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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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緑の異変

挿絵(By みてみん)






 壮大な緑に囲まれた美しい土地で、鬱蒼と茂った巨大な樹々に埋め尽くされていた森の一部にぽっかりと穴の空いた箇所が出来ていた。

そこは、中でもより一層巨大な大樹の生えていた場所だ。

森の大樹が一本でも枯れるのを、三人はこれまでに一度も見た事が無かった。


「どうして、…。」

その樹は葉を散らして枝がことごとく折れ、まるでそこだけ色が抜け落ちた様になっている。

アミュラとキャルユ、そしてツァームはその樹の幹の節々を慈しむ様に撫で、三人顔を見合わせる。

誰からともなく思いついて、エールを送ればあるいは、と、三人で試してみたが、光は幹内部へとは流れ込んではくれない。

特に見事な光の氾濫を見せてくれていた大きな樹だっただけに、三人の表情は暗い。


緑豊かな森の一部、そこに起きた異変。

枯れた幹を、真顔でじっと見つめていたツァームが振り返り二人に告げた。


「他も見回ろう。」


何が起きているのか、何が起き始めているのかを探る為に。


ツァーム達が住んでいる土地はとても広大で、それこそ端も無さそうに見える。

だけれど彼等が行動範囲としていた範疇はんちゅうには、きちんとその区切りがされていた。


指標となっているのは、森と森の端に存在する草原を囲うように点々と存在している石碑だ。

それは軽々と外側に行ける間隔で打たれた杭の様で、実際に何故、彼等がその先に行かないのかは、彼等自身もそこまで意識した事は無かった。


ただ、その石碑の数々が、自分達がここに存在するよりももうずっと前に、誰かが何かの意図を持って建造したものであろうという事は推測出来た。


ツァームが、キャルユとアミュラを支えるように二人の肩にそっと触れる。

何よりキャルユはおろおろしていたし、いつもは吞気なはずのアミュラでさえも深刻な顔だ。


ツァームの意図を理解したアミュラはツァームの肩に自ら触れて、もう片方の手はキャルユの手を導き、彼女の手も彼の肩辺りに触れさせた。


それを見たツァームがアミュラとキャルユに目配せすると彼は自分の衣服の袖部分をまさぐり、中から小さな笛を出した。

口元に笛を当て、短いメロディーを奏でる。

すると途端に三人の姿は光に囲まれその場から霧散した。



空の雲は高く、色も場所によっては地球のそれと同じ様だ。

ただ空はいつも凪いでいて、地球のそれよりもずっと穏やかだった。



三人は、ひとつの石碑前に辿り着いた。

ツァームの笛は、言わばテレポートをするための道具としての側面もあり、たった今奏でたメロディはそのための特定のメロディだ。



周りは草原で、心地良い風が幾度となくそよぐ。


石碑は2メートル近くはあるだろうか、他の石碑も大きさは大体似通っていた。


ツァーム達の目の前の石碑は一見いつもと変わり無く思えたが、ツァーム達は念の為石碑の周りをぐるりと見回った。


「ひびが、入っている…?」

注意深く観察してみると、以前は無かったはずの亀裂が、石碑側面の箇所に斜めに入っていた。

三人は眉をひそめて互いの顔を見合う。


石碑は重要な建造物で大切に扱うものという認識が三人には前々からあった。

だからキャルユは欠かさず祈りを捧げたし、アミュラは特別に編み込んだ花冠を捧げるのが常だった。

ツァームは、石碑の”主”から、直接メッセージを感じ取る術を身に着けていたので、彼はおもむろに石碑の前で胡坐あぐらをかいて試みた。


するといつもなら光と共に知識が洪水の様に流れ込んでくるのに、今胸の内に映しだされたのは、…暗闇と細い光だ。

暗闇に触れてはバチバチと跳ね返されて、光は幾度となくその暗闇に侵入しようとしては跳ね返されを繰り返していた。


「いつもと様子が違う。樹の事と、この、ひび割れは何か関係しているのか…。」


キャルユとアミュラが見守る中でツァームは呟き、閉じていた目を開いて石碑を見る。

その後ツァームは立ち上がり、二人と共に二十近くある他の石碑の異常の有無をテレポートを駆使しながら見回った。


結局、異常があったのは最初に確認した一棟だけで、他の石碑にはひび割れ等のしたる異常は見当たらなかった。


