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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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望んだ先へ

挿絵(By みてみん)









~第七章 望んだ先へ



 住宅街の一角。

自宅リビングで、なつは一人お茶を飲んで和んでいた。


お兄ちゃんと友喜、上手く行ったかな…。


兄、功が友喜の両親に挨拶をしに行くと聞いて、なつは腰を抜かすかと思うほどびっくりしたけれど、功の性格故にそうせずにはいられなかったんだろうなと感じる。


兄はああいう外見でも中身は馬鹿が付く程の大真面目だ。

なつは功を想い、微かに頬を緩ませた。


テーブルに肘をついて両手指を何と無しに交差させ顎をその上に載せた時に、今までずっと右腕に着けていたはずのミサンガがテーブルを僅かに逸れて、床に敷いてあるカーペットの上にはらりと落ちた。








 林の道。

功と友喜のくちづけはなかなか終わらなくて、その度に互いの吐息が漏れる。


片手で触れていたのを、もう片方の手も添えて友喜の頬を両手で包み込み、更に優しいくちづけを何度か繰り返すと、頬に手を添えたまま、そっと唇を離した。

柔らかな友喜の頬の感触を確かめながら、その輪郭を手指でなぞる。


至近距離で見つめ合う目と目が、本当はまだこの交わりを続けていたいんだと互いに訴えかけていたけれど、その気持ちを何とか静める様に功は今回も大きく息をつく。そして何とか気持ちを落ち着かせた風に振舞うと、


「…じゃあ、…行くか。ずっとここでこうしてても、誰か来るかも知れないしな。」

そう言って友喜に向かって優しく笑う。

友喜は目を潤ませながらも功の発言に頬を緩ませて、静かに頷いた。








 林の奥の二棟の家。

二つの家の屋根の上を、爽やかな風が通り抜ける。 


手前側の有津世達の家では、つい先程まで功が来ていた事で家の中の空気はまだ少し色めきだっていた。


父と母はその事でまだまだ歓談していたい様だったが、俺はひと息入れるとダイニングで自分の分の紅茶を淹れ、マグカップ片手に2階の自分の部屋へと退散する所だった。


廊下に行こうとする所で父に呼び止められる。


「有津世。有津世にとっても良いお手本になっただろ。」

父が明るい表情で感心した様に言った。


「…うん。そうだね。」

俺もいつかきっと…。

雨見を思い浮かべて微かに口角を上げる。

あんな恰好良く行くとは限らないけれど。


功のあれは、紛れも無い公開プロポーズだったのだから。

友喜は余程びっくりしたんだろう、彼女は終始拍子抜けした表情をしていた。


両親を見ると、二人はまだ楽しそうに余韻に浸っている。

有津世はその様子を確認すると、口の端を上げて自分の部屋へと戻って行った。







 吉葉家に着くと、なつがにこにこ顔で功と友喜を迎え入れてくれた。


もう時刻はお昼近かったので、三人で何を食べるかを話し合い、今日は外に食べに行く事にした。

行った先は、なつと功がたまに行くと言う住宅街近くの中華飯店だ。


友喜はその店に入った事は今まで無かったけれど、選んで食べてみたラーメンは美味しかったし、三人でわいわいがやがや外の店で過ごせたのもなんだか楽しかった。


食べ終わって少しお腹を落ち着かせた後、中華飯店を出るとその足で図書館に向かい始めた。


図書館へ続く道は途中から遊歩道になっており、綺麗なレンガ敷きの道を三人は横並びになって歩く。

なつは隣の友喜と友喜の隣を歩く功の二人をまじまじと眺めて、つい鼻歌を歌いたくなる衝動に駆られる。

今日は快晴で、天気もなつの心を映しているかの様に清々しい陽気だった。






 


