思惑
緑色の濃淡が入り混じる星。
石碑の外に三人で初めて一歩踏み出した時の一瞬の振動と音を感じた以外の変化を、その後特には感じなかったので、アミュラはしょっちゅう石碑の内側と外側を行き来する様になっていた。
その方が石碑の内側だけで活動するよりもツァームに遭遇する機会が減らせたし、アミュラは石碑の内側の樹々がエールを欲しがっている時以外にはツァームを見つけ出そうともしなかった。
アミュラは、ツァームを避けていた。
石碑の外側に位置する森の奥を探索しながら、アミュラは自分の袖からふかふかのミジェルを取り出す。
妖精達に何やらかしこまった挨拶を受けた後、磁界を解いたらミジェルはまた元の丸いふかふかの毛玉の形へと戻った。
それを見たアミュラは、磁界を掛けた中でだけの変貌なのか、とミジェルを見ながら思う。
丸いふかふかの状態のミジェルがアミュラは気に入っていたし、ミジェルの一時の変貌に関して特に深くは考えなかったから、ツァーム以外の事に関して、アミュラはまたお気楽になっていた。
今日は何処で花冠を作成しようか…。
アミュラは石碑の外側の森でも、自分のお気に入りの場所を見つけようと探索を続ける。
都内アパート。
則陽が今まで図書館で読み漁った本を数冊見つけて借りてきた内の一冊を、梨乃がベッドに座り、読み始めていた。
「どう、読めそう?」
則陽が隣に座り、梨乃に聞く。
「難しそうだけど、少しずつなら。」
梨乃が本から顔を上げて、則陽に答える。
「読み切れなかったら、一旦返してまた借りれるしね。読む速さは気にしないで、梨乃のペースで読み進めてみて。」
則陽の言葉に、梨乃が頷いて答える。
「でもその前に…。」
則陽は梨乃の開いている本を閉じさせ、傍のデスクトップコンピュータデスクの脇へと置くと、部屋の電気を消した。
そして梨乃の隣に戻ると、梨乃の髪を優しく手で梳き始め、両手で包み込んで頭に優しくくちづけをする。梨乃は則陽の腕に包み込まれ、息のかかる距離の則陽と共に微笑み合った。
林の奥の二棟の家。
今朝も雨見は有津世が出てくるのを家の玄関近くで待つ。
空は曇りで、空気は涼しい。
肌寒く感じてきて、雨見は鞄の中からカーディガンを取り出し、それを羽織った。
「おはよ、雨見、お待たせ。」
「おはよう。有津世、それだと寒いかもよ。」
玄関ドアから出てきて挨拶をする有津世に、待っていたら寒くなった、と雨見が言い、俺は男だから大丈夫だよ、と、半袖のシャツから出ている腕を見せながら答える。
「寒いんだったらさ、近くに寄ろうよ。」
有津世が言い、雨見は頬を染める。
そうして繋いだ手を体ごと少し有津世に寄せて、二人は林の道を歩いて行った。
空が曇りでも、街路樹の新緑の色鮮やかさが辺りの空間に明るさを添える。
脇にある小ぶりの6階建てのビルの4階部分、そこに今日も則陽と功が出社していた。
朝の雑談をしている梅と功に則陽は挨拶をしてから、自分の席へと着く。
リュックサックからコーヒーの入ったステンレスマグを取り出しデスクに置くと、雑談を終えた功が自身の席に移動してくるのが見えた。
「則陽、あのさ、」
椅子を則陽側へと半回転させて、座ったまま功が話し掛ける。
「後でまたちょっと、良いか?」
ああ、はい、と則陽が答えると、功は軽く頷いて、自分のデスクに向き直る。
則陽は功に視線を向けたままだ。
時々角度が変わって垣間見る事の出来る功の顔は真剣そのものだった。
則陽も自身のコンピュータのモニター画面へ視線を戻すと作業に取り掛かり始めた。
午後の自主的な休憩時間の折に、則陽を入り口の観葉植物ノーリの前に誘い、二人は折り畳みのパイプ椅子を広げてそれぞれに座った。
ノーリの方を向きながら、
「おう、あのさ…この前諦めるって言ったの俺、止めたから。」
少しつっけんどんな調子で功が言い放った。
「え、…ああ、友喜ちゃんの事ですか。」
則陽が僅かに微笑んだ。
「ん…ちょっと色々あってな…、妹には馬鹿って言われるし、諦める気無くなっちまったんだわ。」
