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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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プログラミング

 則陽は、自分の信念の壁を自ら壊そうとしていた。


今、自分が行っている副業での仕事が、どうやらこの世界とは別の次元で働いていそうな事が分かったからだ。

則陽は、見えない世界とやらについても、賛成派でも否定派でも無かったし、壁と言っても、物質しか認めない、という強固な信念を持っている人からしてみれば、則陽のは薄かったのかも知れない。


ともかく、則陽は自ら調べる事で、どうやら自分が関わっているらしい自分にとっての新しい世界についての認識を持つ事になった。



事は数日前、自室のコンピュータで自身が組んだプログラムを起動させている時に起こった。


則陽の組んだプログラムは簡単に言えば、特定のアルゴリズムを見つけ出すもので、入力したものがどの様に作用するかを推測するために組み立てたものだった。

起動した自身のプログラムを前に、副業のオフィスでこれでもかと書き込んで埋まったノートのページを広げて見ながら画面に次々と入力していった。


それで先程の推論に至る。


則陽にとって現実的に見えてきたのは、「現世界における、数字による魔法の様なプログラミング」だ。


これは後日、則陽が調べ始めて改めて認識するに至った内容の一端だが、これもかみ砕いて言うと、この世界には、現実にある全ての物質は数字で表せて、しかも数字を羅列する事でその物質そのものが発現出来るという発想がある。


組み合わせによっては、あまり好ましく無いもの、破滅を招くもの、そういったものまで実はあるらしい。


突き詰めて調べてみて分かったが、一旦崩れかけた編成にされた物やなんかを好ましい編成に再構築するプログラムを副業のオフィスにて組んでいるらしいのだ。



つまりそれは、現実に深く干渉している。


にわかには信じ難かったのだが、その可能性について小さくも確かな感触を持ち始めてからは今までの偏見を振り払い、その手の本を図書館に行って探して読み漁った。


そしてそういった事象をあると信じるしかこの先の道は現れないと悟ったのだ。

つまり、それを考慮せずに答えを見つけだそうとするも、他のどれもが袋小路に行き当たってしまう事が知れたのだ、少なくとも則陽の中では。


則陽は今まで、コンピュータとそのプログラミングに自分の情熱を注いできた、今でもそれは変わらないが、この様な形で世界が広がるとは夢にも思っていなかった。



則陽は広がった世界に新鮮な驚きを感じつつも、日々の業務に当たった。


先輩の吉葉と共に、ゲームのハッキング状況についてのその後の調べについても、普段のアップデート用のデータを作り上げるのも、則陽にとって新たな心持ちで事に当たらせていた。

自分の居る世界を多角的に見れる様になるという事はこんなにも見識の幅を広められるのかと、しみじみと実感しながら。


例の問い合わせから始まった、吉葉との共同作業で膨大な量のゲームデータ中から鍵と言われる介入された欠片を探しに探すも、怪しい箇所は結局何処にも見つけられなかった。

よって則陽の会社では今の所、その意味の分からないハッキングについて当社はまだ大丈夫そうだ、との結論が出された。


吉葉に問い合わせのメールが返ってきた事についても相談したが、


「…物語としては面白いけれど、これはこっちじゃ相談に乗れない代物だな。」

という一言で済まされた。

そんな吉葉の言葉が頭に残らないでもないが、則陽は問い合わせメールの事がやはり気になっていた。

何故なら、自分がそれに関わっている可能性も否定出来ないからだ。


副業で行っているプログラミング。現実世界にどう作用しているのか今のところ詳細は分からない。だが、作用している可能性については否定出来ない事をつい最近知ったばかりだ。


