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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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石碑の向こう

挿絵(By みてみん)





 緑の濃い、濃密な空気の地。

ぽっかりと一部に穴が開いてしまってはいたが、そこさえ除けば緑の大地と言って申し分無かった。


アミュラは今日も花冠を編みに、彼女だけの秘密の場所へと赴く。

別の場所でも作れたけれど、アミュラはこの場所で作ると決めているみたいで花冠を作成する際はいつもこの場所に赴いた。



 『言ったじゃないの。』

「何が?」

『そんなアドバイス、したってしょうがない、って話よ。』

「何でよ、皆、応援は良くないとでも言いたいの?」


キャルユのツァームへの想いについて、思った事を花冠を作成しながら集まって来た妖精達とお喋りしている所だ。


アミュラはキャルユの想いを大切にしたかったし背中を押して上げたい一心だった。


だってこれは、ひとつの奇跡だから。

気持ちの奇跡。

キャルユはそれを持っていて抱えていて、そしてあんなにも悩んでいる。

この事を奇跡と呼ばずして何て呼ぼうか。


『だから、アミュラはそんな事言ってないで、自分はどうなの?』

「あたしは、キャルユを誇りに思うもん。」

『そういう事じゃないわよ。もう、分からない子ね。』

「分からなくなんか…、分かっていないのはそっちじゃない!」


今回に限った事では無く、アミュラは妖精達とお喋りをすると度々喧嘩口調になりがちだった。

アミュラは、妖精達はめっぽう分からず屋だ、と言い放ち、妖精達はいつだってアミュラをあくまでもたしなめる様な冷めた返事しか返さないので、特に今回アミュラは言葉に熱がこもって妖精達を睨みつけるまでした。