 都内アパート。


今日は例にもれず午後は副業のオフィスに則陽は行くとの事で、二人は外で昼食を摂り、梨乃だけ先にアパートへと帰って来た。


部屋に入り、鞄を置いて落ち着くと、先ずは自分のデスクトップコンピュータの電源を入れる。


後ろを振り返り、ゲーム機の横に飾ってある陶器製の小さな犬の置物、のりすけを持ち上げるとすりすりと頭を撫でる。

のりすけの姿をのんびりと眺めて頬を緩めると、置いてあった元の場所にのりすけを丁寧に戻した。

コンピュータのモニター画面に視線を戻すと、画面が処理途中で停滞しているかの様子だ。



梨乃は飲み物を用意しておこうとダイニングに行ききょろきょろと見回すと、ハーブティーのティーバッグがあるのを思い出して棚からその箱を取り出す。


季節は暑くなってきていたけれど、温かい飲み物がこのところの梨乃の流行りだ。

大きめのマグカップを選んで、ティーバッグを袋から取り出すと鼻に近づけて香りを嗅いだ。

梨乃は上機嫌になりながら、ティーバッグをマグカップに入れた。


ポットにお湯が入っているかを確認してみると残り少ないみたいだ。

沸かし直した方が良いかも。

ポットは電気式じゃなくてコンセント無しの保温タイプだったから、コンロに置いてあるやかんに水を入れて火をつける。


ダイニングテーブルの椅子を引いて座ると、やかんのお湯が沸くまでの間を何と無く見守る。

お湯が沸いて、やかんから直接マグカップにお湯を注ぐと残りのお湯をポットに入れた。


熱々のハーブティーを淹れたマグカップを手にしてデスクトップコンピュータの前に戻る。


「…?」

モニター画面の動きは停滞していて、起動までに至っていない。

梨乃は小首を傾げて、テレビ前の小さなソファに腰掛けた。








 図書館に着いた功達三人は自動ドアの入り口を通り中へと足を運ぶ。

館内には土曜日の昼間のこの時間、結構人が入っていた。

なつは自分の見たいコーナーがあるからと言い残し、功と友喜から離れて先にすたすたと歩いて行ってしまう。


二人はなつの後ろ姿を目で追い、功は視線を隣の友喜に移すと顔を覗き込む様にして話し掛ける。


「今日、授業して無かっただろ?そういう感じの本、探してみないか?」

「…うん。」

友喜は功を見てほんのり頬を染めて頷くと、二人は入り口に入って直ぐにある館内案内図を眺め、本の配置を大まかに把握して、お目当てのジャンルの本が置いてありそうな棚の位置まで移動した。




 「あ、ここか。」

功と友喜はそれっぽい題名の本の羅列した棚を見つけてその前に陣取る。


「どれにするかな。」

功が友喜にだけ聞こえる様に話すと、棚に視線を移して気になった本を手に取り、内容を簡単に確かめた。


密室では無いのだけれど、今ここには他の人は居なくて、棚と棚との間隔は少し狭くて自分達の背後には後ろの棚が迫っている。そんな中、功が自分だけに聞こえるトーンで喋るものだから、なんだか特別な空間に自分達が居る気がして友喜は気持ちが沸き立った。


