展望
林の奥の二棟の家。
夜は重厚なイメージを醸し出す手前の家。二つの丸い天窓からは淡い光が今夜も漏れている。
その片方の窓の内側では、友喜が自分の部屋でラップトップコンピュータのモニター画面を見ていた。
梨乃から久し振りにダイレクトメッセージが来ている事に気付き、友喜は早速開いてその内容を確認する。
「友喜ちゃんへ。
元気かな。
有津世くんとは図書館で会ったけれど、友喜ちゃん有津世くんからその話は聞いた?友喜ちゃんとはしばらく会っていないね。
それでね、また友喜ちゃんとお茶したいな、って思って。またいつものカフェで会える日にちはある?
やっぱり土曜日かな?
友喜ちゃんの都合、教えてね!
梨乃より。」
友喜は梨乃からのメッセージを読んで、少し考えてから返事を入力し始めた。
いつものカフェのいつものテラス席。
クーラーの効いた店内で過ごした方が快適に過ごせる季節になりつつある今日この頃だ。
友喜となつの二人は外気に当たっているのが割と好きな方だったから、そんな陽気になっても変わらずテラス席に場所を取って今日もその場に居座る。二人は暑さには強いらしい。
功が迎えに来て文句を言う。
「あ~。今日暑かっただろ?何だってこんな外の席で二人長々と過ごしてるんだ~?」
同じテーブルの空いている椅子を引き出して座り、なつと友喜の顔を交互に見た。
「今の所大丈夫。ね。」
「ね。」
そうか~?と眉を寄せる功の表情に、なつと友喜は顔を見合わせて笑った。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「何だ?」
「私達、もうすぐ夏休みだよ。」
「ん?ああ、そうだな。」
「…。」
友喜が功を凝視する。
「ん、でも仕事は休みじゃねえし…。良いよな、学校の時は夏休み長くてさ。」
手で顔を仰ぎながら言う。
「そうじゃなくって、…休みだと、ほら、ここにだって、そんなに来ないしさ…。」
なつの言葉に功はああ、と答えて友喜の方に振り返ると何だか恐ろしい形相をしている友喜に気付いて思わずたじろぎ、テーブルについてた肘を危うく滑らせそうになった。
「休みの間も…土曜日は友喜ちゃん、家に来てくれるんだろ?」
恐る恐る聞く功に友喜が無言で頷くが、表情は固まったままだ。
そんな友喜の顔を見ながら、なつが功に伝える。
「もう、友喜も言葉にして言いなよ。お兄ちゃん、友喜はそれじゃあ不満らしいよ。」
…何だろう、この二人は。
想いが通じ合ったかと思ったらちぐはぐと噛み合っていない。
友喜もそういうのもっと言えば良いのに。
「あたしは翻訳マシーンじゃないぞ~。」
なつは思わず棒読みで呟く。
「…。」
友喜が変わらず複雑そうな表情をしているのを見て、功は肩の力が抜けて笑いをこぼした。
「そんな顔するなって。可愛い顔が…台無しにはなっていないけどな。」
友喜がそれを聞いて、むすっとしながらも頬が赤らんだ。
「じゃあさ、今度の土曜日、午後にさ、なつもだけど…図書館に一緒に行かないか?」
その日は副業のオフィスに行くの控えるからさ、と、功が言う。
「あ、今度の土曜日はだめなの。あの…午後から梨乃さんと会う予定で…。」
友喜が申し訳無さそうに言う。
「梨乃…ああ、則陽の彼女か。じゃあその後の土曜日はどうだ?」
功は気楽に提案し直した。
「…大丈夫だと思う。」
友喜がぽそりと答えると、じゃあ決まりな、と、功が言う。
なつが少し考えて、
「ちょっと待って。お兄ちゃん、何であたしも一緒?友喜と二人で良いじゃん!」
