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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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訪問

挿絵(By みてみん)










 住宅街の一角。

吉葉家のリビングでは、功が作ったうどんをなつが食べていて、先に食べ終わった功がなつを眺めながらのんびりと過ごしていた。


「お兄ちゃん、今日も副業のオフィス行くの?」

「…ああ。そのつもりだよ。」

「ふ~ん。仕事熱心だね。」

なつがうどんの器から顔を上げて功を見ながら言う。


「ま、来週は行かないしな。図書館、行く約束したろ?」

「うん。」

なつが続けてうどんの麺を箸で掴んで口に運ぶ。


「あ、それとさ、なつ、来週の午前中なんだけど…」

功がなつに話を持ち掛ける。

なつは思わず、


「えっ!」

トーンの低い声音で驚くのと同時に掴んでいたうどんが箸から滑り落ちた。

功はなつのその様子を見ながらも、淡々と自分の話を聞かせた。








 林の奥の二棟の家。


手前側の家の、夜は淡い色合いの照明で印象的な有津世の部屋で、机に向かってラップトップコンピュータの画面を注視しながら何かを打ち込んでいる有津世の姿がある。


手元には小さな紙きれがあって、そこに殴り書きの様に記入されているのはメールアドレスだ。

入力したものと手元のメモを見比べて、チェックを済ますと有津世は本文を入力する。


短い文章でまとめると、それを読み返して送信ボタンを押した。




 ブラウザを開いて、別のページをチェックしていると程無く返信メールが届いた。

有津世はその内容を読んで、また短くメールを返す。

そして一旦ラップトップコンピュータの画面を閉じると、自分の部屋から出て、1階へ下りていく。

階段の途中で、ふと立ち止まって2階の友喜の部屋のドアを見る。

何かを考えながら、有津世は階段を下りて行った。








 いつものカフェのいつものテラス席。


青々とした空が垣間見えるその席で友喜は雲を眺め、なつは友喜を凝視する。


「何、何なのなっちん。昨日から何か変!」

昨日の学校の休み時間の時も同じ風に見てきて、今も自分を凝視してくるなつに、友喜が文句を言う。


「また何か…新たに変なおまけでも付いた?」

自分の体を見回して、友喜が恐る恐る聞いてきた。

変なおまけとは、多分黄緑色のもやの事や糸の様な光の筋みたいなものの事を言っているのだと思う。


「…そうじゃないけどさ、…。」

なつが後半彼女自身にしか聞こえない音量で呟く。


「だったら何よ。」

友喜が頬を膨らます。


「何かこっちまで落ち着かないよ!」


「何を言ってるの、なっちん。私は落ち着いているけど?…変なの。」

興奮気味に言うなつに対して不思議そうに友喜が返した。

何の事だかちっとも分からない友喜はため息をつきながら、功にひと目会う時間を待ちわびた。





 林の道。

今日はと言うか、昨日からだけど、なつはずっと自分に対しておかしな態度だったし、功はあの後来てくれたけれど、何だか素っ気無くて、友喜の期待していた態度とはだいぶ違ったから、友喜はそれを思いながら嘆息しつつ、家への道を歩いていた。



