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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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差した光

 ログハウスに温かな色味の照明が灯る。


ふんわりと夕飯の良い香りが漂い、中からは談笑が聞こえる。

辺りはすっかり暗くなっていて、林の木々の枝葉が風に吹かれて擦れ合う音が微かに鳴っていた。



今日は唐揚げご飯だ。


「美味し~い!」

「良かった!いっぱい食べてね。」

雨見の母が嬉しそうに答えた。


お味噌汁をすすりながら、雨見は下校時の友喜の呟きを思い返した。

『ツァーム…、アミュラ…。』



「…ねえ、お母さん、夢で見た内容が他の誰かが見たのと偶然同じになって、それに気付いた事って今までにある?」

勢い込んでご飯をもりもり食べている我が娘の姿を真正面の席から眺め、満足気な表情を浮かべていた雨見の母は娘から出た問いに視線を巡らせた。


「う~ん、そうねえ…随分前にだけど、母さんの妹となら、同じような夢を見た事があるわよ。珍しい内容だったから、聞かせてみたら、妹も見た事のある夢だったの。行った事も無い、遊園地の場所でね、特徴的だったのは…。」


雨見の母は、事細かに当時見た夢を雨見に話してくれた。


その内容に感心して聞き入りながら、雨見は手を伸ばして唐揚げを箸で掴むとご飯茶碗の上に乗せた。

ご飯を食みながら上目遣いで母の言葉に頷いてみせた。


「そうかあ、じゃあお母さんもあるんだ…。」

「ん?雨見も何かそういう体験したの?あ、」


母が雨見に尋ねたと同時に、家のチャイムが鳴った。


「お父さんが帰ってきた!あなた、お帰りなさーい。」


パタパタとスリッパの音を立てながら、玄関ドアの鍵を開けに母が行く。

母の姿を目で追いながら、もう一つ唐揚げをご飯茶碗に乗せて、リビングに入ってきた父に、にんまりと笑顔で挨拶した。


「お父さん、お帰りなさい!」

「ただいま。なんだ雨見、玄関まで来てくれないのか、お父さんは寂しいぞ。」

「だって、見て、ほら!唐揚げなんだもん。」

「唐揚げに負けたかあ!まあ、唐揚げならしょうがない。お父さんも食べたいぞ!おお!今夜も美味しそうだな!」

「ふふ。食べましょうか。」


食卓の席に雨見の父も加わり、和気あいあいとした空気はログハウスから外に漏れだす明かりと共に漏れ、辺りに温かみをじんわり放った。







 黒壁に深緑色の屋根の家。もっとも今は夜だから、漆黒に近い色味のその家は窓から出る照明で辛うじてそのデザイン美を目視する事が出来た。


天窓の丸いガラスからは、明るくは無いが薄ぼんやりとした淡い光が差している。


有津世は自分の部屋のロフト部分に上がり、クッションに背をもたれかけた姿勢でまだ寝入る事無く真上の天窓を眺めていた。

夜空の星や月が良く見える有津世達の家の天窓はちょっとしたプラネタリウムさながらな趣きだ。


アミュラとは、雨見の夢の中での名前なんだそうだ。

ツァームはその仲間で…。

友喜が自分達二人に対して呼び掛けたそれぞれの名は、初めて聞くにしては妙に耳馴染みの良い音だった。



星がきらきらと瞬いている。


それとちょっと見せて貰った雨見の夢日記には、様々な事がそれは事細かに書き記されていた。

夢の中の自分がどんな場所で過ごしていて、どのような事をして、どの様な仲間と一緒にいるのか、どういった体験を今までしてきたのか。


ちょっとだけ圧倒された。

流石だなとも思った。

雨見は真っ直ぐに、夢に対しても向き合っている。

夢の事なのに、ほんの少し、現実じみて思えた。


「白い毛玉の夢、見た事あるよ!」


友喜だって今朝あっと驚く事を言っていた。

雨見の言ったものと一緒ならば、それこそ友喜も雨見と同じ夢を見たのだろうか。

名前、呼ばれたし。

少なくとも雨見はそう思っただろう。

自分はどうか分からないけれど。

でも…。



思いを巡らし続けている内に次第に瞼が重くなり、有津世が寝入った時。

夜空の星の一つがきらりときらめき、幻想的な光の粒子がきらきらと辺りに瞬いた。


光の粒子は伸びをするかの様に弓状に反れると次の瞬間には、丸みを帯びて淡い白色の光の玉となり、ふわふわと漂う。

いつの間にか天窓をすり抜けて、すやすやと寝入っている有津世の顔の近くに浮かんだ。





壁を隔てた隣の友喜の部屋では、友喜もロフトに上がってくつろいでいて、友喜の部屋の天窓を眺めていた。

星がきらきらと瞬いている。



下校時にきのこを見た後の自分の挙動がどうも思い出せなくて。

とても良い花の香りがふんわり漂った事だけは記憶の端に残っていた。


そういえば雨見ちゃんから何か聞かれたっけ…


今となっては雨見から何を聞かれたのかも記憶の端からこぼれ落ちてしまったみたいだ。

まあ、身に覚えが無かった事だからだろうけれど。


昼間三人で目撃したゲームのバグ、あれは何だったのだろう。


隠しイベントなのか何なのか知らないけれど、あれは趣味が悪すぎるんじゃないの?あのキャラクター、すっごく気持ち悪いし。


「おえ~。」

思い出したらつい独り言が出てしまった。


色々考えた挙句、昨日今日と起きた物事に対しての自分の理解が追い付かず気持ちに整理がつかずで何だか腹が立ってきた。

ぷうっと頬を膨らませて、天窓に改めて視線を移すと、夜空の景色に違和感を覚えた。


見上げた天窓の向こうに見える空から一筋の光が下りていて、小さな天の川みたいにキラキラときらめいている。


友喜は目をこすった。


「…へ?」


胸の鼓動が高鳴った。

昼間に感じた胸の奥がほんのり温かくなってくる現象を今再び覚えて、友喜はまた胸に手をやると、直ぐに別の行動に移った。


ロフトの梯子を下りて、自分の部屋から出て隣の有津世の部屋のドアの前まで行くとノックした。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、まだ起きてる?」

