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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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挿絵(By みてみん)










 住宅街の一角。

夜も深まり静まり返った吉葉家では、功がダイニングテーブルの席で自分の買った本を広げていた。


妖精の本を読みながら、功はカフェでの友喜とのやり取りを思い返す。

本を開く時にはいつだって友喜の事を想っている自分が容易に想像出来たので、友喜にもストレートに想いを伝えた。友喜にも、そうあって欲しいと願って。


功は本を読みながら、友喜を想っていた。







 その夜不思議な夢を見た。

青い光になって飛んで行った私は、兄に良く似た人物の下へ躍り出る。


ただびっくりした顔で私を迎えた彼は、私の振る舞いが勇気づけであると気付いただろうか。


それをしながらも同時に、私は私のもう一人の下へと還って行く。


彼女はそれが心地良かったらしく、小さな手を胸に当てて喜んだ。

私も嬉しい。

私は彼女の胸の奥でにこにこと笑った。


その様子をもう一人の私が見ていたけれど、それは別の空間からだったからか、幼い彼女は気付かなかった。


まだ後もう少し。

でも大丈夫だから。

安心して、私は戻れたよ。





 夜明け前に目を覚ました友喜は、手で周辺をまさぐり豪奢な装飾のノートを探す。

手にその感触を認め手元に引き寄せると、ペンは手探りだけでは見当たらなかったので寝っ転がったままは諦めて起き上がって探した。

難無く見つけるとノートを開いて今見た夢の内容を書き記す。

最後に自分の感じた事を簡潔に書き加えた。


自分の書き記した内容を読み直してからノートを閉じると、表紙の豪奢な装飾を眺めてからペンと一緒に枕の脇に戻す。

もう少しだけ寝ようかと、友喜は再び横になった。





 「おはよう。」

「おはよ。友喜、今朝は早いね。」

寝坊せずに済んだ有津世が、自分の隣の席に着く友喜を見て言った。


どれくらい早いかと言うと、いつも朝一番に家を出発する父がまだダイニングテーブルの席に一緒に居る。滅多に見れない光景でそれはかなり早い時間である事を示している。

程無くして父は朝食を終えて席を後にすると、手早く準備を整え挨拶と同時に出掛けて行く。


「いってらっしゃーい。」

有津世と友喜はダイニングテーブルの席に座ったまま父に挨拶をして母はパタパタと足音を立てながら父を玄関先まで見送りに行った。


有津世は友喜の言葉数の少ない事に気付く。


「…。」

「友喜、元気無くない?」

「ん、まだ眠い…。」

「もう少し寝てれば良かったんじゃない?」

「早くに目が覚めちゃって、寝直そうとしたけどダメだった…。」

ぼけぼけの顔で友喜が言う。


「最近帰り遅い日もあったしさ…、たまには早く帰ってきて昼寝でもしたら?」

「う~ん…今日はそうしようかな…。」


寝不足でぽおっとしたまま、友喜は自分の分のパンをもふもふ齧っていた。








 有津世のアドバイスを聞き入れて、今日は友喜はカフェには寄らずに真っ直ぐ家へと帰って来た。

着替えを済ませて1階に戻ると、ダイニングで自分の分の紅茶を淹れる。

マグカップを一旦リビングのソファ前の座卓に置くと、友喜はソファにうずくまる様に座った。

紅茶のマグカップを手に取り直すとひと口飲むがどうも眠いのが抜けない。学校でも何回も居眠りしそうになって。

うずくまる姿勢のまま、ソファに寝そべる。

ほんの僅かな時間で友喜は寝入っていた。







 6階建てのビルの4階。


今朝も則陽は進行中のゲームプロジェクトで抜かり無く動いている。


功は傍からその様子を伺い、昨日帰りに見せたある意味貴重な瞬間を思い返して息を付いた。

則陽には則陽の悩みがあるんだろうけれど、余裕無さ過ぎのひと言に、まあ何と言うか面食らった。