そっぽを向いたままで功は答えた。
「そうなんですか、良かった。…友喜ちゃんも喜んでいるんじゃないですかね。」
「…。」
功が則陽に振り返り、今の言葉を聞き返したそうな表情を見せた。
「何ですか?あ、そう言えば、友喜ちゃんの前で、先輩の事を功って呼ばせて頂いたので、これからは功って呼んでも良いですか?」
「は?」
功が目を丸くする。
「何だ?いきなり。ってゆうか、お前、友喜ちゃんと会ったのかよ!?」
「はい、先日。クリスタルの中でですけれど…。」
そこまで耳にした功は則陽を睨みつける。
「お前、勝手に…」
「だから、クリスタルの中は、行ってみるまで何処に通じるか分からないって言ったじゃないですか。」
功が尚も則陽の事を睨んでいる。
「諦めなくて正解ですよ。そんなに友喜ちゃんの事を独り占めしたいんですか。今からそれじゃあ、先が思いやられますよ。」
迷惑そうに則陽が言った。
「…第一何を喋ったんだよ?何でそこに俺の名前が出てくるんだ?」
「それは、先輩の話が主だったからです。」
「…え?」
「功お兄ちゃん、って呼ばれているんですね。」
功がぶすっとしながらも顔を赤くする。
「これは俺が言って良いかどうか分からないですけれど、…それでも疑いようの無いくらいには、彼女は先輩の事を気にしていましたよ。」
「…」
「まあ、友喜ちゃん可愛いですから、そこが先輩の誤解を呼んだかも知れませんけど、相手は少なくとも俺じゃあ無いですよ。」
俺には分かります、と則陽はきっぱりと言い切った。
功は考え込む様にノーリを眺め、しばらくしてから口を開く。
「…俺さ、俺と一緒に居る時に、記憶が細切れになるって言われたんだ。」
「え、それは…。」
どういう事かと則陽が聞くと、
「別の星での記憶があるって話、その別人格が被ってて、時々そっちが表立って出ちゃうとかでさ…。それで、その答え合わせ、頼まれたんだ。」
「答え合わせ…。」
「そう。俺と一緒に居る時にそれが一番出ちゃうらしくてよ…。」
則陽が功を見ながら、
「それって結構重大な…」
「そう、だから、俺と一緒の時に時々そうなるって言ってたから、俺が原因かも分かんねえけど、もう避けるだ何だとかは言ってられねえわ。むしろ積極的に関わって、俺はそれの解決する方法を探るよ。」
功の決心を聞いて、則陽は口角を上げた。
「二人での、共同作業ですね。」
「…。」
「だって、友喜ちゃんからの直々のお願いなんでしょう?」
「…ああ。」
則陽は功の受け答えににっこり笑った。
「良かった。それを聞いて一安心です。」
功は則陽の顔をまじまじと眺めて、大きく息を吐いた。
「ごめん。………誤解していて悪かった。あと、俺の事は名前で呼んでくれ。その方が嬉しいし。」
ぼそっと言って、功は立ち上がってパイプ椅子を折り畳む。
「分かりました。これからは功で。」
「ああ。」
照れを隠すかの様にぶすっとしながら、功は則陽とノ―リに礼を言い、仕事場へ戻っていく。
功の一連の行動を見守った後、則陽は胸の中でノーリに話し掛ける。
ノーリは淡い光から一瞬煌びやかさの増す光を辺りに放った。
「お兄ちゃんが謝ってくれた!」
友喜が嬉しそうに話す。
「お兄ちゃんが謝ってくれたの!」
「今、聞いたよ!良かったじゃん。仲直りしたんだね。」
うん!と嬉しそうに話す友喜を、くすっと笑ってなつが見る。
学校の校舎の一角、廊下の窓辺で、友喜となつが休み時間を過ごしている。
友喜は兄、有津世の事を話すのにウキウキで、なつは、また戻ったか、と、呆れ気味に微笑んだ。
「何よりなんじゃないの。友喜のお兄ちゃんも、友喜がそうして接してくれた方が嬉しいだろうね。」
突き抜けた笑顔の友喜を見ながら、なつは友喜に答えた。
えへへ~、と友喜は笑い、閉まっている窓の外に目をやった。
「じゃあ今日は作戦会議に行くの?」
なつの質問に友喜は、う~んと唸り、
「それは、…どうしようっかな。」
ぼそっと言った友喜に、なつは微笑んだ。
