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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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テレパシー

 都内アパート。


「則ちゃん、則ちゃん!」

則陽がゲーム機のコントローラーを握ったまま俯いているのを見て、ひと足遅く帰って来た梨乃はびっくりして則陽に呼び掛ける。

テレビには、クリスタルがクルクル回る画面が表示されていた。


「…あ。」

則陽は気が付いて、周りを見回して梨乃が帰って来た事に気付く。


「…梨乃、お帰り…。」

「…ただいま。則ちゃん、…大丈夫?」

梨乃が心配そうな顔をして、則陽の顔を覗いていた。




則陽が梨乃に弁解しながら、夕飯のおかずを作り始める。

そんな則陽の姿を、梨乃は見守るだけだ。

相変わらずだな、と則陽が笑う。

あ、でもね、と梨乃が言う。


「炊飯器買ったの。ご飯だけは、炊ける様になった!」

と喜んで言うのがまた、則陽にとっては可笑しくて笑えるのだった。


則陽が作った簡単な夕飯を二人食べながら、


「え、じゃあ、則ちゃんが言ってた、クリスタルの中に入る話、それがさっき出来てたの?」

「うん、久し振りに、中に入れたよ。」

「ごめんね、私てっきり…。」

則陽が気絶していると思って、体を揺さぶってしまったそうだ。


「こっちこそごめん。驚いたよね。」

「…うん、驚いた…。」

ご飯茶碗をつついていた箸を途中で止めて、梨乃は言った。


則陽の話は信じて疑わなかったが、実際に目にすると、やはり驚いてしまう。

則陽が来る前に、自分が実際に体験した出来事の始めがツピエルだったので、梨乃はそこからスイッチが入ったのか、その後に聞く則陽の話を決して疑う姿勢では聞かなかった。

梨乃は、則陽の視線に気付き、なあに?と少し照れくさそうに聞く。


「…ううん、何でもない。」

美味しそうにご飯を食べる梨乃を、則陽は愛おしそうに見つめていた。




 風呂上がりの梨乃に、則陽はちょっとこっちに来て、と梨乃に呼び掛ける。


「これ…。」

則陽は自身のデスクトップコンピュータのモニター画面を梨乃に見せた。


「え、これメールだけど見て良いの?」

「うん、良い。」

則陽はメールボックスを開き、とあるメールの文章を見せた。


「これが…、クリスタルの中に入るきっかけとなった問い合わせメールで、会社で取り合わなくなってからは、個人的にやり取りをしているんだ。」

梨乃は則陽が示した画面を見ながら則陽の説明を聞く。


「これが始め。で、途中で、有津世くんから、不可思議な現象が起きている事を知らされたんだ。」

確かに則陽が言った話と辻褄の合う内容がそのメール文章には記されていた。


「で、これが俺の依頼メールで…無事叶って、クリスタルが画面に表示される様になった。」

梨乃がうんうん、と相槌を打つ。


「これがクリスタルの中で、有津世くんの妹に確かに会ったと確認出来たメール。」

と、則陽が梨乃の方を向いた。


「…あ、ごめん、とにかく梨乃には信じて欲しくて…。」

固まっている梨乃を見て、自分が突っ走って説明を続けていた事を詫びる。


「ううん、違うの…。これ、私が知っている名前…。」

梨乃はモニター画面にはっきりと映し出されている友喜の名前を、指差した。


「え、柚木友喜ちゃんの事?」


うん、と梨乃が頷く。

何でも、梨乃のブログを通じて知り合った間柄であって、恋愛話をお互いにする仲だとかだそうだ。


「そんなに多くは無い漢字の組み合わせだから、同姓同名での別人って風には考えづらいな…。」


梨乃の言葉に、則陽と梨乃は、もう一度メールボックスの名前を眺めた。





 明かりを消したベッドの上で、則陽は梨乃と抱き合っていた。


