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殺してでも うばいとる?

「ここはキンサ。少し前まではただの平凡な田舎の村だった。……代々村に伝わる酒の密造と密売を除いてはね。それが今じゃご覧の有様さ」


 イベレットは村のあちこちに建てられた掘っ立て小屋や、馬車や荷台を寄せ集めて作られた輪、そして大きな鍋を中心に行われている炊き出しを指差す。

 炊き出しに集っているのは貴族、兵士、商人、農民、物乞い、魔術師。職業も身分も性別も入り混じった人々は皆飢え、寒さに震えている。


 と、そこで俺の背中から大きな腹の音が鳴る。そういえば腹減ってきたな。でもお腹が背中とくっつくほどでは……

 

「……ごめん」

「何かと思えば、イリスか」

「何やってるんですかぁ! わたしも! わたしもアカリさまと!」


 どうやら腹を鳴らしていたのは俺ではなく、イリスだったようだ。少女は恥ずかしそうに俺の肩に顔を埋めてくる。

 それを横でジト目で眺めると同時に、無理やり腕を取ってべったりと張り付くルイカ。


「アンタら、一体どういう関係なんだい?」

「自分でもよく分からないです」


 明らかに不審の目を向けてくるイベレットに対してそう言いながら、右手に纏わりついてくるルイカを押しのけようと努力する俺。

 しかし押しのけようとすればするほど、ルイカは更に強く俺に体を密着させてくる。そして俺の手をぐいっと掴むと、無理やり細い腰元へと導いてきた。


「うっく」


 すべすべとした肌の感触が嫌に敏感に手に伝わる。あと二十センチ……いや、十センチ下は尻だ。シリアスな問題だ。

 これ以上は流石にマズイ。そう思ってルイカの方を向くが、何の意味もないのは一瞬で理解できた。熱っぽい瞳で俺をじーーっと見ている。


「いちゃつくのも大概にしてほしいね。まったく最近のもんは! こんなんだから世界もこんなんになっちまうさね」

「……おっしゃる通りです」


 頷きながらも腰から手を離すことは出来ない。悲しい。


「とりあえずどっかで腹を満たしてきな。銭があるならそこらで食べれば良いし、無いなら炊き出しがある。飯を食ったらあたしの家に来てくれ。頼みたい事がある」


 そう言ってイベレットは掘っ立て小屋が並ぶ一角に存在している、白い煙が上がる屋台のようなエリアを目で追った後に、村の奥の少し小高い丘に存在している一際目立つ煙突のある家を指差した。

 実に分かりやすい案内だ。


 そして深い溜息を付きながら去っていく。

 明らかに「なんでこんな連中をここに入れちまったんだろうねえ」とでも言いたげな後ろ姿だ。胃が痛い。

 そして俺の気苦労も知らない少女達は好き勝手な事を言っている。


「ご主人様、早く食事を取りましょう。早く食事をしなければこれ以上動くことが出来ません」

「アカリさまにはぁ、本当は私が大好物の唐揚げとミートソースパスタを作ってあげたいんですけどぉ、ここにはそんな材料が無いのでとても食べさせてあげられないのが本当に残念で…… でも私としてはアカリさまと一緒に食べられるならたとえただ水でも美味しく頂けますし、元気百倍になっちゃうんですよぉ! というか何を食べるか一緒に選べる日が来るなんて夢みたいでぇ…… えへへ、えへへへ……」


 食事どころではない。

 というより、イリス。お前は最初から動いてないだろ。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 適当に食事を終えた俺は、重すぎる戦利品を処分するために武器屋を探す。

 とは言うものの、看板も無いのでなかなか見当たらない。


「うえーっ、さっきの変な味がまだ残ってます」

「お前が食べたいって言ったんだろ」

「そうですけどぉ……」


 変な魚のフライを頼んで大失敗していたルイカ。見た目からして気持ち悪そうな物だったのに無理して食べるからそうなる。


「変なのがあったら食べたくなるじゃないですかぁ。なんか食べ物の方から呼ばれるような気持ちに普通はなるじゃないですかぁ」

「ならないぞ」

「なりませんね」

「ええ……おかしいよぉ……」


 そんなやり取りをしていると、ようやく武器屋を見つけた。 

 中に入ると、隙間風が入り込む急場凌ぎの壁に幾つもの武器が飾り付けられているのが目に入る。

 そしてカウンターの奥ではラーメン屋の店主みたいに鉢巻して腕組みして立ってこちらを睨みつけているハゲたおっさんがいる。ラーメン屋と違うのは腕に凄まじい模様の入墨があるという事だ。


