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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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温もり

 功が気付いた時には既に友喜の唇が自分の唇に重なっていて、黄緑色の光の霞は友喜の周りにはっきりと見えたままだ。

つまり今この瞬間この行動をとったのは紛れも無く友喜自身であって、入れ替わった訳では無い事を功は理解する。


入れ替わった方の友喜が友喜自身の行動と変わらないと告げた事…それが事実だとたった今こうして身をもって知って、一瞬思い悩んだ。


それでも想いは止まらなくなり、功は友喜が一旦離した唇を、頬に手を寄せその目を見つめて今度は功からくちづけた。

しだれた木々の枝葉が周りの視界から二人を隠す。微かに早い二人の吐息が至近距離で何度も届いて。

もしここが公園という公共の場で無かったら、きっと止まる事の無いくらいに二人はお互いを求め合っていて。

ようやく唇を離した功は、潤んだ瞳で見つめてくる友喜を愛おしそうに見つめ返す。


「返事…ありがとう…。」

功は頬に触れていた手を名残惜しそうにそっと離すと、今も尚、友喜を自分の胸に引き寄せてしまいたくなる衝動を何とか抑えるために静かに何度か息をついた。






 まだその場を立ち去ろうとしなかったのは、友喜に話すべき話題があったからだ。

つい先程までの黄緑色の光の霞の彼女、すなわち入れ替わった方の友喜の話を彼女にしなければならない。


植木の囲いとなっているレンガに腰を再び落ち着けて、同様に隣に座った友喜を見ると、彼女は頬を綺麗に染めて遠くを眺めていた。

功は微かに頬を緩める。

そして真剣な表情に戻り、入れ替わった友喜の言っていた別の事柄について考える。

記憶の無くなる現象、それは友喜自身がしている…。

先程あった出来事を、果たしてどこまで伝えるべきか。

功は自問して、それについての覚悟を決める。



「友喜ちゃん、ちょっと前にさ、…」

振り返る友喜の顔を見ながら功は話し始めた。








 海と山が迫る地の、土がむき出しの幅の狭い散策道で、則陽と梨乃はゆっくりと歩く。

則陽はたまに梨乃の表情を伺っていて、彼女が楽しそうに頬を綻ばせると自分の頬も緩んだ。


直ぐ脇にある小川は多分この先にある海と繋がっていて、それでいて川幅が狭いままで両脇に木々の緑が空を覆う様に生えており、川面から顔を覗かせる石や足元の脇の地面は所々が苔むしていた。


「空気、気持ち良いね。」

深呼吸をしながら梨乃が言う。


「そうだね。あ、ベンチあるよ。少し座ってく?」

則陽が狭い道幅に所狭しと設置されているベンチを見つけ、梨乃に言う。

梨乃は則陽に頷いて、二人はベンチに腰掛けた。


「旅行、来れて良かった。則ちゃんありがとうね。」

梨乃が嬉しそうに言う。則陽は梨乃の顔を見ると、


「何年も先もさ、またこうして来たいと思わない?」

少し真剣な表情になって梨乃に尋ねる。


「うん。そうだね。また来たいな。」

則陽が込めた想いとは裏腹に、梨乃は純粋な気持ちで持って、その問いに答えた。


「則ちゃんは?」

梨乃が微笑んで聞く。

則陽は切なくなって、梨乃を抱きしめ肩越しに呟く。


「来たいに、決まってるじゃないか…。」









 公園の端の植木の空間。

その木陰で、友喜は功が話すもう一人の自分の事を聞き、口を半開きにして驚いていた。


「え、え、え、…功お兄ちゃん、それホントに、私がやったの?」

功が冗談を言う表情でも無かったし、さっきあんな事が二人にあった後で作り話をする訳も無い。


「私…妖精も見えないのに…!」

不可思議な術をやってのけた自分と、いずれそれを思い出すと言っていた自分。そして、今のこの状態がやはり何らかの使命でもって自分自身が行っているらしい事に何とも言えない感情になった。


