が出来ればそれでいい、と、穂乃香は主張した。


「…どのくらい、作業するのよ。」

「2時間。」

穂乃香の質問に辰成は淡々と答え、穂乃香は不満気な表情で返す。

二人はコンクリートむき出しの狭い階段をゆっくり下りて行った。








 「ただいま~。」


住宅街の一角。

吉葉家に戻った友喜と功は、返事の無いのを不思議に思い、二人は足早にリビングに行ってみた。


すると座卓にはメモが一枚テープで貼り付けてあって、そこには綺麗な、なつの字が綴られてあった。


『本、読み終わっちゃったから、ひと足先に返して来ます。帰ってからお昼は食べるから、先に食べてて。』

功は友喜にも分かる大きなため息をついた。


「本を返しに行くくらい、良いんじゃない?何でそんな反応なの?」

友喜は何でも無い顔をしている。


功は頭に手をやりもう一度静かに息をつくと、


「いや…そうだな。」

友喜に同意して、軽く頷いた。


じゃあ、食べとくか、と功が言って、友喜と対角線上に座卓に座り込んだ。

座卓の上に置いたバーガーセットのビニール袋からがさがさと音を立てて中の紙袋を取り出すと、友喜の選んだバーガーセットと功の分をそれぞれの席に置いた。


いつもは、なつが用意してくれるお茶を功が冷蔵庫に行ってお茶のペットボトルをグラスと一緒に持って来た。


「ありがとう。」

「うん。食べるか。」

お茶を注いだ功に友喜が礼を言い、なつが居なくて静けさの通るリビングで、いただきます、と口々に言って二人は昼食のバーガーセットを食べ始めた。


「美味しい。」

「そうだな…。」

嬉しそうにハンバーガーにかぶりつく。

食べる姿は、入れ替わった友喜と言えども、やっぱり友喜だと功は思う。

功は友喜を見て口角を上げると、セットのポテトを数本、口に運んだ。



 食べる速度も、友喜自身とあまり変わらなくて、その点だけ見ていると意識が分かれて存在している現象が必要なのかつい疑問に思ってしまう。

友喜より先に食べ終わった功がお茶を口にしながら、友喜を眺める。


いずれ消える…いつの間にか消える…。

今居る目の前の彼女が口にした言葉を、功は何度か喉の奥で反芻した。








 石碑の傍の草原。

草原の中で、友喜がすやすやと寝入っていた。


青空を眺めている内に瞼が重くなってきての今のこの状態だ。


草原ですやすやと音を立てて眠る友喜の周りに、金色の光の粒が浮かび出て、友喜の体を撫でる様に触れて上昇していく。

徐々に粒の数が多くなっていき、その光に気付く事無く友喜は眠り続ける。

まるでそれは、ジンジャーエールのソーダの泡がポコポコと肌を撫でて上昇していくみたいな現象で。

下草の明るい緑色までも金色の光の粒で幻想的に映り、それでいてその情景はとても穏やかだった。








 住宅街の一角。

友喜が食べ終わった所で、功が真顔で友喜の顔を見る。


「ご馳走様でした。…功お兄ちゃん、どうしたの?」


…何だろう、こうして見ると、本当に友喜自身と変わらなくて、友喜自身に戻った錯覚すら覚える。

それでも友喜の周りには黄緑色の光の霞は見えない。

それとも最終的にはそれも無くなるのか。


