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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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天界での遊び

挿絵(By みてみん)










 見えたんだ。光がね。


自分達も光だったけれど、見えてきた光はもっと強かった。もっと大きかった。


きっと僕達は光に抱かれて、溶け込むんだ。




大きな光の下に着いたけれど、


どうだろう。


溶け込むどころか、沢山の自分達みたいな光が押し合いへし合いの大賑わいじゃないか。


僕達は楽しくなって、互いに笑った。


僕達は内緒話をした。


そしてまた笑った。笑った。ただひたすらに。


互いに抱きしめ合って、互いの笑顔に、更なる笑顔が生まれて。


笑顔からは、新たなる光が産出された。








 街路樹の通り沿いにある、小ぶりな6階建てのビルの4階。


則陽と功が、仕事場入り口手前の観葉植物ノーリの前でパイプ椅子をそれぞれ広げて座り、話を続けていた。


「あ、それで、功、今朝なんですけど…。」


則陽が話題を移そうとした時に、仕事場入り口から一人の同僚がひょっこり顔を出した。


「あ~、やっぱり。ここに居たよ~。いい加減二人共戻って来てくれ。奈巣野も自分のプロジェクトの目途がついたからって気が緩み過ぎだぞ。いつまでそこに居るんだよ。」

「いや、仕事についての相談をしていたもので。」

則陽が冷静にスパッと言う。


「あ、そう?…それで、その相談は済んだの?」

途端に一歩引いた物言いになり、功がすかさず答える。


「済みました。…もう大丈夫だよな?」

「はい、おかげさまで。相談に乗っていただき、ありがとうございました。」


狐につままれたみたいな顔になって、まあ良いか、と同僚の男性社員は頷き顔で二人を見る。先だってパイプ椅子を片付けて仕事場へと戻る則陽の動きを目で追ってから彼は仕事場へと入って行った。


功は大きく息を吐いてから立ち上がり、パイプ椅子を畳み壁に寄り掛からせた状態に戻すと、二人よりもゆっくりした調子で仕事場に戻って行った。








 学校の休み時間になって、なつは強制的に友喜をいつもの廊下の場所に連れて行く。


友喜は吞気な表情でなつを見て、鼻歌なんかを歌っている。


開けてある廊下の窓の外を眺めながら、ちらっと友喜を見て、なつが聞いた。


「友喜。それ、何の歌?」

「星の歌。作って貰ったの。」

「誰から?」

「お姉ちゃんから。」


お姉ちゃん?周りにお姉ちゃんって呼べる存在って誰か居たっけ?