「おっ、これなんか結構良いんじゃないかな。」

分厚く大きめのその本は、全てのページの縁が銀色に塗られていて雰囲気も他のものと少し違って見えた。


「この本を一緒に見ないか?」

功が手に本を抱えながら友喜に見せ、


「え、ひとつの本を二人で見るの?」

友喜が囁き声で功に聞く。


「うん。別々の本を読むのでも良いけれど、ひとつの本を一緒に眺めるのも良いんじゃないかと思ってさ。」

友喜が囁き声で喋ったのを真似て功が耳元で友喜に囁き返す。直後、友喜の頬は一気に上気する。

友喜が頬を赤らめて真面目くさった様な顔で頷いたのを見て、功は思わず笑みがこぼれる。


本を持ち出した棚から一番近くの4人掛け用デスクが丸々空いていて、功と友喜はその傍らに座る事にした。


なつはその内来るだろうと功は言い、友喜が左側に座ったのを見ると、隣にある右側の椅子をだいぶ友喜側に寄せて座った。

朝の自宅リビングのソファでの一幕を思い出し、友喜は目を見張る。

これからはこの距離なのだろうか。友喜は頬がまた紅潮したのを感じた。


「ひとつの本、二人で一緒に見るからさ、これくらい近い方が良いだろ?」

功はまた友喜にだけ聞こえる様に言い、楽しそうに笑った。



 功が自分達の目の前に置いたその本の表紙には、蔓と花の絵が本の縁を囲んで描かれていて、その所々には座っている妖精や傍を飛び交う妖精が銀色の影の形で表現されている。

功が表紙をめくると、中には美しい姿の妖精の絵が繊細なタッチで描かれており、絵の脇には説明文が細かな字で記載されていた。


二人で頭を寄せ合いそのページを覗く。

ともすれば頭がぶつかってしまいそうなくらいの近さで、友喜は本を読みながらもその距離感にどきどきした。

それでも友喜は本の世界へと徐々に惹き込まれていく。








 森の近くの草原でツァームとアミュラが座り、アミュラは膝の上にぽわぽわを抱き抱えている。

たまに淡く光る半分透き通ったその姿を見て、アミュラは嬉しそうに穏やかな笑みを見せた。

そろそろ入って貰おうかなと、ミジェルが入っているのと反対側の袖の中にぽわぽわをしまい込むと、のんびりと草原を眺めているツァームに話し掛けた。


「またあの石碑の前に行くの?」

「うん、行くよ。アミュラも一緒に行くかい?」

ゆるゆるとアミュラは首を振る。


「今日の分の花冠がまだだから、もう一度あの場所に戻って作成するの。」

「じゃあ僕が連れて行って上げるよ…何だい?」

今まで少し離れた場所で草を食んでいた一角獣が、ツァームとアミュラの後ろから来てアミュラ達の顔に自分の顔を近づけた。


「君が、アミュラを連れて行ってくれるのかい?」

あの場所は先程記憶したのでツァームのテレポートでの移動も可能になった。テレポートなら一瞬なのだけど、どうやら一角獣はアミュラを自分の背に乗せたいらしい。


「どうする?アミュラの事を気に入っているみたいだけど…。」

ツァームの問いに、アミュラはにこりと笑って答える。


「それなら…お願いしようかな。」

アミュラが立ち上がって一角獣の方に振り返り背へ近づく。すると互いの光が干渉し合い、光がアミュラと一角獣とを行き来した様にきらめいた。


「あんまり早いのは怖いから、ゆっくりでお願いして良い?」

一角獣が静かにアミュラの言葉を聞き、その目で分かったと伝えてくる。


「そうしてくれるみたいだ。じゃあ、アミュラも君も、気を付けて。」

アミュラと一角獣に優しい眼差しと言葉を添えるツァームにアミュラは微笑んで見せる。


「うん、分かった。じゃあ行ってくるね。」


アミュラがふわりと一角獣の背に乗ると、一角獣は圧倒的な熱量を辺りに放ち始める。

首を回してアミュラの方を見てから前に向き直り、軽やかに足を動かし始めた。

辺りにきらきらと光りをこぼしながらアミュラを乗せた一角獣は前へと進み、森の入り口に向かって行くのをツァームは穏やかな表情で見守った。








 先進的なデザインの図書館の館内。


「…お兄ちゃん。」

席に座る功達を見つけたなつは、自分の選んだ本を手にしながらも少し困惑した表情を見せる。


「何それ、どういう状態?」

横並びに密着して座り、功の着ていたジャケットを二人して羽織りながら功の肩にもたれかかっている友喜を見る。


「いや…なんかさ、突然寝ちゃって…。」

クーラーの効いている図書館の中で寝るには少し寒いだろうと、功は自分のジャケットを一旦脱いで、広げた半分を友喜の肩へと被せた。友喜だけに掛けようと最初はしてみたけれど、なんせこちらに寄り過ぎて上手く掛けられなかったので自分の肩にも掛けてバランスを取った形だ。