「どっちも捨てがたいでしょ。」
友喜は、え?という顔をして、その後ふいっとそっぽを向く。
その反応を見て、意外に素直じゃないな、と、なつは余裕で、
「うん、そうだな、今日は作戦会議に行った、行った!」
「ええ~っ!」
なつの発言に即座に友喜が文句の声を上げる。
こんなに分かりやすいのにな、うちの兄は何故気付かないんだろう、と、なつは不思議がる。
「まあ良いや。友喜の好きにしなよ。帰りまでに考えな。」
なつが軽く息を吐いてそう言うと、次の授業の準備しよう、と友喜に持ち掛け、二人は教室へ戻って行った。
さわさわと木々がざわめいて、肌寒い風が吹き抜ける。
林の道を一人歩く友喜は、ふと見上げて、風で運ばれる綿毛の行方を目で追う。
そして足元を見て、
「あ、このたんぽぽのか。」
綿毛の元居た場所を知った。
雨見ちゃん達とも話したい、カフェでなっちんと過ごして、その後…、それ以上は自分で考えるのも何故だか憚られて、友喜は今日は家に帰って作戦会議に参加する事にした。
家に辿り着き、友喜は鞄を自分の部屋に置き着替え終わって1階に戻り、ダイニングで自分の分の紅茶を用意する。
紅茶を淹れたマグカップを座卓に置き、ソファーに腰掛けた。
ゲームのクリスタルがクルクル回る映像がテレビ画面に表示されているのを見て、すかさずコントローラーを握り、カーソルをクリスタルに合わせてAボタンを押した。
気が付くと、そこは薄水色の空間で、前に雨見と共に飛ばされた空間だなと友喜は思った。
四角い箱に入れられたかの様な感覚を覚えるその空間に、友喜は一人、ぽつんと佇んでいる。
「だあれも居ないのかあ。」
友喜は仕方無しに、その空間の中央に位置したまま、腰を下ろした。
「あら?」
次の瞬間、誰かの声がした。
振り向いてみると、そこには友喜と瓜二つの顔が友喜を覗いている。
「あら…はじめまして…。」
瓜二つの顔の彼女が言う。
ただ、髪の毛の色は違うし、額には石飾りを身に着けていた。しかも衣装は透明がかった薄黄色の生地の重なったふわふわのドレスだ。
「キャルユ…」
彼女は有津世や雨見と一緒に飛んだあちらの世界で見掛けたキャルユだろうと友喜は思ってその名を呟いた。
「あら、私の名前、知ってるの?どうしてかしら。それに…あなたは…とても私に似ている?」
キャルユが不思議そうに友喜の姿をまじまじと見つめながら言う。
「えっとあなたは、…私の中にも居ると思うんだけど…知らないの?」
友喜がキャルユに聞く。
キャルユはおもむろに首を振って、
「何故?私があなたの中に居るですって?そんなの聞いた事無いわ。」
驚いて答えた。
友喜はキャルユの問い返しに、一瞬どう対応すれば良いのか詰まってしまう。だって、自分だって良く分からないのだから。
「えっとね…多分だけど、うちの兄が、ツァームだから、それを追って私の中に来たんじゃないの?私散々、あなたを感じて…」
なるべく文句にならない様に喋る。
「ツァーム?ツァームが他にも居るの?驚きだわ…。」
キャルユが友喜の話に反応して言う。
「ねえ、私はキーを探しに来たの。あなた、キーを知ってる?」
友喜がキャルユの言葉に、何それ分からない、と言う顔をして見せる。
「キー?キーって?鍵って事?」
「ああ、そうね。鍵よ。私、鍵を見つけなくてはならないの。」
お互いが、どういう状況なのか首を傾げる。
「あっ、もう行かなきゃ。」
キャルユが何かを焦って、自分の胸から何かを取り出し、空間に取り付ける。
それは淡く、光り輝いていた。
「ねえ、キャルユ、それは何?」
急ぐキャルユに友喜が話し足りなくて問い掛けた。
「印よ。私が来た印。」
友喜が首を傾げながらも頷いて相槌を打つと、
「それじゃあ、またいつか会えたら!」
キャルユはそう言い残して小さな光の粒子に包まれて姿が見えなくなった。
「…。」
ぽつんと一人空間に残され、今の騒々しいやり取りの余韻に浸る。
キャルユにこうして会えて、自分が意識を保ったまま喋れたのは初めてだった。なのに、キャルユは友喜がほんの齧った情報すら知らなさそうで…。