「もう良いよ、あたし行くね。」

アミュラが言い捨てて今回のお喋りはお開きになった。


『またね、アミュラ。』

アミュラはこくりと頷き顔だけ見せて、後は妖精達の動向を意に返さなかった。

毎回がこんな感じで喧嘩別れの様なのに、何故かお互い懲りずにやり取りを繰り返している。


 完成した花冠を腕に複数、たずさえて、アミュラは手のひらで空間を撫で付けると、彼女の掛けていた磁界が一瞬にして解けた。

すると妖精達の姿はただの淡い光に戻り、光はふわふわと周辺に飛んで、辺りの幻想的な景色へと還る。




 花冠を編んでいた場所から一番近くの石碑へ彼女は赴いた。

石碑と一緒に見えてきたのは、石碑に祈りを捧げているキャルユの姿だ。

いつ見ても美しいキャルユの姿は、そよ風に吹かれてより神秘的に見えた。


アミュラは嬉しそうな表情になり、キャルユが祈りを終えたと見られるタイミングで大きな声で呼び掛けた。


「キャルユ!」


キャルユは声のした方に振り返って、アミュラに微笑み返した。


でも…。

キャルユの表情の端に、陰りが見えた。


彼女は繊細だ。

立ち枯れた樹の件では人一倍顔色を悪くしていたし、石碑に祈りを捧げた今も尚、幾分か顔色が悪かった。


アミュラは思い切ってツァームの話題を持ち掛けた。

立ち枯れた樹の事以上にキャルユは彼の事を想い悩んでいるのが伺えたから。


キャルユがツァームの事を想っているのを知っているよ、と、アミュラは彼女に伝えた。


キャルユはアミュラの発言に驚いて、きっと私はおかしいんだと自身を否定する言葉を放った。

彼への想いが膨れ上がっている事にキャルユ自身が相当戸惑っている様子だ。


アミュラはキャルユを心からの温かい言葉で包み込み、今出来る精一杯の鼓舞をした。

そしたらキャルユはようやく心からの笑顔を向けてくれたけれど。


でも、このやり取りの中、アミュラは柄も言われぬ感傷を微かに感じた。


何だろう、この気持ち…。




 アミュラは花冠を捧げてキャルユは祈りを行うのが石碑の前で行うそれぞれの役目だ。

まだそれを執り行っていない点在している他の石碑にこの日はそのまま一緒に赴く事にした。


石碑を巡る毎に先程感じた感傷がアミュラの胸の内に渦巻くけれど、どうしてかはやっぱり分からなかったアミュラはそれをやり過ごす。



 巡回の最後となる石碑に二人が辿り着き、アミュラが花冠を捧げ終えた。

先程までは二人同時に行っていたから、祈りを始めないキャルユにアミュラは注目するも、キャルユはアミュラに微笑んでこう言った。


「あのね、アミュラ。最後の石碑は、一人でお祈りしたいと思ったの。だからお願い。先にツァームの所に戻っていてくれない?」


その様な事を今まで言われた事は無かったけれど、アミュラは快く頷いた。

言われるままにその場から退散するも、ふと道の途中で立ち止まったアミュラは踵を返して石碑の場所まで戻ってみた。


すると…石碑の周りには既に誰も居なかった。

風だけが吹いている。

アミュラは一人、立ち尽くした。


祈りを捧げているはずのキャルユが居ない。立ち消えた様に。

キャルユと別れたのは、ついさっきだったし。

彼女の祈りがこんなに直ぐに終わるとは考えにくかった。


胸の内がざわざわする。

樹が枯れた時にもざわざわしたけれど、今回のは、もっと酷い。

泣きそうになりながらアミュラは睨む様に前を見据え、先を急いだ。



「ツァーム!」


テーブルとして使っている岩の場所で、椅子代わりの岩に座り、笛の調整をしているツァームの姿が見えた時点でアミュラは彼を大声で呼んだ。


ツァームはアミュラの呼び声を聞きつけて振り向くと、走って来るアミュラを注意深く観察した。


「どうしたんだい?随分急いだ様だけど…。」

ツァームはアミュラの肩を両手でそっと支えた。


アミュラはツァームを見上げ、鼓動が早鐘を打つままに言葉を並べようとした時。


向かい合っているアミュラの背の向こうへ視線を向けたツァームが、爽やかな笑顔でその名を呼んだ。


「キャルユ!」

アミュラはその声に驚いて跳ねる様に振り返った。


そこには穏やかな表情でこちらにゆっくりと向かってくるキャルユが居た。


体が強張り武者震いしていたのがふっと解けて、次の瞬間笑顔になったアミュラはキャルユに駆け寄った。


いつものアミュラの調子に戻ったのを見て静かに微笑んで息をついたツァームも、アミュラに続いてキャルユの近くへ寄って行く。


「良かった、無事だったんだね。」

アミュラの案じたのはキャルユの事だったのだろうと、屈託の無い笑顔のアミュラを見て感じたツァームは、自らの胸の内からの素直な気持ちを言葉で放った。







 今日の日差しは強くて街が明るく見える。


ぱらぱらと、たまに通りゆく人波を見ながら、なつは一人、もの思いにふけっていた。


いつものカフェのテラス席。


テーブルにはいちごシェイクと抹茶ラテが置いてあり、抹茶ラテは友人の友喜がつい先ほど残していったものだ。

抹茶ラテに目をやり、僅かに口角を上げる。


友喜の口から聞かされていなかったなら、それを単なる夢物語だと思っただろう。

だけれど友喜達の中では確かに存在していて、こちらの世界へも繋がっている、こことは違う、もうひとつの世界。


小学生の時に、友喜達三人を見かける度に感じた、重なる何か。その記憶が無かったなら、もっと懐疑的に聞いていた事だろう。


そう、重なる何かをなつは感じていた。小学生の頃からずっと。


なつは鞄から小さな手帳を取り出して、ペンケースからシャープペンを一本選んで手に取ると、余白のメモ欄に絵を描き始めた。








 小さなマンションの一室。

飾り気の無い、こざっぱりとした内装の部屋。


座卓近くに設置されている古い型のデスクトップコンピュータ前に陣取っている梨乃の姿がある。 


ブログに久々のドロドロ具合を書いてしまってから、友喜のダイレクトメッセージは尽きる事無く、何度も梨乃の元へと届いた。


梨乃より年下なのに、彼女は随分と梨乃の世話を焼いてくれる。

梨乃は途中で考えた。

そこまでドロドロな記事だったかな…?


