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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
32/172

開眼

 「ねえ、これ、見える?」

おもむろに友喜がなつに聞く。


いつものカフェのテラス席。テーブルにはお決まりの、いちごシェイクと抹茶ラテが載っている。


「え?何の事?」

「だから、これ。何かこのきらきら!」

自分を指差してきらきらと言うとは、なかなかに大胆と言うか、何と言うか。


「うん…見えるけどお、え、何?友喜もそれ見える様になったの?」

なつが驚く。

黄緑色のもやの話はした事があったけれど、他のものについては、なつは一切説明していないのだ。

それを友喜は自分の眉間を差し、きらきらが見えると言った。


「…見えているならさ、なっちん、それ教えてよ。私こんなものを付けていたなんて、知らなかったよ。」

きょとんとしたなつを見ながら、友喜は半分困った様な顔をして言う。


「え、でもさあ、言ってもしょうがないかな、って。」

「でもなっちんには見えていた訳でしょう?」

友喜が久し振りに何か開き直ったかの様に、なつに話す。


なつは勉強道具から顔を上げて、友喜の言っている事に耳を傾けた。












 林の奥の二棟の家。

クリスタルの中に三人同時に同じ場所へ飛べて、しかも行き先があちらの世界だった事に、三人はリビングに意識が戻って来た後もしばらくの間、感嘆の思いに浸っていた。


友喜は初めて目にする事の出来た美しい世界をいつまでも胸に留めたかったし、有津世は自分が直接行って自分を起こす、の挑戦は行き当たりばったりでちっとも上手く行かなかった事を悔しがり、雨見は今日この後に見る夢で同じ場面を目にするのかと思うと、いつもとは違う胸の高鳴りを覚えた。


