残された欠片
見上げた朝日は眩しくて、多くの人にとっては、一日がまた始まる合図で。
なのに道路の一辺に残った車の残骸は、そこで時の止まってしまった二人を優しく包み込んでいて。
一般車両が通る前に、残骸は片付けられた。
ほんの少しの時間でも、一緒に過ごせて、一緒に考える事が出来て。
ほんの小さな一日一日の積み重ねだったけれど、私達にとってはそれこそ宝物で。
そして、私達の間に生まれた可愛い天使が、きっと父の心をも癒してくれるから。
きっと大丈夫。
何も悔いは無い。
皆、愛してる。
聞いた事の無い電子音と共に、突如として聞き覚えのある声が聞こえた。
「お父さん…聞こえる?」
山奥の神社。
建物の社内で一番広い空間の裏手に、杉の寝室としている小さな部屋があった。
そろそろ起きようかと早朝の朝日がこれから顔を出そうとするのを感じ取り、うとうとと、まどろんでいた時にそれは突然鳴った。
鈴奈の声に聞き入ってしまって茫然自失になってしまいそうな所を踏み留まり、枕元にあった金色の印が刻まれているプラスチックの様な素材の欠片をわなわなと震える手で掴み、金色の印に指先で触れる。
すると印が光ったので、縋る様に名前を呼ぶ。
「鈴奈、鈴奈ですか?」
こちらが呼ぶのも虚しく、声は返ってこない。
すると、おそらくは別の地点からの音声が今度は入ってきた。
「杉様…迅速に向かわせて頂きます。杉様はどうなさいますか?」
「私も…私も連れて行って下さい。」
「かしこまりました。直ちに。」
事務的な声音の中にも気落ちしているのが伝わってきて、互いに陰鬱な声音で短いやり取りを終えた。
叫び声と何かの喧騒と、そんなものが入り混じった夜明けを感じた。
空へと舞っていく命は、光をつぶさに表現する。
帰り行く天使たちは、こちらを向いていただろうか。
いや、きっと向いていたとしても一瞬で、彼等は常に今を見つめるだろう。
きっと双方、共に、微笑んで。
手を取り合い、何処までも一緒に行くのだろう。
そう時間が経たない内に杉と一番交流のある年長の男が杉を迎えに来て連れて行った現場は神社とそう遠くない位置の道路だった。
何も言えずに、今朝の空を仰ぎ見た。
無残な二人の亡骸と共に会えたのは、ひとり完全に無傷な彼等の子供だった。
「おお、ノリコですか。いらっしゃい。」
手を伸ばして抱き抱える。
「相手は彼女の存在までは気付かなかったのか、そのまま去った様ですね…。」
年長の男が杉に話す。
それについての反応はせずに、静かな声で杉が会話を続ける。
「…あなたの事ですから止めはしたんでしょうに…。」
「はい。でもアミと鈴奈様の意思の決定は、抑え込む事が出来ませんでした。」
杉はノリコを抱き抱えながら、綺麗に片付けられて跡形も無い現場をノリコと共に見る。
「私は祈ります。これまで通りに…。」
「ではご遺体はこちらで…。」
「はい、お願いします…。」
杉の顔かたちを確認するかの様にぺたぺたと輪郭を触ってくるノリコに、頬を緩めて答える。
「ノリコ、私は鈴奈のお父さんです。あなたにとっては…おじいちゃんですよ。」
「おじいちゃん?」
「…そうです。」
杉と杉に抱き抱えられているノリコとの会話に、傍に居た年長の男が目頭を押さえて俯く。
「さて…これからも……精一杯、生きましょう。」
いくら流そうとも涸らすには足りないくらいに、計り知れない程の涙を内に湛えて、行きと同様、神社の手前まで車で送迎をして貰い、男に見送られて杉とノリコは神社へと帰って行った。
林の奥の二棟の家。
今朝の空気も林の中は爽やかで、過ごしやすい気温だった。
奥側のログハウスの玄関ドアが開いて、制服姿の雨見が出てきた。
数歩歩いて双方の家の玄関ドアが眺められる位置に立ってから自身の髪の毛先を手で梳く。
足元からスカート、ブラウスと目線が移って、目と指先で身なりをチェックする。
襟元は指でなぞって整え直したし、有津世がなかなか出てこない時には雨見はこうして身なりの再チェックを行ったりしながら時間をやり過ごす事が多い。
数分が経過してから、いつもより些か乱暴な感じで有津世達の家の玄関ドアがガバっと開いて、有津世が家の中から出てきた。
「おまたせ、おはよ。雨見。」
「おはよう、有津世。何か焦り過ぎじゃない?」