「梨乃…。」

「うん?」

「多分また、梨乃を寂しがらせてしまうかも…。」

「ん、何?」

「明日、仕事終わりに、前に話した、副業のオフィスに寄ろうと思ってる。」

「んん…、」

梨乃は則陽の抱擁から自身の胸元を放し、目の前の則陽を見つめた。


「多分もう大丈夫…。」

「大丈夫?ホントに?」

「それ、…修正プログラムって言ってたお仕事?」

「うん、そう。」

「んっ、」

則陽が話しながらも梨乃の首筋にそっとくちづける。

梨乃はそれに反応しながらも、


「そういうお仕事してるなんて、則ちゃん、かっこいい。」

にっこり微笑んで、嬉しそうに言った。


「…でも、梨乃。」

「あんまり寂しくなったら、ブログに書く。」

「あのブログに?ほとんど梨乃の言動や行動の懺悔のあれに?」

「…。」

梨乃は恥ずかしそうに目を逸らす。


「なんで目、逸らすの、梨乃、こっち向いて。」

則陽は梨乃の背中を優しくまさぐる。梨乃は声を出さずに微かな震えで反応する。


「あれがあったから、今こうして居るんでしょ?」

「…。」

「梨乃が、俺以外の男を、好きになれないって、あれで理解したから。」

「んっ。」

「寂しがらせた後は、こうして、接するから…良い?」

「…っ、」

梨乃は無言で則陽に何度か頷く。

その後は、言葉にならない吐息と声で、二人の部屋の音は満たされていった。








 放課後。いつものカフェのテラス席。風が気持ち良い。

テーブルにはいつもの様に、いちごシェイクと抹茶ラテが置いてある。


「ええっ?友喜が友喜に会った?ちょっとどういう事!?」

「分からないよ~、ねえ、なっちん、何なんだろう?」

「…」

「え?」

「…ドッペルゲンガー。」

「何それ?」

「自分が自分に会ってしまうと、恐ろしい事が起こる、あれ…!」

「ヤダ!ちょっと止めてよ~!!」

冗談じゃない、という風に、友喜は思わず大声を上げる。


「ああ、うん、私も信じてないけどさ、ドッペルゲンガーは、違うと思うけど…、」

「なっち~ん…。」

友喜がなつに助けを請う。

なつは友喜の顔を見て、それから、う~ん、と言い、唸る。


「ああっ!」

ポンと手を叩いて、こういうのはどう?と友喜に聞く。


「友喜も何らかの理由で、何人かに分かれてる。」

「…。」

「どう?この案。」


「私、何人かに分かれてるの!?」


友喜がショックを受ける。


「キャルユが友喜に被っていて、その何?ぽわぽわだっけ?も、キャルユだって言うんなら、友喜も二段構えで、存在する。どう?この案。」

「なっちん、他人事だと思って…。」

くぅ~っと悔しそうにする。


「他人事?そうか、確かに。でもさ、他人事にしては、結構親身になって分析してるつもりだけどなあ。」

「…ああ、ごめん、なっちん…。」

こんな突飛な話なのに、理解までしてくれて、分析までしてくれるなっちん。自分が悪かった、となつに言い、しまいには、私、生きてる?とまでなつに聞く。


「生きてるに決まってるがな!もう、やけくそでしょ!」


笑いを堪えながら可笑しそうになつが友喜を見る。


「で、今日もこれから作戦会議なんでしょ?」

「…うん。」

「元気で行ってこーい!」

「また抹茶ラテ、奪うつもり?」

「ピンポーン!」

「もう、あはは。」

しょうがないから上げるよ、と友喜は言い、なつは、ありがと、と返事を返す。

 

「じゃあね~。」

「はーい。」

「あ、ねえ、友喜!」

ん?と友喜は振り返る。


「明日は最後まで勉強、付き合ってよ。」

「オッケ!」

なつに見送られながら、友喜は鞄を持って席を後にする。


心地良い風が吹いていた。


 遠ざかっていく友喜の姿を眺めながら、なつは自分のいちごシェイクのストローを、ミサンガが揺れる右手で掴むと、一口飲んだ。すっかり静かになってしまったその席で、勉強道具を広げて、一人勉強を始めた。