小さな声で、それでも中に聞こえるくらいの大きさで呼びかけてみるも返事が無い。


そこで友喜は、ガバッと躊躇ちゅうちょ無くドアを開けてみた。


部屋の中に入ってロフトの近くに行き上を見上げると、そこには小さな白い毛玉の様な光が、寝入っている兄の傍らに浮かんでいた。

時折淡く光り、ふわりふわりと宙を漂っている姿に、友喜は目が離せなくなった。


「…ゆ、…夢の…!」


有津世を起こすのも忘れて友喜は、そうっと近づいた。

もっと近づきたくて思わずロフトへの梯子を上って観察しようと梯子に手を掛けた時、ロフトの上から声がした。


「…友喜?」


有津世が目を覚ました様だ。


「お兄ちゃん!」

「どうした?」

「なんかっ、光っているのが部屋から見えて、びっくりしてそのっ…、確認しようとしたの、そしたら、ほら…!」


時折、はかなげに光る、ふわり、ふわりと宙に浮く白い毛玉は有津世の周りを意思を持っているかの様に漂う。


「ああ、この子か。また来てたんだな。友喜には言って無かったけれど、ちょっと前から時々、俺の前に現れる様になってさ、」

「………。」

「どういうものなのかは、はっきりとは分からないけれど、悪さをする感じでも無いし、綺麗だからね。こうやって漂ってるのに任せてるんだ。」

「え、」

「え?」

「前から、なの?」

「うん、ちょっと前から。」

「…」

「綺麗だよな。」


「これ…これがね、雨見ちゃんが言ってた、白い毛玉だよ!ほら、みてよ!ふわふわじゃない!でしょ?」

「…?」

「私これ…夢で、見た事あるの。雨見ちゃんも、ううん、雨見ちゃんが、始めそう言って、…雨見ちゃんが、夢に、白い毛玉が出たって、最初言ってたの。」


有津世は、友喜の言葉の意味するところをようやく汲み取った。

この光に遭遇するのは、有津世にとっては今日が初めてでは無い。

だけれど雨見の夢で出てきたと言う生き物の話がこれの事だとは今の今まで認識していなかった。


「友喜もこれを夢で見た事があるって…。」

有津世の問いかけに、友喜はぶんぶんと頭を縦に動かして何度も頷く。


「夢で見た子と、一緒…。」

改めて「白い毛玉」に目を向けた。


「確か、その生き物、『ぽわぽわ』って、名付けて…、」


呟いた友喜の様子が何だかおかしい。

直後、友喜の周りにだけ空気の渦が巻き起こり、濃密な花の香りが友喜をはじめ有津世と部屋全体を包んだ。








 数を数えている。


「5、4、3、2、…」

この薄暗闇のトンネルを通って明滅している光と共に何処かへたどり着くまでを。


「1、0」

青空と緑の草原の大地に投げ出された。


黄緑色の長いウェーブ髪の少女が草原で倒れ込んでいる。

薄黄色の裾から出ている肌に、柔らかな草が触れている感触を感じてまぶたが開く。


「…ん。」

両手を大地に着き、ゆっくりと起き上がった。


「えっと…ここは…。」

自分の髪を撫でて、肩よりある長さに違和感を覚えた。

一拍置いてから、彼女は目の前の石碑の存在を確認する。


ああ、ここは…、


「キャルユ達の世界だ。」

呟いたキャルユの姿に、友喜の残影が重なって見えた。





 ツァームとアミュラが居るいつもの自分達の居場所に、キャルユは風に浮かぶ鳥の羽根の如く軽やかに向かう。

木陰の岩の近くに佇む、ツァームとアミュラの姿が見えた。


「キャルユ。」


ツァームがキャルユに気付いて声を掛けた。


「お帰り。無事で良かった。」



ツァームとアミュラに、にこりと笑って頷いたキャルユは二人の目を交互に見つめながら口を開く。


「あのね、聞いて欲しい事が…二人に、伝えたい事があるの。」




キャルユから発せられたのはツァームとアミュラの二人にとって知らない世界の話だった。