有津世がぎりぎりな時間に来るのはよくあるけれど、こんなに焦って出てくる事は少ないし、むしろ雨見が焦る気持ちになるのが普段は多かった。
「え、だってさ、時間は…。」
「いつもとそんなに変わらないよ。どこの時計を見たの?」
雨見が自身の腕時計を有津世に見せる。
「…あれっ?」
有津世が首を傾げて、その様子を見た雨見が有津世に首を傾げる。
「見間違いした?早歩きはした方が良いけど、でも充分間に合うよね。」
「…本当だ。でも、あれ…?」
何を不思議がっているのかの説明は後に、とにかく今は向かおうと有津世が言って、そうだね、と、雨見が答えて二人は林の道をリズム良く歩いて行った。
「随分と急いで出ていったね。早朝に学校で用事でもあるのかしらねえ。」
「うん。」
有津世の今朝のドタバタ劇を見守り見送った母が友喜に話し掛ける。
友喜はダイニングテーブルの自分の席に座って、皿の上のパンを自由に引きちぎっては自分の口に入れていた。
「美味しい?焼きたての食パン。今朝は上手く焼けたと思うんだ。」
「うん。とても美味しい。」
友喜が夢中になって食べるのを目の前の席で見て母が満足気に微笑む。
それ以上は特に何も聞かずに、友喜が朝食を食べ終わるまでの間を温かい表情で見守り続けていた。
街路樹の木々の葉っぱが揺れて、揺らした風は颯爽と流れ通って行く。
気持ちの良い空気の漂う朝、会社へと足を向かわせていた則陽がふと車道側を見て目を見張った。
「おはようございます。」
「奈巣野くん、おはよ。」
「うーっす。」
仕事場に辿り着いた則陽が始業時出社組の梅と功に挨拶をする。
二人は今朝も仕事場入り口に入って直ぐの、ちょっとしたミーティングが出来るテーブル席に座っていた。
則陽はテーブルに何と無く手を着いて、梅に会釈してから功を見る。
功と則陽が互いの事を意味ありげにじっと見て変な間が出来た。
二人の様子に梅が、
「え、二人共、何?どうかした?」
不穏に見えたのか、気遣わし気に声を掛けてきた。
「いいえ、吉葉先輩に向けての顔色チェックです。機嫌が良いのか悪いのかによって、これから始まる一日の気構えが違ってきますからね。」
則陽の言葉に、功が途端に、はあっ?という顔になってすかさず言い返す。
「何だよ!まるで俺がお天気屋の高圧上司みたいじゃねえか、今の言い方は!」
「違うんですか?」
「ちげえよ!則陽、お前分かってるだろうが!」
「そうですかねえ?」
「あはははは。」
梅が朗らかに笑う。
面白い冗談だね、と梅が功と則陽二人に対して言って、功が仕方無く首を縦に振って口角を上げた。
「後で話があります。」
「俺も。」
功の様子を伺ったのは本当で、土曜日に功が口にした言葉の意味合いと、ここ一週間程どこか覇気の欠けた彼を気に掛けての事だ。
一方、功も、土曜日に副業オフィス建物の階段上の路地で話した内容がどうにも気に掛かっていて、その件について則陽と話がしたかった。
とにかく、仕事の時間が始まるので、ひと段落したら話そう、と互いに決めて、それぞれの席へと移動した。
始業の合図の鐘の音が鳴る頃、友喜はようやく学校に着いた。
教室に入って来た友喜を見て、なつが駆け寄って来る。
「おはよ~、友喜。遅かったじゃない。」
「なっちん。おはよ~。」
あくまでもマイペースで、時間なんて気にしていない素振りだ。
「あ、先生来た。また後でね。」
そそくさと席に戻るなつが友喜に、友喜も席に着きなよ、と、ぽんっと肩を叩いて促した。
中身がキャルユの友喜は、一週間程、学校を体験した後での今日も態度は初日から比べてもそう変わらない。
何処か抜けていて、あ、でもそれは元の友喜からしてそうだけど、でもそれよりも言ってしまえば酷い。
全くもう、何をしに学校に来てるの、と突っ込みを入れたくなるが、事情を知っているなつとしてはここはぐっと我慢の子だ。
すごく不思議なのは、友喜がどう見ても変な動きをしているのに、諸先生方から指摘を一切受けない事だ。
呆れられてる?のかな。
今だってどう見てもおかしい。
友喜の席を見ると、嬉々として鞄から教科書とノートを入れ込んでいるが、準備のためじゃなくて、そうして遊んでいる様に見える。
元より変な行動を見せる事もある友喜だから?