呑気な調子の梨乃とは裏腹に、友喜は梨乃の事が気掛かりで堪らないらしかった。


最近は友喜のダイレクトメッセージを受け取る毎に可笑しさがこみ上げてきて、その度に友喜にこんな感じで返した。

「だから、もう大丈夫だってば!ありがとう、友喜ちゃん!」


梨乃は随分と明るくなっていた。








 いつものカフェのテラス席。今日は曇りだ。風がそよいでいる。

学校の休み時間に友喜が、なっちん今日空いてる?と、なつに聞き、うん、良いよ、何で?との返事に、ちょっとぶしつけな調子で、後で話す、と友喜は言った。



 「え~、何、そんな事?」

「そんな事、って、なっちん、だってさ、何があったか、その後、梨乃さん何にも言わないんだもん。」

「そりゃあさ、言いたくない事だってあるでしょうに、友喜だってそうでしょ?」

「それは…。」


恋に落ちていた相手が実は自分の実の兄でした、なんて事は言っていない。

言うと、あちらの世界の話にまで説明が及ぶからだし…、と、本当はそれだけでは無い胸の内を、言い訳して自分でも掻き消す。


考え込む友喜を見て、なつが口を開いた。


「なんだ、あたしてっきり、友喜が、やっぱりダメだったよ~とか何とか言って泣きついてくるのかと思ったよ。」

「ん!」


なつの返しに友喜はなつを睨んだ。

なつは、へ?という顔を友喜に向ける。

何で自分が睨まれなきゃならないの?訳分かんない、とでも言いたげだ。


「あ、ううんっ、ええと、違うの。なっちんに話を聞いて貰って、ここまで立ち直れたんだし、睨むのは違ってた、ごめん。」

次の瞬間、違う違うと訂正して、なつに謝る友喜。


友喜の態度に、なつは半ば呆れ顔だ。


「あ~そ〜。ん、もう、まあ良いや。それより見てよ、友喜。」

なつは自分の鞄から手帳を取り出した。


「この前さ、友喜が途中でカフェから帰った時にね、あたし、小学生の頃を思い出したんだよ。」

手帳のページをめくりながら、なつが話す。


「それでさ、あたし、見えてたんだよね、友喜と友喜のお兄ちゃんと雨見ちゃんがさ、何かね…こうなっていた所を。」


なつの示した部分には、手帳の余白部分に小さく簡易的に描いた人物像と、その周り一帯に何かが重なっている絵だった。

人物像には、友喜達、と説明書きが振ってある。


「え?何?どういう事?」


友喜はなつの手帳を見返して首を傾げた。

シャープペンの先を描いた絵にトントンと載せながら、なつは続ける。


「なんかね、何回か、もや?が見えた事があるの。友喜に話を聞くまでは何でだろ、すっかり忘れていたんだけど。あ、そう、授業中にも確かそれ、見えた事があるよ。」


「もや?」

「うん、誰も何も言わないんだもん。あたし、誰も気にしないのが逆に不思議に思えてね。それでこれは今思ったんだけど、ひょっとしてあれ、他の人には見えてなかったのかな〜って。」


「もや…。」

「もしかしたら友喜の話に何か関係あるかもなって、思い出して気付いてさ、一応、話しとこうと思って。」

「そうかあ…。話してくれてありがとう、なっちん。」


再度首を傾げながらも友喜はなつに礼を言った。

なつは、うん、と頷き、あっさり話を締めくくる。


もやの話をきっかけに二人の小学校時代へと話題は移り、話に花が咲いた。





 



 「石碑の向こう?」

「そう、私達、一度も行こうとした事無かったじゃない。」

「でもどうして?」

「こことは違うヒントが、石碑の向こうに行く事で得られるんじゃないかって思ったの。」


アミュラとツァームは顔を見合わせた。


キャルユの言う通り、三人は今まで石碑の外側には行った事が無い。

石碑が点在しているその内側が彼等の地であり住処なのだと理解していた。なので、石碑の外側は全くの未知の世界だ。


「でも危ないんじゃない?」


アミュラがキャルユに言った。

三人共一度も足を踏み入れていない地なのだから警戒するのは当然だ。


「うん、危ないかも知れない。だけれど、そこにしかヒントが無いとしたら?」

重ねて言うキャルユの言葉を聞いて、考え込んでいたツァームが口を開く。


「ヒントがある保証も無い。ここと同じ様に動ける保証だって…。第一出たら、戻れなくなる可能性だって否めない。石碑の”主”は、少なくとも僕にそう言ってきた。石碑の囲うこの地から出たら、どうなるかは分からないと…。」