そこで則陽は、問い合わせメールの返信文章に、こう書き記した。


「柚木 有津世 様


貴重なご意見をありがとうございます。

もし、その話が本当だとするならば、ひとつ、あなたにお願いがあります。

その、ツピエルという小人に、こちら私個人が所有のゲーム機にもクリスタルを設置して貰える様に言っては頂けませんか。

私も出来たら、クリスタルの世界に入って是非とも検証してみたいのです。

これは個人的なお願いなので、会社へは通しません。

ダメ元ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。


奈巣野なすの 則陽のりよう


ひと通り記述し終わり、則陽はメールの送信ボタンを押した。








 有津世は、だんだんとタイミングが分かってきていた。

濃い、心地良い花の香りがする時は要注意だ。

友喜が友喜じゃ無くなる。


自分が見た夢の中でも、同じ花の香りを嗅いだ事を今でははっきりと思い出せる。

あちらの世界でのキャルユの香りだ。


有津世は、日を追う毎に、あちらの世界での自分の事を徐々に思い出しつつあった。


雨見の夢日記のおかげも多分にあると思う。

自分一人では到底思い出せなかったであろう夢の記憶の断片を、雨見からの話を耳にした前後にその多くを獲得しつつあったから。


自分があちらの世界では笛を作り吹いていた事も、笛で奏でる特定の音色はテレポートの役割を持つ事も。

あちらの世界での自分達は自ら発光していて、飛び切り美しい姿でもある事も。



 林の奥の二棟の家。

手前側の、黒色の外壁がより一層黒く見える夜遅い時間帯の家の中では、有津世がもう一方の世界での自分達について想いを巡らせていた。


予め借りて父の部屋から持ち込んだ二つ折りのラップトップコンピュータを自分の机の席で開いた。


通知ランプがチカチカと光っている。

通知に従って該当の箇所を開いてみると、例のゲーム会社の彼からの返信メールだった。メール内容には則陽から意外な提案がなされていたので有津世はモニター画面に向けて目を見張った。