それが度を越しても、誰も何とも思わないの?
最初の一日、二日は度肝を抜かれてこっちが冷や冷やドキドキしたけれど、今はこの現状に誰も突っ込みを入れない状況になつは一人忙しく考えを巡らせてしまう。
すると友喜を見ている視線が自分一人だけで無い事に気付いた。
視線を感じて目で追うと、一人の男子クラスメイトからのものだと気が付いた。
以前、大胆不敵にも友喜と自分に笑みを送ってきた事のある怖い者知らずの男子だ。
なつは訝し気に彼を見ると、相手もなつの視線に気付いて今度はなつに笑みを送ってくる。
真顔のままでふいと視線を戻すと、顎に手をやり、なつは別の考えを巡らせる。
ヤバい。ここで踏み込まれたら友喜が持ってかれちゃう。
お兄ちゃんに注意喚起を入れておかないと。
もう一度気付かれない様にそっと斜め後ろの彼の席を見ると、彼はもう黒板に視線を移してきちんと授業を受けていた。
街路樹のある通り沿いの小ぶりな6階建ての建物の4階で、仕事場入り口近くの観葉植物ノーリの前にパイプ椅子を広げて腰掛けた則陽と功が、したかった話の場をやっと持てていた。
「入れ替わり…?」
「ああ。こうなる前にも、別の人格が彼女を席巻して、記憶が無くなる事が何度か有りはしたんだけど。」
「前にも言ってたのって、そういう事だったんですか…。」
則陽が功の言葉にえらく驚いて顔をしかめた。
「でさ、だから…今の彼女は、友喜ちゃんであって、そうで無いんだ。則陽、お前の会ったのは…。」
「間違い無く友喜ちゃんでした。反応も…まあ元気は無かったですけど、自分の知ってる彼女の反応だったんで…。」
功が切ない表情を隠し切れなくて、そんな表情の歪みを則陽が垣間見る。
一瞬でそれを振り切って、功が則陽に疑問を呈する。
「何でお前が会えたのかな。」
「さあ…分からないですけど…。その前に何故そういう仕組みなのかも俺には分かりませんし…。」
何の必要があって今の友喜の状況があるのか、功にも分からない。
と言うか、今の時点では誰にも分からないのだ。
「…前に、副業オフィスの管理をしている彼と話した時に、彼は友喜ちゃん達の存在を知っているみたいでした。」
「あ、俺も。話した時に、彼女を目の前にして話してたから…。」
「そう言っていましたね。」
則陽の返しに功が頷いた。
「彼、最初の時は、プログラミング以外の事は何も分からないって言っていたんです。実際には…他にも色々と知ってそうでしたし、あれは…言葉の綾だったのかも知れない。」
入り組んだ事情を突然ずらずらと並び立てた所で理解にまで及ばないだろうと踏んで話題にしようとしなかっただけかもと則陽は考え直す。
「事実、友喜ちゃん達の事を知っている風に反応したのは、俺がその話を持ち掛けてからで、あの人、俺がその話題に触れなかったらいつまでも言わなかったんじゃないかな。」
「ん?俺ん時は最初から…あ、目の前に彼女が既に居たからか。」
パジャマ姿の友喜が眠り込んでいて、彼女を目の端にソウイチと功の二人で会話をした。
「もう一度彼と話をしてみたいな。」
「俺もです。あ、土曜日に彼にメッセージを送ってみたんですよ。でもまだ、…何の反応も無いですね。」
「メッセージ?どうやって?」
功が興味を持って身を乗り出し則陽に聞く。
「監視カメラですよ。カメラに向かって言葉数少なくゆっくりであれば口パクでも伝えられるんじゃないかと思って。」
「それ、俺も今度やってみるかな。」
「受付の人に会いたいって問い合わせる手もありますよ。もう少し待ってみて反応が無かったら受付の人に言おうと思っています。」