功は緊張して話し出しただけに、友喜のその反応に肩の力が一気に抜けてつい笑い声がこぼれる。


「何で笑うの?」

友喜が馬鹿にされたんじゃないかと訝しみ、思わず功に疑いの目を向ける。


「あ、ごめん。友喜ちゃんはホントに元気なんだな、って思って。安心したんだ。」

功が友喜に弁解し、友喜は思わず自分が軽々しくも功に文句を言ってしまった事に赤面する。



つい先程触れた功の唇。

その余韻は無い訳は無くて、友喜はそれを思い、隣に居る功を見つめる。


友喜の情熱的な視線を浴びて功は微笑むと、


「あ、もうすぐ昼なんじゃないか?」

友喜の視線をかわし、その場から立ち上がる。

功の背中をそのまま目で追って見ていた友喜に振り返り、


「買い出し。そろそろ行こうか。」

穏やかな顔でそう言った。








 緑の濃淡が美しい星。

緑色が抜け落ちた部分には白色と虹色の光がゆっくりと渦巻いている。


アミュラはすかすかの抱き心地のぽわぽわを抱き抱えて、石碑内側の森にある自分の秘密の場所まで行った。

着くと同時に磁界をかけて、小さな切り株に腰掛ける。


「ここならどれだけ練習しても、見られる事は無いでしょ?」

ぽわぽわに話し掛けて、その姿を磁界の内側に入って来た妖精達が見て口々に話す。


『アミュラ、その子久し振りじゃない。』

『アミュラ、遊んでいるの?』

『アミュラ、その表情…何しているの?』

ここならばツァームに見つかる事は無いと安心して笑顔の練習に励もうとしていたのに、妖精達はアミュラの行動にいちいち介入してくる。


「んもう、何してたって良いじゃない。遊んでるんじゃないんだから。あ、ぽわぽわは久し振りに見つかったの!良いでしょう。」

アミュラは妖精達の言葉に丁寧に返す。

そしてぽわぽわを顔の所まですかすかと持ち上げると、ツァームを思い浮かべながらもう一度にっこりと笑ってみる。


そうそう、その調子!

ぽわぽわは温かい言葉をアミュラに送ってくれて、それはアミュラ達の使う言葉で発せられる訳じゃないけれど、アミュラにはきちんとそれが伝わった。


「ぽわぽわは、優しいんだから。」

アミュラはすっかり機嫌を直して言う。


ちなみにふかふかの毛玉、ミジェルはアミュラの袖の内側に入ったままだったが今回はもぞもぞ動いたりもしなかったから、アミュラは気にもせずそのまま入れっぱなしにしていた。