なつが首を傾げる。


「ああ、雨見ちゃん?」

「ううん。違うよ。」

言いながら、友喜は自身の事を指で指す。


「…なるほど。」

友喜自身か、もしくは友喜の別の人格が作ったと彼女は言いたいのだろうと、なつは納得する。


「ねえ、友喜さあ…。」

「うん。」

窓に腕を寄り掛からせながらなつが横目で友喜を見つつ言った。


「うちのお兄ちゃんの事、覚えて無いんでしょ?」

「?覚えてるよ。なっちんのお兄ちゃん。」

「え~とね、そうじゃ無くて、今回の入れ替わりになる前の、うちのお兄ちゃんとの記憶。」

「会って無かった。」

「会ってたよ!」


記憶が無いのを、その物事さえ無かった事にするだなんて、流石に発言が許せずになつは声を荒げる。


「ああ、友喜、ごめんね。でもさ、何にも覚えていないって、残酷だと思っちゃって。」


なつの大声に、目がきらりと潤んだ友喜を見て慌ててなつが詫びる。

一方の友喜は、なつに、うんうんと頷いた。


「残酷?」

「うん。可哀想って事。でもさ、最終的には、うちのお兄ちゃんの事、気に入ってくれたんでしょ?」

「気に入る?…そう、好き!」

なつの言葉にピンポイントで反応して、とても嬉しそうに答えてきた。


友喜を見て、なつが真顔に戻って窓の外へと視線を移す。



好き…か。

兄が言った様に友喜は兄に懐いたみたいだ。


純粋無垢な彼女の中身そのままに表現をする今の友喜は、見ていると面白いけれどたまに切なく感じて。


自分がそうだから、兄はもっとなんだろうな、なんて思う。


最悪このままだったりしても、友喜がこう言ってくれている。なら、望みはまだあるのかな。

心配してもどうしようも無い現状に、なつは、はあっと息をついた。








 話をしていた途中で同僚に指摘され尻切れになっていた話題は、その後の作業で忙しなく、続きを話しにデスクの席を空ける事は叶わなかった。


就業時間が過ぎて功が則陽に話し掛ける。


「今日ももうちょっと残るのか?」

「はい。もうちょっとやっていきます。」

「そうか。さっきさ、お前、何か言う事あっただろ?」

「はい。続きは明日以降か…今週の土曜日にでも。あちらのオフィス、今週も行きますか?」


副業のオフィス帰りの喫茶店で話をした方が時間も取れるし、と則陽は話す。


「行くつもり。…ただ、また友喜ちゃんがついてくるとなると…。」


どこかに行っちまいそうで心配であまり作業時間取れないんだよな、と功が答える。


「あ、じゃあ梨乃に来て貰いましょうか?」

則陽が提案する。


「待っている間、梨乃に相手していて貰えば、何処かに行ってしまうのを予め防げますし、そしたらちょっとは長く作業が出来るんじゃないですか?」

「そうして貰えると助かるけれど…、梨乃さんは大丈夫なのか?」

「聞いてみます。梨乃もオッケーで、友喜ちゃんもオッケーだったら土曜日そうしましょう。」


功が頷いて、じゃ、お先に、と言って仕事場を後にする。


功が仕事場の空間から出て行くのを目で追ってから、則陽はデスク上のコンピュータ画面に視線を戻した。








 きっと自分は歳の割には子供っぽいんだと思う。

時々、むくむくと持ち上がってきてしまう勝気さと、外見に似合わないとさえ言われた事のあるとげのある物言いは既に自分で分かっていたから、そんな自分の側面が出てきた時には遠慮なく指摘や注意をしてくれと周りに伝えてあったし、丁寧語を真似て使う事で自分を制御してもいた。