今回もクリスタルの中に入る前と戻って来た時の時間はさほど変わり無かった様でまだ温かい紅茶を口にしてその事をそれぞれが実感する。

そうして落ち着いてから、三人はこちらに意識が戻って来てから初めて互いの顔をきちんと見合った。


「?」

友喜が何故か驚愕の眼差しをしている。


「雨見ちゃんの眉間から、何か出てる…!」

雨見が友喜の発言に驚き、慌てて自分の手提げ袋から手鏡を取り出す。


「…え?友喜ちゃん、私、何も見えないんだけど…。」

首を傾げて雨見が言う。

その鏡を受け取って、鏡から雨見を見る。

友喜の目から見ると、鏡の中にも尚もそれは映っている。


「え?」

友喜が疑いを持って、今度は自分を鏡に映してみると、自分の眉間からも雨見と同じ様な光の筋がきらきらと輝いているのを視認した。


「…!」

友喜は自分の眉間を指差し、ここにもある、と言った。

有津世は、


「え、何の事?」

と友喜に聞き返したが、そんな有津世の額にはそれらしきものは伺えなかった。


「お兄ちゃんには、無い…。」

「え、俺だけ無いの?何かショック…。」

雨見は、ええ?と言いながら自分の眉間をまさぐっている。


クリスタルの中から戻って来て授かった能力なのか、友喜にはそれが見える様になっていた。








 カフェのテラス席で、友喜がなつに質問を続ける。


「ねえ、これいつからあった?」

「いつから~?いつからだったかな~。」

あ、となつは思い出し難そうに言う。


「う~んと、お兄ちゃんが見えた、って言った時には確実にあったな、うん。…あ、」

思わず口を滑らす。


「なっちんのお兄ちゃんが?」

友喜が聞き返す。


「あああ、えっと、…関係無い。」

なつが珍しく焦り、友喜の関心を逸らそうとするも、逆効果だ。


「なっちん…。なっちんのお兄ちゃんは、何が見えたって言った訳?」

なつが友喜の視線から逃げ、話を変えようとしたが友喜には通じず、友喜はなつをじっと睨んだままだ。


「あ~もう、分かったよ~!」

なつが観念する。



何でも、なつが言うには、なつの兄はなつと同じ様な能力があるみたいで、兄妹で以前からそういう話はぽつぽつしていたらしい。

今回、友喜のあちらの世界の話を受けて、自分の見えているものが兄にも見えているのかどうかを確かめたくて、あの日、なつの兄と友喜を引き合わせたんだそうだ。


「それで、勉強最後までって。」

随分計画的だったんじゃない、と、友喜はなつをまた軽く睨む。


「だあってさあ、友喜、ほら、色々と悩んでたしさ、他にも参考意見が欲しかったのよ、許して!」

なつが友喜に手を合わす。

友喜がその姿を見ながら抹茶ラテのマグカップに口を付けてひと息つくとまた文句に戻る。


「でもさあ、私、なっちんのお兄ちゃんがそんな能力を持っているなんて、今まで一言も聞いて無かったよ。」

それって騙しじゃない?騙しになるんじゃない?と、友喜はなつを責めたげだ。


「あー、もう、それにも訳があってえ、言えなかったんだよ~。」

話が分かる友喜だから、なつが見えている事を話したけれど、兄の事については口外したくなかったのだそうだ。

尚も何で?という顔をする友喜に、うん、これはあんまり、人に言う事じゃないんだけどさ、と重ねて前置きをしたなつは話す。


以前なつが小学生だった時に、なつの兄が当時の彼女を家に連れて来ていて、話をしていたんだそうだ。

ところが話の途中で彼女の態度がガラリと変わり、気付くとショックを受けた兄の顔をなつは目にしていたと言う。


「その話っていうのがさ、そういう目に見えないものの話だったんだ。心を許した兄がその話をした途端に彼女が気持ち悪がっちゃって、結果振られたらしいんだけどさ。」

友喜は呆気に取られた顔になって聞いている。


「それからうちの兄はさ、そういうのを、人に隠して接してるんだよ。トラウマっちゃあトラウマなのかな、兄の。」

友喜は自分の怒りが今のなつの話で何処かへ吹っ飛び、最近目にしたなつの兄の事を改めて思い返した。


「あんなに面白いなっちんのお兄ちゃんが、そんな悩みを抱えていたなんて…。」

「だからさ、話が通じる妹としては、なるべくそういう話もしたかったし、でも人には話せないしさあ。」

なつも悩んでいた風に言う。


「そういう事なら…でも私には話して良かったのに。」

「彼女に振られた経緯がある話だよ~。今言っちゃったけどさ、なかなか言い出せるもんじゃないでしょ~。」

「確かに…。」

友喜は自分の怒りは浅はかだったと反省する。


にしても、兄妹でそれが見えるのか、そうか、


「すごい事なんじゃない?」

誇る事なんじゃないか、と友喜が言い、なつは友喜の言葉に救われるかの様な笑顔を見せた。


「ありがと、友喜。私も、どっちかと言えばそう思う。うちの兄はさ、気にしすぎだよね。」

ミサンガの付いた右手で、いちごシェイクのストローをクルクルと回す。そうしてストローに口を付けるなつを、友喜は眺めていた。








 都内アパート。

遅く帰って来た則陽を梨乃が迎える。


「梨乃、ただいま。」

「おかえりなさい。」

家に帰ると早速今日の話をしてくれる梨乃が居る。