「おい、則陽ちょっと来いよ。」

午後の丁度緩くなった空気を感じる時間に則陽を呼び出し、入り口の観葉植物ノーリの前にパイプ椅子を広げて座らせた。


「則陽お前さ、昨日の帰りのあれ、何だよ。」

「すみません、お見苦しい所を功に見せてしまって…反省しています。」

肩をすくめてそう話す則陽の事を功は軽く睨む。


「何があったんだよ。お前数日前も何か変だったし…。話してみろよ。」




 「プロポーズした?」

「はい。それでまだ、…返事、貰って無くて…。」

お前、思い切ったなあ、と功が驚いて、


「え、それでいつしたんだよ、二週間くらい前とか?一か月とかか?」

返事を貰って無くてイラついているのなら、それぐらいは経っているだろうかと思い功が聞くと、


「いえ、もう半年くらいは…。」

則陽が答える。


「は?」

「半年くらいは経っていて…。たまに返事の催促はしてるのですが…。」

「え?お前それってさ、遠回しに断られてねえか?そんなに返事待たせるかよ?」

則陽が功の言葉を聞いて僅かにがっくりした表情を見せながら、


「それで、…つい余裕が無くなって、それでからか最近夢見まで良く無くて…。ごめんなさい、功に当たってしまって…。」

「いや、良いよ、分かったからさ。でもよ、何でそんな状態なんだ?」

功は互いがべた惚れだと言うのにプロポーズの返事を貰えない状況が訳分からない。

即オッケーになりそうなのにな。それとも超慎重派か。


「………。」

「まあ、何にしても、お前が彼女、よっぽど取られたく無いのは分かったよ。」

二人にしか分からない、知れない事情はあるのだろうけれど、則陽なら乗り越えるだろうな、と功は思った。


「一応言っとくけど俺は、…」

「分かってますよ、友喜ちゃん一筋なんでしょ?」

功が赤面してちょっと則陽を睨みつけて、


「そう!」

はっきり答える。


「分かってますよ。だから昨日はああ言って、つくづく自分の発言の思慮の無さに呆れた所です。」

則陽が弁解する。功は息を吐いて、


「お前も馬鹿になる時あるのな。まあ良いんじゃね?全部に余裕ぶっこいてられても、それはそれで面白く無いしな。」

軽い感じで功が言った。


「何ですか、それ。俺は普段そんな風に見えてるんですか?」

「ま、ちょっとだけな。」

則陽が文句有り気な顔で功を見る。


「別に余裕ぶっこいてなんかいませんし、起伏がそこまで無いってだけで…。功みたいにがちゃがちゃして無いだけです。」

「は?がちゃがちゃって何だよ!」

功が途端に声を大きくする。


「それですよ、それ。まあ、そこが功の愉快な所ですけれど。」

その言葉に、功は猛然と則陽を睨みつけた。

そして次の瞬間、功は肩の力を抜いて、くっだらねえ、と言いながら笑う。則陽もいつの間にか表情を和らげて笑っていた。


「あ、今週の土曜日、副業のオフィスに俺居ませんから。」

則陽が思い出した様に言う。

ふぅん、そうか、と功が答え、別の用事があるのか?と聞く。


「彼女と金曜日から旅行の予定があって。」

「は!」

最後に自慢かよ、と功は憤慨しながらも笑ってそれを言った。








 土曜日に行かない事を加味して、則陽は昨日に続けて今日も副業のオフィスに寄ってくる事を梨乃に話してある。

昨日みたいには遅くはならないけれど、と言って、金曜からの出掛ける準備もあるし、ほんの少しだけ今日は作業を進める予定だ。


家に帰るのとは違う路線のホームに辿り着くと、見た事のある顔と目が合った。


「あ、確か、梨乃と一緒に居た…」

「穂乃香です。立木穂乃香。えっと…」

「ああ、俺、奈巣野って言うんだ。奈巣野則陽。」

「奈巣野さんですね、覚えました。野崎さんの彼氏さんだ!」

穂乃香はそう言って屈託無く笑った。

二人はホームで電車を待ちながら、何と無く会話をする。


「前にね、一度お見掛けした時に、奈巣野さんは野崎さんの彼氏さんだから、勿論イケメンだと思ったけれど名前聞くのは控えたんです。一緒に居た彼、功くんの事は、野崎さんに名前を聞く様にお願いして…」

