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見上げる空に願いを込めるのは何故だろうか(仮)  作者: 晴海 真叶(はれうみ まかな)
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宿題

挿絵(By みてみん)










 今はまだ昼間だし、有津世と友喜の家に寄っても時間には余裕がある。


林の道を歩いている時の三人は、功が考え込んでいたのもあって、ほぼ無口で家の前まで辿り着いた。


林の奥の二棟の家。

手前側にある洗練されたデザインの家の前に三人は立っていた。


家の段差を上がって有津世が一番に家のドアを開ける。



「ただいまー。」

良く通った声で有津世が第一声を告げると、奥からおかえりなさいと聞こえてきた。

有津世達の両親の声だ。


「友喜も一緒に帰って来たよ。それとお父さんお母さん、吉葉さんがうちに寄ってくれたんだ。」


有津世はまたもや通る声で両親に呼び掛けると奥から有津世達の両親が玄関まで来て功達を出迎えた。



「あらあら、まあまあ。」

「おやおや、いらっしゃい、良く来てくれたね。」


有津世達の両親は驚きながらも喜んで功を招き入れる。

功はお久し振りです、と二人に挨拶をしながら、玄関先に居ながら三人は早速談笑し合った。


「ただいま。」

両親が功に話し掛ける合間を縫って友喜がぽそりと二人に挨拶をした。




 ひとつ、気になったのは、友喜が両親に対して極端に素っ気無く見えて、それに関して両親どちらもそれを突っ込まないと言うか、気にして無さそうな所だ。


前の訪問時には友喜は両親と朗らかに接していた風に見えたのだけれど、どうだろう、前回のが気のせいだったのか。いやそれは流石に無いか。


まあでも、両親が気にしていないものをこちらから気にする様に仕向けるとかはもっと無いし、有津世からのフォローで今の友喜の状態でも上手く回っているのなら口出しする必要なんて無い。


…はずなのに気にしてしまう自分は…もっと彼女の身近で深く関わっていたいだけなんだと、自分の想いに対して自分なりの解釈をひとまずはして落ち着かせる事にした。



実際こうして家に寄らせてもらった事で、有津世が妹の友喜に対して何かと先回りでフォローしているのを目の当たりにしたから何処かで嫉妬しているのかも知れない。



例えば、今この柚木家に着いてリビングのソファに腰を下ろさせてもらう時、有津世は予め友喜を功の隣になる様に有津世が功と自分とで友喜を挟む形で座ってその場を調整した。


友喜が功から離れて座って不自然がられるのを防ぐためでは無いかと功は有津世の動機を考えた。



自分と離れて座る違和感を両親に感じさせぬ様には出来ても、有津世が友喜の隣にほぼ隙間無くぴったりとくっついて座る光景を見せつける事についてはどうなのだろうか。


仲が良い兄妹…仲が良い兄妹…まあ、うちもそうだ。

友喜と有津世にとってはそれが通常かも知れない距離感を垣間見て、功は考えながら人知れず静かに息をついた。




友喜は友喜で、隣に座った有津世ににこにこと微笑むと、右隣の功の顔をじろじろと見てくる。


その行為は見惚れていると言うよりも、幼児が気になった人物に対して不躾に視線を送る行為に限り無く寄っていて、今の友喜の挙動は指摘しようと思えばいくらでも不自然な点を挙げる事が出来た。いや、挙げはしないけれど。