本当はもっと目を見て話したいよ。

何で。どうしてかな。


優しいのは優しいけれど微笑んだ後に直ぐに逸らされてしまう視線が辛くって。

告白…嘘だったのかな…。優しい嘘…。

それとも…。

チラチラと小さく瞬く星空を見て、友喜は綺麗な目を僅かに潤ませた。








 学校の廊下で、なつが元気良く友喜に話し掛ける。


「友喜っ!良い天気だね。」

まるで語尾に音符が付きそうな上機嫌だ。

まだそのテンションなのね、と友喜が小さくため息をつく。


「もうなっちん、一体何なの?」

「うん。どきどきする気持ちからさ、テンション上がる事ってあるよね。」

なつはいつもよりも、本人が言う通りテンションが高めだ。いつもはもっと友喜よりもずっと大人っぽいのに。


「もしかしたら、誰かから愛の告白でもされたの?」

友喜がいぶかしんで聞く。


「まあそれを聞いたと言うか、何と言うか…。」

そう言ってニマっと笑う。

友喜がなつの表情を見て渋い顔をして、


「なっちん、モテるもんね。」

「うん。そうだね。」

なつは否定をしない。

友喜はそれを聞いて思わずなつに振り返る。


「え、オッケーしたの?」

なつが聞き流そうとして、


「えっ、誰によ?」

「え、だから告白…」

「何の話?」

「なっちんが誰かから告白されて、それに答える事にしたって話じゃないの?」

「は?」

「は?」

誤解をそのままにしようとしたが、随分と話がずれた様だ。


「まあ、告白はされるけどお、別にさ、今は誰とも付き合わないよ。」

「何で?」

友喜が聞く。


「う~ん、だって、あたし前に自分の好み、友喜に伝えたでしょう?」

「うん。」

「だから。」

「…。」

友喜が考え込んで、


「えっ、年上じゃないから?」

なつが揚々と首を縦に動かす。


「それさあ…功お兄ちゃんが年上だからじゃないの?」

それが影響してるんじゃない?そしたら…友喜は続ける。


「なっちんやっぱり私と同じじゃ~ん!」

友喜の有津世に対する特別扱いとやっぱり変わらない、と友喜は主張する。


「それとは、別!別なの!あたしのは、お兄ちゃんとは関係無い所で、そういう好みなの!」

なつはあくまでもそう言い張って、決して友喜に譲ろうとしない。

友喜はそんななつを横目で見る。

なんだ、結局そういう所は大して変わらないんだ、友喜は勝手にそう思った。


「分からないでも、無いけどね~。」

友喜が顔色を明るくして、なつにぽろりと言う。

なつは目を丸くしながら、ふうっと息を吐いた。







 林の道。

友喜は今日は作戦会議に出る事にした。


なつはテンションがおかしかったし、功はきっと、会ってもまた同じ調子なんだろうなと思ったから、同じそれを味わうよりは、家に帰った方がマシだと思った。

とぼとぼと歩いていると、道の脇から歌声が聞こえる。


「ふ~ん、ふふ~ん。今日のお茶は…レディにいつか教えて貰ったダブルホワイトラテよ~!もうこれだけでスイーツ!」

何やら楽し気だ。


友喜はその様子が何処から聞こえてくるのかを確かめようと、恐る恐る周辺を覗いてみる。


声のした辺りを見るとそこには割と立派なきのこに、ほんわか明かりが内側から照らされている様に見えて、もう少し観察をしていると、きのこの軸に小さな窓が出来た。


「あら、小娘。あなた久し振りじゃない。」

「!!」

友喜がぎょっとなる。

それでも前みたいには叫ばずに、窓から顔を覗かせるツピエルの姿に、友喜は慣れる様にと2、3回、深呼吸をした。

なんせこの前の雨見の壮大で稚拙な嘘の後に、雨見と有津世から、ツピエル、話せるようになったからさ、うちにも来て欲しいからあまり怖がらないで欲しいんだ、とお願いされたからだ。


