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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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微笑み

挿絵(By みてみん)










 頬を染めて、互いに微笑み合いながら真っ暗な林の道を進む。


前方に友喜の家と雨見の家が見えて、友喜の家の前には兄、有津世が玄関の段差に腰を下ろしている姿が見えた。


「お兄ちゃん。」

友喜が有津世に気付く。


有津世は友喜と功に気付き、功にぺこりと会釈した。

功も頬を緩めて有津世に軽く頭を下げると、


「じゃあな、友喜ちゃん。また…。今度は土曜日かな。」

「うん。ご馳走様でした。カレー美味しかった。」

功の目を見つめて友喜はおやすみなさい、と言い、功もそれに答えた。


友喜が有津世の傍へ寄って行く。有津世は如何にも嬉しそうに友喜を迎えたし、友喜も目の前の有津世に笑い掛ける。

功は二人の姿を見てほんの僅かに目を見張った。


「…。」

そして少し俯くと、今来た林の道を引き返して行った。





  「何で外に出てたの?」

「外の空気を感じながら、星を眺めたくなったんだよ。」

有津世が友喜の問いに答える。


友喜は林の道の途中での功との濃密なやり取りが見られて無かったかを気にして、つい先ほど立ち尽くしていた辺り前方の道を見た。

道は真っ暗で、そこに何があるかを確認出来なかったので、友喜はほっと息をついた。



…考えてみれば、功なら送るか、と有津世は一人で納得する。


そして友喜を見ると、


「楽しかったの?」

感想を尋ねた。

友喜は笑顔で、うん、と答え、その返事に有津世は穏やかな微笑みを友喜に向けた。








 「良かった。水内さんと話せて、とても参考になったよ。」

則陽が礼を言った。


古めかしさの漂う茶色が基調の喫茶店の、奥のテーブルのソファ席。

辰成と修正プログラミングの話題を存分に出来た事は則陽にとってかなりの収穫になった。


「また、もし良かったら、こうして一緒にお話出来ると助かります。」

「ああ、…勿論。」

辰成も例外では無かった様だ。

彼は無表情から微かに笑みの乗った表情を見せて答えた。


「…。」

辰成の表情に則陽は一瞬考え込むと気を取り直して、梨乃に、行こうか、と告げる。


穂乃香も梨乃に続いて立ち上がろうとするのを席に座ったままの辰成が見上げて引き留めた。


「ちょっと…話があるから。」

辰成の言葉に穂乃香は文句有りげな顔を向けるとソファにもう一度腰を下ろす。


梨乃がその様子を見ると頬を緩め、じゃあね、と言いながら穂乃香に手を振り辰成には軽くお辞儀をする。則陽も同時に二人に軽く会釈をした。

そうして梨乃と則陽は店から退散した。



「すいません。」

辰成が店員を呼びつける。


「コーヒー……飲めるっけ?」

自分の分を頼みつつ、穂乃香に振り返り聞く。

穂乃香が頷くと、店員の方に辰成が向き直り、


「ホットコーヒー、二つ。」

改めて店員に言った。


穂乃香がその様子を見て素早くメニューを手に取るとデザートのページを一瞬で吟味し、


「チョコレートパフェも一つ!」

重ねて追加注文をする。