功は少し混乱した。


「いや…。あ、俺これから副業のオフィスに行ってくるから、今日はここで解散。なつが居ないから、友喜ちゃん帰るのちょっと早いかも知れないけど…。」

功が言うと、友喜が途端にむっとした表情になって、功に詰め寄る。


「何で?私さっき言ったじゃない!今日があなたに会える最後のチャンスかも知れないって!」

「聞いた、聞いたよ。でも…そうじゃ無いかも知れないだろ?…もしかしたらまた会えるかも知れない。それに君は結局、友喜ちゃんと変わらないんだろ?」

「…。」

「俺はさ、君に会えて嬉しいって思ったよ。黄緑色の光の霞の状態で見える君の姿も、俺は見るのが好きだからさ。だけど…、」

友喜は熱弁する功を見つめた。


「君の事も勿論好きだけど…、それでも君の元はやっぱり友喜ちゃん自身だろ?その友喜ちゃんの安否が分からないのにさ、君とこうして居る訳には…」


功は言葉の最後を濁した。


「でも私はあなたが好きで…」

「…ありがとう。その気持ちは、ありがたいし、嬉しいよ。」


…だって俺も好きだし。


功はその言葉は繰り返さずに心の中で思うだけに留めた。

自分の中の何かが暴発してしまうかも知れないからだ。

だから尚更、この場にこれ以上二人きりで居る訳にはいかないと功は思った。


「じゃあ俺、準備を始めるから。一緒にさ、出ようか。」

功が告げて、立ち上がる。

功の姿を不満気な目で追うと、友喜は視線を座卓に落とした。


功が座卓の上にある空き袋と包み紙をまとめて片付け、ダイニングのごみ箱へ入れる。

続けて出掛ける準備をしてそれが整うと友喜に声を掛けた。


「お手洗いとか、大丈夫か?」

友喜が無言で頷く。その様子は、まだ納得いっていない感じだ。


「じゃあ、行こう。」

友喜が腰を上げるのを促すと、玄関へと歩く。

友喜はとぼとぼとついて来て、玄関で座って靴を履いた。


玄関ドアを功が開けると、友喜が座りながら首を振る。


「?」

「閉めて。」

友喜の言葉に功が何か忘れ物か?と聞きながらドアから手を離すと、玄関ドアはゆっくり閉まる。


「…。」

「え…?」


功が僅かに口を開けた友喜の言葉を聞き取ろうと、座ったままの友喜に合わせて自分も屈む。

途端に友喜が功の首に手を回し、功の唇に自分の唇を重ねてきた。

驚いた功が目を見張って友喜から唇を離す。友喜の手は功の首に触れたままだった。


「せめて、これくらいは…良いでしょう?」

左右の目を交互に見つめながら友喜が功に訴える。

功は友喜を見つめ返し、一瞬視線を揺らすと、どちらからともなく近づいて、二人の唇は再び重なった。



 駅までの道は友喜と途中まで同じだったので、その道の分岐点まで二人一緒に歩いて来ると、功は友喜の顔を優しく見つめた。


「ありがとうな。」

「…うん。またいつか…もう会わないかも知れないけれど。でもあなたには彼女が居るものね。」

諦めた様に友喜が言う。

そんな言葉に功は寂しそうに笑った。


「消えるんじゃなくてさ、やっぱり君は友喜ちゃん自身の何処かしらに取り込まれると思うよ。だからさ、これからも会えてる。俺らさ、出来れば一緒になりたいって話まで…してるんだからさ。」

