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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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瓜二つ

挿絵(By みてみん) 






 雨見は高校に入っても有津世と同じ学校だった。


有津世と登校するのは極々自然な事で、それは有津世にとっても同じで、生活の一部として、お互いの存在を認め合っていた。

周りが二人は付き合っている、と噂している事も雨見は知らない。


二人共、こちらの世界では吞気なもので、それよりもあちらの世界での出来事には毎回一喜一憂している。

有津世はツァームの記憶が日に日に戻ってきていたので、友喜から貰った水色の豪奢な装飾のノートに思い出した事を度々書き記していた。

夜に出現するぽわぽわの事も記入していた為に、ノートのページには、あちらの世界とこちらの世界の出来事の記述がごちゃごちゃに混じっている。



今日も下校時、教室の外で雨見を待つ。

廊下に佇んだ有津世を、傍を通る女子がちらちらと見ていた。

その視線を横目に、教室から出てきた雨見が颯爽と有津世の側に寄ってきた。


「有津世、お待たせ!」

「うん。」


有津世が答えて、二人は一緒に歩き出す。

周りの女子の視線に気付いていないと思われる有津世に、雨見はくすくすと笑った。


「ん?どうした?」

「ん~ん、何でも無い。…有津世は、これだから。」

雨見は自分だけに聞こえる声で呟く。


「そういう所、ツァームと瓜二つよね。」

「ん?何が?」

「だから、そういう所!」

雨見が可笑しそうに笑いながら、ほら、歩こう、と促す。

周りから見たら、夫婦にしか見えないそれは、行動を起こす前から多くの男子と女子を失恋に追いやっていた。




 林の道で、二人はあーでも無い、こーでも無いと話し合い、ふと話題は友喜へと上る。


「友喜ちゃん、今日も来ないのかな…。」

「どうかな、でも、また参加するって、言ってたからさ。」

「それ、ホント?」

「うん、言ってたよ。」

雨見の顔がぱあっと明るくなり、それを見て有津世が微笑む。


「じゃあ、後でね。」

「うん、」


それぞれの家の玄関へと向かい、雨見はいつもの様に、一旦自分の荷物を置いて着替えてから有津世の家へと向かう。



程無く雨見が有津世の家に着いた。


「お邪魔しまーす。」

「雨見。入って。」


雨見の声に有津世が反応して答えた。


「はい。」

「ありがとう。」

ソファに座った雨見にいつもの様に紅茶のカップを渡して、有津世も隣に座って自分に淹れた分の紅茶をすする。


作戦会議と称し毎回集まる毎に、ゲーム機は独りでに電源が入り、クリスタルの画面が表示されるのは、もはや日常となっていた。

クリスタルの中に入れなくなってしまってはいるが…。


今日もクリスタルにカーソルを合わせAボタンを押したが、クリスタルが淡く白く光るだけなのは同じだった。

入れなくなった始めの頃は焦りに焦ったが、雨見の夢の進み具合を聞いたり、有津世自身のツァームの記憶を取り戻してくる毎に二人して感じたのが、どうやらこちらとは時の流れが違うみたいだという事だ。


生き物によって流れる時間の速さが違う、という話を聞いた事があるだろうか。

ネズミの様に小さな生き物は、象の様な大きな生き物に比べて、時間が何倍も速く流れているのだそうだ。それによって寿命が異なってくるという本当か嘘か分からない例え話なのだけど。