樹々に関してもエールを送る対象である樹の全てを見回って、他の樹に異常の無いのを確認した。

枯れてしまったのはどうやらあの一本だけの様だ。



ツァーム達はいつもの岩へと腰掛け、思案にふける。

ひびの入った石碑から受け取った、あのメッセージの意味する所は何だろう。

この閉鎖的で役目だけを理解し全うしてきた自分達の世界に新たに干渉しる、何かがある。

それだけは三人にとっても明白だ。



「エールを…分かち合おう。」


しばらくの沈黙が続いた後、ツァームは言った。

アミュラは、はっとして顔を上げ、キャルユは幾ばくか遅れる形でツァームの方を見ようとしながらも視線を漂わせ、ツァームの発した言葉の意味を噛み締める。


「じゃあ…」

「うん…」

二人が、静かに答える。


「…どうすれば良いのか、言って。」

アミュラが気丈に答える。


「簡単だ。こう…手を繋げば良いんだ。お互いを囲うように…。」

三人が向き合って両手をそっと繋ぎ合うと、円の形になる。

そうして目を閉じると、ツァームを筆頭に様々な色味の光の粒が体の内側から洪水たる勢いで次々と顕現し始めた。

その動きに圧倒される様に、髪が、裾が、たなびく。


「全ての祝福を…。」

目を閉じたまま、自らが発する光の中でツァームが呟いた。




 どのくらい前の話になるだろうか。


おぼろげに思い出せる一番古い記憶では三人とも小さく、三歳か四歳児程度の幼児の姿だった。

草原と森だけが、ただひたすらに続いているこの地を三人は朗らかに、まるで子犬か子猫かの様にただただ転げ回ってはしゃいで暮らしていた。


三人は遊びの中で樹々にエールを送り始め、石碑に祈りを捧げる事も花冠を捧げる事もいつの間にか身に着けていった。



三人の額には彼等の瞳と同じくらいの大きさの石が体のパーツのひとつとして元より備わっていた。

それぞれに形が違い、薄っすらとした色味もそれぞれだった。


三人それぞれの額の石は時に知恵を授けた。

エールを送り始めたのも、或いは石からの知恵を通じてかも知れない。


ツァームがある時に言った。石碑には”主”が居ると。


”主”と交信出来るのは、最初に交信し始めたツァームだけらしい。

他の二人も交信を試みたが出来ずに終わり、やはりツァーム一人だけが可能なのだと改めて悟った。


ツァームは”主”から聞いた。

ただ一つだけ例外がある、と。


それは…。



 巡り巡るエールの光の粒子が乱舞して混じりに混じり合うと、再び彼等の体に吸収されていって消えていく。

しばらくして現象が収まると、ツァームは優しくアミュラとキャルユの指をほどいた。


「ありがとう。これで伝わったはずだ。」

いつに無く真剣な表情のアミュラが無言で頷く。

キャルユに至っては泣きそうな顔をしている。


二人の頭を優しく撫でながら、


「ありがとう。」

もう一度、ツァームが言った。








 暗闇の林の中に佇む、ログハウスともう一棟の家。


ログハウスとは趣が違うが、その佇まいは少し主張の強い、同じく木造の住まいだ。

昼間にその家を見れば、黒色の塗装の外壁が深緑色の屋根をより一層鮮やかに見せる。今は夜だったので、昼間とは随分と印象が異なっていた。


屋根の一角に、薄ぼんやりとした明かりが漏れる二つの丸い天窓が見構えてある。

ひとつは友喜の部屋、もうひとつは有津世の部屋へと通じている天窓だ。


有津世の部屋に通じる天窓から中を眺めると、小さくて白いおぼろげな光が、ふわりふわりと飛んでいるのが見えた。

天窓の真下にあるロフトでは、すやすやと熟睡している有津世が居る。

光はまるで有津世の様子をうかがっているかの様だ。

有津世の頬をすれすれに飛んで、さらりと髪を撫で付けた。


「ん…。」

有津世の頬は一瞬緩んでむにゃむにゃと口元を動かしたけれど、それでも彼は朝まで起きなかった。






 雨見と有津世と友喜の三人は、毎朝、揃って学校へと出掛ける。


「雨見おはよ。」

「おはよう。」


「おまたせー、行こっか!」

ひと息遅れて友喜が玄関ドアからひょっこりと顔を出し、三人は揃って歩き始めた。


「雨見ちゃん、雨見ちゃん。」

「ん、なあに?」

「雨見ちゃんが言ってたね~え、白い毛玉の夢、そういえば友喜も見たんだよ!」

「えっ?」

「あ、今朝じゃないけどね、でもね、…見た事あるな~って、雨見ちゃんの絵を見た後で、思い出したの。覚えているのは白い毛玉の部分だけだけど…うん、何故だろう、その部分だけ、はっきりと覚えてるんだ。」