ツァームの言葉に頷いて、アミュラはキャルユに向き直った。


「ツァームの言っている通りだと思うんだ。キャルユ、…突然どうしたの?」

今までのキャルユらしくない、突然の、危険を顧みない発言は二人を心底驚かせた。


キャルユは視線を地面に落とし、


「そうするしか無いのよ…。」

と呟いた。


「ねえ、キャルユ…?」

アミュラがキャルユに歩み寄る。


「この前の石碑へのお祈りで、何かあったの?あったのだとしたら、あたしに教えてくれない?あたし、途中でそっちに戻ったけど、キャルユ居なかったよね、何かあったからでしょう?もしかしたら、言ってくれたら力になれるかも、だから、」


「石碑の外に出るしかその方法は無いわ。」

「…何の…方法?」


キャルユは思い詰めた様な表情で、尚も俯いていた。

どうもキャルユの様子がおかしい。


「キャルユ、分かったから。じゃあせめて、準備が出来てからで良いかい?」


ツァームの返事にキャルユはこくりと頷く。

じゃあ、あたしも、とアミュラも準備をしてくると言う。

キャルユの希望を聞き入れ、それぞれが準備に移る姿を、キャルユは淡々と見守っていた。








 緑に覆われて、建物が上空からも視認しにくい古びた神社。


今日も天気は良好で、ノリコは敷地の山で散策していた。


この頃のノリコが特に気に入っていたのが、山の緩い斜面での活動だ。

ノリコお気に入りの木もそのコースに生えており、辿り着くまで、落ち葉に埋もれたふかふかの地面で何度も足を滑らせ、その度に、近くに生えている木の幹やら枝をしっかり掴んで体勢を立て直し進んで行く。

ただ遊んでいる様に見えながらも、日々こうして体力と気力を鍛え、来たる日に備えていた。


 神社の社内に戻ると、ノリコの祖父はいつもの一番広い場所に居て、いつもの様に瞑想をしていた。

葉っぱを全て落として入ったはずが頭の上に落ち葉がひとつ、くっついたままのノリコは祖父を見て、自分も瞑想をやってみようと思った。

祖父の隣に座り、目を瞑る。


すると、祖父がノリコの知る女神様と話しているのが見えた。


女神様、そう呼んでいるのは、ただ単に都合が良いからだ。

いつも胸の中のメッセージ、とか言っているのは、思い返す時に少々不便だ。それだけの理由で、ノリコはメッセージをくれる元を女神様、と呼んでいた。


祖父の近くに、その女神様が居る。二人は自分が見えていない様だけど、ノリコからは見える。祖父は何かを相談している様だ。女神様は美しかったけれど、自分がメッセージを貰う女神様よりも、少し小さい気がした。