とにかく、流れの速度に関しては、決して均等では無い可能性を、有津世も雨見も見出していた。


「なんかさ、」

「うん、」

「空も、こっちと違うよね。」

「確かにね。…」


あちらの世界の空は、青空の部分と、星空の部分が、とある場所を軸に、捻った様に混じり合っている。

だから、夜と言えばいつでも夜だったし、朝と言えばいつでも朝だった。場所によって見え方が異なるのだ。


知れば知る程こちらの世界とは異なり、時間の流れ方もあちらの世界の方がずっとゆっくりだ。

それに気付いてからは、有津世も雨見もそこまで焦る事も無く、毎日コツコツと作戦会議を続ける事が出来た。



「はい。」

「ありがとう。」

持って来たチョコレートを有津世に手渡して、自分の分の包みを雨見が開ける。

ぱくりと口にしながら、空を見つめて呟いた。


「私達も、それぞれ香り、あったよねえ…。」

…なんで、友喜ちゃんだけ、こっちの世界でもキャルユの香りがするんだろう。


それは、この前、有津世とした話の続きで、香りといい、有津世への態度といい、今こっちにいるのは友喜と言うよりはキャルユなんじゃないかと言う話だった。


「でもさ、俺達あちらの世界でも、キャルユと接してる…。」

「それなんだよね…。」

有津世も雨見も、う~んと唸る。


「なんでさ、私、記憶持ち帰れているんだろう。」

「ん?」

「夢日記をつける程、それを見る訳。」

「えっ、そこから?」


雨見がそもそもの根っこの部分の話をするものだから、有津世は、どうした?唐突に?と雨見に聞く。

雨見は頬杖をつきながら答えた。


「私さ、こっちでは雨見って分かっているけれど、あちらの世界での私は雨見って思っていないでしょう?」

「それは、俺もだよね、俺は、あちらの世界の記憶を思い出しても、ツァームは一向に、俺の事を認識しない…。」

「それだよ!」

「え?」

「友喜ちゃんだけ逆なんじゃない?」

有津世が雨見の次の言葉を待った。


「友喜ちゃんが、あちらの世界で、友喜ちゃんの記憶を保ったままこっちの世界の私達の話をしてくれたでしょ?こっちの世界でも、私達三人が存在している、って。だから、キャルユは、ああ、別の世界では、友喜ちゃんなんだなあ、って思っても、こっちの世界の友喜ちゃんは、そうは思わない。」

「うん、そうだね。」


「で、私が夢日記を書く程までに、夢を覚えられるのは、そんな友喜ちゃんをサポートする為?なのかな…とか思ったりして…。」


雨見が結局、また考え込んでいる。



「有津世さ、」

「ん?」

「ぽわぽわは、今も有津世の部屋に出てくるんだよね。」

「そうだね、丁度寝入るか寝入らないか位の時に、大抵は来るなあ。」

「これさ、あちらの世界でも話したけれど、何でこっちでは有津世に会いに来るんだろうね?」

「うん、そういえば何でだろう…キャルユが確か、そんな話をしてたね。」

「そう、してた。あちらの世界では、私と仲が良いはずなんだけどなあ…。」

「アミュラとじゃなきゃ、意思の疎通が成り立たないみたいだしね。」

「…。」


珍しく雨見が不満の様なものを漏らしている。

アミュラがぽわぽわの事を痛く気に入っている事も、思い出して知ってはいるけれど、こんなにやきもちを焼く程、好きだったのか。


「違う!今、有津世、私がやきもち焼いてるって思ったでしょう?」

「え?分かるの?」

「分かるよ!苦笑してたもん!そうじゃなくって、」


雨見が言うには、アミュラには妖精の様な存在との意思の疎通が図れる能力を持っているからこそ妖精達と接触出来るしぽわぽわとも接している。アミュラが気に入っているからだけど。


こちらの世界で有津世がぽわぽわと接しているという事は、有津世がひょっとしたらアミュラみたいな能力を持っているからなんじゃないか、と、雨見は言いたかった様だ。


「能力…今の所、何も思い当たるものは無いけどなあ。」

頬を軽く掻きながら何と無く自分の両手のひらを見つめた。


「そうかな、気付いていないだけかもよ?」

雨見は尚も食い下がる。


「ん~…。」

「例えばさ、このゲーム画面に何でツピエルがやって来たんだろう。」

「ん?どういう事?」


「まず初めにね、ツピエルがここにクリスタルを設置した時、誰かから言われてしょうがなくやっていたみたいじゃなかった?」

「…確かに、誰かと会話しているみたいだったね。」


「だから、ツピエルがここに来た事自体が、誰かからの指令なんだよ。そして、その信号を発するのが出来たのが、有津世だったりして…。」

「ちょっと待って、俺がクリスタルの設置を指令してるの?」


「ああ、違う、違う。指令するのが別の存在だとしても、その別の存在が感知するための信号を発しているのが有津世、だったりして。」


「…。」

「だってさ、考えてもみてよ。最初にツピエルがやって来た時、私は居なかった。だから私は違う。可能性のあるのは、有津世か友喜ちゃん。現に有津世はぽわぽわと毎晩の様にやり取りをしている。ツピエルが来る、ちょっと前からなんでしょ?」