 梨乃と則陽はデスクトップコンピュータのモニター画面を前にし、則陽は梨乃の今発した言葉に振り返る。


「梨乃の知り合い?」

梨乃は頷く。


「ダイレクトメッセージで最初やり取りがあって、話を聞いている内に会いたくなって、お茶したの。」

「え、直接会ったの?」

梨乃はまた頷いた。


「私のブログ見てだから、話すのはいつも恋愛話で、それも…。」


則陽への未練話ばかりだった…梨乃は最後を誤魔化す。


「それ以外の話は実は何にもしてなくて。…。」

梨乃はもう一度モニター画面を確認する。


「あ、でも年齢が違うか…。」

「このメ―ルはだいぶ前だよ。」

則陽は続ける。


「今は高校生くらいには、なっているのかな。」




 都内アパ―ト。

梨乃は昨夜話した則陽との会話を思い出していた。


今夜は則陽の帰りが遅い予定なので、何をしていようかと迷う。

時間が余る時は、マンションの自室だったら、何となくデスクトップコンピュータを開き、ブラウザで何となくペ―ジを巡るのだが、それも自室では無いので出来ない。梨乃はあまりスマートフォンを弄るのは好きでは無くて、ブラウザ閲覧は、もっぱらデスクトップコンピュータで行っていた。


則陽が遅いと分かっているので仕事終わりに一旦自室に戻ろうかとも思ったけれど止めた。せっかくこの場所に居れるのだ。則陽が帰宅していなくても、この空気を感じて居たかった。

とは言え、梨乃はご飯を用意する素振りも見せない。


炊事に関して梨乃は、苦手意識の塊なのか知らないが、作ってみようか、の発想すら無かった。

だから梨乃が則陽と再会する直前に、炊飯器を仕入れて白米を炊けるまでになった事は、実は奇跡の現象であった。



アパ―トに帰り着いてから、梨乃は始めはうろうろと部屋を観察して、自分が去る前の部屋の状態と本当に変わっていない事に感心していた。その内に飽きてきて、今度は自分の物と違う則陽のデスクトップコンピュータを眺めたが、それで昨夜の会話を思い出したのだった。デスクトップコンピュータから目を離し、梨乃は部屋を再びうろうろする。


ツピエルを目撃したあの日、則陽の部屋に着いて最初に迷ったのが、陶器製の小さな犬の置物、のりすけの配置で、じゃあ、ここは?と言われた場所は、梨乃の居ない間に加わった数少ないアイテム、新入りゲ―ム機の隣だ。


のりすけの頭をさわさわと撫でて、梨乃は隣のゲ―ム機に目をやる。

するとゲ―ム機が勝手に起動して、小さなテレビ画面にクリスタルがクルクル回る画面が映し出された。


梨乃は面白半分でゲ―ムコントローラーを探し、いそいそとAボタンを押してみる。何も起こらない。?…あ、そういえば見せてもらったメ―ルには、カ―ソルを合わせて、ってあった気がする。最近のゲ―ム機は触った事が無かったから、どれでカ―ソルを合わせるのか分からずに取り敢えず全部のボタンを弄る。あ、これか、と分かると同時に梨乃はAボタンを押してみた。