「ツピエルに、頼む…。出来るのかな…。」


次の瞬間、ラップトップコンピュータを手に、思わず自分の部屋を出て、


「おーい、友喜。」

友喜の部屋のドアをノックした。


「なあに?お兄ちゃん。」

カチャっと音がしてドアが開き、友喜が顔を見せて用件を尋ねた。


「友喜、見てよ。ちょっとさ、こんなメールがさ、あのゲーム会社の人から返ってきてさ…。」

「何この返事、すごい!楽しいじゃん!」

友喜がぴょんぴょん跳ねて小躍りする。


「お兄ちゃん、早速やってみようよ!」

「うん、今日は遅いから、明日、雨見も呼んだ時にでも試してみようか。」

「そうだね!雨見ちゃんも呼んで、三人居る時に一緒に試そう!」


「うお~っ!」


興奮して友喜は唸り、有津世は頬を緩めて友喜を見守る。

あれから随分と香りには注意深くなっている有津世だが、今の友喜からはあの花の香りはしていない様だ。


「じゃあね。」

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」

有津世は友喜の部屋から自分の部屋へと引き返して、ドアを閉めた。


部屋の空間に、照明とは別の明るさを感じる。

見回して光源を辿ると、そこには白い毛玉が出現していた。

あちらの世界でのアミュラの付けた名で呼ぶのなら”ぽわぽわ”だ。


ぽわぽわは、有津世を観察している様だった。

何を発する訳でも無いけれど、来ると常に自分の周りに浮かんだ状態になるぽわぽわを見る度にそう思った。


「なあ、ぽわぽわ…。こっちの世界もあちらの世界も、君は行き来出来ているのって、どうしてなんだろう…。」


独り言を呟く様に、ぽわぽわに尋ねたけれど。

当然、ぽわぽわからの返事は返ってこなかった。


俺があちらの世界での記憶をこっちで思い出し始められたのは、ぽわぽわに因る所も大きいのかも知れないな。

あちらの世界ではアミュラと仲の良いぽわぽわが、こちらの世界では有津世に懐いているのがどうしてなのかとかは気になったけれど。


部屋の空間を照らしながら揺れる、心地良いぽわぽわの光を眺めながら、有津世の瞼は次第に重くなっていった。




 翌朝の登校時。

有津世は、昨夜貰ったメールの話を雨見に聞かせていた。

友喜はそわそわしながら隣で有津世と雨見のやり取りを見ている。


「ふうん、じゃあ何?そのゲーム会社の人のゲーム機からも、クリスタルの世界に飛べるように設定して下さいって、ツピエルにお願いしてみるの?」

「うん、それをやってみようかと思うんだ。」

「面白そうじゃない?面白そうじゃない?」

「うん、面白そう!」

友喜の期待通り、雨見は目を輝かせて有津世の話に反応した。

有津世も二人の反応を見て嬉しそうだ。

かくして、三人は林に賑やかな声を響かせながら、学校へと向かって行った。




放課後、家に帰って雨見が今日も有津世達の家に来た。

三人の座ったソファ前の座卓には、今日も人数分の紅茶の入ったマグカップとお菓子が置かれていた。


有津世がゲーム機を起動して、テレビ画面に映し出されたゲームのスタート画面に三人は愕然とした。


クリスタルが設置される前から、というか、ツピエルが登場したのと同時に画面上に現れたツピエルの家が、今は跡形も無く消えていたからだ。


クリスタルだけは画面上に残っており、ツピエルが設置したそのままの位置に今も縦に浮かんで、ゆっくりと回転をしている。

肝心のツピエルも家と一緒に消えてしまったのか、画面の何処にも見当たらない。


「え、これじゃ頼みようが…。」

「無いねえ。」

「なんだあ、面白そうだったのに!」

ゲームのコントローラーを握った有津世は、残念そうに口々に漏らす二人と顔を見合わせた。


「どうする?」

「とにかく、私達が進んでいくにはこのクリスタルに入って何かヒントを探っていくしか無いんじゃないかな。」

「うん!」

「よし、じゃあ行こうか!今回の目標の場所は…、って言っても、希望の通りの場所に辿り着けるかは分からないけどね。」

「分からないけれど、う~ん…、取り敢えず、成る様に成れっ!」


雨見が叫んだ拍子に有津世がAボタンを押して、画面の中のクリスタルが白い光で輝き、その光は次第に、画面の外にまで漏れ出し部屋全体をも包み込む。

三人は心身のすみずみにまで光が降り注がれるのを感じ、心地良さに浸った。






 ワンツー、ワンツー。


トネルゴの指揮する、世界を編む部屋だ。

有津世は、またもや、この空間と繋がった。


「ああ、あなたね。」

前回と同じく姿勢を保って顔だけを有津世の方へと向けながら、トネルゴは挨拶代わりの一言を放った。


「トネルゴ、こんにちは。」

「あら、名前を覚えてくれていたのね。」

「うん、そりゃあね。…それでね、トネルゴ、ツピエルが消えちゃったんだ。」

「ツピエルが?あら、まあ。」

有津世はトネルゴに頷きながら言う。


「そうなんだよ、トネルゴ。ツピエルに頼み事をしようとしたのに、丁度そのタイミングでゲーム画面から家ごと消えてしまったんだ。」


ワンツー、ワンツー。


有津世の言葉を聞きながらも、トネルゴより一回り小さいツピエルそっくりの小人達への指揮は決して怠らない。

なかなかのプロ意識だ。


「使命として、ただ行っているだけよ。」

有津世の考えを読んだかの様に言葉を返し、トネルゴは続けた。