アミュラは戻って来たぽわぽわに夢中だ。


『アミュラ、見たわよ。』

『そうよ、あたし達、見たわよ。』

「何を見たって言うの?」

アミュラが妖精達の言葉に首を傾げた。


『アミュラ、ツァームと喧嘩しているの?』

『随分と冷たく接しているのを見たわよ。』

機嫌を直して笑顔の練習をしていた所にこれだ。

アミュラは口を尖らせて、


「それは…っ。でもちょっと訳があって…」

『アミュラ、素直じゃないのね。』

『アミュラ、目を背けちゃダメよ。』

「目を背ける?」

妖精達の言葉に反応して、アミュラは更に首を傾げた。


『あなたの気持ちからよ。アミュラ、分かって無いの?』

「…」

アミュラは自分の周りの宙に浮く妖精達をそれぞれに見回した。

どの子も平然と、冷静にアミュラの顔を眺めてアミュラに知らせようとしている。


『あたし達、アミュラがそれに気付くまで待っていたのよ。』

『アミュラは怒ったけれど、あたし達はそういう時はそう、大人しく待つんだわ。』

いまいち何の事を言っているのか分からない。アミュラは妖精達の言い分に耳を傾ける。


『でも気付いたから、あたし達はそれについて話せるんだわ。』

『そう、だからあたし達言うのよ。』

『目を背けちゃダメよ。』

「…」

アミュラは考えて、


「…ツァームの事?」

『そうよ~!』

妖精達がアミュラの問い掛けに口々に同じ返事を発する。


「あ、でもこうして笑顔の練習して、…え?」

『あなたの気持ちに素直になるべきだわ。』

「え、でもあなた達、前に言ったじゃない。あたし達は三人でひとつだから、そういう事はあり得ないって…。」

『今はもう、三人じゃないわ。』

『そうよ、あなたとツァームの二人きりじゃない。変わったのよ。』

その言葉を受けて、アミュラは俯く。

キャルユが…キャルユがもうこの地には居ない…。


『分かる?状況は変わったのよ。』

『アミュラ、気付いていないんだもの。』

『あなたの気持ちによ。』

『だからあたし達はアミュラがそれに気付くまで、待っていたのよ。』

『そう、気付くまではあたし達、何も言えないの。』

『気付いたからそうして笑顔の練習をしているんでしょう?』

ようやく妖精達の言いたい事が分かって来た。


「じゃあ前に途中でここから皆出て行っちゃったのは、…あたしが自分の気持ちに気付いていなかったからだとでも言うの?」

妖精達が一斉に頷く。

アミュラは愕然として何かを言い返そうとするが、何も思いつかない。


『アミュラ、笑顔の練習をなさいよ。』

『アミュラ、あなたは美しいわよ。』

『アミュラ、あたし達は皆あなたの事を愛しているわ。』

『アミュラ、あたし達は…あなたにおめでとうって言うわ。』

アミュラは笑顔の練習をしに来たのに、妖精達の言葉で涙が溢れてきた。


「笑わなきゃ、いけないのに…」

アミュラの姿を見て、妖精達はアミュラの周りに浮かびながら、そっと寄り添う。


今まで見た事の無い妖精達のその優しい挙動に、ますます涙は溢れ出す。


「こんな顔、ツァームに見せられないよ。笑顔と…逆だもの。」

ぽわぽわは、良かったね、アミュラ、と言ってきた。

笑顔、出来る様になったよ、続けてアミュラにそう言葉を投げ掛けてくる。

変なの、今はすっごく泣いているのに、とアミュラはぽわぽわからのメッセージに涙の次々と出てくる顔でくすりと笑った。








 石碑の傍の草原。

小学生の姿の友喜が、幼いキャルユの近くに歩いて行く。


「あ、おねえちゃん。おねえちゃんに似たもう少し大きなおねえちゃんが今来たよ。」

「そう。」

キャルユの言葉に微笑んで返す。


「どこに居るのって聞かれたよ。どこに行っていたの?」

友喜はキャルユの額の石を指し示す。


「え…ここ?」

キャルユは以前に友喜が同じ仕草をして分からなかったそれについて新たな理解を得る。

友喜はキャルユの反応に静かに微笑んだ。


「もう少し…調整が要るわね…。」

友喜はキャルユの隣に座り、草原の先を眺めて呟いた。


「また、お仕事?」

「もうちょっと経ったらね。今は少し…和むわ。」

それを聞いて嬉しそうな顔をしたキャルユは、きゃははは、と笑い、近くで遊び始めた。







 空は澄み渡り、気持ちの良い空気を感じさせる陽気だ。

バーガー店に着いた功と友喜は、注文を済ませて店の前に備え付けられたベンチに座り、出来上がりを待っている。


どのタイミングで友喜が入れ替わるかは知れないけれど、ともかく先程の公園の一幕から今に関しては友喜は友喜自身のままの様だ。


先程軽く頬を膨らませてご機嫌斜めになりそうだった友喜を功は見守る。


友喜自身としては複雑だろうが、今までの経緯もかいつまんで知る限り、このようなショッキングな情報にもある程度は慣れているのかも知れないと、功は友喜の先程の反応から見ても思った。