則陽はそれを聞いて顔が真顔になる。


「でも偶然というか会えて、直接彼に名前聞けたんです。ラッキーって思って。」

穂乃香は裏表無く割とあっさり何でも話すタイプの様だ。その清々しさに惹かれて、梨乃は心を開いたのだろうと則陽は思った。


「功は、奴はかっこいいからなあ。」

「あ、でしょ?」

穂乃香が嬉しそうに言う。


「あいつ、彼女居るんだ。」

肩をすくめて、則陽は言った。


「そうなの?え~、残念!なんだ、そうか、そうなのか!」

穂乃香が明るいままに残念そうなリアクションを取る。

テンションが下がらずにそう振舞う穂乃香を、則陽は見て微笑んだ。


「立木さんは明るい人なんだね。」

「えっ、そう?」

その内に電車が来て二人は同じ方向の電車に乗り込み、車内でも続けて会話をする。


「どこで降りるの?」

「普段は4つ先。でも功くんの事聞いちゃって、少しむしゃくしゃしちゃったから2つ先で降りてちょっと寄るわ。」

穂乃香があっけらかんと喋る。


「ふうん。俺も2つ先で降りるんだ。」

「じゃあ一緒ですね!」

穂乃香が言う。


「あれっ?普段と路線、違うんじゃないですか?野崎さんとこの前話した時は、別の路線って確か…」

「そう。ちょっと用事があって。」

「へええ。」

2つ先は飲み屋街だから、飲んでから帰るのかな、と互いに思う。


駅に着き、改札口に向かう。


「ああ、じゃあ、お疲れ様。」

則陽が穂乃香に挨拶する。


「お疲れ様です。あ、でも私もこっちだな。」

そこまで大きくない駅の構内で距離が決して大きく離れずに歩いて街に出ると、今度こそは離れるだろうなと二人は互いに会釈した。


なのに進む方向は同じで、あれ?と言う表情を二人はする。


別に付いて行っている気は無かったのに、進む方向が一緒で、則陽は考え直して穂乃香にもう一度声を掛ける。


「あ、寄る所こっちなの?俺もこっち方向で…」

「はい、割と平日寄る事多くて。」

則陽は思った。

結構酒好きなのかな。

この辺は一帯が飲み屋街だったので、気に入っている店がこっちの方向にあるのかな、と思った。


すると副業オフィスの建物前まで着いて、じゃ、と今度こそ挨拶をしようとすると、穂乃香も階段を下ろうとする。


「えっ?」

穂乃香も驚いている。


「奈巣野さんも寄る所、ここ?」

「立木さんこそ…。あれ?…え、ここ寄るの?」

梨乃の会社は分野が別だった気がするし、穂乃香がここに立ち寄る意味が分からなかったけれど、聞くと確かに用事のあるのはこの場所だそうだ。


「あ、じゃあまた今度。」

作業を始めると会話が無くなるのは分かっていたから、また話す事にして、則陽と穂乃香はそれぞれ心構えを切り替えて、同じオフィスの受付まで赴いた。





 則陽はこの日は一時間弱程度で作業を終わらせたから、少し離れた席の同じ作業スペースで尚も作業を続ける穂乃香を見て会釈をすると穂乃香も気付いてひょこっと頭を下げて微笑んだ。


そうして則陽は副業のオフィスから階段を上がって道路へと出ると、いつもとは違う感慨を持ちながら、駅へ向かった。








   