なのに…、彼女の前ではそれが効かなかった。




 「鈴奈様を、デートにお誘いしたいのですが、杉様、許可して頂けますでしょうか?」


この神社に足を運ぶのも、もう何回目かになるこの日に、アミは彼女に好意を持っている事をはっきりと杉に伝えた。


「そして出来れば、彼女とのお付き合いの許可も頂きたいと思っています。杉様、お許し頂けますでしょうか。」


お願いと言いながら、アミの言葉からは確かに圧を感じられた。


おそらく、許可が貰えなくても突っ走りそうな勢いだ。


アミがこの手の性格である事は、丁度よく似た気性の娘と暮らしていた事から杉は直感で分かった。


そんなアミの覚悟が垣間見えるお願いと言う名の脅迫じみた空気漂う発言に、杉はアミの様子をじっくりと見据えた上で快く承諾した。


「鈴奈も望んでいる様ですし、アミくん、あなたも本気なのが伺えますから、こちらが反対する理由は何も無いでしょう。」

杉の言葉に、鈴奈とアミが顔を見合わせて二人は笑顔になった。


「ありがとうございます!」

両膝に載せていた手の握り拳の力がふっと緩んだアミの様子を見て、杉は穏やかな調子で会話を続ける。


「アミくん。常日頃からのあなたの真剣さは良く分かります。ただ時々、深呼吸をするのを思い出して下さいね。」

「深呼吸…はい。日々、心がけます。」



自分が実は喧嘩っ早いのがばれているのだろうか。

杉の承諾返事にはアミが自身を省みざるを得ない言葉が添えられた。





 次々と流れていく景色を見ながら、開け放った窓から入って来る風を気持ち良さそうに顔に受ける。

隣の助手席に座った鈴奈が、アミの運転する車に乗って、時折こちらに、にこりと笑い掛けてくれた。


「私ね、男の人の車に乗せてもらうの初めてなの。アミは?誰か女の人を隣に乗せた事ある?」

「無いですよ。鈴奈様をお連れする今回が、初めてです。」

「本当に?」

「本当ですって。」


じろじろと見る鈴奈の視線を受けて、からかわないで下さい、とアミが一蹴する。



「アミって本当はすごく強いでしょう?」

「はい?」


何の話ですかと言わんばかりに、鈴奈を訝し気に見る。


「だってね、たまに見せる表情が、すっごく男らしいもの。今だってそう見えたから。」

「…それは、褒め言葉と取って良いのですか。それとも…?」


鈴奈はにっこり笑って言う。


「褒めてるのと、怖いなって思うのと、両方。」

「…怖い、ですか?」

「う~ん、だって無理してるでしょ?その言葉遣いとか、色々。なんかね、自分を抑え込んでいるというか…。」

「何も、抑え込んでなんか無いですよ。僕は元々丁寧なんです。だから丁寧語が自分に馴染んでいるんです。」

「嘘。」

「嘘じゃ無いですって!」


調子が狂う。


まるで見透かした様に、素の自分がばれている気がして。

彼女は毎回、僕の感情を大きく揺り動かした。




海辺へと着いて、僕は海岸へと下りられる斜面がある場所を選んで傍の路上脇に車を停めた。



車のキーをジャケットのポケットに入れて、海岸へと下りられるコンクリート地の足場を自分が先になり慎重に足を運んで砂浜へと着いた。



たまに吹く潮風と、日差しが気持ちの良い日だった。



砂浜を二人で歩いて、波打ち際で海に手を触れて。

小さなカニとか貝とかの生き物を見つけて、それから僕達は波打ち際から少し離れた砂浜に腰を下ろした。


彼女に歳の事を聞かれて、よくある事だけど彼女もか、と思ったし、童顔だから仕方が無い、とため息をついた。


他にも、ため息の出る話題を続け様に話して、中でも一番大きなため息となったのは、彼女からプロポーズまがいの言葉を受け取った事だ。


事もあろうに、彼女は父親を喜ばせたいがためにその提案を自分にしてくる。

まるで自分がその道具なだけの立ち位置にさせられてはいないかとの疑念が湧いてくると共に、彼女が何処まで本気で発言しているのかが気になった。


様と付けて彼女の名を呼びながらも内心では自分が組み敷かれる立場になるのは冗談じゃないとも思っていて。

きっと自分には虚栄心みたいなものが渦巻いているとアミは思った。


言われっぱなしは嫌いで。

彼女の方からばかり押してくる状況を、逆転させてやりたいとも思った。

つまりは、彼女が行動するよりも自分が早く行動すれば良い訳で。


手を伸ばして、無垢な唇に、迷わず自分の唇を触れさせた。

でもこれは今日2度目のくちづけで。

先程のはどちらからともなくだったし、いささかインパクトに欠けると自分でも思った。



「鈴奈様。先程の発言はプロポーズとも取れてしまいますが…。僕が真に受けて、はい、そうしましょう、とでも言ったら一体どうするつもりなんですか?」


鈴奈の目を至近距離で見つめながら、僕は彼女が焦れば良いと思いながら意地悪な質問を投げ掛けた。


「本気だよ?」

「はい?」

思わず大きな声が自分の口から漏れ出る。


「本気だよ。…冗談にでも聞こえたの?」

「…。」



僕は唖然とする。


また彼女に一本取られた。

いや、これは一本どころでは無くて…。


「結婚しよう。私達。」

「…鈴奈様……。」


「返事は?」


「…はい、鈴奈様。喜んで。」



悔しい。僕の負けだ。

ここまで全部、彼女に先導された。

彼女はいつだってイラつくまでに直接的で飛躍的で…そして、とんでもなく魅力的だった。








 流した涙は遠い昔に忘れてきた記憶の欠片から産出されたもので、今はもう涙は出ていない。

写真を写本とノートを広げた片隅に置いてあって、写本の合間に眺める。

懐かしさと愛おしさ、そして感謝の想いを胸に感じて。



祖父の杉が交信に使っていた不可思議な通信機器には種類があるそうで、基本、常に状態を傍受するタイプと、必要な時もしくは緊急時のみに受信と発信の出来るものの二つのタイプがあるとの事だ。