もっと深刻に捉えたり、その後の言葉が拙くなったり、そういう反応が友喜からあわや出るかと功は構えていたから。


友喜の精神力に感服して恐れ入った。

彼女はその実、功よりずっと強いのかも知れない、そんな事を考えたりしていた。



 友喜は功を眺めながら、ベンチに座る二人の間に出来ている空間を眺める。

確かに気持ちが通じ合ったと思ったのに、どうしてここには隙間があるのだろう。

友喜は俯いて考える。

そうして考えてみても、その理由は分からなかった。

もう一度功を見ると、目が合い、功は軽く微笑んだ。友喜も微笑むと、その後の功の行動が気になってしまい、凝視しそうになる。


友喜のその百面相とも言える忙しい表情に功が笑い、


「何だ。どうした、友喜ちゃん。」

友喜に問い掛けてきた。


そんな笑顔は優しくて、友喜は功からそんな笑顔が貰えた事に、少しだけ得意になった。

功は依然忙しく表情をころころと変える友喜を楽しそうに眺める。


注文したテイクアウトメニューの出来上がりを注文口の店員が告げた。


「あ、ほら、出来たみたいだ。」

功が友喜に手元の番号札を見せて、店の注文口に袋に詰めて用意された商品を取りに行った。








 風を切って走っていた一角獣が、その足を突然に止め、背に乗るツァームに顔を向けて何かを言いたげだ。


「見失ったのかい?」


ツァームの言葉に一角獣は片方の前足を空を掻く様にする。

ツァームは周辺を見渡した。


「ありがとう。じゃあ一旦下りるよ。」

ツァームは軽やかに一角獣の背から下りると、一角獣は落ち着いて、地面の草を食み始めた。


「君は…何処かに帰ったりはするのかい?」

一角獣にツァームが尋ねた。


ツァームに向けてくる一角獣の澄んだ瞳は、まだここに居る、と告げている様で、ツァームはそれを見て微笑んだ。


ツァームはその場で地べたに腰を下ろすと、真顔になって何かを想う。

すると草を食んでいた一角獣がツァームの顔に頭を寄せた。


「ありがとう…。」

一角獣を見上げたツァームは笑顔になって礼を言った。








 「えっ、お兄ちゃん、副業のオフィスに行くの?」

「ああ。」

吉葉家に帰った功と友喜が、なつと一緒にリビングの座卓で昼食のバーガーセットを食べている。

なつに午後の予定を聞かれ、功は今日もこれから副業のオフィスに行こうと思っている、と話した。


「え、友喜良いの?」

思わずなつが聞く。


「え、私?え、だってお仕事なんでしょ?仕方が無いんじゃあ…。」

聞かれた事に対して自分が答えて良い立場なのかが分からなかった友喜は、小首を傾げながらもなつに答える。

友喜の反応に、あ、余計な事を言ったか、と、なつは珍しくどきどきした。

なんせ目の前の二人はもう気持ちが通じ合っていて余計な介入はこれ以上しない方が賢明かもと、今思わず尋ねたのと同時に思ったからだ。

 

「行けるのがこの曜日くらいだからさ。それにほら、内容の実際を則陽に色々と教えてもらってるのもあって、ちょっと面白くなってきたんだよ。」

功は二人に話す。

友喜は僅かに微笑み、なつは真剣な顔でそれを聞く。


「ついてきてもらってもオフィスの中には入れねえし、外の何処かで待たせておくのもな…。手持ち無沙汰になるだろ?ま…、だから申し訳無いとは思うんだけど、ここはやっぱり一人で行って来るよ。」