こことは全く別の、おそらく違う星で、今の認識しているのとは別の存在で生活している自分達が居るという話で、三人はとても良い形で関わり合っているとの事だった。


キャルユは、つい先ほど、その記憶を思い出したのだと言う。

こちらの世界の今の状況においての突破口になり得るんじゃないかとも。

今の自分達の、この状況における希望の糸なのでは、と。


ツァームとアミュラは真剣に耳を傾け、彼女の想いを受けとめる。


「キャルユ、君は向こうの星で、こっちでの事を覚えているの?」


キャルユは首を振って答える。


「いいえ、残念だけれど。何故かぽわぽわの事だけは覚えていたわ。向こうの星で私達の事を教えてくれたのはアミュラなの。」


白い毛玉のぽわぽわを袖から出して手のひらの上で遊ばせていたアミュラが、キャルユの方を向いて目を丸くした。


「あたしが…?あたしが覚えてるの?」


信じられない、といった風に聞き返す。

キャルユはゆっくりと頷いた。


「そうよ、アミュラ、あなたなの。アミュラは向こうの星で、ここでの出来事をきちんと記録しているの。」

「へえ…。あたしって…そっちの世界では意外とマメなんだね…。」

半ば呆けて自分に感心するアミュラに、ふふ、と笑ってキャルユは続ける。


「あとね、不思議なんだけど…。」



「見たって?」

「このぽわぽわを?」

キャルユは何度となく頷いた。


「実際ぽわぽわが、何故向こうの星にも出現するのかは分からないけれど…考えられるひとつとしては、何か繋がりを保つため、とか…。」


現に、ぽわぽわを目撃した直後にキャルユはこちらの星に舞い戻り、記憶を保ってツァーム達に情報を告げる事が出来た。


「だとするならば、ぽわぽわは、僕達にとっての希望の糸そのものなんじゃないかな…。」


ツァームが顎に手を当て思案しながら答えた。


「ええ、そう思うわ。」

真剣な面持ちでツァームに頷きキャルユが同意をした。


「ぽわぽわ…不思議な子…。」


アミュラがぽわぽわを見つめて呟いた。

ツァームとキャルユも、アミュラの言葉ぽわぽわを眺めた。


「向こうの星は、こちらに比べて重いの。だから活動はしにくい様なんだけど…。ぽわぽわは影響を受けにくいのかしら…。」


満天の星空を仰ぎ見て、キャルユは続けた。


「とにかく、私達は少なくとも、もう一つの世界と繋がりを持っているの…。」


ツァームとアミュラも共に星空を見上げ、それぞれの想いにふけった。








 有津世の近くに”白い毛玉”が飛ぶ中、突然何かのスイッチが切り替わったかの様に態度の豹変した友喜が、有津世の部屋から出て行った。


呆気に取られた為に一足遅れて有津世が彼女の部屋を覗くと、友喜はたった今有津世の部屋から出て行ったばかりなのにロフトの定位置ですっかり熟睡していた。


「…?」


目を疑った有津世は、友喜の姿を再度凝視して首を傾げた。

友喜の部屋のドアをそっと閉めてから自分の部屋に戻ると、かぐわしい花の香りが部屋中に充満しているのに気付いた。


光の玉あらため白い毛玉は依然いぜんとして宙に浮いていて、有津世に何かを言っている感じにも見える。

手のひらを差し出してみると、白い毛玉は手のひらに触れながら静止はせずに、ふわりふわりと微妙に浮かんだままだ。


白い毛玉を眺めつつ、もう一度クッションを背に寝っ転がる。

ふわりふわりと漂い続ける白い毛玉を前に、いつの間にか眠りについた。




 「おっはよ~!」

元気よく食卓に着く友喜に、気遣わし気に有津世が聞く。


「おはよ…友喜、何とも無いの?」

「え~、何の話?」

にこにこしながら、いただきまーす、と言って朝食のパンをくわえる。


「え、何?何かあったの?」

二人の会話に母も話に入り聞いてきた。


「いやあ…、夢、…だったかな?」


何と無く誤魔化した有津世の煮え切らない態度に、母と友喜は「ふふ、」と笑い合った。