異議を唱える。
大体何で図書館なんだろうか。行ける所、他にもいっぱいあるだろうに。
「だってさ、なつ、お前も図書館は好きだろ?だったら一緒に行けば良いじゃねえか。」
口を開いて反論を発しかけたなつが、功の言葉に隠れたある種の凄みを感じ取って、その先の言葉を言い留まる。
なつがこの時思ったのは、功がどれだけ真面目か、と言う事だった。
お兄ちゃん、これきっと、あたしにしか分からないよ、と、なつは思う。
友喜にはもっと、単純に分かりやすい意思表示がもっと必要なんじゃないかな。友喜はそういう所、あほらしいくらいに鈍かったりするし。
そんな事を思いながらなつは友喜を見ると、先程とは打って変わってほんのり染まった頬でぽわんとした表情をしている。
…大丈夫だったか。
なつは呆れて横目で二人を眺めた。
友喜から雨見の不調を聞いた有津世は、週明けの月曜日の朝、雨見の顔を無事に見れて一緒に登校出来る事を喜んだ。
雨見はそれが知恵熱だったなんて言うのが恥ずかしくて、思わず有津世の顔をちらちらと見てしまう。
「ん、雨見、どうしたの?」
有津世が微笑んで聞いて来る。
「んふふ、良い天気だなあ、って。」
有津世は空を見渡し、
「うん、そうだね。」
相槌を打って、また雨見の顔を眺める。
「機嫌良いね。」
「うん。良い天気だし体調戻ったから気持ち良いの。」
いつもと比べて随分とにこにこ顔の雨見を見て、本当にそれだけかな、と、有津世は思う。
まあ、良いや。何にしても雨見は回復したし、こうして隣で一緒に歩いてくれている。
有津世は雨見の横顔を見て、前に向き直り口角を上げた。
下校後、友喜も参加したその日の作戦会議でアミュラ達の話を伝えた折に、友喜は既にその内容を知っていて自分もその様子を夢で見たと言った事に雨見と有津世は驚いた。
友喜は何でも無い風にその記憶を話す。
それはまるで今まで記憶喪失だった人物が自分の事をいきなりぺらぺらと説明し始めて周りを驚かすかの様な印象的な出来事で。
友喜はぽわぽわである事に何の気負いも無かった。
ぽわぽわでいる時、気持ちはふんわりと軽いと言う。
ぽわぽわと出会った当初、天使の類かも知れないと予想を立てたツァームの言葉を、有津世は雨見と友喜の二人に改めて周知した。
友喜は功と一緒に居た時に起こった、もう一方の友喜との入れ替わりの件についてはまだ二人に話せていない。なんせ功の話はまだ雨見しか知らなかったし、功との事は有津世には出来れば知られたくない、そんな風に友喜は思っていて。
だから誤魔化しながら話したとしても何処かでボロが出てしまいそうなのでなかなか言い出せない。
友喜はその事については慎重になっていた。
それでも功から聞いた話を忘れまいと、緑色の豪奢な装飾のノートにはその内容をきちんと書き込んでいたので、作戦会議の時にはうっかりそのページを開いてしまわない様に気を付けた。
その素振りに有津世が気付き、開くページを注意深く選定する友喜を有津世が眺めている事には友喜は気付かないままだったのが友喜らしいけれど。
有津世がちょっとの間お手洗いへと席を外した時に友喜は隣に座る雨見にそっと話し掛けた。
あれだけ相談に乗って貰った雨見には、功から告白された事を直ぐにでも知らせたかったからだ。
「え~、そうなの?!友喜ちゃんおめでとう!」
「ありがとう、雨見ちゃん。」
友喜がはにかむ。
「私ね、一回見たんだよ。街で友喜ちゃんとその人が一緒に歩いている所。」
雨見が嬉しそうに言う。
「大丈夫だと思ってたの、その時から。」