ちなみに則陽達と会食した分については既に割り勘で支払い済みだ。


新しく記入される注文票を傍目にしながら、辰成は注文の復唱を耳に入れる。

頷いてそれに答えると、席から遠のく店員を確認して穂乃香に向き直った。


「ねえ、…奈巣野さん達居なくなったんだから、そっちに座れば?」

対面のソファの空席を指しながら穂乃香が直ぐ隣に座っている辰成の移動を促した。


「こっちに座ってたんだから今更いいよ。」

移動するのは面倒だと、穂乃香の提案を辰成は断った。

それを聞いて、狭いんだけど、とぶつぶつ言う穂乃香に取り合わず、彼は落ち着いた静かな声で言葉を発した。


「仲が良い人って言ってたからさ、てっきり新しい彼氏の事かと思ったよ。」

「彼氏かも知れないじゃない。私の言うそれが今ここで会った二人に限定して決めつけるの、おかしくない?」

穂乃香が冷たく言い放つ。


ここでこうして居る事が、穂乃香の発言が事実では無いと決定付けている様に思えて。

辰成は微かに笑みを浮かばせて、不機嫌そうな穂乃香の横顔を眺めた。








 林の道を抜けて舗装された道路に一歩踏み出そうとした時に、功は再び後ろを振り返り、暗くて見えない林の道の先を眺める。


「…。」

功は前に向き直ると静かに息を吐いて、家路へと再び足を進め始めた。








 河原に行く日がやってきた。

友喜は結局他の予定は入らなかったので有津世達と同行する事になった。


早朝、友喜と有津世は一緒にダイニングに立ち、母に多めに炊いてもらったご飯をよそっておにぎりを作る。


「ちょっとお兄ちゃん、そこ邪魔!」

「何だよ、狭いんだからさ、しょうがないでしょ。」

限られたスペースで自分の好きな具材を用意して数種類のおにぎりを作り、その横で母が鶏の唐揚げを揚げていた。


綺麗な三角とまではいかなかったが、二人は思い思いのおにぎりを作り終えて、母から唐揚げを貰う。


母のアドバイスでミニトマトも持って行く事にして、それぞれを大きめの弁当用バスケットに入れ込んだ。


おかずの種類少なくない?と母に聞かれたが、おにぎりの中身はバリエーション豊富だし、余ってもこの時期持って帰った後は食べられないから、確実に食べきれる量で良いんだ、と有津世が言った。お菓子も買い足すしね、と友喜が言葉を付け加えた。


お弁当を作り終えると、今度はそれぞれ身支度を始める。


河原だから、今日の友喜はパンツスタイルだ。

さらりとした綿素材で薄手のパンツに、ガーゼ素材の落ち着いた色調のチェックのシャツは日差しが避けられる様に敢えて長袖で、綿のニットのてろんとした白い帽子も用意した。


有津世はと言うといつもの服装と大差無かったし、敢えて言うのであれば今日有津世が選んだのは長袖のシャツだった。

自分が前に拾った飴色の小石を念の為自分の服のポケットに入れて、友喜から貰った水色の豪奢な装飾のノートはリュックサックの奥側に入れ込んだ。


二人は用意が出来ると、玄関を出て雨見が出てくるのを待った。


「あ、有津世、友喜ちゃん、おはよう。」

雨見も程無く玄関ドアから出てきて二人の前に揃い出た。


雨見のパンツスタイルは友喜のパンツスタイルの頻度よりも更に珍しい。

彼女は薄手で気持ちの良さそうな麻素材の、細かな目地で織り込まれた明るい色味のロングパンツに、リボンの絵柄がワンポイントに付いた紺色で長袖のゆったり目シルエットな夏向けのニットを着ていた。