友喜は隣の席に座る有津世の背中をバンバンと叩き、


「お兄ちゃん、また寝ぼけてるの~?寝起き悪すぎ~!」

必要以上に大きな声で笑う。


「ぶっ、友喜、止めてよ、こっちは食事してるんだからさ!」


ゲホゲホむせかけながら友喜に文句を言いつつ、つられて有津世も一緒に笑った。




 「おはよ~!」

「おはよう。友喜ちゃん、今朝は早いね。」

「うん、だってお兄ちゃんがいっつも急かすからさ~。たまには早く出ようと思って!」

友喜が玄関ドアから自分の後に出てくる有津世を横目に文句っぽく答えた。


「おはよう。」

「おはよ、雨見。」


三人揃ったところで、雨見は高鳴りつつある胸の鼓動と共に口を開いた。


「友喜ちゃんも有津世も、今日の放課後は空いてる?」

「うん。」

「うんっ!」

有津世は雨見の意向を尋ねたそうな向きで、友喜は元気良く答える。


「それじゃあ帰ってきたら、会議するよ。その名も、作戦会議!覚悟しといてよ~!!」

「ほえ~!何か凄そう…!」


友喜が雨見の勢いに圧倒されて目を丸々と見開いた。

有津世は少しだけ難しい表情を見せる。

ビシッと人差し指を二人の前で掲げて宣言した雨見は、それぞれ異なる二人の反応を見て、くすりと笑った。




 放課後、友喜が一番最初に家に帰り着き、雨見と有津世を待っていた。


友喜の帰宅後30分くらい経ってから有津世が帰ってきて、そのまた10分後くらいには雨見が手提げ袋を手に有津世達の家へとやって来た。


「はい、今日のお菓子。」


有津世と友喜、そして自分に個包装されたクッキーを配ると、雨見はまたゴソゴソと自分の手提げ袋を探った。そうして出てきたのは分厚い日記帳だ。


「有津世には昨日、これを見せたんだ。友喜ちゃんには今日が初めてだね。」


雨見の口から次の言葉が出てくるのを友喜は雨見と日記帳、双方を見てじっと待つ。


「これは、私の夢日記で、毎日見続けている夢の、…別の世界の記録を書いています。」


前置きとしての説明を手短にきっぱり言い切る雨見に、友喜はひょえ~と唸り、有津世は静かに聞き入った。


「友喜ちゃん昨日、下校途中から記憶が飛んだ場面があったと思うの。」

「うん…。」

「ちょうどその時ね、友喜ちゃんは私達の事を、こう呼んだんだ。」

ぺらぺらとめくり開いた日記帳のページには、雨見が丁寧に描いた人物像とその人物の名前と思われる文字が横に記されていた。

有津世は昨日にも見せて貰ったページだ。


”ツァーム” ”アミュラ” ”キャルユ”


「友喜ちゃんはね、突然、私と有津世に抱き着いてきてツァームとアミュラって、有津世と私の事を呼んだの。」


友喜が目を白黒させて、雨見の言葉を喉元で反芻はんすうしてみる。

何だかとても複雑そうな話の入り口への取っ掛かりを掴もうとして。


「実はね、私、毎日見ている夢の中では、この世界の自分とは違う人格で存在しているの。その名前が、アミュラ…。」

「…。」


「友喜ちゃんが私を呼んだ名前と、一緒なの。」

「…。」

「有津世には、ちょっとだけ話したんだけどね、…私はその世界を、夢というよりは、もう一つの世界で、もう一つの現実なんじゃないかと感じていて、そう信じているの。」


雨見の話を聞きながら、友喜の鼻息が荒くなっている。


有津世と友喜はソファから身を乗り出して雨見の日記を覗いていて、揺れたらぶつかるくらいの間隔で三つの頭が仲良く並んでいた。


「その、もう一つの世界がね、きっと…、二人にとっても無関係じゃ無いって可能性も知っておいて欲しくて。」


有津世と友喜は顔を見合わせた後で、雨見の顔を同時に見つめた。

そんな二人を交互に見ながら雨見は話す。


「こんな突拍子も無い話…いきなり信じてと言われても困るかもだけど…それでもね、一度は伝えておこう、伝えておかなくちゃと思ったの。二人にも知る権利、あると思ったから。」