則陽はデスクトップコンピュータの電源を付けて鞄を置き、上着を脱ぎながら耳を傾けた。


「え?世界を編む場所?」

梨乃の口から飛び出した言葉に則陽が聞き返した。


「うん、そう言ってた…というか、伝わってきた。」

「梨乃、それってさ、俺が組んでいるプログラムと何か関係ありそうだった?」

梨乃が首を振る。


「ううん、その前だって。修正は、そこではなされないみたい。」

梨乃が言う。


「その質問出来たの?え、梨乃、すごくない?」

「そうかな。それでね…」

そこには、ツピエルそっくりの小人達が沢山居たそうだ。

則陽はふと、ツピエルが前の職場、と表現していた自分との会話の場面を思い出した。


「ツピエルの前の職場…か。」

則陽は呟く。


「有津世くん達には、会えたの?」

ううん、と梨乃は首を振った。

今日会ったのは小人達だけ、と答え、次いで梨乃は則陽に今日の様子を聞いてきた。


「先輩との飲み、そんなに早めに切り上げて大丈夫だったの?」

「うん。何でも先輩、歳の離れた妹が居るらしくて、一人で家で待ってるって話だったから早々に切り上げたよ。」

そうなんだ、と梨乃は納得する。


「梨乃、何か楽しそうだね。」

「うん。」

「クリスタルの中に入れる事?」

「それもある。それもあるけど…。」

梨乃の表情が明るい事に則陽は感心して梨乃に尋ねた。


「何かね…童心に返ったみたいにこの所感じるの。」

「ああ、分かるよ。」

則陽が言う。


「RPGを地でやるって、こういう感じかな。」

「RPG?」

「ロールプレイングゲーム。ま、今の所、敵とかボスとかは無いけどね。」

梨乃が則陽の言葉にふふ、と笑う。



「…。」

「どうしたの?」

「自分のデスクトップコンピュータ、持ってきたくて。」

「うん?」

それがどうしたの?と則陽は聞く。


「うん、置き場所…。」

「ああ、テレビの脇はどうかな。」

今度一緒に運ぶよ、と則陽は請け合う。


それからまた、取り留めの無い会話を二人は続けた。








 大きな窓に見える壁のそれは窓枠のデザインではめ込まれている照明で天井の高い部屋。

ソウイチは、この日も一人、部屋の中にたった一脚備えられているデスクの席に掛け、コンピュータで作業をしていた。


モニター画面に注目する。

何かの依頼の様だ。


ソウイチはそれに返事を入力して、元の画面に戻る。


彼の手指は滑らかにキーボードのキーを打っていく。

そうして一旦入力の手が落ち着くと、


「はい、順調な様ですね、はい、分かりました。」

何処かへ向かって言葉を返した。



「ソウイチ様。」

部屋の扉の所に一人の男が来て一礼をしてからソウイチに話し掛けてきた。


「先日の杉様の所での取り付けの件。ありがとうございます。」

「ああ、こちらこそありがとう。おかげで、良い気分転換が出来たよ。」

珍しく微笑んだ顔を男に見せた。


「杉様とノリコ様は、お元気でしたか?」

「そうだね、二人共あまり変わっていなかった。」

思い返して、ソウイチは穏やかな表情で答える。


「あと、こちらでの測定なのですが…。」

「それはもう確認している。合わせて動いているから大丈夫だろう。」

はい、分かりました、では、と男は言い、ソウイチの部屋から去って行った。


男が行ったのを確認してから、デスク脇の透明の石を眺める。

ソウイチが石を眺める時はいつでも、作業時よりも幾分か柔らかな表情になっていた。








 林の奥の二棟の家の奥側の家。

夜でも明るい印象を醸し出すログハウスの2階の部屋で、雨見はゆったりした時間を過ごしていた。


初めて有津世と友喜との三人一緒に、こちらの世界の自分達のままで、クリスタルの中が何故かあちらの世界と通じてその場所に飛んでいた。

自分があちらの世界の自分と接する事は叶わなかったけれど、有津世と友喜が居る事で状況を直接共有出来たのが嬉しくて、何より勇気づけられた。


あの後友喜ちゃんに何かが見える様になった事件。

あれはあちらの世界からのお土産なのかな。


今日は豪奢な装飾のノート三冊にそれぞれ同じ出来事を三人が書いて、ほんわかした気分でお開きになった。


手元のピンク色の豪奢な装飾のノートと夢日記とを交互に見た雨見の頬が微かに緩む。


ベッドから立ち上がり、壁掛けの姿見鏡のある所に移動をすると、自分を映した。

アミュラにある額の石。

自分には無いけれど、友喜が見えると指摘した光の筋の場所は、アミュラの額の石と同じ位置だった。雨見は自分の眉間を、有津世の家でもやった様に、指の先で再びまさぐってみた。


特に何も分かりはしなかったけれど、雨見は満足して、その日は部屋の電気を消して寝る事にした。


確かに光る、細い光の筋を眉間に携えながら。




 ログハウスの手前にある、夜は漆黒に近い印象を放つ家。

その屋根にある丸い天窓のひとつを外から眺めると、その下には部屋のロフト部分でくつろいでいる有津世の姿が見えた。


昼間の作戦会議の時、あちらの世界に飛んで出会ったぽわぽわは、まるでぬいぐるみを触ったかの様に手で触れる事が出来た。

うちに出現するのとツァーム達の所に前から居たのは同じ存在である可能性が高いけれど、今回森で見つけたのはまた別なんじゃないか?