子供の頃に読んだ絵本の中に、この環境には無い機械がたまに出てくるのを見て想像して楽しんだ。


父母との車でのドライブの記憶は薄っすらと残っているし、ソウイチが車で訪問したりしているのもこの目で見ている。

だから今の自分の周辺にはたまたまそういった物は無いけれど他の場所にはあるんだという認識がノリコにはあった。


ただ今回、目にしたのは随分と特別な物らしい事は杉からの説明で理解した。

世には出回っていない代物であると。


杉が今まで自分の目の前で使ってこなかった事を思うと、滅多に使わない物なんだなと感じたし、そういえばソウイチがこの神社から去る事になったのは杉が連絡したからなのかと初めて気が付いた。



欠片を見せられて、ノリコ、あなたがこれを持っておきますかと杉に聞かれたが、ソウイチと話が出来ないのなら意味が無い。

それならば、ソウイチからのSOSを感じ取った時に別次元の空間で互いに出会う方が良いとノリコは思った。


欠片を持っているからそれが出来なくなるどうこうとかでも無い事は分かってはいるけれどノリコには要らなかった。


神社の社内で一番広い空間の端から縁側の外の緑を眺めて、今日も良い日差しが木々に当たっているのを目にした。


ノリコは筆記具をノートの上に置いて立ち上がり、縁側の棚から靴を取り出して縁側下に置いてある踏み台用の石の上で靴を履くと、山の斜面にひとり下りて行った。








 退社後に電車に乗っている時に一瞬頭をよぎったのは、もしも彼女の態度が一週間前に巻き戻しされていたら…って事だ。


一週間するかしないか毎に、どんどんと変わる彼女の状況に、未だ慣れはしない。


それでも、今の彼女の人格と新しく関係性を築けたらと、そこは前向きな所存だ。

土曜日だけで午前中と午後とで様変わりをした彼女の反応を思い返し、自分の胸辺りに視線をやる。


胸の奥の変調はあの後、起きてはいないし、胸の辺りを見たって見えるのは自分を取り囲むオーラくらいだ。


今の友喜には見える異次元空間への通り道とやらは当然自分には見えていなくて。

今、もし通り道が無くなっていたとしたら彼女の反応は果たしてどうなるのだろうかと、うじうじと考え始めていて。


ずっとあるものなのかどうかも分からない。

彼女の反応から見た所、土曜日に彼女が指摘をした時点から通り道は発生、存在した事は確かだ。

つまりはそれまでは無かったという事だから、いつ無くなってもおかしくは無いのではというのもまた考えられた。


もしもまた彼女が素っ気無く戻って自分に見向きもしなくなったらどうしようなどと、短い乗車時間の中でよくもまああれこれ悩み込めるものだと自分でも呆れる程に想いを巡らせた。