友喜は無言で素直に頷いた。

そんな友喜を、なつは横目で見る。

大丈夫かな。


その後は功がいつもと同じく食べ終わったバーガーセットの袋を座卓から引き揚げ片付けて、一人出掛ける準備を始める。

もう何回か、功のその動きを寂しそうに見守る友喜の様子を見てきたから、なつはそれについて少し考える。


「…友喜さ、お兄ちゃん帰ってくるまで家居て良いよ。」

「え、ううん、大丈夫。その前に帰るから。」

何だか大人しい様子でそう答える友喜を、なつは真顔で眺めた。








 ぽわぽわのくれるメッセージにアミュラの目に光が映り込む。

見るとぽわぽわが、そして妖精達が、それぞれの光を強めていた。


袖の中に収めていたと思ったふかふかのミジェルがいつの間にか出て来ていて、あの愛らしい生き物の姿に変わっている。

そしてミジェルは、ぽわぽわや妖精達の光の指揮を執っている様にも見えた。


驚いて涙が止まるアミュラの目の前に、妖精が一人、何かを携えてアミュラに話し掛ける。


「これはあたし達皆からのお祝い。アミュラ、これを着けて。」

妖精の手元を見ると、そこには花と石を組み合わせて出来た繊細な花冠があった。


妖精がアミュラの頭にそれを飾ると、アミュラの掛けていた磁界が一気に解ける。


妖精達は淡い光の姿に戻って辺りに浮かび、ミジェルはふかふかの毛玉の姿に戻ると勝手にアミュラの袖の中にもぞもぞと潜り込む。

ぽわぽわだけは光輝いたままで、尚もアミュラに笑い掛けてくる。

すかすかの抱き心地のぽわぽわを抱えて、アミュラは何と無く遠くを眺めた。

アミュラの姿はいつもの淡いピンク色に加え、所々淡い白色と淡い虹色の光も併せ持ち、美しく光り輝いていた。





 草を食んでいた一角獣がふいに頭を上げる。

ツァームに近寄り首を動かし背を指し示した。ツァームはそれに気付き、軽やかに飛んで背にまたがる。


「また頼むよ。」

きらきらと光るたてがみをそっと撫でてツァームが言うと、透き通った瞳の一角獣はそれに答える様にいなないて、風を巻き起こしながら走り始めその場を颯爽と駆け抜けて行った。  






 いつも穏やかな風しか吹かないこの地に、力強い風を感じた。

アミュラは気持ち良さそうにその風を浴びる。


何故かその場から動こうとしなかったアミュラは、ぽわぽわを抱き抱えたまま風上の方向を見ていた。


何かの声が聞こえ、圧倒的な熱量がこちらに迫って来るのを感じたかと思ったら、白色と虹色に光り輝く生き物が揺れ動く空気をたたえ、アミュラの眼前に現れた。


その巨大な体の背にはツァームが乗っていて彼を目に見たアミュラは胸の奥が高鳴る。



 一角獣はアミュラの目の前に着くとそっと立ち止まり、ツァームは背から飛び降りた。

一角獣の瞳を見て長い首に手を当てて優しく撫でると、


「ありがとう。」

心を込めて静かに礼を言った。

ツァームと一角獣の姿を感慨深げに眺めていたアミュラにツァームが向き直る。


ツァームはアミュラがまたその場で逃げてしまわないか一瞬不安に思った。

だけれどアミュラがついこないだまでと様子が違うと感じられたのは、彼女の発光の仕方もそうだったし、ツァームを見るその表情には柔らかさも見受けられたから。


「アミュラ…。少し…話をしても良いかい?」

ツァームがアミュラの傍に近づく前に尋ねる。

アミュラが首を僅かに縦に振ったのを確認したツァームは一歩、また一歩と近づいて行く。

手が届くくらいまで傍に行くと、ツァームはアミュラの頭に載っている小さく繊細な飾りに気付いた。


「その飾りは…」

「妖精達がくれたの。ミジェルや…ぽわぽわも。」

「ぽわぽわ…」

アミュラが手元に抱き抱えているぽわぽわをツァームの顔の前まで掲げて見せる。


「ぽわぽわ…戻って来たんだね。」

アミュラは嬉しそうに頷いた。


「それは喜ばしいよ。アミュラ…本当に良かった。」

ツァームは穏やかに言いながら、ぽわぽわからアミュラに視線を戻した。


一角獣は静かに近くの地面に生えている草を食んでいて、それでいて二人の様子を伺っている様だ。

その気配を感じたツァームは微笑み、アミュラに改めて顔を向けた。


「僕があのひび割れた石碑の主から負った役目を、アミュラに話そうと思うんだ。」

あの日アミュラの問いかけに、ぼんやりと抽象的な答えしか返さなかった。そこからアミュラはどんどん離れていって…。よくよく考えたらどうもそれかも知れない、とツァームは幾度もそれを思い、自分の考えとは別に、彼女は知りたかったのかも知れない、と、ようやく思い始めた。