頭には出発に先駆けていち早くストロー素材の帽子を一人被っており、それは雨見にとても良く似合っていた。


三人共足元はスニーカーで、川に行く準備は万全だ。


有津世が雨見の姿にでれっとしたのを横目で見て、


「雨見ちゃん、可愛い!」

友喜は言いながら兄にニヤつく。


「ありがとう。友喜ちゃんもそのパンツにシャツ、可愛い。何処の?」

雨見が興味を持って尋ねた。

友喜は、う~ん、何処のだろう、多分そんなに有名じゃない所のだよ、と答えて、三人は林の道を歩き始めた。


「お母さんがね、これしとけって。」

ヒバのエッセンシャルオイルで作った有津世達の母オリジナルの虫除けスプレーを友喜が取り出して見せた。


「あ、私も持ってる。」

雨見のは友喜が手にしている物より小さな容器で、その中身も雨見の母が天然素材のみで作った虫除けスプレーだ。


友喜と雨見が笑い合うと、二人はそれぞれスプレーを自分にかける。


「はい、お兄ちゃん。」

友喜がスプレーを有津世に手渡して、有津世も2、3回自分にスプレーを振り掛けた。



「お菓子、どうする?」

友喜が雨見と有津世に聞いて、

「駅の近くのコンビニエンスストアで見ようか。」

有津世が言い、二人は同意した。

「お茶は?飲み物持って来た?」

友喜が雨見に聞き、雨見は持って来たよ、と頷く。

私達も持って来た、と友喜が言い、有津世も友喜に頷いて見せた。


目的地の河原に行くのには家の最寄りの駅前から出ているバスに乗る。


河原方面行きのバスは本数が少なく、雨見は事前にバス停で時刻を調べており、帰りのバスの時刻もチェック済みだった。


「そこのお店でお菓子見ていく?」

駅に近づいてきた所で、雨見が有津世と友喜に提案する。


「いいよ。」

「じゃあ寄って行こう!」

三人はいそいそとコンビニエンスストアの店内に入り、自分達の食べたい種類のお菓子を見定める。


友喜はスナック菓子を見て、雨見はチョコレートを吟味し、有津世はナッツとかのおつまみ系をチェックした。

レジに並びながら有津世が手にした商品を見ると、


「お兄ちゃん、渋い。」

友喜が意外そうに言った。


「これこの前、晩酌でお父さんが食べててさ、貰って食べてみたら美味しかったんだよ。あれ、その時友喜も居なかった?」

「?」

「そしたらひょっとしたら丁度友喜が出掛けてた夜だったっけ。」

雨見が有津世の言葉に敏感に反応して尋ねてきた。


「友喜ちゃん、ひょっとしてデートに行ってたりしてたの?」

「デートと言うか…夜ご飯、ご馳走して貰ったの。」

友喜が功の手作りカレーライスをご馳走になった話をする。


雨見がその話を聞いて、顔を赤面させた。


「何で雨見が顔赤くなってるの?」

それに気付いた有津世が怪訝な表情になった。


「え、だってカレーでしょ?なんかもう、一緒に生活してる想像まで出来ちゃうシチュエーションって言うか…。」

雨見が夢見心地で言う。

それは自分達よりも一歩どころかもっとずっと先を行っている感じがして、友喜と功が一緒に居る姿を思い浮かべて雨見はうっとりとした。

対して有津世は思った。

自分はぎゃーぎゃー言いながら友喜とおにぎりを作るのがせいぜいだし、雨見の想像する対象、功との生活力の差は学生と社会人とだから当然あるし仕方が無い。


「…。」

有津世は面白く無いとでも言いたげな顔になってレジの方に向き直った。

友喜が有津世の態度を見てニヤニヤする。

そして雨見に耳打ちした。

雨見が友喜からの言葉に目を見開いて、前に向き直る有津世の顔を覗き見ようとした。


順にレジで会計を済ませて店の外に出る。


バス停の位置を雨見が指し示し、その場所に近づいて行く。