だからそんな寂しい事言うなよ、と功が続ける。

いくら入れ替わった友喜と言えども、功は友喜の口から別れの言葉が出るのが嫌だった、耐えられなかった。

だから功は言う。


「また会おうな。」

友喜は功の言葉に泣いてしまいそうな笑顔を向けると、功とは反対方向の道路を歩いて行く。


功はその姿を見送りながら静かに息を吐くと、道路に視線を落とし、そしてもう一度顔を上げて駅の方向へと歩いて行った。








 地下2階程の深さに存在する、余分な光源を持たない薄暗いオフィス。


穂乃香と辰成が作業スペースにて作業をしていると、その内に則陽が顔を見せた。


二人は則陽に軽く会釈をすると、則陽も会釈を返してきた。辰成にも会釈を返すのを見て隣の穂乃香が辰成を鬱陶しそうに睨む。穂乃香の仕草には目もくれずに辰成は無表情だ。


横並びで座っている二人の様子に則陽は微笑み、自分は少し離れた席を選んで座った。








 林の奥の二棟の家。

日がさんさんと照り輝いている。


合気道教室の後の寄り道をしなかった有津世はとっくに家に帰り着いていた。

家族と共に昼ご飯を済ませてから、父から借りたラップトップコンピュータを手に、2階の自分の部屋へと入って行く。


ドアを閉じると自分の机の上にラップトップコンピュータを置き、二つ折りのそれを開いた。


起動させて一番最初に確認するのはメール画面だ。


有津世は開いたメールの文面を読むと途中から目を見張る。

口元に手を寄せ画面を凝視すると、返信画面を開き、文章をキーボードで打ち込んでいく。


送信ボタンを押すと、有津世は目の前の窓の外を眺めた。








 飲み屋街の一角。

地下2階程にあるオフィスの作業スペースで、辰成が立ち上がった。

一緒に立ち上がろうとしない穂乃香を一緒に立つ様に促して、彼女は迷惑そうに辰成の手を払うと、仕方無く作業を終わらせる。


席での二人のやり取りは則陽からは見えなかったが、二人同時に作業スペースから受付に移動していく姿に、則陽は口角を上げた。


受付を済ませて二人共ロッカーから自分の持ち物を取り出すと入り口に向かい、重厚なガラス戸の外へと出た。

コンクリートむき出しの狭い階段を上がって行く途中で、階段を下りてくる人とすれ違う。


「あ、功くん。」

穂乃香が驚いて声を掛けた。


「おっ、偶然だな。…則陽の奴から聞いたけど、本当にここに通ってたんだ。」

功が意外そうに穂乃香を見て、そして辰成の顔を見る。軽く会釈をして、じゃ、と言って階段をまた下り始めた。


その様子を穂乃香と辰成は見守ると、二人も残りの階段を上に上がった。


「おい、何だよ、今の奴。」

「え、何って、イケメン。」

辰成が怪訝けげんな顔になって、穂乃香の返事に問いかける。


「お前さ、軽々しいんだよ、何、名前で呼んじゃってるんだよ。」

「え、だって好みだったから。」

「…。」

堂々と答える穂乃香に辰成が一瞬押し黙ってから悪態をついた。


「ああ、そうですか。じゃあついて行けばいいじゃねえか。」

「ついて行かないよ。もう作業は終わったんだし。それにあの人、…彼女居たし。」

「は?彼女居るのに言い寄っていこうとしたのかよ。お前本当に、…。」

「だって知らなかったんだもん。だから、…アタックしようとして、…名前で呼ぼうかな、って。」

可愛いもんでしょ?彼女が居るって知って引き下がったんだから、と穂乃香は言った。


「じゃあさ、居ると分かったんなら呼び方変えろよ。」

自分と同列に他の人を呼ぶのが辰成には納得いかない。


「やだ。途中から変えるなんて、その方がよっぽど変じゃない。」

言い合いは更に加速して、どちらも引かなかった。


「大体もう付き合ってもいないのに、何でそんなに言われなきゃならないのよ、もう、本当にうるさい!」

穂乃香の言葉にかっとなって辰成が口走る。


「じゃあ俺ともう一度付き合えよ!」

「お断り!」

間髪入れずに大声で穂乃香に啖呵を切られると、辰成は自身の顔を片方の手のひらで覆った。

怒って自分から離れて歩いて行ってしまう穂乃香の後ろ姿を見て、辰成はがっくり肩を落とした。








 石碑の傍の草原。