「あ…ぽわぽわ…。」

有津世の隣にぽわぽわが出現して、寄り添う様に浮遊する。

友喜の一部でありキャルユの一部かも知れない、こっちのぽわぽわ。有津世はその姿を眺めつつ、クリスタルの中から戻った後の、友喜の言葉を思い出した。


糸の様な光の筋…。

自分だけもしそれを受け取っていないのなら、自分は次に何処に向かうのだろう、なんて思った。

倒れた自身のあちらの世界での姿に思いを馳せながら。




 隣の部屋では、友喜が部屋の机に置いてある鏡を何度も覗いていた。

何度見ようとも、眉間から伸びる光の筋のきらきらは決して消えて無くなりはせずに、ゆっくりゆらゆらと揺れている。

友喜はそれを触れるかと試してみたが、それはどうやら物理的には掴む事が出来ないらしく、手の動きとは関係無しに、それは揺れるばかりだ。


クリスタルの中から戻った時に、リビングで雨見のを始めに発見した訳だけど、兄の有津世には無かった。

これに何の意味があるのか興味深かったし、自分が花の香り以外で知れる情報が、ひとつ増えた。

友喜は面白がって鏡の前で体を揺らすが、その動きにもあまり影響される事無く光の筋は独自に揺れている。

今回のツァームの件でキャルユの気がまた少し癒されたのか、友喜はあっけらかんとその現象を楽しんでいた。








 いつものカフェのテラス席。

なつと友喜は話の続きをする。


「ねえ、じゃあなっちんが言ってた、言われるまで気が付かなかったって、もやの件は…。」

「あれは、ホント。正直に言うと、うちの兄の彼女との一件は、私にも多少影響を与えてたみたいでさ。”見えない”って、自分にブレーキを掛ける部分があるみたいで、それを友喜の一言で解除してもらったみたいでさ。」