祖父は尚も質問をしている様だけど、女神様はそれについては知らなそうだ。声は聞こえないけれど、そんな雰囲気は伝わってきた。

女神様は空間に光をバッジみたいに取り付けると、彼女の姿は掻き消えてしまった。祖父が空を見る。


目を開くと、祖父もちょうど目を開いた所だった。


「ねえ、おじいちゃん、おじいちゃんも女神様と今までに何度も会っているの?」


ノリコは聞いた。


「女神様?誰の事ですか?」

「今、おじいちゃんが、瞑想してて、会っていたでしょう?」


ノリコの祖父は驚いた。

この子は、こんなにもたやすく、自分が赴いていた別次元へと入り込む事が出来るのかと。


「ああ、そうですね、会っていました。私はこの方にお会いするのは今回が初めてでしたが…女神様なのですか?」

「あ、ううん、私がそう呼んでいるだけ。素敵だね。」

「そうですね、お美しい方でした…。」


「おじいちゃんは何を相談していたの?」

「ああ、神社の木の役割の事です。」

「まだ、邪魔は終わっていないの?」

「そうですね、まだ邪魔はされている様です。」

「ふ~ん…。」


ノリコは聞くだけ聞いて、もう用事は済んだとばかりに、最近お気に入りの挿絵の多い分厚い絵本を自分の小さな座卓に置いてその前に座り、ばんと勢い良く見開いた。


小さな孫の動きを目で追いながら、その神秘さに、ノリコの祖父は静かに感嘆していた。








 林の奥の二棟の家。

吹く風に木々が枝葉を擦らせ、さわさわと耳に心地良い音が届く。

雨見はニ棟の家の玄関近くで有津世を待っていた。


「ああ、悪い、おはよ。」

「おはよう。行こう。」


今朝の有津世は寝ぐせは無かったが、目の下にクマらしきものが少々出来ている。


「なあに、眠れなかったの?顔が…。」

「…ああ、まあ、うん。」

有津世は頭をぽりぽり掻く。


「ひょっとして、昨日の友喜ちゃんの話で?」

「…。雨見に隠しても仕方無いか。そう。毎晩訪問してくるぽわぽわが友喜だと思ったら…。」

「正しくはキャルユね。友喜ちゃんはそれに引きずられていただけなんだから。」

「でも友喜でもあるでしょ?」

「うん、まあ…。」


有津世が頬を赤らめている。


「ちょっと、何考えてるの?だめ!」

有津世の表情を見て、慌てて雨見が止めに入る。


「だめって何だよ、何の事だよ。雨見、最近俺を誤解してない?」

「え、そんな事無いけど…。」

「昨日だってさ、雨見、俺に言う事、ちょっとひどくなかった?」

雨見は、昨日の有津世達の家での一幕を思い浮かべ、ああ、あの事ね、と思った。


「男の子はあ、そう言われる立場なのでえす。諦めて下さーい。」

ぴしゃりと言う。

雨見は恋愛沙汰で悩んだ事なんてまだ無かったから、有津世に飛ばす言葉も容赦無かった。

あっけらかんとしている。


「有津世はさ、自分が罪深いの、もっと自覚した方が良いよ。」

「はあ?」

「だってさ、学校でも、有津世、ほら、気付いて無いけどさ、女子にめっちゃ見られてるの、あんなに見られてるの、有津世だけだから!」


「ええ、ちょっと待ってよ、何それ?」

「もう、だからあ、」

雨見は全部説明するのが面倒くさいとでも言うように、有津世が聞き返すのを煙たがる。


「有津世は、異性にとって、めちゃめちゃ魅力的なんだってば!」

そこまで言って、しばし二人の間で時が止まった。


「…え、え?」

「一般論よ!」

雨見は言い捨てて、何故か顔が赤くなった。

歩調が早まり、有津世よりも前へ出る。


「ええ、じゃあ、待って、雨見も?」

雨見の後を必死で追って有津世が尋ねるも、振り返った雨見は何故だか凄い剣幕で。


「何で私も…っ。」

言い返すも、返し方を直ぐには思いつかない様だ。


「…だから、一般論だって、言っているでしょう!」

「そこで怒るの、おかしくない?」

「おかしくない!」

「も~、何なのさ~!」


有津世は、ぶつぶつと文句を言っている。

有津世よりも速足で行こうとする雨見の顔は尚も赤く怒っている様に有津世の目には映った。







 ツァームは各石碑へと回り、石碑の外に関する情報を”主”から得られやしないかと試みていたし、アミュラは秘密の場所へ赴き、石碑の外に行く事に関して、妖精達と半ば喧嘩をやり合った。


二人は真摯にキャルユの提案に向き合おうとしたし、今動きが他に無いのなら自分達が動くべきだとも思ったから、キャルユの無謀とも言えるそれに共感し始めてもいた。


ただ二人が一番気になったのはキャルユの態度で、今までに無いくらいに思い詰めた様に見えた彼女は、提案以上に気に掛かるものだった。



 アミュラは秘密の場所からの帰り、キャルユの居る場所に戻ろうとする途中で丁度ツァームとばったり会った。

二人は何と無く傍の木陰に座り、周りの景色をぼんやりと眺める。


「キャルユ、どうしちゃったのかな…。」

「うん…。そういえば、キャルユが石碑の前から消えていた、って、さっきキャルユに話していたね。それを僕に伝えようとしてたの?ほら、この前の時の…。」

ツァームは先日の、余裕の無い表情を浮かべてアミュラが自分の所に来た時の事を思い出す。


「そう…。キャルユが居るはずなのに居ないから…あたしてっきり……気が動転して…。」

「でも、その後キャルユは戻って来た。そうだね?」

アミュラは頷く。


「キャルユに何があったんだろう…。」

ぽそりと言うアミュラの横顔を見つめてから前に向き直りツァームは考える。


「妖精達がね、言うの。石碑の外に行くなんて、正気の沙汰じゃないって。あたしもそう思った。思ったけれど、キャルユに何か考えがあるんだと思ったし、他に方法がある?何も思いつかないから、やってみる価値はあるんだと思った。…ツァームは?」