友喜は顎に手を当てて思い悩む。
「何だったんだろう…?」
その内に友喜も白い光の粒子に包まれて、意識はリビングのソファへと戻って行った。
林の道に入る手前で商店街の方を振り返ると、雨見は土曜日に友喜を見かけた事を思い出し、頬を緩ませた。
その様子を見て、有津世が雨見に話し掛ける。
「雨見?何だか嬉しそうだね。」
「うん、そう見える?」
有津世が頷くと、
「ちょっとね、良い事があって。」
雨見は含みのある言い方をした。
「え~そうなの?何があったのか教えてよ。」
有津世がその内容を知りたがり、雨見にせがむ。
「ん~、でも、有津世にとってはそうでも無いかもよ。」
雨見は茶目っ気を込めて言い、だから、想像におまかせしまーす、と締めくくる。
「何だよ、それ。」
有津世が不満気な顔をする。
「あ、じゃあ、教えて上げる。」
「うん、何々?」
有津世が雨見に耳を寄せた。
「すっごく可愛いセーターを見つけたの!今度、寒い時期になったら着て行くね。」
話の内容に、本当だ、面白く無い、とばかりに有津世は真顔になって、
「え?本当にその話がそれなの?」
雨見に聞き返した。
「そうだよ。私にとってはね、とても良い事だったから。」
雨見はにっこり笑って答えた。
「ふ~ん、そうかあ~。」
期待外れだ、とでも言いたげな顔で、それでも先に歩いて行く雨見を追いかけて、横に並ぶと雨見に話し掛ける。
「雨見、そのセーター着てくるの、楽しみにしてるよ。」
有津世が微笑む。
「うん!」
雨見は笑顔で有津世に頷いた。
無機質な建物の一角の中庭で、ソウイチは日差しを浴びながら透明の小石を手にして眺めていた。
建物に囲まれた中庭ながら、そこには木も生えていて蝶々も飛び交っている。小さなテーブルと椅子は備わっていたが、ソウイチはそれは使わずに、いつも地べたに座った。
そうすれば、小さな生き物の行き交う姿をより近くで目にする事が出来たし、自分とは他の生命に、より気を向ける事が出来たからだ。
そのような行動は、全て彼女から教わった。
全ての命を愛で、自らもその一部だと行動で表す彼女の姿を、ソウイチは思い出す。
土でさえも、命が育み、生まれたものなんだ。
ソウイチはこの世界を愛していた。
そして、この世界を愛する事を教えてくれた、彼女を愛していた。
自分の今、こうして居る源は、全て彼女で出来ている。
彼はそう思っていた。
暗くなってきた辺りに気付いて、なつは教科書から顔を上げる。
カフェのテラス席で、ミサンガの着いた右手でいちごシェイクのストローをクルクル回してから、残りを飲み切った。
功がテラス席への階段を上がって来るのを見つけ、微笑みながら言う。
「残念賞。今日は友喜、居ないよ。」
「そうか。」
なつの言葉に頷きながら答えると、功は同じ席の空いている椅子に座る。
「お前は勉強、終わったのか?」
「うん、まあね。」
「じゃあ、行くぞ。」
はーい、と、なつは答え、片付けを始める。
功は頬杖を付きながら、その様子を見守った。
俺始めに則陽に自分の妹に彼氏がどうこう言われなかったっけか。
それに腹を立てて居たはずなのに、自分自身がなつの友達の友喜に対してそういった感情をいつの間にか抱いている事には苦笑するしか無かった。
そして目の前のなつを見ながら、友喜の事をなつに置き換えて考えてみる。
なつは随分と可愛いが、しっかりしていて、隙がそんなに見当たらない。
それでも友喜に対する自分みたいな男が近くに存在していたら、と思うと、心中複雑だった。
「何お兄ちゃん変な顔してるの?」
なつが訝しんで功に聞く。
「…ああ、ちょっと自分に呆れてな。」
なつが軽く頷き相槌を打ちながら、
「友喜の事?」
間髪入れずに、直球で返してくる言葉に、
「まあ、そうだな。」
功は素直に答えるしか無かった。
片付け終わったなつを見て、行くか、と功が促す。
なつの後ろを歩きながら、功は今の自身の状況を思い苦笑し続けた。