「…解除?」

「うん、思い込みの縛り、みたいなやつ。兄のトラウマを一部、自分の中に取り込んじゃってたのを、友喜に外してもらったと思うの。」

「は…?」

友喜が聞き返す。


「私、そんな事何もした覚えが無いんだけど。」

「した覚えが無くても、友喜は私にそれをしたんだよ。ん~何て言えば良いかな…、」

なつが伝える言葉に悩む。


「まあ、とにかく今は分からなくても、友喜も今回自分で一つ解除、したみたいだしね。」

「自分のも?」

「そっ。その糸みたいな光の筋が見え始めたのが、その証拠。見えるのがあると分かりやすくて良いね。」

「え、これが証拠なの?解除したって言う?」

友喜はあまりその意味を飲み込めていないみたいだ。


「まあ良いじゃんか。より顔もすっきりしているみたいよ。」

なつの言葉に、友喜は自分の頬を思わず触る。


「顔…。なっちんもそう思う?」

なつは頷いて、友喜の嬉しそうな顔を見ながら、いちごシェイクのストローを摘まんで一口飲んだ。


「顔は私もそう思ったの。」

なんか、今まで悩んでいたもやもやが、また一つ何処かに行ったみたいなの、と続けた。


「課題、一個ずつクリア出来ていってるみたいだね。」

なつは友喜に微笑みかける。

友喜はなつが発したその言葉の意味は分からなかったけれど、なつにつられて微笑んだ。








 緑に包まれた濃い空気の地。

ひびの割れた石碑から外側に向かい、少し行った所に依然ツァームの倒れている姿があった。


アミュラが彼の体の下に敷いた花冠は、そんな彼を包み込んでいる様に見える。


一方、森の奥では、アミュラが何かの生き物を見つけようと真剣に探している姿があった。

とにかく、見つけるまでは探し続ける。

アミュラにとってはそれだけが頼みの綱で。


途中で樹を見上げる。

そう言えば、外側の樹には、エールは要らないのだろうか。

アミュラが見る限りでは、エール不足を訴える樹は外側には見当たらなかった。


ふと声を発したくなる。

ここで磁界を掛けて、妖精達と集おうか。

こちらの妖精達も、石碑の内側の子達と同様、アミュラに冷たく突き放す様な接し方だろうか。

考えれば考える程、今までのツァームとキャルユの温かみを思い出した。


地面近くの草を手でどけてみても生き物らしき影は無く、アミュラは深く息を吐いた。

こっちじゃないのかな…。方向を変えて、歩みを進めようとすると、アミュラは自分の名を何処かからか呼ばれた気がした。

アミュラが辺りを見回しても、誰も居ない。

諦めて、別の方向を再び向くと、目の前の空間から白い光が漏れ出した。

それは段々と形を成して、ぽわぽわの姿だと見てとれた。


「ぽわぽわ?ぽわぽわなの?」

アミュラがぽわぽわを手に取り、抱きしめる。


「?」

ぽわぽわは自分が倒れたと同時に何かしらの衝撃を受けて何処かに行ってしまったのだろうと思っていたから。

怪我を負ったりしていないか、ぐるりとぽわぽわの全体を見てアミュラは確認して特に異常は見られなかったが、彼女は別の事に気が付いた。


「あ、あれ?」

そう言えば、ぽわぽわに触れるのだ。以前のぽわぽわの感触と随分違う。


「え、違う子?」

アミュラは大きな毛玉みたいなぽわぽわを持ち上げてよくよく観察する。

随分とふさふさとしていてふかふかだ。

よく見ると、大きさもこちらのぽわぽわの方が少し大きな気もする。


「これが…生き物?」

しばらくの間、呆気に取られて、今までとは違うぽわぽわを見つめる。

ぽわぽわは大人しく、アミュラに抱っこされるのを嫌がらなかった。

もう一度ひっくり返してその様子を観察すると、以前はこういった触り方さえも難しかった存在だった事を思い出す。


「じゃあ、前に一緒に居たぽわぽわは…」

まだ見つけられていないのかも知れない、そう思うと、アミュラは僅かに気落ちした表情になる。そんな気持ちを振り払うかの様にアミュラは首を微かに振り、そのぽわぽわで無いぽわぽわを抱きかかえながら森を後にした。


ツァームの所に辿り着いたアミュラは、ふかふかのぽわぽわを抱き抱えたまま座り込んだ。

ツァームはまだ眠ったままだったが、アミュラはふと何かの残り香を感じる。


それは愛おしい濃厚な花の香りで。

アミュラはぽわぽわを抱え込む様にして、大粒の涙をこぼした。








 石碑近くの草原。

幼いキャルユは、小学生の姿の友喜の言う、お仕事、を遊びながら見守っていた。


「ねえ、おねえちゃん。」

話し掛けても、友喜はこういう時は反応しない事が多い。


キャルユは自分の額の石を弄って遊んだ。


「…。」

仕事が終わったと見られる友喜が、キャルユの近くにまた寄って来た。


「なあに?どうしたの。」

ぼうっとしているキャルユに友喜が話し掛ける。


「うん。歌が聞こえてきた。」

「歌?」

「うん。ここから。」

キャルユが額の石を示す。


「…ああ、その歌ね…。」

「おねえちゃん、知ってるの?」

「うん、知ってる。」

キャルユは不思議そうな顔をして、その後の友喜の言葉を待つ。


「星の歌よ。最後の節が、あなた。」

キャルユはそれを聞いて、自分の歌だ、と喜ぶ。


そんなキャルユの反応を見て、友喜は微笑んだ。








 「はい、それについては、こちらで万全にしておきます。」

声が聞こえるここは、何処か異空間の様だ。


僕は誰かの声が聞こえる場所に居た。

ぽっかりと空いた暗い空間に浮かんでいる。


「ええ、それは今、こちらで対処しています。」

また誰かの声が聞こえた。


「はい、必ず。」

一人の若い男の声だった。その姿も見当たらず、僕は周りを見回した。


僕は何をしているか忘れていたし、何故ここにいるかも分からなかったけれど、とにかく僕は、僕は…



ああ、これは計画だ。

僕は突然に思い出し始めた。

これはこうする為に起きた事で、僕はここに辿り着く為にこれまでの過程があった。


だから僕は僕の役目を遂行するまでだ。


思い出した直後に、爽やかな風の香りが竜巻の様に起こる。

僕はその風に、心身を浸した。

そこで思い出すのは彼女の姿だ。

柔らかな感触を、体の後ろに徐々に覚える。


次に感じたのは、濃厚な花の香りだ。

その香りは、僕にいつまでも寄り添いたがっていて、僕に会えた事に至上の喜びを湛えていた。


「そろそろ、交代して下さいますか。」

僕の目の前に突然見知らぬ男性が現れる。

正確に言うと、知らぬのは姿だけで、声は聞き馴染みのある声だった。


「あなたは、…。」

その男性はにこりと僕に微笑む。


「交代と言う事は、僕が代わりにあそこに収まるのですか?」

僕はいつもの様に質問した。


「いいえ、そういう事ではありません。」

僕は続けて話す彼の言葉に耳を傾ける。






閉じた瞼に光を感じて、僕は目を覚ます。

すると、いつもは明るく笑っているアミュラが大粒の涙をこぼしていて。


「アミュラ…、」

僕は彼女の顔の近くに手を伸ばそうとした。

すると彼女は僕に気が付き、ますます泣く声を大きくして、


「…ツァームっ!」

アミュラは僕の名前を呼びながら勢い余って飛びつく様に、僕を抱きしめた。


アミュラのぽわぽわを見つけられていないかも知れない、の記述を「居ない」から「いない」に訂正しました。(2026年1月7日)

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