草原の一か所が、金色の細かい光の粒子で光っている。


金色の光の粒子は友喜の体の下から次々と発生しては友喜の体を撫でる様にして上に浮かんでいき、やがて消えてゆく。

友喜は今も眠っていて、その寝顔は穏やかだった。








 茶色が基調の古めかしい喫茶店。


則陽と功が作業を終わらせて、喫茶店の店の扉を開ける。

ドアの鈴の音が心地良く響き渡り、二人は店内へ入った。


「あ…。」

則陽が何かに気付いて功が則陽の視線の先を見た。

そこはカウンター席で、功とオフィスの入り口ですれ違った、穂乃香と一緒だった男の姿があった。


水内みずちさん。こちらに寄っていたんですね。立木さんは?もう解散したんですか?」

「…あいつは、帰ったよ。」

則陽は辰成の表情を見て軽く頷くと、隣の功を辰成が目にしているのを見て、


「あ、こちらは功。吉葉功。俺と本業が同じで…。功、こちらは水内辰成さん。」

お互いを紹介した。

功が会釈をするも、辰成は、ああ、さっき入り口ですれ違った、と素っ気無く答える。


「これからこっちもお茶するんだけど、良かったら…」

「いや、いい。もうだいぶここで過ごしたし、誘いはありがたいけれど…。」

辰成が席を立つ。


辰成は最後功をちらっと見て、じゃ、と則陽に声を掛けて店内入り口のレジの前へと行ってしまった。


「…。」

則陽は肩をすくめて軽く息をつくと、座りましょうか、と功に言って二人は奥のソファ席に移動した。








 林の奥の二棟の家。

手前の家の玄関ドアを開けて友喜が帰宅の第一声を上げると、2階から有津世が階段を下りてきた。


「友喜、おかえり。」

階段の途中から有津世が明るい表情で友喜を迎えた。


「ただいま。」

友喜が有津世に笑顔で言って、2階へ上がって来る。

有津世も一緒に階段を上がりきると、友喜に質問をした。


「ねえ、友喜、石は持って行った?」

「石?あ、…忘れた。」


部屋に入ろうとする友喜の姿を見て、有津世は自分の部屋のドアを開けようとしながらも一瞬止まって友喜を見つめた。

同じく友喜の部屋のドアノブを握ってドアを開けようとして有津世の視線に気付いた友喜が、


「ん?お兄ちゃん、何?」

きょとんとした表情で聞いてきた。


「いんや、何でも。」

有津世が何と無く答えると、小首を傾げて友喜がドアを開けて部屋の中に入って行く。


「…。」

閉まったドアを眺め、有津世は一人思う。


…今も、まだ、…きっと。


自分の部屋のドアを開けると机の席に着いて、再びラップトップコンピュータのモニター画面を見ながら有津世はキーボードで文章を打ち込んだ。








 住宅街の一角。

家に帰って来た時に、なつの靴が玄関にあるのを確認して功がただいまと言いながらリビングに入っていった。


すると、新しく借りてきたらしい本から顔を上げたなつが、おかえりと挨拶を返した。

その顔を見て、功は困惑した様になつに問う。


「なつ、俺さあ、遠慮したよなあ?」

聞いて無かったのか?と功は続ける。


「あ、だってさ、問題無さそうだったじゃん?」

なつは功が付け加えたい点についてもやはり理解している様で、その上で動いたとの事だった。


「とにかくさ、そういうお膳立てはもういいから。」

「…でも友喜は喜んでいたでしょう?」

「…そうでもねえよ。」

そうかなあ、と疑問の声を上げるなつに対し、功は同じ答えを念を押す様に繰り返した。


「それより、何か良い本見つけたか?図書館、行ってきたんだろ?」

「うん、面白い本、見つけちゃった~。」

なつが功に表紙を見せて、これを借りたんだと話す。


「まあさ、楽しめたんなら良かった。でも行くなら予め言っておいてくれ。そしたら俺も友喜ちゃんも、外で…お昼食べるから。」

「…。そう。分かった。」

なつが真顔で答えると、功が照れ隠しの様に頭を軽く掻きその表情を見られない様に後ろを向いて足早にダイニングに向かう。


「…。」

兄、功の姿を見て、だいぶ前の功となつとのやり取りをなつは思い起こした。


「ほら、あの姿、綺麗だろう?」

庭に飛ぶ蝶々の姿を指して、周りに振り撒く細かな白い光の粉を嬉しそうに見守る。

思えば兄は純粋で、ロマンチストだ。