有津世は分かっているから別だけど、それについても有津世達の両親からは何の指摘も無い。



あれか。


どんな状態の我が子でも、全てを丸っと受け止めて受け入れる。

そういった信念を有津世達の両親はもしかしたら持っているのかも知れない。

自分がなつに対して持っているのと似通った信念を。




 リビングでは和やかに有津世達の両親との会話を持って過ごし、出してもらったお茶を飲み終える頃に有津世に部屋へと誘われた。



「あ、どうぞ~。お帰りの際にはまた声を掛けて下さいね。」

ソファから席を外す事を快く了承する有津世達の両親は、ゆったりとした調子で功に伝える。


功は礼を言ってソファから立ち上がり、じゃあ行きましょう、と、2階の自分の部屋に移動するのを促す有津世と友喜に続いてリビングを後にした。




 リビングから三人の姿が見えなくなってから、有津世達の母、しず子がぽそりと言う。


「有津世が友喜想いなのをこれまで幾度と無く目にしてきたけど、有津世は友喜を取られたくないのかしらね。」

「ん?取られたくないって、功くんにか?」

「うん。そうね。なんだかね、そう見えちゃった。」

隣に居る彼にとっては妻であるしず子が、夫の耳元でこそりと話を続ける。


「のぶちゃんはそう見えなかった?」

「いや?特には。僕達に彼を紹介してくれたのは有津世なんだし、しずちゃんの言うそれは流石に無いでしょ。」


何を言ってるんだか、と軽い返しでお茶を飲む夫を見て、そうね、そうかもね、と言いながらしず子もお茶を口にする。


「有津世は、友喜が大好きだからな。一時期、友喜が有津世を冷たくあしらっていた時期があっただろ。その頃よりは、今は落ち着いてるんじゃないかな。」


いずれにしても、両親にとっては仲睦まじい関係の兄妹に更には功も加わって、賑やかな事だよなと言った彼のひと言で持って話は締め括られた。





 一度家に訪問した時にも思ったが、2階の有津世の部屋に上がってみて改めて実感する。


「なんかさ、すげえ洒落た家だよな。」


充分に床面積を取ってある部屋に、更にロフト部分があってその天井には丸い天窓からの光が差し込むのが印象的な有津世の部屋を目にして功が言った。


「ですね。うちの親が凝り性で。デザインは母の要望を織り込みながら父が全体を組み立てたそうです。」

「ほぉ。そうなんだ。」

功が半分呆けた感じで感心しながら相槌を打った。



「あの、それで、話なんですけれど…。」


有津世の言葉に、ロフト部分に目が行っていた功が有津世に振り返った。



「誤解をしないで聞いて欲しいんですけれど…こんな事を道の途中で言うのは失礼だと思って、それで家に寄って貰って話そうかと…。」


功が眉尻を下げて、何の話かと首を傾げる。


「良いから話してみてくれ。」


「はい。…あの、友喜が今回、吉葉さん、あなたから貰って身に着けていたネックレスが壊れて中身が入れ替わった状態になってますけれど、」

「うん。」

「あなたから貰ったアイテムは、今は触れるべきではないと彼女から聞いて…。」

「…ああ。」

その言葉に功は有津世が何を言おうとしているのか予測が付いた。


「あの…、効いたのってあなたが友喜にくれたアイテムと…こんな言い方あれですけれど、直に触った時だけなんですかね…。ソファに座っていた先程は平気だったから…。」


「ああ。それな。」

功は照れくさくなって赤面を誤魔化すのに片手で顔を洗う様な仕草をする。そして有津世からの問いに、多分そうじゃないかと思う、と肯定した。

有津世は功に頷いて、再び口を開く。


「今、あなたが友喜に触れたら彼女の体から誰も居なくなってしまうのではないかと思って…。それだけは防ぎたいんです。」

「…。うん。分かるよ。」


功の言葉に有津世は顔を上げた。


「実際、俺も今日、友喜ちゃんと会っている時に途中でそれを思った。…だから、自分の行動を酷く大それたものだと後になって気付いた時には冷や汗を掻いたよ。」

「…?」


「手をさ、握ったんだよ。公園のベンチから彼女が立ち上がる際に、補助のつもりで差し出してさ。」


「え……じゃあ、その時は大丈夫だった…て事ですよね…?そしたら…。」


有津世が功の言葉に驚いて、俯きがちな姿勢になった。

…そしたら前言撤回すべきだろうか、有津世は考えを巡らせる。



功は有津世の反応を目にしながらも自分の胸の内に浮かんでくるのは友喜への想いで、今にも溢れ出してきそうな情感をぐっと堪えて冷静さを何とか保った。



触れたい気持ちが先に立って…。


恥をさらしている様だけど、それでも伝える必要はあると思って功は有津世に打ち明ける。


「大丈夫だった。大丈夫で本当に良かったと、その事に気付いた時には全身から血の気が引いてそう思ったよ。…だからさ、その後は一切、彼女に触れてはいないよ。一回手を握った時にはそりゃあ何事も無かったけれど、それが元で彼女の身に何かあったら嫌だと思って…。」


「そう…ですか…。」



伝えたかった話の内容を功は前もって理解していて、更には一回大丈夫だったのにこれからはそれを守ると有津世に言ってきた。

功がそう言うのなら、前言撤回は無しだ。確かに気を付けるに越した事は無いんだし。でもそう思いながら、有津世は功の気持ちを推し量った。


今まで功と友喜がどれだけのスキンシップを取って来たかは知らないけれど、恋人である相手に対して指一本触れてはならないと自分に課すのは、酷であろう事は容易に想像が出来たから。