それだけ、ちょっと間が空くだけで彼女との関係が変わってしまいそうで心臓の音がいとも簡単に早鐘を打ってしまう自分に思う。


小心が過ぎる。

いやホント、自分でも分かってはいるけれど。


一瞬の記憶が、ここまで遠く感じる事が今まであっただろうか。

功はふと顔を上げて電車ドアのガラス窓部分からの流れていく景色を眺めながら目を僅かに見開いた。






 最寄り駅に着いて、なつと友喜が居るカフェに向かった。


ちらと見えた斜面の上のテラス席にはなつと友喜、二人がきちんと居て、思わずドキッとしてしまう。


もしかしたら彼女は今日は寄ってくれないかもと考えたりもしたから。


これは、あれだ。

片思いの頃に戻ったみたいだ。


事実戻っているのだが、状況が特殊なだけに、そうは言い切りたくはない自分が居た。



テラス席に通じる階段を上がって二人の席の傍に近寄る。



「あ、お兄ちゃん。」


「あ、なっちんのお兄ちゃん。」


まるでなつの復唱かと思うくらいに言葉を重ねて友喜は言った。



その一場面で、功の頬が緩む。

なんだ、大丈夫だ。


「おまたせ。こんにちは。友喜ちゃん。」

明るい顔をして、なつと共に迎えてくれた友喜の顔を見ると、隠し切れない笑みが功から湧いてくる。


なつは兄、功の様子を見て手元のシェークをストローでくるくるとかき混ぜながら、


「単純だなあ。」

肩をすくめてぼそりと言った。


「ん?何だ?なつ、何か言ったか?」

「何でも無~い。」


片方の口の端を上げてなつが功に返した。








 学校からの帰り道、公共交通機関を乗り継いで自宅最寄り駅まで辿り着いた雨見と有津世は自分達の家へと続く林の道を歩いていた。


登校時のバスの中で理由を聞いたけれど、今朝の勘違いは目覚まし時計の電池切れが原因かも知れないとの事だ。


有津世の今朝の慌て様はある意味貴重だったと雨見は思う。

思い出してくすくすと笑う。


「雨見。何か面白い事あったの?」

有津世が雨見を見て聞いてくる。


「今朝の有津世。随分と焦っていたなと思って。」

「そんなに可笑しかった?全然余裕無かったから、自分の挙動を覚えて無いや。」

「そんなに?」

「うん。帰ったら目覚まし時計の電池を変えとかなきゃなあ。」


そうだね、と返して、雨見は会話を続ける。


「今日は友喜ちゃんの帰りは早いかな?」

「う~ん、昨日の友喜の受け答えを見るに、今日もカフェに寄りたがってたから早くは無いかも。」

「そうなんだ。じゃあ帰りはまた迎えに出るの?」

「うん。しばらくの間はね。」


有津世の受け答えに雨見が頷いて相槌を打つ。


「ねえ、有津世。私とはあちらの世界で頻繁に会っているからもう間に合っているのかな、友喜ちゃんの中で…。だってね、入れ替わってからの友喜ちゃんとの接触が極端に少ない様な…。」


雨見はさぞかし残念そうだ。


「どうだろう。そこまで考えて友喜が行動してるかは知らないけれど、今の友喜はさ、入れ替わる前の友喜に輪をかけて吞気だよ。」


有津世は雨見に今の友喜の挙動を説明しながら二人は林の道を家まで歩いて行った。








 形勢は逆転したんだ。

彼女が悲しみに暮れたから。


僕はどれだけ底意地が悪いんだろう。

悲壮に暮れる彼女を見て、思い通りにならない状況に腹を立てた。


とにかくこっちを見てくれ。

見てくれないのなら…あの日君が言ったあの言葉は何処に行った?

そんな想いで、全くもって意地の悪い言葉を彼女に投げ掛けたんだ。


この時に彼女に見放されていたら僕は今頃どうしていただろう。

きっと自暴自棄になって仕事場でも元の木阿弥に戻っていたに違いない。

どうしようも無く身勝手で我の強い僕は、それが露呈しない様にと自戒を込めて彼にも頼み込んで今の任務に就かせて貰っていたのに。


翻弄させたいのに翻弄されてしまう僕は、これからも事ある毎にこんな立ち回りをするのだろうか。そう考えたらあまりに情けなくて。

酷い台詞を吐いた直後に、僕は口には出せない想いを彼女を前にして想った。



ごめん。

彼女が気を落としている場面で怒りをぶつけて発言するなんて最低だ。


直後に彼女が自分の手から離れていってしまうのではないかという恐怖を感じた。

こんなに反省したのは人生で初めてかも知れない。


この時初めて自分の言動を改めようと思った。心からだ。


彼女が泣いているよりも深く悲しみに暮れた僕は、反対車線へと進路変更をして車を発進させようとした。

サイドブレーキを掴んで動かそうとした腕にふわりと彼女の手が触れて、僕の動きが止められる。



「やだっ!」


僕は驚いて彼女の顔を見ると彼女は僕に懇願してきた。


僕は心から嬉しかった。

こっちが泣きたいくらいだった。

彼女が僕と一緒に暮らしたいと言うのと、僕の気持ちとはどっちが勝つだろう。

多分いい勝負だ。


感動が胸からこみ上げてきて、僕は堪らず彼女を引き寄せ、いつもよりも乱暴なくちづけをした。

決して離すまいと誓いながら。


そして二度と自分の口から彼女に対して暴言は吐かないと自分の胸に誓った。

その代わりに、もっと愛情深い形で受け入れたいと思われる形での表現をするんだ。

受け取っても受け取っても受け取り切れない程の、純粋な愛の形で。


僕の決意と共に、鈴奈と僕との新婚生活は始まった。



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