腰を下ろそうか、とツァームがアミュラに促し、二人は樹々の中の草の多い地面に座り込んだ。


「アミュラが教えて欲しがっていたのに、今まで伝えなくてごめん。僕は…そうする事でアミュラを守れると勘違いをしてきた。」

ツァームが謝って、アミュラがそれを静かに聞く。


自分だってその後の行動はツァームにとって散々だっただろうし、アミュラも謝ろうとしたけれど、声が出てこない。


「僕は…石碑の主からこの世界の成り立ちを、成り立ちの知識を受け継いだんだ。」

アミュラは自分も謝ろうとしていたのを忘れて、ツァームの話に聞き入った。


ツァームの話によると、それはいつしかキャルユが話してくれた別の世界の話とも繋がっていて、その世界はキャルユが飛んで行ってしまった先であり、自分達の今居るこの地が深く関わっているとの事だ。


話を聞きながらアミュラはキャルユを想う。

ツァームの瞳を見ると、ツァームもキャルユを思い出しているかの様に見えた。


エールとは、別の世界のその地に光を届ける事、そしてその機能は石碑の内側の森にのみ有り、外側の森には無い。だから外側の森にある樹々はエール不足を訴えないんだと、教えてくれた。


枯れた樹のその原因についても、その別の世界が深く関わっているらしい。


ツァームが一度意識が無くなってその後こちらに戻って来た時に石碑の主から負った役目は、別の世界の光の受け具合を調整するものであると言う。


「常に揺れ動いているんだけれど、別の世界には闇という力もある。それはその星の約束で、今まで上手く機能してきた。それでも時は…光へと上昇しようとしている。」


そして上昇し始めたその地の助力となる様、ツァームは動いている。


「光の上昇に伴い、闇も濃くなる。樹の枯れたのは、闇の力に因るものだ。」

それでも樹以外についてはバリアーが張り巡らされているこの地では、究極的なダメージを受けるに至らなかった。


「石碑の内側では、僕達は守られていたんだ。」

一度外へ出てしまった事で、それが上手く機能し続けているかどうかは分からないとツァームは言った。


アミュラは石碑がどうしてひび割れたのかとツァームに聞いた。


「それは…主に尋ねていなかった。今度会った時にでも、それは聞いてみるよ。」

そこまで話すと、ツァームは隣に居るアミュラを改めて見る。


「アミュラ…君も少し…変わったのかい?」

その今までと違う発光の仕方と、より柔らかく見える表情は、ツァームを静かに感嘆させる。


「それにここは…初めて目にしたよ。こんな場所があるなんてね。」

近くの小さな切り株を見て言う。

アミュラが今まで誰にも立ち入れさせようとしなかった場所だから、アミュラと妖精達以外には、誰もその場所は知らなかった。


「あたしの…秘密の場所。もう、秘密じゃなくなってしまったけれど。」

アミュラが肩をすくめて言う。

それを見て微笑むと、ツァームはまた口を開く。


「僕は…アミュラと手を取り合って、これからも役目を進めていきたい。それが僕にとって…必要なんだ。」

アミュラがツァームの顔を眺めながらそれを聞く。ツァームはアミュラの表情を見ながら、言葉を続ける。


「この役目を一人で負おうとしていた。でもそれはどうやら間違いらしいと、アミュラの態度でようやく気付いたんだ。僕等はきっと…。」

アミュラがツァームを真っ直ぐ見る。その言葉の先を待っていて。


「二人で…ひとつなんだ。」

ツァームの言葉に、アミュラは静かに感動した。


周りに漂っていた妖精達の淡い光が煌びやかな白い光の粉を二人の上に振り撒く。


ツァームとアミュラは周りを見回して自分達の頭上から降り注がれる光を眺めた。

アミュラの口から、綺麗…、と言葉がこぼれた。


アミュラが抱き抱えているぽわぽわは妖精達の振り撒く光の粉に合わせて小刻みに白い光に強弱を表し、妖精達と一緒になってアミュラとツァームを祝福の空気で包み込んだ。



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