誰も居ないバス停に三人並ぶとバスの到着を待った。


調べた所によると河原へは、ここからバスで40分程かかる。



ようやく来たバスに三人は乗り込み、一番後ろの座席に横並びで座ると、外に流れる風景を楽しみながら三人お喋りをして過ごした。


乗車時間の3分の1を過ぎた辺りから急に山深くなる。

バスには有津世達の他には三、四人乗車していたが、有津世達の目的のバス停よりも手前で次々と下りてしまい、道のりの最後の方には有津世達三人の貸し切り状態となった。


様変わりしていく風景を窓に映しながら、バスは河原近くのバス停に停車した。



 バスから下りると、雨見が、待って、と二人に声を掛ける。

少し先にある反対方向のバス停の時刻を自分の予め調べていた時刻と照らし合わせて確認したいそうだ。

三人てくてくと反対側のバス停の前に来ると、雨見は自分のメモ帳を取り出してバス停に貼り出されている時刻表とを見比べた。


「うん、オッケー。」

雨見が納得して、自分のメモ帳をしまった。



目的地の河原へは今歩いている本道から小道に行く必要があるがバス停から少し歩くと人が一人通れる程度の隙間が垣根沿いに開いている。

そこを行けば河原へ通じる小道へと進む事が出来る。

バス通りからは確認しにくく有津世達が父と来た当時も今も知る人ぞ知る穴場みたいだ。


有津世は雨見や友喜よりも先に進むと、


「あっ、やっぱりこっちで良かったんだ。」

自分の記憶を辿り、歩いた先に河原の風景が見えてきて、安堵の言葉を口から漏らす。


「思ったよりもずっとこじんまりとした河原なんだね。」

「そうかも。」

感想を言った雨見に友喜が相槌を打つ。

周辺を見回した感じでは今日は自分達の他にこの場所に来ている人は居ない様だ。


木陰が保てそうな場所を選び、持って来たレジャーシートを有津世が広げるとその上にそれぞれの荷物を置いた。


友喜は早速川の様子を観察しに行く。

水の中を覗き込むと、透明で澄んだ水の中に魚が数匹泳いでいるのを確認出来た。


「気持ち良さそう…。」

友喜は川の水を触りたくなり、シャツの袖をまくると水面に手を伸ばし水の中へと手を入れた。


後からゆっくり歩いて来た有津世と雨見が友喜の様子に目を見合わせて笑う。


「水、気持ち良いよ!冷たい!」

友喜ははしゃいで、ばしゃばしゃと水面をかき回す。


「あんまりやると服濡れるよ。替え、持って来て無いでしょ。」

有津世に注意される。


「もし濡れても、この時期ならきっと帰りまでに渇くよ。」

友喜は至って平気そうだ。

雨見が二人のやり取りを見て朗らかに笑った。


そして二人から視線を外すと、雨見は足元に落ちている河原の石を眺め始める。




 河原にしては随分と川幅の狭いその場所は石の転がっている箇所が割と少ない方で、雨見が河原と聞いて思い浮かべるただっぴろい河原とは趣を異とするものだった。


雨見はふと木々の立ち生える対岸の斜面の上方を眺めた。

瞬間、山の斜面を下りる誰かの視点が雨見の知覚に入り込んできた。


雨見は我に返ると、今見ていたと思われる情景を視線の遠く先に見つけて呆ける。

落ち葉の降り積もったままのその場所は他に何があると言う訳でも無く静けさを保っていた。

雨見は山の斜面から視線を外すと、こちら側から見た限りでは木々が鬱蒼と生えている上流の方向へと足を延ばし始めた。


友喜が気付いて、


「…お兄ちゃん、雨見ちゃんどんどんあっちに行っちゃう。良いの?」

有津世に聞いてきた。


「あ、本当だ。雨見、あんまり一人で離れた所に行くの、危ないって。」

聞かずになのか聞こえていないのか先に進み続ける雨見を有津世は追って足場の悪い中を走り始め、友喜も水面から腕を引き上げ有津世の後をぴょこぴょこついて行った。