 街を忙しそうに行き交う人々の量が増えてくる。

もうすっかり夕暮れを過ぎ、家庭によってはそろそろ夕飯が始まっている頃だろう。


なつは目の前の通りの人波をたまに眺めながらも、カフェに居座ったままだ。

通りから人影が一人、なつの姿を確認して寄って来る。

その男はなつの席の前まで近づくとなつに声を掛けた。


「なつ、まだ家に帰ってなかったのか、ほら、帰るぞ。」

怒る風でも無く、淡々となつに話す。


「お兄ちゃん。」

男は、なつの兄だった。

なつは兄を見上げて、分かった、とばかりに勉強道具をしまい始める。


「出来たか、行くぞ。」

なつは兄と一緒にカフェを後にした。




兄妹とは良いものだ。

なつはそういう所感を抱いていた。

友喜の話を聞いていてもそう思うし、まあ、友喜の所は少し特殊だろうけれど、自分が特殊では無いとも思っていなかった。

背の高い兄の背中を見て、改めてそれを思う。


「ねえ、お兄ちゃん。」

「何だ?」

「明日も私多分、カフェに寄ると思う。」

「明日もか?最近多くねえか?そんなに自分家が嫌か。」

「嫌じゃないよ、嫌じゃないけど、あのカフェ、居心地良くってさ。」

「無駄遣いは大概にせえよ。」

「無駄遣いじゃないもん、気分転換だもん!」

気分転換と言い張るなつを見て、なつの兄は少しの間を置いて、


「ま、別に反対してる訳じゃあねえよ。」

なつの肩を軽く叩き、言う。


「そうだ、お兄ちゃん、彼女出来た?」

「ほっとけ。」

二ヒヒと笑い、なつはその後も兄の恋愛事情を、突っついた。








 …あ。

気が付くと、そこはクリスタルの中だった。

久し振りに入れたそこは、今まで来た事の無い空間だった。


先日のお泊り会で、ぽわぽわに遭遇した一幕は、三人に驚きと更なる考察の必要性を感じさせたが、今日の作戦会議でも取り敢えず最初に試してみたのは、ゲームのクリスタルの中に入れるかどうかだった。


いつもの様に有津世がコントローラーを握り、クリスタルにカーソルを合わせたのを確認してAボタンを押す。そして有津世の辿り着いたのがここだ。


明るい黄緑色の箱の中の様なそこは、自分以外に誰も居ない。

と、思ったら直後、誰かの気配を感じた。


「…。」

「…あ、初めまして。こんにちは…。」

きょろきょろしているその背中を見て、有津世は恐る恐る話し掛ける。

すると見た事の無い女性が、こちらに振り返った。


「…。」

すっごい凝視してくる。何だ、この人は。有津世が思わず怪訝な顔をすると、その女性はいきなり、


「柚木有津世くん?」

おもむろに聞いてきた。


「…。ええ、はあ、はい、そうですけれど…あなたは?」

有津世が不審がり、眉を寄せてその女性に聞く。


「私は則ちゃんの…。」

と言いかけ、彼女は言い直した。


「えっと、奈巣野さんの、知り合いで…。」

「奈巣野さんの?ああ、そうなんですね…。」


変な間が、空間に流れる。


「ここは…なあに?」

その女性が聞いてくる。


「何でしょうね…。」

有津世にも分からない。


「別次元の空間としか…今の所は俺達には分からなくて…。」

有津世はつい先日の事も思って、憂いてそう呟いた。

分からない事、多いな。

そんな感慨も自分の言葉を耳にして改めて思う。


「あ、そうだ、あなた今いくつ?」


質問ばかりされる。有津世は何だか面倒くさいと思いつつ、渋い顔をしながら、高校二年だけど、あの、あなたの名前もまだ教えてもらってないんですが…と言った。


「ああ、ごめんなさい、私は野崎梨乃。奈巣野さんの…知り合いで…。話を聞いて…試してみたら本当に飛んだみたいで…、不思議ね、ここ。」

と吞気に返してきた。

改まった彼女の態度を見て、気を取り直した有津世は、ふう、と静かなため息と共に座り込んだ。

梨乃も真似して近くに座り込む。


「また質問をする様で悪いけれど…、柚木友喜ちゃんって、今高校一年生で、あなたの妹?」

梨乃の口から友喜の名前が出てきて、有津世は驚いた。


「え…あ、奈巣野さんの知り合いだから、知っているんですね、そうです、…友喜は俺の妹。」

少し思う所がある様に、その言葉には含みがあった。


「奈巣野さんから聞いたのもあるけど、そうじゃなくて…私、友喜ちゃんと友達で、交流があるの。」



「へ…?友喜と、友達?」

「うん。その…一時期、気持ちがぐじゃぐじゃだった時に、お互いの恋愛話をする事で随分助けてもらって…。友喜ちゃんにはとても感謝しているの。」

梨乃の言葉を耳に入れた直後、有津世は梨乃に対する見方が180度変わった。


「友喜が…あなたを助けた?」

「そう。…友喜ちゃんが居なかったら…私ここまで立ち直れてなかったし、その…奈巣野さんとの事も…。」


要するに、彼女は奈巣野さんの恋人の様だ。そういう事か、と有津世は警戒を解き、梨乃の話すその恋愛話にふと興味が湧いた。


「友喜が話した恋愛話って…。」

「うん…何でも…好きになってはいけない人を好きになってしまって苦しんでいる…って。辛そうだった。お互いどうしようも無い想いを吐き出しまくったから、実際会った回数は少なくても、心から理解しているって思うの。」