「ツピエルの事は、そうね、心配しなくても良いんじゃないかしら。あの子は元気よ。」

「そうじゃなくって…。」

「分かっているわ。ただ、あなた達の考える様な伝達形態だけがその方法だなんて決めつけるのは、とっても狭量な考えだわ。」

「トネルゴ、それはどういう事?」

「つまり、心配しなくても大丈夫って事だわ。」

「ツピエルが、戻ってくるって事?」

言葉を受けて、やはり首だけ回して有津世の顔をじっと見つめると、トネルゴは有津世から視線を外した。


ワンツー、ワンツー、


再び指揮を執り出す。


「まあ、心配しない事ね。」

言った前後にトネルゴが何か操作をしたのか、有津世の意識は急にまどろみ始めた。


「あ、待って…!ここの世界に入った訳、それは別の世界を助けるためで…。」

意識が剝離しそうな中でも、何とか言葉を絞り出したが、伝えたい事柄を伝えきるまでは持たなかった。

ぐにゃぐにゃとトネルゴの姿が歪む。

有津世の意識はトネルゴ達の居る空間から追い出された。




溶けたゼリーが再度固まるかの様に、再編成される感覚を伴って有津世の意識は自宅リビングに戻った。


「あ、お兄ちゃん!」

「有津世!どうだった?」

気付いたら雨見と友喜の二人が目の前の有津世にずいと寄って一挙に尋ねてきたので、意識が戻ったばかりの有津世は、二人に言葉を返すまでに数秒の間を要した。



「え、どうって…二人は?」

気を取り直した有津世が、まずは二人の話を聞こうと尋ねたが二人共やんわりと首を振った。


「何も。私達今回は何も起こらなかったの。」

「えっ…そんな事もあるんだ…。」


ね~、と口々に言い、雨見と友喜は頷き合っている。

トネルゴの指揮する、世界を編む部屋に偶然今回も行ったけれど、ヒントみたいなものは何一つ貰えなかったと有津世は二人に話した。


「そんな…。」

「じゃあ、友喜達は今回何処にも飛んで行かなかったし、お兄ちゃんは不思議な場所に入り込めはしたけどこれといった収穫は無しかあ~。な~んだかな~。」

友喜が、ぶすっとして言う。


「まあ、何が起こるか分からないから、今回の様な事もあるんだ、って、一つ分かったね。次は行けると良いんだけど…。」

「そうだね。ちょっと思ったんだけどさ…。」

思案をしていた有津世が、雨見に問い掛ける。


「俺達、こんなに吞気で良いのかな。こうしている間にも、あちらの世界ではツァーム達が立ち往生しているんでしょ?なのに、進捗が今日みたいに何も無いんじゃ、マズいんじゃないかな。」


雨見が、ぽかんとした表情で有津世の言葉を聞いていた。

間接的に聞いた不思議な世界の話に、誰でもこうして真摯に向き合ってくれるものだろうか。

ううん、きっと違う。

有津世だから、雨見の話に真剣に向き合ってくれたんだ。


雨見は有津世の顔を、ただただ眺めていた。

毎晩見ている夢の事を、初めは、誰にも話すつもりじゃ無かったから。

ひょんな事から、有津世に話して、続けて友喜に不思議な出来事が起こって、旋風みたいに自分達の世界の景色は一新された。


でもそれは雨見から見えた景色で、有津世や友喜からは果たして同じ様に見えているかは分からない。

でも一緒に解決策を探して、喜怒哀楽を、共にして…。

でも、それだからって、こんな風にはきっと、ならない。

有津世だから、有津世だから、こうして…ううん、有津世は、やっぱりきっと、ツァームなんだよ…。


そうだったら良いなあという気持ちで、有津世はツァームで、友喜はキャルユかも知れないと、伝えた。

それでも、友喜から漂ってくるキャルユの花の香り以外、何ひとつ確証が無い。


妄言と思われても仕方が無い、不確かな情報なのに。

自分にとっては勿論違うけれど。

少なくとも他の二人にとっては。


有津世の放ったひと言は雨見の胸の奥に大きな風を巻き起こした。

ものすごいざわめきだ。


「ん?どうした、雨見?」


顔を覗き込んで訪ねてきた有津世に、雨見は武者震いをしているかの如く、声を震わせて答えた。


「ん~ん、なんでも無い、平気。」


返事をした後に清々しいくらいに突き抜けた笑顔を見せた雨見の姿に、有津世は目を奪われていた。






 その夜、こちらがまだメールを返信していないのに則陽からのメールがまた届いた。



「柚木 有津世 様


ありがとうございます。

不思議な事もあるものですね!

おかげさまで、こちらのゲーム機の画面にも小人が出現し、クリスタルを置いて行ってくれました!検証はこれからですが、折を見て行いたいと思います。

これは全くの私個人としての動きですが、興味尽きないため。

楽しみです。


奈巣野 則陽」



有津世は目を見張った。


ツピエルが来ただって?


すかさず友喜の部屋にラップトップコンピュータを持ち運び、部屋のドアの所でモニター画面に映るメールを見せて話をした。友喜は、んん?、と首を捻って唸る。

有津世も友喜と一緒に首を捻った。

一体全体、どうなっているのか。


「ツピエルは何処で聞き耳立てていたんだろうねえ?」

友喜がいぶかしむ。


「…うん。何だろ?」


ツピエルがゲームのクリスタル画面からいつの間にやら消えてしまっていた事にこちらは意気消沈していたというのに、頼もうと思っていた事柄を既に完了させていたのが依頼主本人からのお礼メールで知るというこの状況。