「…」

「すごくない、すごくない?ひょっとして同じ夢見てたかもなんて、すごくない?」

友喜は嬉しそうに雨見に話す。


雨見は友喜の勢いに圧倒されながらも、

「え、それって、え、ホントに?」

三拍くらい友喜から遅れて反応する。


「え、本当だとしたら、すごーい…!ねえ、有津世もそう思うでしょ?」

「え、ああ、うん…?」

有津世は上の空だったのか、少々間の抜けた返事をした。


「もう、お兄ちゃんったら、反応鈍い!それじゃあまだ寝起きの人みたいだよ。きゃはははは!」

朝からテンション高めで林の中で友喜が笑う。

雨見は切れ長の綺麗な目をしばらくまんまると見開いてから、ふっと緩めると、頬を紅潮させて笑っていた。


「あ、後さ、昨日大変だったんだよ…、」

コロコロと表情を変えながらも、友喜の情報提供は別の話題にと続く。


「え、やだ、こっわ~!!」

「そう、やっばかったよな!」

朝から盛り上がる三人の声は、はるか頭上にも響き渡っていた。



三人横並びで歩くのは林の中までで、そこを抜けると雨見と友喜の後ろを有津世が陣取って歩くのがお決まりの形だ。

二人は時々有津世の方を振り返りつつ、話をする。


こじんまりした公園を横目に通り過ぎると、見慣れた小学校の時計が前方に見えてきた。


学校の正門をくぐると雨見は有津世と共に六年生の校舎へと向かう。

一方、五年生の教室と昇降口は六年生とは別校舎なので、友喜は一旦ここでお別れだ。


「今日は行けるから。」

「うん、分かった!」

「じゃな。」

「ほーい、頑張りまーす!」

友喜がすちゃっと右手を掲げて敬礼して、元気良く二人に別れを告げる。


「友喜 、おはよう!」

友喜の背後から声が聞こえて、

「なっちん、おはよ~!」

友喜はその声の方へと振り返り、走って行った。


「行こっか。」

友喜の背中を見送ってから、有津世と雨見は自分達の校舎へと向かった。






 学校での一日が無事に過ぎ、家へと続く林の道を友喜は一人歩いていた。


木漏れ日がキラキラと綺麗だ。

今日も急いで帰ろうとはしない。

ふと道の左端に目をやると、葉っぱで埋もれた地面から、きのこが顔を出しているのを見つけた。


「あ。」


これがこの前、お兄ちゃんが言ってたきのこかな。

友喜はしゃがんで、きのこをじっと見る。


土竜もぐらは食べてなかったな~。」

肉厚の傘があって、なかなかに見応えのあるきのこだ。


「………ん~。」

空を見やり、目をつむって、何かを考えようとする。


「ま、いっか。」

立ち上がり、地面に着いていたであろうスカートの裾を軽く手で払って再び歩き出した。

後ほんのちょっとで家に着く距離だ。


不意に友喜の周りに風が吹き始める。

風が渦巻いて濃厚な花の香りが友喜を包み込んでいく。


「あ、また、この香り…。」


渦巻く風に、友喜の髪は前にあおられ視界を遮られた。








 薄暗い闇の中で色とりどりの小さな光が明滅する。


数え切れないほどの光は、自分をいたわる様に慈しむ様に勇気づける様に見えた。

吸引口に吸い込まれていくかの如く急速に自分一個の意識としてのかたまりが持って行かれたー。



薄黄色の裾と柔らかな黄緑色の長いウェーブの髪が、ふわっと風に揺れる。

祈りを捧げる為に絡ませた手指は心なしか震えていた。