 緑の濃淡の色の混ざりが美しい星。


アミュラが石碑の外側の森を探索している。

内側の小さな切り株のある場所みたいに、外側の森でもお気に入りの場所を見つけたくて、もう何度か探索を繰り返していた。


でもここ、っていう場所をまだ見つけられては無くて、それでもだいぶ外側の森に慣れてきたアミュラは自分の庭の様に伸び伸びと動き回る。


アミュラを見つけた私は、目の前まで下りて、アミュラの顔を眺めた。

彼女は私の良く知る顔に本当に似ていて、二人共に美しい。

私は彼女の顔を見て微笑んだ。




 目の前に突如として現れたぽわぽわに、アミュラは目を見張った。


「ぽわぽわ!ぽわぽわなの?」

途端に表情が明るくなり、アミュラは透明がかってすかすかと独特の感触を味わいながらぽわぽわを両手のひらで懸命に包み込んだ。


「会いたかったのよ、何処に行っていたの!?」



アミュラは私を抱きしめてくれた。

私もそれに答えてアミュラに笑い掛ける。

彼女の気持ちが少しほだされたのを感じて、私は戻って来て良かったと感じた。


大丈夫、これからも一緒だよ。








 林の奥の二棟の家。


「ただいま~。」

有津世の第一声がする。


返事が無くて有津世が一人ぱたぱたとリビングまでくると、友喜がソファにうずくまって寝ている。

有津世はそれを見て微笑むと、2階にある自分の部屋に移動した。



 鞄を置き、着替えて1階へと戻ると、友喜はまだ眠ったままだ。

有津世は友喜を寝かしたままにして、三人の分の紅茶の用意を始める。

お菓子は適当なのを3つ選び、紅茶のマグカップと一緒にリビングに運ぼうとしている所に雨見の声が聞こえた。


「お邪魔しまーす。」

「雨見、どうぞ入って。」

雨見が玄関からリビングに来ると、友喜がソファにうずくまって寝ているのを見つける。


「あ、友喜ちゃん。」

「何か今朝寝不足だったみたいでさ、昼寝すれば?って言ったんだけど、まさかここで昼寝しちゃうなんてね。」

自分が言い出したから、とりあえず起こしてないんだ、と有津世が少し呆れた調子で言う。それでも妹を気遣う様子は雨見には分かった。


「じゃあ寝かしておいて上げようね。」

雨見がそう言い、その言葉に有津世は頷く。


二人はソファにそっと掛け、友喜の様子を伺う。そして雨見は有津世に向き直って、


「小学生の時も、確かこんな事あったね。」

友喜が二人に抱き着いてきて様子がおかしくなった直後、家で眠り呆けていた時の事を雨見は言った。


「大きくなったのにさ、友喜はあの頃から調子変わらないんだよなあ。」

有津世が世話が焼けるとでも言う様に、友喜をチラ見する。

雨見はそれを見てくすっと笑い、


「有津世は本当に友喜ちゃん大事だね。」

「まあそりゃあ一応、兄だからね。」

兄、と言うよりは有津世の性格なんだろうな、と雨見は思う。


「ねえ、でもさ、よっぽど寝不足だったんだね?こういうのって気配で起きそうじゃない?」

「うん、…」

小学生の時に起こった出来事を想起させる、友喜の昏々と眠る姿。あまりにも静かなのでそのうち有津世は気に掛かってくる。


「大丈夫かな。」

「え、何が?」

「静か過ぎじゃない?」

何の動作も無く寝息すらも静か過ぎる友喜の姿を有津世の言葉で雨見は再び見て、ソファから立ち友喜の傍に行ってしゃがみ込み、そっと頬を触っておでこにも手を当ててみる。


「うん、温かいし息してるし、穏やかに寝ているだけって思うけど…起こす?」

雨見が有津世に聞く。


「…ブランケット、取って来る。」

そう言って、リビング脇の収納を覗くと、ああ、これだ、と言って手近なのを引っ張り出し、ソファの友喜の所に持って来た。雨見がそれを受け取り友喜に丁寧に掛けると、二人は改めて友喜の寝顔を見る。