「そっちの方がスムーズか。」
「かも知れません。結果、まだ出ていませんしね。監視カメラの方は。」
則陽の言葉に功が納得して頷く。
「ソウイチさんってのは、いつもは何処に居るんだ?」
「分からないですけど、梨乃がそれを彼に聞いたら、とにかく所在はあのオフィスでは無いとの事です。」
「え?梨乃さんがソウイチさんに会ったってえのか?」
「はい、梨乃はクリスタルで別次元に飛んだ時に彼と会ったそうです。結構、色々な話をしたそうで…。」
則陽の説明に功が聞き入った。
山奥の神社。
祖父の杉が取り出した、金色の印が刻まれているプラスチックの様な素材の欠片を、首を傾げたノリコが見る。
「おじいちゃん、何これ?」
「精密な通信機器です。これで、必要な場合には通信します。」
「通信機器?」
言葉を聞いたノリコがひと息後に、眉をひそめながら言葉を反復した。
「私が女神様と胸の奥で交信するみたいな…?」
何とか自分の理解出来る形へと変換して杉に聞き返した。
「それよりも世俗的ではありますが…それでも世には出回っていない技術です。」
言いながら、杉が金色の印部分に指先を当てると、印部分が光を帯びた。
「ひとつ質問があるのですが…。」
おもむろに話を始める杉とその破片を、ノリコは元から丸い目をより丸く見開いて交互に凝視した。
交信が終わって印部分から指先を離すとぼんやりと光っていた印部分の光が消えた。
呆けて居たノリコがブルブルと首を振って我に返ってから杉に声を掛ける。
「話、してたね?」
「はい。話をしました。」
「…すごい。」
今まで現代の機器も目にせず暮らしていたから多分他の人よりも驚きは大きかったかも知れない。
「今、誰と話をしていたの?」
「ソウイチくんをうちから連れ出した二人の男の人の事を覚えていますか?」
ノリコが無言で頷く。
「その内の一人です。」
「…え、じゃあ、今のって、ソウイチくんの場所にも繋がるって事なの?そしたら…!」
「ソウイチくんと交信が出来る…とノリコは言いたいのですね。残念ながらそれは出来ない様です。」
明るくなったノリコの顔が瞬時に曇った。
「どうして…?」
「私も随分と前にそれについて尋ねました。すると、家族である私達が元よりエネルギー的に結びつきが強いのに交信をすると、察知されてしまう率が上がってしまうそうです。」
「…誰が?誰が察知するの?」
「それは…、私達の活動を快く思っていない勢力にです。」
ノリコが少し俯き、杉の言葉を反芻して、顔を上げて杉を見て言う。
「木の邪魔…!」
「そうです。その勢力と同じです。つまり向こうも世には出回っていない能力を駆使して自分達の考えにそぐわないものをひたすらに排除しようとする。今までの世の中がそうでした。今もですが…。」
杉の話は、以前女神様にして貰った話と似ているとノリコは思った。
「ノリコ、私達のグループは、そういった対抗勢力が生み出される事を承知で、それ以前から活動してきたグループです。…ノリコは、何と無く分かっているのだと思いますが…。」
なんせ物心がついた頃から、やれミッションだの、杉にも分からない物事を伝えてきたノリコの事だ。
気付けば自分よりも広がる知識は多いだろうと踏んで杉は言う。
「もしかして…私のお父さんお母さんは…。」
「はい。今だから言いますが、不慮の事故と言うよりは、つけ狙われて起きた事件でしょう。」
「…。」