「何それ?友喜ちゃんの中に入っているはずのキャルユに、クリスタルの中で会ったの?」
友喜の話を聞いた有津世と雨見の二人が驚く。
リビングのソファで緑色の豪奢な装飾のノートに、つい先程体験した事を書き記しながら友喜が頷いた。
「何だろう、何だか良く分からなかったの。キャルユも何だか良く分かっていなかったし。始めから最後まで、てんで分からずじまい。」
三人は考え込んだ。
「あ、キャルユに会ったって事は、それは過去だったかも知れないって事だよね。」
有津世が二人に確認する。
「だって今現在、キャルユはここに居るんでしょ?」
俺達も見たからさ、と、クリスタルであちらの世界に飛んだ時に、友喜の中から出てきたキャルユの事を有津世は言った。
「奈巣野さんもクリスタルの中では過去や未来に繋がるかも知れないって言っていたし、それを今回友喜は体験したのかな。」
「なるほど、そうかもね…。」
雨見も有津世の意見に同意し、考えながらも頷く。
「何か、キャルユ、急いでた。だから碌に話もせずに行ってしまったんだけど…もう少し、話を聞きたかったな。」
友喜が言う。
「急いでたんだ。」
「そうなの、キーを探してるって。鍵の事だって。」
雨見が友喜の言葉にはっとする。
「あ、それって…!」
あちらの世界からキャルユが去ってしまう前に、キャルユが言っていた言葉だと、雨見が二人に教える。
「キーを探すって言ってた。」
「じゃあ、その直後のキャルユに会ったって事?」
「かもね…。」
三人はしばらくの間、沈黙した。
「え、あ、じゃあ色々その後を経て、今はここに居るって事?」
雨見が二人に確認した。
「そうか、そうかもな。」
有津世が雨見に同意し、友喜は二人の様子を見て、ふうっと息を付いた。
「過去のキャルユを垣間見た、か。」
有津世が感慨深げに言う。
友喜が首を傾げつつも、そうなのか、と呟く。
「草原の幼いキャルユもキャルユで、ぽわぽわもキャルユ、友喜ちゃんに居るのもキャルユだし、今回友喜ちゃんが会ったのもキャルユだから、少なくとも四人?キャルユは四人は居るの?ああ、でも一人は過去なのか…。」
雨見が友喜と有津世に言う。
それと前に、小学生の姿の友喜ちゃんに、キャルユは命の欠片だって教えてもらった…、雨見はそれを声に出さずに思い、雨見は何と無く有津世と目を合わせる。
「何で、友喜とキャルユばかり数が分かれて居るの?もう、良く分からない!」
友喜がぼやく様に言った。
「そうだね、全貌が見えてこないし何とも…。でも、キャルユに会えて、さらに会話をする事が出来たと聞いて、そこは素直に羨ましいよ。」
な、と雨見にも言って、雨見も頷く。
友喜が不思議に思って理由を聞くと、今、あちらの世界の二人はすこぶる仲が悪いらしい。なんでも、アミュラがツァームの事を避けまくって、エールを送る為に二人行動する時も、とにかく、ぎすぎすしているのだそうだ。
「何それ?聞いている話と違う…。」
あちらの世界ってこっちよりも大らかなんじゃ無かったの?と友喜が尋ねると、キャルユが居なくなった時点くらいから、どうやらそうでも無くなってきているとの事だ。
それでいて、雨見がアミュラの気持ちに引きずられ続けている、と言う事は…、と話の流れから友喜が雨見と有津世を観察する。
「仲良さそう…。」
ぴったり横に座る二人を見て、友喜はぼそっと呟いた。
友喜の目から見ると、有津世に向ける雨見の視線は日に日に甘くなる一方だし、有津世もそんな雨見を包み込む様に接している。
その力がアミュラの気持ちに引きずられ続けても尚、険悪な気は寄り付かせないのね、と友喜は一人でその推測を完結させた。
それにしてもまあ、お兄ちゃん、嬉しそうだこと。
友喜は半分呆れ顔で、肩の力を落として笑う。
「何笑ってるんだよ、友喜。」
「友喜ちゃん、どうしたの?」
二人が友喜の表情を不思議に思い尋ねてきた。
「この二人で良かったな、って思って。」
紅茶のマグカップを手にしながら友喜は言った。