「…友喜ちゃんさ、もの凄く生命力溢れているよね。」

「生命力?」

「うん。でなかったら、今のこの状況、耐えられないんじゃない?」

雨見は友喜が分かれて存在している事を思って言った。

悩んでもいたけれど、それよりも嬉しい出来事を相談の度に教えてくれた。とても前向きで、躍動感溢れていて。


そんな友喜が雨見は大好きだったし、自分は友喜みたいにはなれないと知っていたから尚の事、実感を込めて言った。


ただ、だからこそ、友喜を支える人は必要で、雨見は街で見掛けた友喜の想い人の事を思った。


すごく素敵だったな、二人の姿。


「友喜は吞気だから、良かったよ。」

雨見の言葉を受けて、有津世が言った。


「人によってはさ、疑心暗鬼に陥るんじゃないかな。友喜は友喜で、良かった。」

「うん。そう思う。」

雨見が頷いた。

そうして、二人は紅茶のマグカップに口を付け、友喜の寝入る姿と少しゆっくり流れる時間を味わった。








 「ねえ、ぽわぽわ。ぽわぽわが戻って来たのを、ツァームに教えようと思うの。」

アミュラが嬉しそうに私に話す。


「でも最近、ちょっと上手く話せなくなってて…どうしたら良いと思う?」


石碑の外側の森の中で、私を見つけてすっかり機嫌を直したアミュラが告げてきた。

私は考えて、ただアミュラに微笑み掛けた。

それが一番だと思ったから。


「ん~…それもままならなくて…何だろう、ううん、違うの、意地悪したい訳じゃないの。なのに何故か…そういう態度になっちゃって…。」

アミュラは私をすかすかと抱き抱えながら、私に話を続ける。


「あたし達と伝達の仕方は違うけど、あなたがあたしに何を言ってくれているかは分かるんだ。ぽわぽわ。本当に戻って来てくれて良かった。」


私はアミュラを見て、笑顔を繰り返した。

とにかく笑顔を見せる。それが一番!そうアミュラに伝えたかったから。


「だからそれが、上手くいかないんだ。多分怖い顔ばっかり。そればっかりになっちゃう。」

それを聞いて、私はアミュラの腕の中からすり抜けた。


「あっ、ぽわぽわ、何処へ行っちゃうの?」

アミュラの叫ぶ声が聞こえる。

私は穏やかな心持ちでその星から飛び去った。






 柔らかなブランケットの感触を感じて、耳にとても馴染んだ二人の声が聞こえる。

友喜は目を覚まして、見えてきた視界を確認する。雨見がそれに気付き、友喜に声を掛けた。


「友喜ちゃんおはよう。お邪魔しています。良く寝れた?」

今さっきまで見ていたのと瓜二つの顔が友喜に微笑む。


「雨見ちゃん…。」

「お、友喜起きたのか。」

有津世も気付いて、友喜に注目する。

友喜はブランケットをずれ落ちぬよう手で押さえたまま上体を起こした。


友喜は依然ぼうっとしたまま、自分の紅茶のマグカップに口を付ける。


友喜がいつもの調子に戻らないのを有津世と雨見が不思議に思い二人顔を見合わせると、もう一度友喜に目を向けた。

友喜は二人の視線に答える様にようやく口を開く。


「今朝もだけれど…ぽわぽわになってた。ぽわぽわだった時の事、思い出したの。」








 林の奥の二棟の家。

今夜も淡い光が漏れる二つの丸い天窓の片方を上から覗くと、有津世がロフトに上がってクッションを背に寝っ転がっている。


 

 奥側の家、ログハウスの2階では雨見が部屋で夢日記と豪奢な装飾のノートをベッドの上に並べ、今夜もそれを眺めていた。


友喜ちゃんが記憶を思い出した。

ぽわぽわの記憶。


昼間に見た夢は、積極的にアミュラを応援しようとしていて、キャルユからの想いは特には感じなかったと言う。

雨見はそれを聞いた時、自分がクリスタルの中で小学生の姿の友喜と幼いキャルユに会った場面を再び思い出した。


キャルユは命の欠片…。


それが意味する所は聞いた当初は分からなかったけれど、今回の友喜の発言で少しは理解したかも知れないと感じた。


そして自分の見る夢、今夜になるかどうかは分からないけれど、友喜の見た情景を追って見るだろう事も予想出来た。自分の夢の中ではまだぽわぽわを失ったままだ。


ぽわぽわと再会出来るんだ。

そしてぽわぽわは、友喜ちゃんなんだ…。


その事に改めて思いを馳せて。








 都内アパート。

帰り着いた則陽は夕飯の準備をしながら、穂乃香と会った事を梨乃に教えた。

一番驚いたのはやはり副業のオフィスに穂乃香も寄った事だったが、則陽はその話題よりも梨乃にあらかじめ話しておきたい事があった。


「え、あ、吉葉さん彼女居るの?」

「うん、立木さんにも伝えたよ。何かあの人、突っ走りそうな雰囲気だったから。」

則陽が梨乃に言う。


「そうなんだ。…穂乃香さん、がっかりしたでしょう。」

梨乃が穂乃香を思い浮かべて言う。


「そこまででも無かったみたいよ。彼女、明るい人だね。」

則陽が感心して言った。

梨乃がそれに頷いて、


「そう。明るいけれど押しつけがましく無いの。天性だな、って思っちゃう。ああいう性格、憧れるなあ。」

やっぱりそうか、則陽は梨乃が彼女に懐いた訳を梨乃自身からも確認する。

梨乃はどちらかと言うと、ほんの限られた人にしか自分を見せようとしなかったし、自分に無いものを持っていると憧れるのは自分も梨乃も一緒だ、と思った。

だから尚更、梨乃の口から功の名前を尋ねられた時には反応してしまった。彼女も、その魅力を感じてしまったのか、と思ったから。

でもそれは穂乃香との会話で違うと分かった。分かったけれど。


それでも功の事は、穂乃香に伝える事で、梨乃にも伝えたかった。それが本心だ。


「早く食べ終わってさ、明日の準備をしよう。」

「荷物、朝から持って行くんだよね。」

梨乃が確認で聞いてきた。


「うん。駅前のロッカーに預けておこう。それなら邪魔にならないでしょ?」

出来上がったおかずをダイニングテーブルに載せながら則陽が言う。


「わあ、美味しそう。」

ダイニングテーブルの端に手を付いて梨乃が嬉しそうに眺めた。


「ご飯よそるね。」

そういって炊飯器の方に向き直ろうとする梨乃を、則陽は抱きしめた。

梨乃は則陽の不意打ちとも言えるその動作に一瞬驚きはしたけれど、浸る様に則陽の胸に顔を埋めた。


どれだけ俺は梨乃を離したくないんだろう。


そう思いながら梨乃を抱きしめている則陽の腕に力がこもった。



 

ゲーム会社でのプレジェクト進行についての文がおかしかったため一部修正しました。(2026年1月12日)

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