「あ~うん。ツピエル、こんにちは。」

何処から声を出すのか、友喜はいつもよりもぐっと低い声でツピエルに答えた。


雨見が、


「こう、お腹にね、全ての気を集中させると心が静まるって有津世が…」

「それは友喜も知ってるはずだよ。合気道でさ、散々言われてるんだ。」

伝えようとする雨見に、有津世が割って入る。


確かに知っている教えだけれど、ツピエルを前にしてそれを実践しようなんて今まで考えた事も無かった。

それどころか、生活に何もその教えを取り入れて無い事に気付く。


試しに今やってみたら、声がすっごく低くなった。

友喜はそんな自分に可笑しくなって、少し頬が緩んだ。


「あら、何かおかしいかしら。」

「ううん、ちょっと自分に笑ったの。」

怖かったツピエルが、前の梨乃からの話とかも含め思い返して改めて接してみると、案外そこまで怖くは無くて。友喜は朗らかに笑った。


「ま、上機嫌って事よね。じゃ、アタシはお茶するから!」

窓から顔を覗かせていたのを止めて、奥へと行ってしまう。

友喜はきのこの位置を覚えていられる様に、両手の人差し指と親指の指先を四角い縁になる様に合わせそこから景色を覗くと、その場所の情景を胸の内に刻み込んだ。








 有津世の第一声が家の玄関から聞こえる。

リビングに入ると、昨日に続けて友喜が自宅に帰っている事に、有津世は小さく驚いた。


「あ、友喜。今日も帰ってたんだ。」

気を取り直して有津世が微笑みながら言う。


「ちょっと、着替えてくるね。」

「うん。」

友喜がダイニングに立ちながら有津世に答える。

有津世の分と雨見の分のマグカップを取り出しながら、友喜は紅茶の用意をする。


2階の自分の部屋へと入った有津世は、鞄を置きながら、どうしたものだろう、と考える。

自分が危惧してもしょうがない部分もあるかも知れないけれど、それでも…。


着替え終わって有津世が1階に下りてくる。


「あ、友喜紅茶ありがとう。」

「うん。お菓子はどれにする?」

友喜が有津世に聞く。


「そうだね、どれにしようか。」

お菓子の入っている場所を友喜と有津世は一緒に覗き込んで、じゃあこれは?と有津世が聞き、友喜が、良いね、それにしよう!と決める。


お菓子と紅茶のマグカップをリビングのソファ前の座卓に載せると、有津世と友喜はソファに座って雨見を待つ。


「…なあ、友喜。」

「うん?」

「明日は…なっちんと一緒にカフェに行った方が良いんじゃないか?」

「うん、そうだね…。」

友喜がぼんやりと答える。


「え?どうして?」

友喜がひと息遅れて有津世に聞く。

しかも友喜がカフェに寄っているとは有津世に言った事も無いはずだ。


「お兄ちゃん、どうして私がなっちんとカフェに行く事知ってるの?」

友喜が驚いて有津世に迫る。


「い、いやあ、あれだよ…。前にさ、友喜となっちんを、その道路脇を歩いて見掛けた事があるんだよ。邪魔しちゃ悪いと思って、声を掛けなかったけどさ。」

「…そうなんだ。ふうん。そっか。」

何とか誤魔化せた。

有津世は内心ドキドキして心臓に悪いと思った。

そんな顔を見抜かれない様に、紅茶のマグカップで顔を隠す。


「お邪魔しまーす。」

雨見の声が玄関から聞こえてきた。


「あ、雨見ちゃん!」

雨見の方に注目する友喜を尻目に、有津世はまだ心臓がドキドキしていた。








 「ねえ、友喜。今日はカフェに寄ってよ。」

学校の廊下の窓辺で、なつが友喜に話し掛ける。


「なんかそれ、お兄ちゃんにも言われたんだけど。」

「え、友喜のお兄ちゃんが?」

なつが驚く。


「何かもう、良く分からない。」

「…そうだろうね…。」

なつがぼそりと返した。









 いつものカフェのいつものテラス席で、友喜はだれていた。


隣の席のなつは勉強をいそいそとしていたけれど、友喜は勉強する気も起きずに、面白く無さそうな顔で、テーブルに肘をついたりしていた。


なつは時折友喜の姿を眺めると、視線を上にやり、ため息をつく。


「勉強、してたら?少しは時間の進み、早いんじゃない?」

待つだけでは苦痛だろうと、なつが友喜にアドバイスをする。

友喜はますます頬を膨らませて、それでも嫌々ながら教科書をひとつ取り出した。ノートを出す気は無いらしい。


国語の教科書に載っている小説の一節を何と無く読んでいる間に、夕暮れが来た。

友喜は増えてきた目の前の通りの人波を眺めながらも胸が締め付けられる。

また今日も辛い思いをするのだろうか。

まるで自分が片思いに戻ったかの様な。何も期待していなかった時よりもある意味辛かったから。

会いたいけれど会いたくない。

友喜は複雑な心境だった。


すると少し遠目の通りから、功の歩く姿が一瞬伺え、その一瞬の内に、功と目が合った気がした。友喜は途端に頬が上気する。


それから少し経ってから、功が通りからテラス席へと続いている階段を駆け上がって来て、


「ああ、良かった。今日は居てくれたんだ!」

明るい笑顔で友喜に話し掛けた。


「ちょっとお、お兄ちゃん、あたしも居るんですけどお!」