何なのか。

ちょっと納得いかない。


「けれど、うん、まあ…、よしっ!」

言いながら有津世は友喜の頭をポンポン撫でた。


「なあに?お兄ちゃん。」

有津世は内心が落ち着かない時、妹の友喜の頭を撫でて何とか落ち着かせようとする向きがある。


「まあ、良いや!解決、解決!」

「…ひょっとしてお兄ちゃん、イラついているでしょ?」

「ん~?そんな事無いぞ~?」

「明らかに作り笑いだし。」

妹に内心を容易に見破られ、ちょっと面白くない有津世は、ブツクサ言いながら、じゃっ!と言って友喜におやすみの挨拶をして友喜の部屋の前から自分の部屋に帰って行った。








 「…ふふ。」

キャルユが笑いを漏らした。


緑の星の、立派な樹々を近くに、様々な草花が繁茂している中、キャルユとアミュラ、そしてツァームの三人は、それぞれが思い思いの場所に腰を下ろして、ゆったりと時を過ごして居た。


キャルユの様子を見て、ツァームとアミュラが楽しそうにキャルユを眺める。

割かし近い位置に居たツァームが近寄って来て、キャルユの側に腰掛け直した。


「キャルユ、どうしたんだい?」

「向こうの星での事を少し思い出して。ちょっと可笑しかったの。」

「何?知りたいな。」

ツァームが横に寄り添って更に尋ねてきた瞬間、キャルユは頬を真っ赤に上気させた。


「…。」


ツァームは気付いていなかったが、真正面からキャルユを見ていたアミュラにとっては、もう何度か目にした光景だった。

アミュラはなるべく自然な笑顔を浮かべ、二人の様子を見守った。

頬を赤く染めたキャルユが、答えにくそうに、か細い声音でツァームに答える。


「…うん、大した事無いのよ。ただ、私達って、向こうの星でもいつも一緒で、時々ね、そう、時々、冗談を言い合うのよ。」


「へえ…。こちらの星と同じだね。」

「そう、同じだわ…。」

話を簡潔に済ませ、キャルユは自分の顔を手でそれと無く仰いでいた。


「あ、あたし、妖精達に会ってくるね。二人とも、ゆっくりしてて!」

座って居た岩場からぴょんと飛び跳ねて立ち上がったアミュラは、そう言い残してその場を後にした。




 ツァームやキャルユとは違う方法でアミュラは妖精と交信する事が出来る。アミュラだけが持つ特殊能力だ。

アミュラは森の奥に赴き、古い切り株のある場所に辿り着くと足を止め、切り株を中心に辺りに特殊な磁界をかけて、切り株の上に腰掛けた。


大樹ばかりのこの地でありながら、この切り株だけはとても小さい。

そのサイズがちょうど良いと気に入って、ここをアミュラだけの秘密の場所にしている。

キャルユやツァームにも今まで教えた事が無かった。


磁界の中に居れば自分の姿は外からは見えないし、中で発した音だって聞こえないのだ。

磁界は、きらきらとした光の粒で出来ていて、アミュラの頭上から、ヴェールみたいに空間ごとを覆っている。


この場所に来ると、まず行うのが魔法で花冠を編む事だ。


磁界の外から色とりどりの淡い光が寄って来て、磁界の膜をくぐる。

光は小さな体に羽を携えた妖精の姿へと変身して、次々とアミュラの周りに集まってきた。



「こんにちは、ええ、こんにちは…。」

次から次へと現れる妖精達に挨拶をして、自分の話したかった話題を妖精達相手にお喋りし始めた。


「そうなの。あの子、すごくツァームの事好きだから…。」


その後どうすれば進展するか、とか、あたしはそういう時、どうすれば良いと思う?とか、とにかく今思っている事を、花冠を次々と編み上げていくと同時に、淡々と話して聞かせた。


『あたしは、そのままにしか、ならないと思うな。』

「どうして?」

『だって、あなた達は、三人でひとつだもの。分割出来やしないし、どっちか一方に、なんて事も有り得ないからよ。』

「そうなの?」

『そうよ。別の星での彼女自身の感情を貰い受けて一時的にそうなっているだけじゃないかしら。』


「そうかな、だって随分前からなんだよ。…う~ん…。」

腑に落ちないアミュラは、妖精達に疑問を返した。


「じゃあさ、なんであたし達は、いつの間にかこの地に居るの?キャルユのいう、向こうの星の、”親”は、ここには見当たらないじゃない。」

『ちょっと話題が逸れてきたわね。』

「逸れてないよ!だって、キャルユに教えてもらったもん、その、存在するには、ごにょごにょ…。」


『それはずっと違う次元での話ね。ここでは存在も別の方法で育まれているの。あなたはずっと知っていたかと思ってたけど…知らなかった?』

「知らないわよ!あたしはね、キャルユの気持ち、大切にしたいって思って…。」

『話が逆戻りね。』

「何で?戻ってなんかないもの!」


妖精達と、とことん話をするも堂々巡りだった。

何故なら存在の元の欠片についての真実が、アミュラ達の星とキャルユが知らせてくれた向こうの星とでは見解が異なるからだ。


向こうの星からの感情にキャルユは浸っていて今あの様になっているのか、そしてそれが一時的なものかはアミュラには皆目見当が付かなかったが、胸の内に確かにあるのはツァームを想うキャルユの想いを大切に扱いたいという気持ちだった。