有津世がお手洗いから戻ると、雨見と友喜が何やら盛り上がっている。
「何々?俺にも教えてくれない?」
有津世が明るい表情で二人の顔を交互に覗き込みながら言うも、途端に友喜はバツが悪そうな顔をして黙りこくってそっぽを向いてしまった。
「え、俺だけ、仲間外れ?」
「有津世、そんなんじゃあ無いよ、ただ、友喜ちゃんは…」
「…!」
雨見が今した話を言ってしまうのかと、友喜は真顔になって雨見を凝視する。
「ツピエルが久し振りに来て、話せる様にツピエルが変わったよ、って教えたら、途端に盛り上がったの。」
友喜は、え?ツピエル?と顔面が蒼白になったし、ツピエルの話で友喜がそんな盛り上がり方をする訳が無い、と、有津世は思ったから、まあそれはちっとも上手く誤魔化せてなかった訳だけど。
それでも話題を逸らす事には雨見の嘘は貢献した。
都内アパート。
仕事から帰って来て、梨乃と則陽はダイニングテーブルの席で則陽の用意した夕飯を食べていた。
「ねえ、どうして友喜ちゃんだけ先なの?」
「うん、皆で会う前にきっと、友喜ちゃんは梨乃とも打ち合わせがしたいんじゃないかと思うんだ。」
「打ち合わせ?」
「そう。集うメンバーについて、ね。」
梨乃は則陽の言葉を反芻してみる。
「分からないけれど、とにかく会ってみるね。」
梨乃が明るく言う。
そして、自分用に盛って貰った皿を見て、
「あ…ゆで卵…。」
殻を予め剥いて盛られているゆで卵を見ながら梨乃が頬を赤らめる。その様子を見て、則陽が梨乃に優しく微笑んだ。
「ねえ、則ちゃん、勝手にゆで卵をおまけにして、バイト先で叱られなかったの?」
今まで気付いて無かった点に考えを巡らせて梨乃が尋ねた。
「うん?その分は、毎回自分で支払ってたよ。」
「毎回?」
「毎回。梨乃が店内から居なくなってから、自分の財布を出してさ。」
「…そうなんだ。」
また一段と頬を赤くして、梨乃はゆで卵をじっと見てそれから箸でほぐし始めた。
則陽はそんな梨乃の姿を愛おしそうに眺めた。
ひと目会えるカフェでの時間、功は友喜に気軽に接してくれて、とても優しい。
そんな折、気付くと功は何処か遠くを眺めている事が多いと、友喜は思った。
土曜日になって、友喜は功と小学校脇のいつもの公園に来ていた。
「友喜、午後用事あるんでしょ?もう今からで良いから行ってきたら?」
なつのひと声で二人はいつもよりも早くにこの場に辿り着いた。
友喜は前回二人が過ごした、人目を避けられる隅のレンガ造りの植え込みの場所を意識したが、今回は人も居なくて中央奥のベンチが空いていたので功が誘導してそちらに二人座った。
「則陽の彼女と今日の午後会うんだろ?俺さ、ちょっと前に彼女が結構な数の妖精を引き連れてるのを見たんだよ。」
「えっ?功お兄ちゃん、梨乃さんに会った事あるの?」
友喜が目を丸くして聞く。
「一回だけな。会ったと言うよりは偶然目にしたって感じかな。会社の昼休みに則陽と一緒に外出してたらさ、公園に彼女が居るのを則陽が見つけたんだよ。あいつ喜んで近くに寄って行ってさ…。」
その光景が目に浮かぶ。多分二人はとても仲睦まじくて。一緒に居る所を今まで見た事は無いけれど、友喜は容易にそれが想像出来た。
そしてひとつ前の功の発言を聞き返す。
「梨乃さん、妖精引き連れてるの?」
「ああ、あんなにいっぱい引き連れてるのを見たのは…他に記憶が無いな…。」
功の言葉に、友喜が感心する。
それで…だから素敵なんだ…。友喜は梨乃を思い、うっとりとする。