「ふぅん…。」

功の話を聞くと、正面の椅子を引いて席に座る。


…挨拶に行った途端に、堂々としちゃってさ、全くもう…。なつは軽く息をつき、微笑みながら持って来た本を開く。


なつの頭の中では、既に二人への祝いの鐘が鳴り響き、その音が高らかに聞こえる様だった。








 都内アパート。

熱々のハーブティ―を少しずつ飲んで、飲みやすい温度になった今も一向に梨乃のデスクトップコンピュータは起動まで辿り着かない。


うだうだしている所にゲーム機の電源が勝手に入り、クリスタルの回る映像と共にツピエルがテレビ画面に映り込む。

画面の外にあるコンピュータの様子をツピエルが画面の中から覗いてみて、梨乃に話し掛けた。


「あれま、寿命かしらね。」

「ツピエル…。ツピエルもそう思う?」

今まで大切に扱っていたんだけどな、と、梨乃は残念そうに言う。


「しょうがないわね。まっ、こっちをやってみたら良いじゃないの。」

自分の隣にあるクリスタルを差してツピエルが言う。


「そうだね…。」

梨乃はマグカップをデスクトップコンピュータの脇に置くと、ゲーム機のコントローラーを握ってクリスタルにカーソルを合わせ、Aボタンを押した。







 石碑近くの草原に、梨乃が舞い降りる。

ここは確か一回来た事のある、もう一人の友喜達の居る場所だ。


梨乃が辺りを見回すと、やはりそこには今現在の友喜の姿よりも小さい友喜と、幼いキャルユの姿があった。  


「あ、見た事のあるおねえちゃん!」

キャルユが喜び勇んで寄って来る。


「また来てくれてありがとう!一緒に座ろう!」

梨乃の腕を引っ張り、意気揚々と告げる。梨乃はそれに応じて、一緒に草原の地べたに座った。


「ねえ、あのお姉ちゃんは、一体何をしているの?」

梨乃が来た事に関知せず、小さな姿の友喜は石碑の前に立ち何かをし続けている事に疑問を感じ、梨乃がキャルユに聞いてみる。


「あれね、お仕事。お仕事の時は、話し掛けてもきっと何も聞こえていないの。」

キャルユが言う。


「そうなの…。」

梨乃がそれを聞いて頷くと、キャルユの顔を改めて見る。


あの石碑の前に居る友喜ちゃんを更に幼くするともしかしたらこんな感じなのかな。

何と無く友喜と被る雰囲気に、梨乃は幼いキャルユの顔を見ながら考えた。


「あなたはお仕事ってあるの?」

梨乃が聞いてみる。


「うん、あるよ!」

「あるんだ。…どういうお仕事?」

「それはね…、…光を戻すお仕事…。」

途中から呟く様な口調になると、キャルユが眩く発光する。


幼かったキャルユの姿が、その光の中で一瞬で今の友喜と変わらぬ背丈となり友喜と瓜二つの顔に変貌したのを目の当たりにして梨乃は息を呑んだ。

思わず立ち上がって目を見張り、驚きながらも梨乃は彼女に聞く。


「………何が起きたの?」

「戻れたの、ようやく。」

柔らかい微笑みを見せながらキャルユは梨乃に言った。


「戻れた…?」

キャルユが梨乃に頷く。


「私は、これで万全の活動が出来るわ。……そう言えばあなたの事、いつか見えた事があるわ…。」

「私が見えた…?」

「そう、小さな箱、箱を見つめていて…そう、文字だわ。文字をあなたが見ていたの。」

「…?」

梨乃はキャルユが何を言っているのか、頬に手を当て考えてみた。


「…メール?」

「メール…多分そうだわ。私、何度か、あなたの表情を確認しに来たもの。」








 本の棚が整然と並んでいる脇の、4人掛けのデスクに功達三人の姿がある。

なつは眠り続ける友喜を見て功に話し掛けた。


「ねえお兄ちゃん、挨拶中は友喜、何とも無かったの?」

「ん?ああ。特には…。友喜ちゃん自身のままだったよ。」

功が思い返して言う。


「プロポーズの言葉、言った時も?」

なつが唐突に聞く。


「プッ…、プロポーズ…。」

途端に赤面になり、片手のひらで頬から下を覆い、俯きがちになりながらもなつの問いに答える。


「………ああ。その時も大丈夫だった、と思う…。」

「…。」

なつはその反応を見て冷静なままに、でもまあ、友喜の事だから、念には念を入れて確認した方が良いかもね、と付け加える。

なつの言葉に、ああ、と答え、自分の肩にもたれかかって眠る友喜を見つめた。


友喜の寝顔に功が微かに頬を緩めていると、なつが友喜と功の目の前に見開きにしている本の様子に気付く。


「お兄ちゃん、その本…。」

「ああ。綺麗だよな…。」

開いた本のページからは、金粉の様な光が辺りの空間に向けて時折噴出しており、功となつの二人にはその様子がありありとその目に映っていた。