「吉葉さん、何か…すみません。」

トーンを落とした声で有津世が言った。



「いや、大丈夫。まず第一に有津世くんが謝る事でも無いし。誰かから謝ってもらう事柄でも無いな。とにかくさ、気を付けるべき点が分かったから、そこはきっちり守るよ。」


割とあっさりした調子で功が有津世に言って、有津世は、はい、と言いながら功の明るい態度を見て気を取り直した。



直ぐ近くの友喜に視線を巡らせる功につられて有津世も友喜を眺める。

友喜は家に帰って来てから極端に言葉数が少なくなっていた。


二人の直ぐ傍らに実はずっと位置して居た友喜は、有津世の部屋を見回したり功の胸辺りに視線を飛ばしたりと気ままに動いていて、二人が今していた話の内容をまるで気にしていない様子で吞気に過ごしている。

有津世と功は不思議がって友喜を眺めてその間、部屋には沈黙が出来た。



「あ…のさ、ひとつだけ聞いて良いか?」

「はい、どうぞ。」

有津世が快く促す。


「あのさ、キャルユって、元々こういうキャラなの?」

「あ、それは…。」

有津世が答えようとした所に、今までこちらの話には関知しなかった友喜が突如として割り込んできた。


「そうだよ。キャルユだよ!」


途端に、にこにことして嬉しそうだ。


「あ、もうちょっと、違うんですが…。」

「…だよな。」


友喜の反応とは裏腹に落ち着いて答える有津世に同じトーンで功は相槌を打つ。

友喜はきょろきょろと二人を見てから、再び自由な動きに戻った。


高校生になった友喜に功が久し振りに会った時に見えた、彼女を覆う黄緑色の光の霞の彼女を見て受ける印象は、今ここに居る彼女が見せる顔とは随分と違う雰囲気だった事を功は改めて思い起こす。