 6階建ての小ぶりなビルの4階部分。

会社のいくつか区切られたパーテーションの一室で会議と言うよりもくだけた形での小規模な話し合いの中で功が発言をしている。

傍でその意見を聞いている他の社員がたまに功の意見に賛同し、その場面での功は生き生きと映った。


話し合いを終えてひと区切りついた所で功は入り口の観葉植物ノーリの前に来てパイプ椅子を引っ張り出して座る。


ノーリは今日も功に対して煌びやかに光って答えて見せた。


時を同じくしてひと息入れようと入り口に来た則陽が功を見つけると、自分もパイプ椅子を持ち出して隣に座った。


「次の土曜日あちらのオフィスに来ます?」

則陽が功に尋ねた。


「ん、分かんね。」

曖昧な返事をして、則陽が肩をすくめるのを誘った。


「まあ、どっちでもいいですけど…。この前、初めて功以外で実際にあのオフィスで作業をしている人と話しましたよ。」

功は顔を上げて則陽の話の続きを聞く。


「立木さん…ほら、うちの梨乃が勤めている会社の同僚の女性。彼女も実はあのオフィスに通っていたのが分かったんです。」

則陽は事の経緯を功に話して聞かせた。



「…それで、成り行きで彼女の知り合い…彼女の元彼も交えて一緒に食事をしたんですよ。」

「ふうん…。何か、意外だな。」

功の言った意味には二つの意味が込められていて、ひとつには則陽がそういった状況に対応し得る機転を持つ事に、もうひとつには穂乃香のキャラクターと副業のオフィスの作業内容とはイメージが結びつかない事に関してだった。


「それと彼女の元彼か。則陽が前から知ってる顔だったのか?」

功の問いに関して、則陽は若干の苦笑いをする。


「副業オフィスに行く時は何も…それこそ何処に誰が座って居るのかなんて気にもしていないですから、覚えなんて無かったですよ。…」

そう言いながら、穂乃香の元彼との対面時に覚えた既視感に矛盾を感じた。


「どうした?」

功が則陽の様子を見て問いかける。


「あ、いや…。」

則陽は眉をひそめて考えるも、小首を傾げると視線を巡らせて静かに息を吐く。


「自分の記憶に違和感があったものですから。」

へ?という顔を功が見せる。

記憶と聞いて真っ先に思い出すのは友喜の事だ。

まさか則陽までそういった現象に踊らされているのかと一瞬思い、それは無いかと一拍後には考え直した。


「良いけどよ。疲れてるんだったら、ちょっとは休めよ。」

聞けば則陽はこの所の平日、本業のこの仕事が終わった後に割と立て続けに副業のオフィスにも立ち寄っているそうじゃないか。

ゆっくりとは何か、と、功に早食いを指摘し注意した事のある則陽に対して逆にこちらから問いかけたいものだ。


「気遣いをありがとうございます。でも大丈夫ですよ。楽しいですから。」

根っからのコンピュータ好きの則陽の答えに、功は呆れて嘆息する。

そして軽く何度か頷いて、それが則陽だよな、と自身に納得させた。








 山奥の神社。

今日も祖父は瞑想をしていて、ノリコは同じ空間の端の小さな勉強用の座卓で写本をしていた。


ふと何かを感じて、ノリコはポケットから綺麗な透明の小石を取り出して見た。

胸に下げている形の変わった石をもう片方の手で握ると、座卓から立ち上がり靴を履いて外に出た。


お気に入りの道なき道の山の斜面を身軽に下って行くと、小川の端に転がる石達がざわついているのをノリコは感じた。


「皆、どうしたの?」

ノリコは不思議に思い、石達を眺める。


小川の淵にしゃがみ込んでノリコが石に話し掛けていると、川の流れの先の、日の光がさんさんと降り注ぐ開けた所から、木々が繁茂して鬱蒼としたこちら側に歩いて来る人影を見つけた。