雨見は、ひと呼吸置いてから続ける。



「私達三人はもうひとつの世界でも別の存在でお互いに関わり合っている。とても大切な仲間なの。

今、その世界では問題が起きていて、もしかしたら、何かの手掛かりがこちら側の世界で掴めるんじゃないかって事に気付いたの。」


「…別の世界で発生している問題に、こっちの俺らが介入して何かを変える事が出来るかもって事?」

「ひょっとしたらだけどね。それでね、この話は友喜ちゃんが、ううん、キャルユが友喜ちゃんの記憶を保ったまま、あちらの世界での私達に教えてくれたの。」


雨見は言いながらも、自分の夢の記憶と今の状況とに矛盾と違和感を覚えた。


私は友喜ちゃんに夢日記の事を今やっと教えているのに、自分が見た夢の中のキャルユはもう知っていた。

あれ…?何でだろう。


一瞬俯いて考え込む。

考えても答えが見つからないので保留にしておこうと雨見は思った。



気を取り直して友喜を見ると、友喜はぽかんとした表情で雨見に聞き返してきた。


「私…が…?」

「そう、キャルユは自ら、友喜ちゃんだって教えてくれたの。」


友喜の戸惑った顔を目に映し、雨見は今度は有津世に向き直った。


「…それと、有津世、”白い毛玉”の事を知っているでしょう?」


ちょうど昨夜、友喜とひと騒動あった白い毛玉の話題だ。

昨夜の事はまだ雨見には伝えて無かったから、有津世の時々目にする光が雨見や友喜が言う光の毛玉と同義だとは雨見も知らないはずだ。

なのに、雨見は見知った様に有津世に指摘してきたから、有津世はたいそう驚いた。


「白い毛玉の子は、あちらの世界では私が連れている子なの。キャルユが教えてくれたんだ。有津世がね、白い毛玉の子と何度か遭遇しているって。偶然、それを見たんだって。」


「えっ?本当に…?話が繋がってきちゃうよ…。だって昨日の夜ちょうど友喜とあの光に会ってさ…。」


有津世からの説明を聞いて雨見は喉をごくりと鳴らした。


「友喜、昨夜の事は覚えてる?」


「う~ん…白い毛玉…は見た、うん。白い毛玉は。……あれ、その後、どうしたっけ?」

「その後の事、覚えていないの?」

「う~?う~ん、うん。」


唸り声を出しながら、はて?と首を傾げる。


友喜は先日の下校時にも記憶の空白時間があったし、ひょっとしたら彼女の記憶の空白時間にこことは別の世界と繋がっていたりするのだろうか。


「ところでさ、あの白い毛玉、その後どうだったの?もっと見てたかったな~!」

軽い感じで友喜が有津世に尋ねてくる。


「うん、…いつも自分が寝入ってしまうまで、周りでただふわふわと飛んでいるんだ。昨日もそうだったよ。」

「ふ~ん、そうか~。ふんふん…。」


納得して友喜が鼻を鳴らす。


「雨見。その、もうひとつの世界での俺達の姿ってどんななの?」

「えっとね、三人共、私達よりも年上に見える…。皆、すらっとしてて、額には石みたいな装飾を着けてるの。半透明のシフォンの生地が重なったドレスみたいな綺麗な服を着ていて、すごく素敵で…。結構この絵は上手く描けてると思うんだ。でね、身体が軽くて、ふわふわしていて…重力がこっちと違うのかも知れないけど…。」

ああ、それと、と雨見は続ける。


「性格はね、私達よりも少しだけ大人びてて、より大らか、かな。…三人の居る世界の成せる技かも知れないけれど…。」


「ん?それはどういう意味で…?」

有津世が雨見に聞き返した。


「あちらの世界では私達三人以外には誰も人が存在していないみたいなの。」

「三人だけ…。考え様によっては、それって随分寂しい世界だね。」

「言われてみれば、そうだね。だけれど、私達、そこでもすっごく仲が良いから…。」

雨見が、二人をちらと見て言う。


その視線に何か他の意味があるのか、友喜は勿論、有津世も考えようとはしなかった。

ただ、今の雨見の発言直後に、友喜からほんのり花の香りが漂ったのを有津世と雨見の二人は感じ取った。




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