「ひょっとして、何パターンかある、って事か?」

「はあ。そこも自分にとっては疑問で…。」


二人の視線に気付いてにこにこ笑顔を返してくる友喜を功と有津世が見つめてから、有津世が言葉を続けた。


「実際、今の状況に入れ替わる直前に自分が遭遇したキャルユもこんな調子だったので…疑問に思って…。」

功が、へえ、と頷いて相槌を打った。


「元のキャルユはどういうキャラクターなんだ?」

「キャルユは…。」

有津世は友喜を見ながらキャルユを想う。


「おっとりとしていて、時にうじうじして…、基本穏やかで…。」

有津世がキャルユを思い浮かべるのに記憶を巡らせていると、友喜が有津世の片方の腕を両手で掴んで、ぐらぐらと揺らして聞いてきた。


「キャラクターって、なあに?」

「性格って、意味かな。特徴って言うか…。」

「ふ~ん。」


有津世の答えには、あまり興味をそそられなかったみたいだ。


友喜は再び、功の胸をじっと見てきて、功は友喜をふと眺め返した。


「ぽわぽわは、こういうキャラクターなのか?」

「ぽわぽわ…。それが、自分は意思の疎通が出来た事が無いから、はっきりとは分からないんです。」

雨見はあちらの世界でぽわぽわと話が出来るんですけれど…、と付け加える。


「でももしかしたら、そうかも知れないですね。とても明るいって事は雨見からの情報で知っていて…。」

「ぽわぽわ。ぽわぽわだよ。キャルユだよ。それは、合ってる。」

「…。」

「…。うん。そう言ってたな。」

「じゃあ言葉が拙いのも…。」

「キャルユ自体は、もっとすらすらと喋ります。少なくとも今の様じゃ無い。」

「へえ。」


「キャルユだもん、キャルユだもん!」

途端に友喜が有津世の腕を再びぐらぐらと揺らして自分もキャルユだと意見してくる。先程の揺さぶりよりもずっと強い。


「わあ!わあわ、分かってるって!そんなに揺らさないで!」

頭もぐわんぐわんと揺れて、有津世が前後に大振りに揺れた。


「はっ、はははっ。」

目の前の功が毒気を抜かれて、二人の微笑ましい光景に笑いをこぼす。


「まっ、とにかく。どっちにしたって有津世くん達は仲が良いんだな。」

功が表情を和らげて二人を交互に見た。


「吉葉さん…。」

「…。」

「あ、じゃあ俺そろそろ、行くわ。」

「もう、行くの?」

「うん。結構いい時間だしな。…?」


何処か引き留めたそうな友喜の問い掛けに、功と有津世の二人はまた一瞬きょとんとした表情で友喜を見た。


「またな。」

功は言って、友喜に微笑んだ。




三人は有津世の部屋を出てから階段で1階に下りた。

お邪魔しました、と功がリビングに顔を覗かせて有津世達の両親に声を掛け、玄関先で家族全員に見送られながら柚木家を後にした。


玄関ドアから外に出た功は、段差を下りてから振り返って有津世達の家を仰ぎ見る。

微かに口角を上げると、踵を返して林の道を歩いて行った。








 住宅街の一角。


家に帰ると、なつはまだ家に帰っていなかった。


功はリビングに行くと財布やらの持ち物を定位置に収め、ダイニングに足を運んで冷蔵庫を開けて中を覗いた。

何も取り出さずに冷蔵庫をぱたんと閉じて、ダイニングテーブルの自分の席の椅子を引いて座りふうとひと息つく。


そこから見えるリビングの壁掛け時計で時間を確認すると、図書館に返しそびれた大きな本を棚から手に取り、何と無くページを開いた。


開いたページから時折噴射される噴水の様な光の粒は相変わらず綺麗で、涼やかなのに温かい、不思議な感覚を覚える。

ぱらぱらと本をめくっている所に、玄関からなつの第一声が発せられた。



「ただいま~。」

「おう、なつ、お帰り。」


ぱたぱたと歩いてリビング手前のダイニングに居る兄、功の所まで来る。


「お兄ちゃん、もう帰ってたんだ。」

「ん。俺も今さっき帰ってきた所。」

「じゃあ友喜と結構一緒に居れたんだ。あ、でも副業のオフィスには行ったの?行ったんだったら、そうでも無いか。」


なつが考えて言い直す。


「いや、副業のオフィス、一緒に行った。」

「一緒に?友喜と?」

「ああ、別の場所で待ってて貰っては居たけれど。」

「そうなの?」


あの友喜が、兄との外出を前に表情があんなにも強張っていた友喜が…。


「じゃあ誘うのに結構お兄ちゃん頑張ったんだ?」

「いや、別に…。彼女の方からついて行く、って言ってきたからさ。」


なつが目を見開いて、


「え、嘘!」

兄が見栄を張っているのではと、大きな声で思わず本音が口から漏れた。


「…それが嘘じゃ無いんだよ。でさ、そこからの帰り、有津世くんに迎えに来て貰ったんだけど、それで解散しようと思ったら今度は家に誘われてさ、結局、柚木家にも寄らせて貰った。」

「家に上がったの?」

「上がった。」


「え、でもさあ…。それならこの時間に帰ってるのっておかしくない?もっと時間かかるはずじゃない?」

「…。」


兄の説明にこんなに異を唱えて返してくるなつは初めてだった。

なつの遠慮しない返しに功はウッと唸る。


「…出掛ける前の友喜ちゃんの俺への反応見てたらなつが疑いたくなるのも分かるけど。友喜ちゃんがついて来るって言うから、今日は作業を予め30分程度で済ませたんだよ。だからこの時間にもう家に居れてるし、柚木家にもちょうどお茶の時間辺りに寄れたんだ。」



そこまで聞いて、どうやら本当みたいだと、なつはようやく功の話を呑み込んだ。


「不思議。あんっなに嫌そうな顔をしてたのに。」


直球な表現をするなつに気の抜けた笑みで功は頷いた。


「俺も実際不思議でさ。何が今の友喜ちゃんの興味を誘ったのか…。その内ひとつは予想つくんだけれどな。でも懐いてくれたのはその前段階でだもんな…。」


最後の方は照れくさそうにぶつぶつと独り言の様に呟く。


「ふうん。まあ良いや。良かったじゃん。」


嬉しそうに呟く兄の姿を見て、なつは表情を和らげて言った。








 狭く古びたコンクリートむき出しの階段を地下2階ほどまで下った所にある、街の雰囲気とは対極にある無機質なオフィス。


今日は功が自分の来たのと入れ替えで既に帰ってしまったし、辰成や穂乃香達の姿も今のところ見当たらない。


功が居るなら共にお茶する時間を見込んで作業を終わらせる頃だが、今回はその時間ごとこの場に充てると決めて作業スペースでコーヒーを飲んでいた。

コーヒーはここのオフィスで無料供給される飲み物のひとつで、コーヒーの味も悪くは無かった。


コーヒーカップ片手にマニュアル本の気になる部分をかいつまんで自分のノートに記入していく。

ちなみにカップはちゃんと陶器で、ならば功と居る時もここでお茶で良いじゃないかとなりそうだが、声を出す事がはばかれる場所だから会話が出来ない。

だから功が居る時は作業後、喫茶店に場所を移すのだけど。



ふと視線を空に上げた時に、隅にある監視カメラに気付いた。


何と無しに天井の別の角を見るとそこにも監視カメラがある。


「…。」

則陽は振り返って後ろも確認すると、このやや長方形型の作業スペースには天井角の4隅に監視カメラがある事に初めて気が付いた。


もしかするとソウイチは、作業内容だけでは無く、このカメラを通して自分達の顔を確認したかも知れないと則陽は思った。少なくとも自分に初めて会いに行く前には人相を確認したのではないだろうか。