「お星様…。」


ノリコは呟いた。


あの地に降り立ったお星様がここに居る。

彼女は確かにその印をたずさえていて、ノリコは敬虔けいけんな気持ちになった。


その後から急ぎ足で彼女を追いかけてくる別の二人の姿もノリコは見とめた。


その二人も最初に見かけた彼女と同様に緑の地に降り立ったお星様だと思ったし、このタイミングで彼等を目にする事の意味を考えた。

石達のざわつきはきっと彼等の訪問を受けての事だ。

ノリコはもう一度、自分のポケットの中の石を取り出して見る。


石を手にしながら、ノリコは注意深く彼等の動向を見守った。

この場所への訪問者自体がとても珍しいので、それにも少し感動の気持ちを覚えながら。


きらきらと輝く石達が足元でざわつく中でノリコはしゃがみ込んだまま、こちらに徐々に近づいて来る三人を眺めていた。





 さわさわと水の流れが耳に心地良い、鬱蒼とした木陰の中に雨見は一歩足を踏み入れる。

この場所に入った辺りから川幅は更に極端に狭まり、もはや河原という言葉は相応しく無い情景となっている。

ふと目にした先に、きらきらと光り輝いているものを見つけると、雨見は思わず歩みを速めてその場所に近寄って行こうとした。


と、その時だ。

地響きの様に低い笛の様な音がズーンと足元から振動と共に鳴り響いた気がした。

確かそれは、ツァーム達の世界で石碑の外へと初めて一歩を踏み出した時に聞こえたものと同様のものである気がして。

それは後から続く有津世と友喜にも体感として感じられた。


「何この振動。地震?それにこの音…町内放送か何か?」

「なんか…この感覚、覚えが…。」

有津世は友喜の問いに首を傾げ、自身の記憶の片隅を探る様に呟く。


雨見が後ろを振り返り、有津世と友喜が雨見に追いつこうと後からやって来るのに気付いた。


「ねえ、有津世。今、あの時の音が聞こえなかった?ツァーム達が石碑の外側に初めて足を踏み出した時に一回だけ聞こえたあの…。」

「…それだ!それと同じだったんだ。何でそれがこの場所で…?」

雨見と有津世の会話に、きっと今のは町内放送じゃなかったのかも…、と友喜は思った。


雨見と有津世は目を見合わせると辺りに気を配る。


「あそこで何かがきらきら光っていたから気になって…。」

雨見が指し示した先をよく見ると、そこは綺麗な小石が何個も転がっている密集地帯だった。


「石だ!」

友喜が目を輝かせて雨見と有津世の脇から飛び出してその場に駆け寄った。



「うわあ…。ねえ、二人共来て来て!綺麗じゃない?こんなの初めて見たよ!」

雨見と有津世も友喜の後からその場へ近づいて行き、足元に転がる数々の石を眺める。


「へえ…。有津世の持っている石と少し似てるね。もしかしたらここから流れ着いたのを有津世は拾ったのかなあ。」

「そうかも知れない。」

雨見の言葉に同意し、有津世が自分のポケットに入れて持って来た飴色の石を取り出して見ると、自分の体温に温められたその石はほんのり温かかった。



「…これ、お土産に貰って行っても良いと思う?」

「良いんじゃないかな。」

有津世が友喜に答えると、友喜が指折り数を数えた。



「そんなに要るの?」

「だってさ、功お兄ちゃんになっちんでしょ、梨乃さんに奈巣野さんの分、自分のも入れると少なくとも5つは欲しいんだもん。」

「…なるほど。」


石の転がる地面を見つめて、ざっと見て200個は軽くありそうだなと有津世は思った。


友喜はいそいそと石を選び始める。

それを見て雨見も選びたそうに足元の石を眺めると友喜と一緒にその場にしゃがみ込んで石をひとつひとつ手に取り吟味し始めた。


ふと同じ様な目線で、だけれど視点が少しずれた景色が雨見の胸の内に飛び込む。


「?」

雨見はきょろきょろと周りを見回して小首を傾げてから息をつき、再び地面の小石に目をやりながら口を開く。



「ねえ、なんかここって空気が軽く感じない?」

「…確かに…。」

「うん、そうかも。なんか分かる。」

着いたばかりの河原付近も空気は良かったけれど、こちらは格段に気持ちの良い空気が流れているのを感じた。


じゃあさ、こっち側でお昼食べる?との有津世の声に雨見と友喜は賛成して、リュックサックを取りに行くために三人はその場を一旦後にした。


文の言い回しの修正を数か所で行いました。(2026年1月16日)

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