祈りが終わって少女は地面に付いていた膝の部分を丁寧に払い、立ち上がって空を見上げた。


「キャルユ。」


自分を呼ぶ声に振り返ると、そこには花冠を手にしたアミュラが微笑み立っていた。

アミュラは花冠を石碑の前に設置すると石碑に向かって両手を合わせ、一瞬、瞑目する。

キャルユは彼女の挙動の一部始終を見守った。



直ぐ近くの草原に、二人は膝を抱える様にして座り込んだ。


風が吹き、二人の美しい髪を服の裾を柔らかに、はためかせる。


髪を手で後ろへと梳きながら、キャルユは呟いた。


「私達のエールは、練っても練っても、樹へは成り得ない。私達はエールを送って、樹の役目の仲立ちをしているだけだわ。それなのに、樹が、無くなってしまったら、そしたら…私達は、ここに存在する意味も無くなってしまうのに…。」

「キャルユ…。」

一拍置いて、アミュラが言葉を続ける。


「あたしも、ツァームも居る。それにね、…この白い、ぽわぽわだって居るよ。」

アミュラが薄ピンク色の衣服の袖の中から取り出したのは宙にふわふわと浮く毛玉だった。


「ふふ、」

キャルユが目の端のしずくを指で掬い、小さく笑った。


「アミュラ、ぽわぽわって、この子の名前なの?」

「そう、今決めたんだ。この子は、ぽわぽわ、って名前で呼ぶ事にしようって。」

腰に手をやりキャルユに向かってウインクしてみせると、アミュラはぽわぽわを両手で覆い、キャルユの目の前に移動させる。

ぽわぽわは小さく揺れながら浮かんでいて、キャルユは次第に頬が緩んでいく。


「さあ、ツァームの所に一緒に行こうよ。ひょっとしたら何か前進するかも知れないし、」

「ありがとう…、アミュラ。」

「どういたしまして!あ、それと、」

「なあに?」

「…ううん、何でもない。行きましょう。」


言い出しかけたアミュラの言葉に、俯き加減に空を見つめ、一拍遅れてキャルユはアミュラの言葉を繋ぐ。


「糸。」

「え?」

「糸の事でしょう?」

「…。」

「希望の糸はきっとあるから諦めないで。アミュラが言いかけたのは、そういう事でしょう?」


「うん…、そうだね、そういう事。」

横目でキャルユに笑いかけながら、アミュラは肯定した。


「ほら、行こう!」

アミュラに肩を支えられ、キャルユは前を向き直し、凛とした眼差しを遠くに見据える。


そよ風で草原がたなびく。

キャルユの花の香りが、一層強くなった。

それに気付いたアミュラが、深い慈愛を込めた眼差しをキャルユに向けて微笑んだ。








 カチカチカチカチ…カチカチカチ…カチ…カチカチカチカチカチカチ…


素早くキーボードのキーが押される音。

必要以上の光源を持たない、酷く閉鎖的な場所。どこかの地下だろうか。

あちこちに置かれたコンピュータのモニター画面の前にそれぞれ何人かが位置し、ひたすらにキーボードを操作している。


互いに口を利く事も無い。ただ定められた様にプログラムを組んでいくだけだ。

それの意味するところは伝えられていない。

ただひたすらに、キーボードを打ち込んでいけば良かった。



 給料は割と良かったし、仕事の後の後腐れも無い。自分の仕事の目途が付けば、皆、さっさと帰ってしまう。

ここではデスク毎にパーテーションが設置されていたし、皆それぞれ出勤してくる日も時間も決まって無いから、同僚の顔や名前を覚える事もままならなかったし、そもそもその必要性も無かった。