なつが冗談っぽく言い、功がなつに笑顔で頷いて見せる。


「んじゃお手洗い、行ってくる~。」

なつが狙いすました様に言って、席を立ってガラス戸の向こうの店内へと入って行った。


隣の椅子を引いて座る功を友喜はジト目で見る。

どうせ今日も話した後直ぐに目を逸らされるのかと思うと、少し膨れたくなって。


「友喜ちゃん。」

功が友喜に話し掛けるタイミングを伺う。

友喜が不機嫌そうなのを見ると、功は寂しそうな表情になり、


「何だよ、友喜ちゃん。そうころころ怒ってると、疲れちまうぞ。」

功の優しい返しに泣きそうになってしまって、ぐっとこらえる。


「友喜ちゃん、明日さ、明日、土曜日だろ?」

功が友喜に聞き、友喜はすごすごと頷く。


「午後はさ、ほら、なつと一緒に図書館に行く予定だけど…」

友喜が膨らました頬を元に戻して、功を見つめて話を聞く。


「午前中は…迎えに行くから、家で待っててくれないか。」

友喜は頬を上気させながら、え、それってどういう…?と言い掛ける。


「うん。俺、友喜ちゃんの事を家まで迎えに行くからさ。」

「あ、じゃあ家の前に出て待つ…」

「ううん、家の中で、待っていて欲しいんだ。」

功が真っ直ぐ友喜を見て話すその姿に、友喜はただ自分の視線が惹き付けられて。

どういう展開なのかは分からないけれど、友喜は続けてすごすごと頷いた。


「うん…。分かった。」

「良かった。じゃあよろしくな。」

功が爽やかな笑顔で友喜に言った。

その笑顔で友喜はもう胸がいっぱいになって、友喜は今日はその場で一日を終わりにして眠ってしまっても良いと思えた。

それくらい、その時の功の笑顔は清々しく映り、友喜は功に見惚れていて。

なつが戻って来た時には、昼間の様子とは打って変わって、友喜は見事にふにゃふにゃだった。


ああもう、分かりやすい。

なつは友喜を見て僅かに微笑む。


「じゃあさ、もう帰るんでしょ?」

用事が終わっただろうと踏んで、なつが功と友喜の二人に聞く。


「ああ。帰るか。」

功が言って、友喜に頷いてみせる。

友喜はテーブルに出してあった教科書をしまい、なつも自分の勉強道具をしまった。


「じゃあ、友喜ちゃん。また明日な。」

「友喜。明日一緒に図書館行こうね!」

なつが嬉しそうに言う。


「うん。」

友喜は二人に答え、振り返り歩き出す姿を、また今日も少しだけ見守る。そのまま行ってしまうかと思っていた所に功が振り返り、友喜に笑い掛けてくれた。

友喜はぽうっとなって、また功に惚れ直す。

すっかり温かくなった胸の奥を感じながら、友喜は踵を返して自分の家の方向へと歩き始めた。








 林の奥の二棟の家。

小鳥達の声が、林を通して家の窓まで届く。


穏やかな日差しの差し込む自分の部屋で、友喜は自分の身支度を整えながら、功はどうして、家で待てと言ったのだろうと不思議に思った。


机の上に置いてある鏡を見て、髪の毛をブラシで梳かしながら自分の姿をチェックする。

用意、出来た。

何だか気恥ずかしくて、功が来るまで自分の部屋に居ようと思った。


家のインターホンが鳴り響く。


友喜はガタタっと机の椅子から音を立てて立ち上がって、慌てて階下に行こうとする。

少し遅くて、有津世がひと足先に玄関前に辿り着いていた。

あ…。


玄関ドアを有津世が開けると、


「有津世くん、おはよう。」

「おはようございます。吉葉さん。」

友喜はその反応に頭から疑問符が次々と飛び出す。


「ほら、友喜、吉葉さんが来てくれたぞ。」

友喜は耳を疑う。

今これは何が起こっているのか。階段の途中でその光景をぼうっと眺めていると、有津世達の両親が、


「いやあ、いらっしゃい。良く来てくれたね。」

父親が言い、


「どうぞ、入って。」

母が功に言う。


「え、何で?」

友喜だけが、ただただ呆然としている所に、


「ほら、友喜もこっちにいらっしゃい。」

母が友喜の事を手招きする。


何だか分からないままに、友喜はゆっくりと階段を下りて、その友喜の肩を母がそっと支えて前に歩かせてくれる。


「友喜、ほら、こっちに座りな。」

有津世に促されて、功の隣に座る。

こんなに功と近づいて座るのは初めてだ。

思わず功の顔を見上げる。


ソファに座った皆の分のお茶を母が運び終えると父の隣に座った。


「休日のこんな朝から時間を取っていただいてありがとうございます。」

そう言う功を友喜はまだぼうっと眺めていた。

功はいつものラフな服装よりも少しきちんとした感じのジャケットを羽織っており、その姿がとても恰好良かった。


「あの、今日ここに来たのは、自分と友喜さんとの交際をお許し頂きたくて、その…お願いをしに来ました。」

それを聞いて、母が友喜ににこりと笑う。

友喜は母に、ぎこちなく笑って見せた。

えっ、これは本当に、何だろう…。



「あの…自分は友喜さんとは歳が離れていて、それは埋めようの無いものだし事実ですが…それでも、彼女と一緒に居たいと思ったんです。あの…彼女が望むならですけれど…。」