恍惚とした表情になる友喜を見て、功は不思議がる。その功に、友喜は説明する。
「以前から、素敵だな、って思ってたんです。それが妖精に好かれるくらいなんだな、って思うと…ますます憧れてしまうな…。」
自分はこんなにも子供っぽかったから、可愛くも美しくもある梨乃に、友喜は本当に憧れていて。
どうやったらあんな風になれるだろうかと友喜は今でも思っている。
「まっ、則陽にお似合いだよな、ってその時思ったよ。」
あ、そうそう、と功は言いながら、則陽にも彼女の妖精が引っ付いててさ、と面白そうに話す。
「それでさ、観察しろとか言うのはちょっと不謹慎なのかも知れないけれど、彼女の周りに光が飛んでいたらそれがそうだから、ちょっと意識して見てみると良いかも知れない。」
功は友喜に妖精の観察の仕方を教える。
友喜は頷いて、功の顔を見る。
目が合い、功は軽く微笑んでくれた。
でも何秒もしない内に功は目を逸らして自分の先の地面の方を見てしまう。
友喜は功を、ぼうっと眺めていた。
公園に出掛ける際に、いつもは吉葉家に置いていく鞄を今日は公園に持って来ていた。吉葉家には戻らずに今日はこのままカフェに移動するつもりだ。
友喜の鞄の中には功から貰った妖精の本が入っていて、功の前でそれを取り出し開く事は無かったけれどいつだって大切に忍ばせていた。
膝の上に置いた鞄からちらりと覗く本の背表紙を眺める。
功はこの本をくれる時に、いつでも功の事を思い出していて欲しい、そう言っていたけれど。
穏やか過ぎるこの空気の中で、本を貰った時の事も含め、全部が今まで夢だったかの様な錯覚を友喜は覚える。
ベンチに座る二人の間に出来ている隙間を見ながら。
功が友喜の視線に再び気が付いて顔を向けると、友喜はにっこりと笑っている。
見ると黄緑色の光の霞が見当たらない。つまりこれは入れ替わったもう一方の友喜だ。
「また会えたわ。すごく…嬉しい。」
いつもの友喜とは違って、愛情の100パーセントを全面に押し出してくる表情と言葉。
功は拍子抜けして、静かに息を吐いた。
「あのさ、どのタイミングで入れ替わってくるんだ?友喜ちゃんも…それじゃあ不便だろうに。」
功は自分のおでこに手を当てて言う。
「どのタイミング?友喜に隙が出来た時だわ。それと同時に私があなたに会いたい時。」
「…思ったんだけどさ。友喜ちゃん自身と変わらないなら、そう分けて会う事、無いんじゃねえかな。」
意味あるのか?と功は訝しむ。
「だって、私はあなたに会いたいんだもの。だから意味はあるわ。とっても深い意味がね。」
「深い意味?」
「ええ、だって私は…あなたを愛しているもの。それが、深い意味よ。」
こっちが赤面する事を、入れ替わった友喜はこうも平気な顔で言う。平気な顔と言うよりは、先週の土曜日、友喜自身が見せた情熱的な表情と一緒だ、正しく言うのであれば。
功は友喜から顔を背けて地面に顔を向ける。
「…友喜ちゃんが言っていたよ。前回こうやって入れ替わっている間、別の場所に意識が飛んでいたって。」
「ええ、それは私がいつも居る所。」
「いつも居る所?そこは何処なんだ?」
「憩いの場よ。」
「憩いの場…。」
聞いても分からなかったその言葉に、功は首を傾げる。
「あ、あのさ、もうひとつだけ聞きたい事があるんだけど、この前不思議なの、見せてきただろ?」
「これ?」
友喜がベンチから立ち上がり、功の目の前に立つと手のひらを合わせて、そっと広げて見せる。
広げて見せた手のひらの上には浮いて淡く光る小さな玉が三つ、出現していた。