『アミュラ、あなたはとても純粋だわ。』

『本当、一緒に妖精になって貰いたいくらい。』

望む様な返しを妖精達がしないので、アミュラは次第に腹を立て始めた。


「皆、誤魔化しちゃって。あたしが言いたいのはそういう事じゃないのに…。」

言ったアミュラがそっぽを向く。


妖精達はアミュラに不機嫌な態度を取られても尚、彼女の美しい髪をそっと撫で、周りをふんわりと飛んでいた。


編み上がった何個もの花冠がアミュラの座る切り株の側に積み上げられていた。








 夜の飲み屋街の一角。

則陽は一人、地下にある副業オフィスに寄っていた。

いつもは三、四人は居るこの時間帯に他の人が居ないのは珍しい。

薄暗い空間の中で、則陽は一人、受付を済ませて奥の作業スペースへと足を運んだ。


お気に入りの席を確保し、その夜も持参のノートを開く。

自身のプログラムで、明らかに見え始めた、作業の根幹。

このコンピュータを前にする事で、その想いは、より一層増した。


ここのオフィスに来る、自分みたいな立場の人達の中で、気付いている人は他に居るのだろうか。

居たならば、何を想っているだろうか。

それとも、厚かましい仮定ながらも、自分だけが気付いているのだろうか。

受付以外では人と接する必要が生まれないこのオフィスで、則陽は自らに向けて疑問を投げかけた。




一通りの作業を軽く済ませた後、則陽は急いで家へと帰った。


自分の作るゲームはひと通りやるのだが、最近は同じゲームのアップデートのデータ作成が続いていたので、新しくゲームを起動させる事も特に思いつかずに自宅のゲーム機はしばらく放っておいていた。



突拍子も無い出来事を綴ったメールにダメ元で自ら乗っかる様なお願い。


自分の軽々しさにも呆れるが、それよりも強く感じた想いとしては、そういう出来事も在った方が世界は楽しいのではないか、という事だ。

副業の正体を見抜き始めてから則陽の心の中には、そんな損得勘定の無い想いが芽生え、ムクムクと大きくなってきていて。

メールをくれた彼からの申し出通りに、同じ様な出来事が自分にも起こったら愉快だと思った。

起動して、やっぱり何も起こらなかったか、で終わるのだろうと、全く期待せずの前提で行うのは必要な心構えだろうとは思ったが。


さて、則陽はそんなこんなでごくりと唾を飲み込みながらゲーム機を起動した。

小さなテレビ画面に映り込んだ映像は、いつもの起動画面と違った。


青色のドット絵を背景に何故かオッサンの様な小人のキャラクターが出現していて、画面上で作業をしているみたいに見えた。

のらりくらりと揺らめいて見えたのは、彼の背丈と同じくらいのクリスタルを背負って、うんしょ、うんしょ、と引きずりながら持ち歩いているからであり、重さに何とか耐えつつ運んでいるからだった。


則陽は驚きのあまり、一時停止のボタンでも押したかの様に固まって声も出ずに、その様子をただただ見守った。


運びたい場所まで運べたのか、背負っていたクリスタルを猛然と頭の上に振りかざし、よいしょ~っ!との掛け声と共に地面にドーンと突き刺した。

クリスタルはその場所に固定され僅かに浮いた状態でゆっくりと回転を始める。


小人の風貌は、よく見るとオッサンみたいだ。

小人という名にこれほど似つかわしくないものがあろうか。


画面の中の小人は、ちらりと則陽の方を見て、


「じゃっ!」

手をぶんぶん振ると、そのまま何処かへ消えて行った。


「…。」



則陽は画面を眺めた。

その画面を、ただただ眺め続けた。


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