友喜の父が、口角を上げて、静かに功の話を聞く。


「それに、交際の先、ゆくゆくは彼女と一緒になりたい。そう思っています。あ…それも、彼女が望めばですけれど…。」

友喜が再び隣の功の顔を見上げ、功は友喜に振り返って優しく微笑む。


「ですから、決して軽々しい気持ちで言っているのではありませんし、自分は本気です。彼女を想う気持ちと、これから先の事について…。」

そこまで言うと、功は静かに息をついた。


「有津世からも少し話は聞いていたけれど、ここまで男前が来るとは思わなかったな。」

父が軽い感想から告げる。


「お兄ちゃんが…?」

功が有津世に僅かに顔を下げて礼を示し、友喜はそれを不思議そうに見守る。


「本当に。友喜、とても素敵な人ね。」

母も父に同意しながら友喜に笑い掛ける。


「あ、それに、節度を守って交際しますので。彼女が…大人になるまでは…。」

友喜が赤面して、母も少し頬を赤らめる。


「まあっ。」

ふふふ、と母が笑い、父に、最高じゃないの、と告げる。


「そうだな。…でも、いくら私達が彼の事を気に入ったって、肝心の友喜がそう思わないんだったら、この話は終わりだ。友喜は、どう思うんだ?」

父が気軽に友喜に聞く。


「私は…」

功が友喜の顔を見つめる。


「私は…功お兄ちゃんと、一緒に居たい…。」

功がそれを聞いて、頬を緩ませる。

母と父が顔を見合わせて、有津世にも目を配り、笑顔でやり取りをする。


「じゃあ、決まりだな。功くん、これからも友喜を頼むよ。」

「よろしくね。功さん。時々はこうして家に寄って下さいね。」

「はい。あの…ありがとうございます。」

功は柔らかい笑顔になって、父にも母にも、有津世にも礼を言いながら頭を下げた。


「お茶、お飲みになって。」

母に勧められてようやくお茶に口をつけた功は、ちょっとの間の歓談の後、そろそろ行こうか、と友喜に話し掛ける。


「…うん。」

お邪魔しました、と功が言っている傍で、兄、有津世が、


「友喜、良かったな。」

そっと言葉を添えてくれる。


「お兄ちゃん…。」

今までの流れでただただ呆然とした心持ちだったのが、有津世のそのひと言で、何故か目が潤んできた。


「ありがとう…。」

友喜は泣くのを我慢して、振り返る功に、微笑みを返す。


のろのろと靴を履いて、先に靴を履き待っている功をまた見上げた。

功が挨拶を重ねて言った隣で、友喜は行ってきます、と挨拶を告げた。

父も母も兄も優しく笑顔で、その不思議な光景に、友喜はまた真顔になってぼうっとした。


ドアがしまり、功と友喜は玄関ドア前からの段差を下りる。


今、この場所に功が居る事がまた不思議で、友喜は功を不思議そうに眺めた。



林の道を歩き始めた二人は、互いの足音を感じながら、ゆっくりとした調子で歩く。

家から少し離れた所まで二人歩みを進めてから功が口を開く。


「こうでもしないとさ、…友喜ちゃんときちんと向き合えないと思ったから、驚いただろうけど、挨拶をさせて貰ったよ。」

歩きながら真っ直ぐ友喜の目を見て話す。


「ましてや街で俺と友喜ちゃんが一緒に歩いている所を友喜ちゃんの家族が見たらさ、きっとびっくりすると思ったし、その前に…って思ってさ。」

付き合う前はそこまで思わなかったけれど、ちゃんとしておきたいと思うようになってさ…と功は続ける。


「だからこれまでされるがままで友喜ちゃんから行動させてしまって悪かったと思ってる。本当は…俺から動きたかったんだ。」

功が友喜を見つめる。


「でも、節度は守って…だけどな。」

そう言いながら、功は友喜の頬に手を添え、親指でそっと頬を撫でた。

友喜は頬をすっかり上気させて、潤ませた瞳で功を見つめ返す。

友喜の表情に僅かに口角を上げて、


「愛しているよ。」

功はゆっくりと友喜に顔を近づけて、友喜の唇にそっと自分の唇を重ねた。




文の言い回しの修正を数か所行いました。(2026年1月13日)

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