自分が小学生の時に見かけた、前の彼女との一件があってやさぐれた風貌になった後も、根の部分は何も変わっていない。


きっとお兄ちゃんのロマンチストぶりは、物語の中の王子様にも負けてはいない。

そして繊細過ぎて、時々見ていられない。

…良かった。友喜と、仲良くなってくれて。

友喜なら、功の事を分かって上げられる。

まあ、あの子自体が、大変だけど。でも二人が協力して助け合う事で、もっともっと、仲良くなると信じているから。


ダイニングに立って、てきぱき夕飯の準備をする功の姿をリビングの座卓から眺めると頬を緩めた。

そして立ち上がって、


「お兄ちゃん、何か手伝うよ。」

なつはダイニングの功の傍に寄って行った。




 夕飯と風呂が終わって、なつが2階の自分の部屋に上がって行った。


功は今夜も、ダイニングテーブルの自分の席で、買った妖精の本と図書館で借りた本を同時に広げて眺める。


届いたメールを確認すると、友喜はまだ入れ替わったままである可能性が高いらしくて、功はそれが気に掛かっていたけれど、とにかくどういうタイミングでそれがなるのか不明だから対処のしようが無いと思った。


功が少し怖いと感じるのは、次に会った時も入れ替わったままの状態の友喜だったら…と思う事だ。

そしたら今日もそうだが、その時にも友喜自身には会えていないという事になる。

そんなのごめんだと思ったし、それがずっと続いたらと思うと気ばかり焦る。


勝手に想像して、目には涙が溜まってきた。


…馬鹿だな、俺。

多分会えるのに、もう会えなかったらなんて想像をして勝手に悲しんで。

その内溜まった涙が片方の目からこぼれ、図書館で借りた本のページにぽたんと落ちる。


「あ、やべ。拭かなきゃ…」

慌ててティッシュを手に取ると、落ちた雫を吸い込ませる。



 「は?」

一面に広がる草原の景色を見て、功は唖然とした。


しかもここは夜じゃなくて、青空が広がっている。


すこぶる空気が良い。思わず深呼吸をする。

…いや、そうじゃ無くて。


何だ、ここ?


図書館で借りた本に自分の涙の雫が落ちた時、慌てて拭いたら一瞬ものすごい金色に光った感じはした。

まるでフラッシュを受けた感じだったが、それがこんな…変化をもたらすなんて。

功は今もこの状態が信じられない。


周りを見回すと、何だか大層な石の遺物が一棟立っている。遠くには森の入り口があって、その他は草原だった。

草原に一部光を帯びている箇所があるので行ってみる。

歩いて近づいて行くと、


「…。」


そこにはパジャマ姿で寝ている友喜の姿があった。


周りに綺麗な金色の泡の様な光がゆっくりと友喜の体を撫でる様にしながら上昇していき、ある程度宙を浮かぶと途端に立ち消える。

その現象はとても神秘的だったが、パジャマ姿の友喜をもう一度見ると、功は、うっ、と唸って一度後ろを向いた。


寝ていて、しかもパジャマ…見た事の無い…。

赤面しながら功は口を押える。

ちょっと待ってくれ、俺、耐えられるか?耐えろ、俺…!

念仏の様に繰り返し唱えると、覚悟を決めて功が友喜に振り返る。


自分もその場に膝をつき、友喜の近くに顔を寄せるとそっと肩を触って友喜に話し掛けた。


「おい、友喜ちゃん、起きろよ。目、覚ませよ。こんな場所でいつまでも眠りこけてちゃだめだぞ。」

「う…ん…。」

友喜が寝息から声を漏らす。


2、3回呼びかけを繰り返すと、友喜はまた寝息から声を漏らし、その度に功は赤面して汗まで出てきた。


「…。」


………これが、もし友喜ちゃん自身の方だったら、目覚めなければ、一生…。

考えると、赤面している場合では無くなって、功はいつしか真顔になっていた。


お願いだから、目を覚ましてくれ…。

真剣な表情で友喜の顔に近づくと、功は願いを込めて、友喜のおでこに、両瞼に、そっと優しく唇を触れさせる。友喜の様子を見守りながら両方の頬にもそれをした後、強く願いを込めて、友喜の唇を塞ぐ様に、自分の唇を被せた。



文の言い回しの修正を数か所行いました。(2026年1月17日)

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