「僕の方は…ひびの入った石碑以外からは、”主”からの考えは貰えたよ。その…前に貰った答えと変わらないけど…。ただ、”主”は、僕達の自由意思は尊重する、って。」

「そう…。」

二人は目の前の景色を眺めつつ静かに想いにふける。


「エール、足りているかな…。」

「それも見て行かないとね。」

立ち上がり、そろそろ行こうか、と言って、二人はその場を後にした。








 解けた。

難解なパズルを解いていくかの様に、少しずつ、一歩ずつ、今の作業を進めていっていた。


全てがという訳じゃないが、とある箇所は解読出来たと思われる。


これはきっと…クリスタルを作成するものだ。

本業のゲーム会社で扱うのと似たコードがその箇所にはあって、今回のはそれが大きなヒントになった。

自分の行っている作業は何とも不思議ながらもツピエルの行う作業にも繋がっていた様なのだ。


則陽は自身の解析プログラムの入ったデスクトップコンピュータのある自室と、副業である修正プログラミングの仕事場を土日に度々往復しながら地道に解析を行ってきた。


ツピエルが何処で受け取ったのかは定かでは無いが、クリスタルを作成して渡す段階まで整えたのはこっちだという事になる。



入り口を作る事が仕事…?

では何故今はクリスタルの中に入る事が出来ないのか。それはまた修正が必要な事では無いのか。


則陽は飲み屋街の一角の地下のオフィスで、一人作業をしながら考えていた。

入れなくなって久しいけど、今までの経緯を思うも、入れなくなったクリスタルの修正については、特に作業依頼が届いていない様に見受けられる。


どういう訳だろうか。


則陽はコンピュータの画面を睨む。正確に言えば、睨んでいるのでは無くてものすごく集中しているだけだ。それほどまでに、このプログラム内容の解析に夢中になっていたのだ。


あの日クリスタルの中で友喜の言っていた事はあながち間違いでも無かった。

何故ならクリスタルのプログラムを組んだのは、紛れも無い、この自分だからだ。


他にも作業をする者がちょくちょく訪れるこのオフィスだけど、則陽は自分がプログラムを組んだ事に確信を持っていた。

自分が来る時、退散する時、則陽は他の人のデスクを、後ろを通る度にちらと覗いた。そこで気付いた。


受付で毎回同じ本を受け取って、他の人も同じのを受け取って作業をしているのかと思ったが、そうでは無かった。


何故か、自分の受け取るマニュアル本だけが違う。


ただの改訂版かと始めは思ったが、後ろを通る度に覗き見する他の人のマニュアル本は、自分のよりも随分と簡潔な内容らしかった。

当然、クリスタルを組む様なプログラムについては載っていない様に思えた。


ここまでくると、クリスタルの修正は出来ないものかと考え込んでしまう。

修正が出来たならば、またあの空間へと行けるでは無いか。

何故指示が来ない?

則陽は何か良い方法は無いものかと探っていた。



 ツピエルは則陽の家に割とよく出没していたから、ツピエルに則陽は聞いてみた。


「クリスタルって、何処で受け取ったの?」

「アタシの前の職場よ。」

「前の職場?」

「前の職場。急に呼び出されて持たされたもんだから、アタシ、文句言ってやったのよ。これはアタシの仕事じゃないと思うんですけど、って。そしたらどう返ってきたと思う?」

「どう返ってきたの?」

「これは、アナタが選んだ道で、その場所に関わる問題だから、アナタの仕事として私は見ています、ですって。きぃ~!悔しかったわよっ!!」

ツピエルは地団駄を踏みながら語る。


自分の作ったクリスタルが、次元を巡って渡って来る…。

ぷんすか怒るツピエルを眺めながら、則陽はしばらくの間考え込んでいた。



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