副業と言うものを勧められたのは、一年半ほど前の事だった。

「ここ、スゲー割が良いからおススメだよ。」

本業の仕事の入りが芳しくなく、ちょうどお金に少し困っていた時の事だ。


同じ会社の先輩が会社を辞めるちょっと前に、俺に入れ知恵してきた。

なんでも先輩は以前、当時の俺と似た状況の時期があり、先輩のそのまた先輩に、同じアドバイスをされたそうだ。


内容を聞いてみると、ひたすらに記された通りにプログラムを組む以外の情報を与えられない、別の会社で働いていてもオッケー、周りへの口外禁止、但し、同業者に対してのこの仕事の勧誘についてだけは、他に聞かれぬよう細心の注意をしながらであれば、という条件付きでオッケー。

そして本業よりもずっとお金の入りが良い。


眉唾だったが、その当時本当に困っていた俺は、先輩のくれた名刺を頼りにその会社へと半信半疑で赴いた。

都会だが、おおよそオフィス街とはかけ離れた、夜になれば騒がしい飲み屋街の一角。

地下へと続く狭く古い階段を地下2階ほどまでだろうか、降りて行くと、その職場はあった。


飲み屋街に似つかわしくない、階段から仕切る為に設置されている重厚なガラスドアを開けると、途端にビジネスの無機質さ溢れる空間が現れ、受付から少しだけ見える奥の空間には、デスクがおよそ40ほど整然と並び、全てのデスクにコンピュータが備わっている。

デスクは全てパーテーションで仕切られ、作業にものすごく集中出来そうだ。


受付で誰からの紹介なのかを確認され、プログラミングの詳細が載っている分厚い冊子と、給料の振込先の口座を設定して貰う。

後は、ただひたすらに入力に徹するだけで良かった。


ひと息入れるのにコーヒーは飲み放題だったし、いぶかしんでいた給料についても、最初の一か月目の振込を記帳で確認した時に、一瞬目を疑う程の充実した入りだったのを覚えている。

本業は変わらず続けていたが副業の割の良さで2、3か月もするとだいぶ自分に余裕も出てきた。


始めは本業よりもずっと多く給料を貰えるので、それだけで良かったが、次第にこのプログラミングの意味するところを一人考える様になった。

これは本業で使ったり今まで学んできた類の、あらゆる既出のプログラミング言語では無い様だ。

法則性があるのは分かるが、大元のコンピュータが何処にも売っているのを見た事が無いというのも特筆すべき点だ。


何時いつに行くか定めが全く無い為、本業の終わった後、または何もやる事の無い休日等、そんな具合に、行ける日にち、行ける時間に突発的にオフィスへと向かう。そんな感じで融通も利いていた。


この飲み屋街の中という位置にも、なんだか不思議さを感じた。何処か正体を隠すためここに位置しているとも見てとれるオフィスは、入り口にしたる名前も無い。

最初、会社の表記すら無い入り口を見た時には、3歩、いや15歩くらい気持ち的には引いた。


本当に、こんな場所に入って良いものだろうか。


結果的には、もう何回も出入りはしているのだが、出勤して、指示された事をそのままやって、終わったら帰る、ただそれだけを繰り返して終わるつもりは毛頭無かった。


この、一度もお目にかかった事の無い、プログラミングの意味する所を男は知りたいと思った。

言いなりのままで、プログラミングのロボットと化すには男は好奇心が旺盛過ぎた。

そんな素振りを一切見せずに、やたら精悍せいかんな面持ちで、デスクを前に男は今日も作業に取り掛かり始める。








 「あ、あれ友喜ちゃんじゃない?」


「あれ、本当だ。友喜~っ!」


林の道を、有津世と雨見が友喜の近くに駆け寄ってくる。


「なんだよ、友喜、お前とっくに帰ってたんじゃないのかよ。」

「どうしたの、友喜ちゃん。なんか虫でも見つけた?」

二人が交互に声をかけた。


友喜は二人を見た途端に、二人に向かって抱き着いてきた。

雨見はドキンとして友喜の行動に驚いて、頬をほんのり上気させて友喜の表情を見ようとする。


「なんだ、友喜、おい、どうしたんだよ。」

有津世も抱き着いてくる友喜を見て、体調を崩したのかと心配して友喜のおでこや頬を触って熱かどうかを確かめようとした。

そんな二人の反応にはお構い無しに、まるで夢うつつとでもいった表情で友喜は二人に言った言葉は…。


「ふふ、会いたかった………!」

再び二人をぎゅうっと両腕で包み込んだ。


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