 「メールで?友喜ちゃんとメールのやり取りをしていた時?」

梨乃が頬に手を当て、考えながら思い当たる節を聞いてみた。


石碑近くの草原。

梨乃は石碑の前で未だに梨乃に関知せずに何かを黙々と行っている小さな姿の友喜と、一瞬にして成長した姿になったキャルユを目の前にしていた。




キャルユは今しがたの梨乃の質問に嬉しそうに頷き、ええ、それよ、と頷いて梨乃に答える。



「私あの時、あなたが心配だったんだわ。だから何度もあなたの様子を見に行ったの。何度か箱の中から、あなたの顔を覗いたわ…。」

梨乃が友喜と頻繁にメールを交わしていた時の事を思い出す。

あの時の友喜は、確かに梨乃をとても気遣って、梨乃の身を随分と案じている様だった。


「あのメールをくれたのも、もしかしたらあなたの方なの?」

別の星の人格が被っていた事で、友喜が有津世の事を想い苦しんでいたのと同時期だ。

ひょっとしたらと思い、梨乃はキャルユに尋ねてみた。


「ええ。私だわ。私は…あなたの気持ちがあの時すごく良く分かったから…。」

微かに寂しそうな表情を見せ、キャルユは梨乃に告げる。


「あなた……もしかしたら今でも…。」

「そうね。私はずっと…彼を愛しているわ。」

それを聞いて、梨乃は今までの見張っていた目の力が緩み、憂いを帯びた表情になった。


「でもあなたは、こっちの世界では…。」

「ええ。分かっているわ。それに彼女自身もそれ以上は望まなかった…。」

「………どういう事?」

梨乃が聞く。


「彼女が…少しずつ自分を取り戻している。その中で、私は彼女の創作だったのだと、彼女は何処かで気付いているわ。」

「…創作?」

「ええ。私は、彼女が作ったものだから…。命である事には違いないわ。それでも…少しだけ彼女とは違う部分があるのよ…。」








 緑の色が重なり合う星。


森の中の小さな切り株の場所に着いたアミュラは一角獣に礼を言って、背から軽やかに飛び下りた。


「どうしようかな。これから磁界をかけるのだけれど、あなたもその中の方が良いのかな。それとも…。」

アミュラが迷っていると、一角獣は数歩後ろへと下がる。

どうやら磁界の中には入らないといった意思表示だ。


「わかった。じゃあちょっと…行ってくるね。」

一角獣の方を見てにこりと微笑むと、アミュラは自分だけ前へ進んで小さな切り株の一角に腕を柔らかに振りかざし、いつもの様に磁界をかける。

光のカーテンを掛けた様に、その瞬間煌びやかな光の膜が出来て、直後まるでその場所が始めから無かったかの如く空間そのものが抜け落ちて見えた。


一角獣はその様子を見守り、頭を下げると近くの草を食み始めた。








 頭と肩が温かい。

ほんのりと、好きな香りがする。


顔と顔とを近づけた時に感じるあの香りだ。

大切に想う、その香り。

自分は今それに包まれている。そう感じながら…、

友喜は目を覚ました。


尚も感じるその香りに、友喜は自分のもたれかかっていた肩の先に振り返り、顔を見上げる。


「おっ、友喜ちゃん。目が覚めたか。…おはよう。」

功が友喜の顔を覗き込んで優しい笑顔と共に言う。


「…。」

友喜は功の顔を前にして、ぼうっとしながらもその表情に見惚れる。


「…。」

そして尚も発せられている、功の気の温かさを味わう。

なつが友喜を見て、功と顔を見合わせた。


「…友喜?」

友喜がなつの声に気付いて、屈託の無い笑顔をなつに向けた。




 「おっ!?」

次の瞬間、功が思わず声を上げてしまったのは、突然友喜から何か透明がかった白色の光の玉が姿を見せて、すぽんと音が鳴るかの様に勢い良く友喜の体から抜け出ると、目の前に広げてある本の中へと吸い込まれて入ったのを目撃したからだ。


なつにも見えていたらしく、二人はその瞬間目をぱちくりと瞬かせて友喜と本とを見比べた。



「…?」

視線が集中しているのを感じて友喜が二人に交互に顔を向ける。


「あれ…?」

今ここに居る記憶が定まらなくて、ゆっくりと思考を巡らせる。

…あ、ここ、図書館…。


自分の肩を見ると、功のジャケットが掛かっている。

友喜は功の顔を見た。


拍子抜けをしていた功が、小首を傾げてから軽く微笑むと、


「今度こそお目覚めかな、…おはよう、友喜ちゃん。」

友喜に優しく声を掛けた。


 

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