功が唸りそうになりつつ、
「…それ、さ、友喜ちゃん自身がいずれ思い出すって、言っていただろ?基準は何だ?」
「基準?」
「そうだ、思い出すタイミングとかの基準だよ。」
友喜は功の言葉に光の玉を両手のひらに浮かべながら考える。
「…分からないわ。」
「分からないのか。」
「でも全部思い出した時点で…。」
友喜の言葉と共に、その場に風が吹いた。
友喜の長いウェーブがかった髪が、風に吹かれて一部がそよぐ。
功はしばらく言葉を失った。
いつも居る所とは比べ物にならないくらいに爽やかな澄んだ空気が通っている。
気が付くとここは前回にも来た、石碑が傍にある草原だ。
不意に今回も来てしまって、友喜は戸惑う。
近くには幼いキャルユが今日も居て、楽しそうに草花を愛でている。
「あ、おねえちゃん!また来たんだね!」
キャルユが嬉しそうに友喜に話し掛けてきた。
「うん。こんにちは。」
友喜はしょうがないので開き直ってキャルユに挨拶をした後、その場で地べたに座った。
「おねえちゃん、この前いつも居るおねえちゃんの事、聞いてきたでしょう?」
キャルユの言葉に友喜はうんうん、と頷いた。
「あの後聞いたらね、いつも居るおねえちゃんは、ここ、行ってるんだって。」
キャルユが自身の眉間の石の装飾を差し、友喜に教える。
「え、クリスタル?」
「クリスタル…うん、そう!」
キャルユが友喜の言葉に一瞬首を傾げた後に明るく肯定する。
友喜は少し考えた後で、ふとアイデアを思いつく。
「他の自分が入れたのなら、自分も入れるはず…。」
「ん?何おねえちゃん?」
顔を見上げて聞いてくるキャルユの眉間の石を見て、友喜は念じてみる。
私は元の場所に戻りたいの。
功お兄ちゃんとのせっかくの時間だもん。
私を戻らせて。
ぎゅーんと何処かへ吸い込まれる感覚と共に、あっという間に目の前が開けて一気に五感に情報が入って来る。
見ると温かい手が体に触れていて、自分は功の座るベンチの前に立ち、功の顔が自分の目の前にあった。
「え?あ…。」
友喜の様子が変わったのに気付いて、功は赤面して慌てて手を離した。
どういう状況なのか友喜は頭がこんがらがる。
途端に胸の鼓動が激しくなって、自分の求めている状況が一瞬前までここに在った事を知る。
公園には誰も居なかったけれど、何からも二人の姿が隠される事の無いその場所で、友喜は溜まらず功の顔に手を伸ばして唇を重ねた。
入れ替わった友喜がこの前の友喜自身と同じ様に、不意に功にくちづけをしようとしてきて、功は慌てて友喜を止めようと体に触れる。それで止めたつもりだったが次の瞬間友喜は黄緑色の光の霞をまとった元の友喜に戻っていた。
功は言い訳をする間も無く、今度は友喜自身からくちづけを迫られて………再び友喜と、功は互いに触れ合った。
くちづけを交わした後、頬を染めた美しい友喜が、静かに口を開く。
「入れ替わる時も、きっと私は私だから…何をしていたかなんて言い訳は聞かない…。だって、…私のしたかった事と同じだもの。」
功の目を見つめながら言う。
功は戸惑いを隠し切れず、僅かに切ない表情を見せる。
「私はもっと…触れ合いたいの。」
自分の気持ちに正直で居たいと思った。
いつ記憶が無くなるかも分からない功との時間なのだから。それでも今回友喜は突破口らしきを得た。
そして突然戻った時に、自分の体に触れていた功の手に、友喜は胸の奥が熱くなる。
あの後、功とは名残惜しくも公園で解散して、そのまま梨乃との待ち合わせ場所のいつものカフェに向かっている所だ。