幼い頃はあっけらかんと、そうなる事を知っていたと話したノリコが、今になって事の真相を祖父の杉から聞いて、幼い頃とは違う感情が芽生えた。
「ノリコや。」
ぽろぽろと流れる涙に、自分はようやく父母への想いが残っていた事に気付く。
命の不思議を、この地で生きながらも胸いっぱいに感じてきて。
これまでも、ここに居る奇跡を何度も感謝をして過ごした。
父と母、二人はどうだっただろうか。
写真を見ると相当に若い。
今の自分よりも、おそらく年下だ。
そんな父母が、過ごしてきた日々を想うと、届かない宝石を見つけた気がして。
決して届かない、だけれど思い浮かべて想像する事は出来る。
ノリコは父と母、そして赤ちゃんの頃の自分が映り込んでいる写真を一枚手に取ると、胸元に当てて涙がはたはたと止まらぬ目を閉じて父母を想った。
天井の高い、何処かの研究室の様な部屋。
年長の男が部屋に入って来た若い男の傍に寄って来る。
「おお、今お帰りですか。」
「ただいま帰りました。」
にこりとして年長の男に笑みを返す。
「それにしても、鈴奈様はアミにすごい入れ込み様ですなあ。任務が執り行いにくい様でありましたら別の者を遣いに出しますが…。」
「大丈夫です。僕も楽しいし、…あの、会いたいんですよ、僕も…。」
年長の男の顔色が、アミの言葉を聞いてさっと変わる。
「アミ、…それはなりません。それはなりませんぞ!」
「…何がですか?」
「鈴奈様の事です。私達は分散して過ごしてようやく安全を保っているんです。ひとつにまとまるなど、攻撃をしてくれと頼んでいる様なもので…。」
アミが年長の男の言葉に、首を傾げる。
「それじゃあ今までそういった流れは僕以外には無かったと?そうなんですか?」
「…それは…。」
「無い事ないんですね?」
圧のある物言いをしたアミが一拍後に我に返った。
「…言葉が過ぎました、大変失礼いたしました。」
「いいえ、…ともかく、その件については杉様とも私が確認を取ります。杉様には…?」
「まだ何も…。あ、でも次回お願いをしようと思っています。」
「お願い…?」
「はい。鈴奈様とドライブデートをするのに許可を頂くお願いです。勝手に…連れ回す訳にはいきませんから。」
「勿論ですよ。ドライブデート?あの車を使うのですか?」
「いけませんか?」
車はあの車しか自分の使えるものは無いのだから、あの車になりますよね?とアミが再び高圧的に言い返した。
すると年長の男は、ふっと笑いをこぼしてアミを見た。
「若い意思は、何者にもへこまされそうには無いですね。あなたは随分と男気に溢れている。」
「…。」
アミが真顔で年長の男の顔を見返す。
「では次回に訪問された際に、杉様にドライブデートの件を尋ねて、杉様の意向を私にもお知らせ下さいます様、お願い申し上げます。」
年長の男の口ぶりは、杉の意向により今後の方向を見定めるといった言い方だった。
年長の男がまた拒絶の意向を示した所で、きっとアミは止まらないだろう。
彼はこれまでにもそういった気質を幾度と無く示してきた。
柔和な外見からは想像がつかない程に物をはっきりと言うし、油断していると時に威圧的にもなる。彼は時にそれを反省して先程の様な態度を取る事もあれば、その後でまた無意識的にそれを出してくる。
良く言えば男気溢れると先程も言った通りだし、悪く言えばそうと決めたら頑固でなかなかに扱いにくい。
熱しやすくて冷めない。
ずっと熱を持ったままになりやすいのだ。
こればかりはしょうが無いと、年長の男は大きく息をついて、アミを見てまた笑った。