ソウイチ側からすればきっと、人違いは避けたいだろうから。


だとしたら、今映っている監視カメラのここの作業スペースの風景だって、ソウイチが目にする可能性だって無きにしも非ずだ。


そう考えたら、ひとつ、試したくなってきた。


則陽は唇に拳を当ててしばらく考えた後に、ひとつの監視カメラに顔を向けるとおもむろに口を開いた。








 温かい。

温かいなあ。


草原に吹く風を肌に受けながら、窓辺に添えた腕に頭を埋めていた自分の周りを囲う様に温かさが巡ったのをじんわりと感じた。


青い光に包み込まれた部屋の中では鈴の音が重なり合って聞こえていて、次々と鳴り続けて止まない音は自分の芯までにも響いて浸透しているからか体の感覚には一種の痺れがあった。


そんな中で、自分の周りにふわりと浮かぶ、温かなエネルギー。

決して強引では無いそれは、寄り添う様に包み込んでくれる。


安心した、ほっとした、きっと大丈夫だと思った。

それは多分この温かなエネルギーで優しく包み込まれたからこそ思えた事で。



私は大切そうに両腕を抱えて下りて来た感覚に浸った。








 林の奥の二棟の家。


功の帰りを玄関で見送ってから有津世と友喜の二人は有津世の部屋に戻って話をしていた。


机の席に友喜を座らせて、傍に立つ有津世が友喜に話題を持ち掛ける。


「それで、今日はどうだった?」 

「楽しかった。」

「楽しかったんだ。それは良かった。行く時は浮かない顔をしていたから、どうしたものかと思ってたからさあ。」



行く前の曇った表情はある意味当然だと思いながら有津世は友喜に今日出掛けた時の感想を聞いていた。


今、友喜の中に居座っているのはキャルユだから。


今日のお出かけは友喜自身の行動を彼女が代理で受け持った様なものだから。


けれども迎えに行った時に通りから功と一緒に歩いて来ていたのを見掛けた時に、行きに自分が見た彼女の顔と違って随分と楽しそうで。

こんな事言ったらあれだけれど拍子抜けで。

もっともっと義務的に、今日と言う日を過ごすかと思った。

こんな事言ったらあれだけど。


先程功が居る時にも聞いた話では、今の彼女はぽわぽわ寄りという事を聞いて、腑に落ちた部分が結構あった。


「ねえ、友喜。キャルユって、ぽわぽわのキャルユと、キャルユ本人とで少なくとも二つのキャラクターがあるじゃない。」

「キャラ…ああ~。」

友喜は傾けかけた首を途中で頷く仕草に変える。


「他のキャラクターもあるの?」

「キャルユと、ぽわぽわ。」

「…その他のキャラクターは無いんだ?」

「ない?ない。ないな~。」



じゃあキャラクターとしてはキャルユとぽわぽわの2パターンなんだ。


「他は?キャラクターは二つだって分かったけれど、人数は?何人かに分かれてたりするの?」


有津世が知っているのは三人だ。

キャルユ本人に、雨見や梨乃が会ったって言った、幼いキャルユ、それとぽわぽわ。

あ。黄緑色のもやと言っている友喜と友喜の友達のなっちんが言っている部分を入れれば四人か。



「う~ん。分かれ、てる?…こう、手がある感じ。」

友喜は自分の両手のひらを有津世に見える様に向けて、指をわきわきと動かす。


「それぐらいの数であれば、自在にって、事?」

表現がざっくりなので、何とか意味を汲み取って合っているかどうかを彼女に聞き返した。


「そう?かも。」

首を傾けかけたりぶんぶんと頷いて見せたりと、今の彼女は動きがコミカルだ。


元々の友喜も、割とそういう傾向を持ち合わせてはいるが。



「じゃあさあ…。」

続けて質問をしようとした有津世に、眩い光が降り注いで、途端に有津世の視界が真っ白に染まった。


 

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