友喜は功への想いを熱く募らせながら、頬を微かに染めたままに、その道のりを歩いていた。
「友喜ちゃん。」
高らかな声音が友喜を呼んだ。
友喜はにっこり笑って梨乃の元に行く。
「梨乃さん!」
「友喜ちゃん!だいぶ久し振りだね。」
「うん!」
一緒に店内に入る梨乃の姿をまじまじと友喜が見る。
梨乃がそれに気付いて、友喜に微笑んだ。
「梨乃さんテラス席でも…?」
「うん。大丈夫だよ。今日は風が気持ち良いもんね。」
梨乃が友喜に快諾して、二人はテラス席のある外へ出て適当な席を選んで座った。
「友喜ちゃん、元から可愛いけれどより女性らしくなったね。」
梨乃が友喜を見ながら言う。
「えっ!梨乃さん、そう思います?」
勢い込んで友喜が聞き返し、梨乃はその反応を見てくすくす笑った。
「うん、友喜ちゃん、綺麗になった。」
友喜はそれを聞いて頬を緩ませた。
「あのね、梨乃さん…。」
「うん?」
「私、今、好きな人が居るの。」
梨乃は柔らかい表情で友喜を見守る。
「どういう人?」
友喜はひと息入れてから言葉を繋げる。
「梨乃さん、その人はね…その人は…梨乃さんが妖精をいっぱい引き連れているのを見たって言ってた。」
「え?妖精?」
梨乃はぽかんとした表情になる。
「え、私、その人に会った事あるの?」
「うん、そうだって。なんか、昼休みの時に奈巣野さんと一緒で、外で偶然、公園で会ったって言ってた。」
梨乃が記憶を辿る。
前に則陽が友喜とクリスタルの中で会った時に友喜の相談に乗ったと、則陽は梨乃に教えてくれた。
何でも、友喜が以前から親しくしている間柄のとある人物が居て、その人に頼りたいのに遠慮をしている友喜を勇気づけたと、則陽は梨乃に説明をしてくれた。
どうしてその話になったのかと梨乃が聞くと、則陽もよく知る人物だったからと、その時は言っていた。
「えっと、もしかして…吉葉さん?」
梨乃が名前を思い出しながら口にしてみる。
「うん…。」
友喜がこくりと頷いた。
梨乃が驚いて真顔になる。
「則ちゃんの会社の先輩で、友喜ちゃんにとっては昔からの知り合いで、妖精とかが見える人…。私の理解、合ってる?」
梨乃は情報を言葉にして整理して、友喜はその言葉に頷いた。
「友達のね、お兄ちゃんなの。小学生の時から知ってて…。」
「小学生の時から?」
「うん。小学生の時から。向こうはもう、大人だったけれど…。」
友喜は頬を赤らめて言う。
「ねえ、いつから好きなの?」
「いつから…いつからだろう…。」
小学生の時は…なつはお兄ちゃん、って呼んでいたけれど家のお兄ちゃんとは違ってもう大人だな、ってただただ思った。言葉数は決して多くは無いけれど、優しく接してくれるその時の姿も友喜の目には焼き付いている。
「あれ?」
友喜は自分の記憶が定かで無くて少し混乱する。
待って、私は始めは家のお兄ちゃんの事を好きだったんじゃなかったっけ?
自問しながらも、何年も前の功の姿が自分の記憶の中でやたらと印象的に思い起こされて…。
「梨乃さん、私…」
「うん?」
「功お兄ちゃんの事、ずっと前の時から好きだったかも知れない。」
友喜の居なくなった公園のベンチで、功は前かがみ気味に座りながら一人考え事をしていた。
友喜と居る時の、まるでジェットコースターに乗っているかの様な、出来事の移り変わりでもって揺り動かされる感覚。
自分の思う様には全然立ち回れていない事に、功は嘆息する。
視線の先に見える地面の上の魔法陣の暗号の塊を功はぼうっと眺めていた。