「うん、まあ、確かにそれはそうだけど…。友喜の可能性もあるんじゃないの?」

「可能性もあるとは思うけど、今の所、有津世である可能性が強いかなって、勘。」

「勘ね…。」

「そう、勘。」


有津世は何と無く、自分の腕や肩から何か出てやしないかと、ソファーから立ち上がって、自分の体をぐるりと見回してしまう。

そんな有津世を見て、雨見は可笑しくなってつい、ふふ、と笑いが漏れた。


「なんだよ!」

「いやあ、素直だなあ、って思って。」

「雨見も素直でしょ?」

「まあ、そうなんだけど。」

紅茶のカップに口を付け、にこっと笑いながら、有津世を横目で見る。

有津世はソファにもう一度座り直してから、自分も紅茶のカップを口にしながら雨見をちらと見る。


ふと二人で壁の時計を眺めた。

まだ友喜は帰って来なかった。








 空には雲が立ち込めている。夜には雨になるだろうか。


友喜となつは、いつものカフェのお気に入りのテラス席で勉強道具を広げていた。

なつはいちごシェイクを脇に置き、友喜は抹茶ラテを脇に置きながら、二人のんびり勉強をしている。


「そっか~、どうだった?」

「綺麗な女の人だったよ。」

「ほっ、良かった、やっぱり女の人だったんだね!」

「言ったじゃない!そりゃそうだよ!…でね、梨乃さんもすっごく悩んでいて…。」

友喜は週末に同じこの場所で会った梨乃との話をなつにする。


人が誰かを愛し、一緒に居るのが自然で、それなのにふと感じる寂しさが、その人の人生を変えてしまう事、変えてしまった事。


「ブログにもあったけどね、すごく悩んでいたんだよ、今も、その人の事を忘れられないって。」

「そうかあ~。」


手元にいちごシェイクを寄せてストローに口を付けながら、なつが相槌を打つ。

友喜はテラス席から、たまに行き来する人の往来を眺めた。

友喜の姿を、なつは優しい眼差しで見る。

右腕に付けたミサンガが、シェイクをかき回す動きにつられて僅かに揺れた。


「友喜はさ、」

「うん?」

「優しいね…。」

「え、何?」

なつの言葉にくすぐったそうに笑う友喜を見て、なつは微笑んだ。


「あ~、良いな~!あたしも恋、したいなあ~!」

「え~、なっちんが?」

「何よ!似合わないって言いたいの?失礼しちゃう!あたしもねえ…、」

テラス席で、二人の笑い声がこだまする。


厚い雲間から、僅かに夕日のオレンジ色が見えた。








 いつもの様に飾り気の無い自室に帰ってきて、ビニール袋から取り出したのは、弁当では無かった。

それはお惣菜で、ご飯は付いていない。

梨乃が、小さな台所で、恐る恐る炊飯器を見る。


「ちゃんと炊けているかな…。」

開けてみると、ご飯特有の甘い香りの湯気がふわっと立ち上がる。


「やった!」

梨乃は思わず、声を出して喜んだ。


自分で行ったのは、ご飯ひとつ炊く事だけだったけれど、それだけでもうワクワクし、いそいそと時を同じくして買ったしゃもじでご飯を盛り付けてみる。ご飯茶碗も、その時買った物だ。

冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を取り出し、マグカップに注ぐ。


「いただきます。」

何となく、口から出た言葉だけど、誰も居ない場で言うのは初めてだった。


ご飯、自分で炊くのは、美味しいなあ…。

梨乃は迷いに迷って、もう一杯だけ、茶碗にお替りを盛った。








 「どうしますか?」

「必要があれば、私から接触します。」

「かしこまりました。」

一礼をした男がその場から去って行った。


一見とても明るく見える部屋の窓は、よく見ると窓型のデザインの大きな照明だ。

話をしていた男が去ると、長身の若い男は自分の席へと戻った。


男はデスクの上のコンピュータ画面をよくよく見つめる。


分割された、カメラからのライブ中継の様だ。

そこには、今目の前にあるのと同じ型のコンピュータの前でノートを取りながら作業をする則陽の姿が映し出されていた。

男は映像をコピーして保存すると、別のプログラムを開いた。


「…ああ、そうだね。それも発生してきているから、それも組む必要がある。」

誰と喋っているのだろうか、男は、傍から見ると独りで喋りつつ、同時にものすごいスピードでコンピュータのキーボードを打ち込んでいた。


「いいや、それはこっちが関知する事では無い。」

キーボードを打つ音が、凄まじい速さで重なる。


「ああ、大丈夫だ。それは、きっちり、こちらでやるつもりだ。」

会話の片が付いた、とでも言う様に、男は口をつぐみ、その後はコンピュータの起動音とキーボードを打つ音が静かな部屋に響いた。


男は意外にラフな格好をしていた。

ざっくりと編み込まれたタートルネックのセーターに、シンプルなジーンズ。

髪は肩よりも少し長く、それを後ろでゆるく留めている。


男は作業をし続ける。

昼間だか夜だか分からない、閉ざされた空間で…。








 …それから私はしばらくの間寝ていた。


そう、寝ていたの。男の子を助け出すミッションの途中で、記憶が定かで無くなって…。

起きたのは、おじいちゃんが言っていたけれど、一週間も経ってからだった。

体は不思議と何処も悪くなくて、私はいつもの朝を起きる様に、その日、起きたんだ。


そしたら、助け出した男の子もきちんと無事におじいちゃんにかくまわれて、おじいちゃんは、その男の子をお風呂に入れて上げて、清潔にもしてくれていた。

よく見ると端正たんせいな顔立ちのその男の子は、歳の頃は僅か7、8歳だろうに、随分と大人びた感じの雰囲気の子だった。


その子は何も言わない。

何も言わないけれど、今までその子が体験してきたであろう壮絶な物語は瞳に宿していた。

キラキラと綺麗な瞳ではあるけれど、そこに一抹の悲しみがあるのだ。

私は起きて始めの一言を男の子に言った。


「良かった、無事だったんだ…。」



その後一か月くらいは、その男の子と一緒に過ごした。

おじいちゃんは、男の子に生活の仕方を教えていたし、男の子は物は言わずとも、ひとつ何かを教わる毎に目を輝かせている様子がノリコからも伺えた。


ノリコは自分のお気に入りの木のある場所を教えたし、男の子は、一緒に行動していく内に、次第に体力も回復していった。

そんな中、ある日突然、おじいちゃんの元に訪問者があった。


一見、普通の服を着た、目立たなそうな男の人が二人。

これまた目立たなそうな小さな自動車で来てうちの神社の前に止めたけれど、その車が止まった途端、只事では無いとノリコは思った。




おじいちゃんと男の人達が話す事には、私がミッションで助け出した男の子は、新たな任務に就く必要があると言う。


私はその人達が、ミッション中に私達を追って来た人達では無いかと始めは疑ったが、おじいちゃんが言うに、その心配は無いとの事だった。

後から聞いた話だけど、おじいちゃんとその人達は、古くから親交があり、今までも何度か会った事があるのだそうだ。


何でも、その人達との間では、おじいちゃんの神社での役割も良く知られていて、それに関わる話もしているらしい。

私は自分がおじいちゃんの元に来てから初めてその人達を目にしたが、なるほどこちらを見る眼差し等も特に威圧感は無く、どうやら大丈夫らしい事を自分なりに理解した。


そうして、男の子は、その人達と共に、車に乗っておじいちゃんと私の元から去る事になった。


「あり…がとう…。」

その日まで口をつぐんでいた男の子だったけれど、車を乗る前に一言、おじいちゃんと私に言葉をくれた。



砂利道を走行しながら遠ざかっていく車を尻目に、私はおじいちゃんに聞いた。


「良かった…の?」

おじいちゃんは私の顔を見て、穏やかな調子で言った。


「うん、良かったんだよ、ノリコ。」

その後、おじいちゃんは私に、ミッションの事で初めて、よくやったね、と褒めてくれたし、私は私で、ミッションが完了したので、新たに自分の使命となるものについて、毎日を自分なりに勉強して過ごしながら探っていた。


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