有津世は空間の先を見つめながら、梨乃の言葉の意味を想う。


「有津世くんに会って分かった…。友喜ちゃんが苦しんでいた相手はあなたね…。」


梨乃がずばり言い当てる。

有津世は振り返り、梨乃の顔を見ながら言葉が無かった。初めて会って僅かの会話を交わしただけなのに、それを言い当てられた。


「…あなたも知ってるのね…。そうか…。…友喜ちゃん、諦めたって言ってたな…。」

梨乃は有津世の表情を見て、有津世が再び空間の遠く先を見るのを真似て、梨乃も遠くを眺めた。


「…俺は…俺は友喜と雨見に言われるまで…気付かなかったんです。その…彼女の気持ちを…。」

「雨見ちゃん?…ああ、確か奈巣野さんに、有津世くん達は三人でこの事象に対峙してるって聞いたから、そのもう一人ね…有津世くんは、雨見ちゃんの事が、好きなのね…。」

何も話していないのに、この梨乃という女性は有津世の周辺をぽんぽん言い当てる。


思わず、


「分かるんですか?」

と聞いてしまった。


始めは梨乃の発する言葉にイラついていたのに、いつの間にか引き込まれている自分が居た。


「何だろう…自分でも不思議だけど、分かるな、…どうしてだろう…でもうん、そう。分かる…。」

聞かれると返事がおぼつかない梨乃だが、そんな梨乃に、有津世は今や好感すら抱いていた。


「梨乃さん。俺…友喜の事は守りたいと思っているんです。雨見の事も…。恋愛感情云々を抜きにしても、俺にはその役目がある。どうしてだか、分かりますか?」

有津世が梨乃に言う。

ううん、と梨乃が首を振ると、


「…俺達、実は別の世界の記憶があるんです、多分地球とは違う…。そこでも助け合って支え合ってきていて…そんな世界の記憶を共有しているんです。それに気付いたのが、ここ、クリスタルの中に来るきっかけにもなった訳だけど…。友喜は多分、…あちらの世界の人格に感情を引きずられて、て話で…でもこっちの世界ではご存じの通り兄妹だから…。あ、ごめんなさい、こんな話をされても困りますよね…。」

梨乃が大丈夫、続けて、と有津世に言うと、


「だから、俺はこっちの世界でも二人を守る必要がある。こっちの世界でも支え合う事を約束しているんです。」

胸の内の決意を会って幾ばくも無い梨乃にさらけ出す。

そんな有津世は梨乃から見ても、清々しい程に凛々しく見えた。


「友喜ちゃんは…その有津世くんの姿勢に惹かれるのね…。」

思ったよりも単純じゃないんだ…、と梨乃は有津世の話を受けて思いながらも、有津世の言う話を素直に聞き入れていた。


「あ、だいぶ話し込んじゃったね。時間、平気?」

梨乃が聞く。


「この中だと、時間の流れが違うみたいですよ。あ、これは友喜が奈巣野さんから教えてもらったって言っていました。だから、大丈夫だと思います。」

へえ、そうなんだ、と梨乃は言い、


「こういう世界があるなんてね。まだまだ知らない事、多いね。則ちゃんに教えて貰って良かった。」

梨乃は素直に有津世との交流を喜んでいた。

奈巣野さんの事を、則ちゃん、と普段は呼んでいるのだろう、そんな素直な彼女の反応は、有津世にとって魅力的に感じられた。

次の瞬間、梨乃の体が白い光の粒子に包まれる。


「あ、もう帰るみたい…。」

梨乃が言う。


「ありがとう。」

そう言い梨乃はにっこり笑って、光に包まれた。

有津世は半分呆けて梨乃を見守る。一足遅く、自分も光に包まれた。






 ここはリビングのソファだ。

我に返った有津世が微妙な表情をしている。


「有津世…?有津世は入れたみたいね。」

「お兄ちゃん?」

有津世の顔を覗き込む二人が居る。


「雨見、友喜…。」

二人の顔を交互に見て、有津世は少しの間沈黙する。


「お兄ちゃん、どうだった?」

友喜が気遣わし気に有津世に聞いた。


「…えっと…。今回特には何も…。」

「えっ、何も起こらなかったの?」

「いや、何も起こらなかった訳では…。」

どう言おうか迷って、有津世は言葉を濁した。


雨見が有津世の表情を観察して、勘繰る。


「何か有津世…怪しいんだけど…。」


雨見の指摘を受けて、ええ~っ、ちょっと待ってよ!誤解だよ!と、更なる誤解を恐れた有津世が観念してその内容を話し始めた。


「あのさ…、友喜の友達に会ったよ。」

「え、なっちん?」

「なっちんじゃなくて、別の女性。」


「女性?」


「分かった…美人だったんだ…。」


雨見がちょっと面白く無さそうに言う。

女性って有津世が言うからには、おそらく年上だろう。


友喜が顎に手を当てながらうんうんと考えた後に、


「………え、ひょっとして、梨乃さん?」

と声を上げた。


「当たり。」

「ええっ?!」




話の流れで友喜としたという恋愛話になり、まあ、その、話しにくい事を、色々と聞いたそうだ。

友喜は僅かに赤面しながらも、まあ、済んだ事だから…と呟き自身を納得させる。


「でも何で梨乃さんが?」

「うん、話を聞いて思うに…。」



「ええっ?!梨乃さんが奈巣野さんの恋人?」


「うん、そうだと思う。梨乃さんは、友喜にとても…感謝していたよ。奈巣野さんとの事も、友喜に会ってなければ叶わなかった、って、そう言ってたよ。」


「私に…?そう。…私何にもしてないけどな。」

思わぬ人物が梨乃の想い人と知り、友喜は、あっと驚いていた。



「…ああ、だから奈巣野さん…。」

先日クリスタルの中で会った、則陽の印象について思いを巡らせる。


なんだ、そうか。


友喜は緩く微笑んだ。



有津世が言うに、梨乃は少し不思議だったと言う。

友喜の想っていた相手が有津世だとか、有津世は雨見の事を想っているとか、話を碌にしない内から、ぽんぽん言い当てたそうだ。


「そっか…。それなら、その流れになっても仕方無いか…。」


友喜は梨乃と実際に会った時に、特にそう言った印象を持ちはしなかったが、小学生から続く付き合いのなつの事さえ、最近になり彼女の秘めたる能力に気付き始めて驚愕している所だ。梨乃さんももしかしたら何かそういったものを持ち合わせているのかも知れない。


なんせ友喜は梨乃に、兄の「あ」の字も伝えていないのだから。


「ん?どうした?雨見。」

見ると雨見が複雑そうな顔をしている。

雨見にとっては友喜の事もあるのだろうが、友喜はそこをすっ飛ばして友喜なりのフォローを雨見に入れる。


「ああ、雨見ちゃん大丈夫だよ!梨乃さん、ものすっごい一途だから、多分、お兄ちゃんなんかに、目もくれないよ。」

「おいっ、ちょっと待て!なんか、って何だよ!てか、他意は無いけどさ、無いけど、なんかとかまで言う必要無くない?」

言いたい事は分かるけどさ、と言葉を添えながらも有津世は友喜の意見に断固異議を唱える。しかも雨見の目からすると、有津世の表情は何だか残念そうにも見えた。


「…。」

「ああっ、雨見、違うからっ、違うって!」


慌てる有津世を見て面白がる友喜と、沈黙する雨見。


まあ、こんな風に、何の騒ぎだか最後には分からなくなって。

今日の柚木家のリビングはいつもに増して賑やかだった。

 

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