「すごい……」

「ルイカ、武器をくれ。あとイリスを頼む」


 イリスを下ろし、その代わりにルイカが背負っていた幾つもの武器を手にする。

 そのまま俺は迷わずに店主の前へと行くと、腰からぶら下げていた装備を幾つかと、ルイカに背負わせていた武器を何本か乱雑にカウンターの上に置く。

 ちょっとした小山ほどの量になった戦利品を前に、流石のハゲ店主も目を丸くして見ている。


「これを全部売りたい」

「ふん。あいよ」


 店主は俺を二睨みすると、俺が置いた武器をルーペを使って念入りに確認していく。


「これが銀貨一枚。これが銀貨二枚と銅貨五枚、こっちは銀貨二枚……」


 その言葉通りにジャラジャラと置かれていく銀貨と銅貨の山。

 俺はそれを一枚一枚よく確認していく。 


「これとこれは欠けてて使えない」


 差し戻すと露骨に舌打ちして見せる店主。しばくぞ。

 改めて受け取った銀貨をジャラジャラと財布代わりの革袋に入れていく。すっかりと重くなって実に嬉しい。


「~~♪」


 すっかり機嫌を良くした俺は、一通り店の中を見て回る事にする。

 しかし店構えと同じようにどれもこれも微妙な武器だらけ。誰が買うんだこんなボロっちい武……


「!?!?!?!?」


 俺はある武器を目の前にして固まった。……反りの入った刀に似たその武器の柄には大粒の碧色の宝石がはめ込まれ、流麗な金細工が隅から隅まで余すところなく施されている。

 明らかに異彩を放っていた。それだけではない。この刀から感じることが出来る強力な魔力が、もう尋常ではないのだ。

 少なくともレア級の品、もしかすればそれ以上のネームドやレジェンダリーと呼ばれるクラスに強力な品である事は間違いない。


 それを実際に手にとって確かめようとした瞬間、俺の横にやって来てた店主のおっさんの毛深い手が刀を奪い取っていく。


「こいつは金貨七十枚だ」

「七十枚!? 嘘だろ!?」

「嘘じゃない。な・な・じゅう・まい・だ。言葉が分かるか? 分からないならさっさと出てけ、わかったか?」


 癪に障るような声で喋るおっさん。どう考えても煽られている。

 金貨七十枚だと? 気が遠くなるほどの値段だ。家が余裕で立つんじゃないか? どう考えても売る気がない。

 というよりよく見たら値札の所に金貨二十枚って書いてあるじゃねえか。なんで値段上がってるんだ? どうなってるんだ? 完全に舐められてるのかこれは?


 今の俺には選択肢が三つある。

 そう かんけいないね

 殺してでも うばいとる

 ゆずってくれ たのむ!!

 この三つだ。


 いやもうこれは真ん中しか無いでしょう。真ん中だ。俺は心の中でカーソルを真ん中の選択肢に合わせてボタンを押しかけ……た所で現実に引き戻された。背中全体にむにゅっとした柔らかい感触を覚えたのだ。


「ダメですよぉ、アカリさまぁ、こらえてこらえて」


 背後から抱きとめてきた胸の柔らかさで我に帰った俺は、間一髪で賞金首になる所を留まる事が出来た。

 ルイカのおっぱいに感謝するんだな、ヒゲ親父!


 いい装備が売ってても金が足りなくて買えないという事はゲームだとよくある。

 よくあるのだが、まさかこの身で体験する事になるとは思っていなかった。

 それでもあの刀欲しかった……多分次来たらもう置いて無さそう……


 そんな事を考えていると、ルイカが耳元で囁く。


「殺るなら私が殺りますよぉ、アカリさまが手を汚す必要は無いんですよぉ」

「……」

「アカリさまに対してあの態度とかぁ。死ぬしか無いですよね? 舐めてますよね? 命が惜しくないってことですよね?」


 そう言いながら指をパキパキと鳴らすルイカ。

 彼女は本気だ。多分俺が抑えなきゃ数秒後にハゲをミンチにしてる。


 自分よりキレてる人間を見ると逆に冷静になれるってアレ、本当だった。すっかりと店主に対する憤りはどっかへと消え失せてしまった。

 すっかりと落ち着いた俺は今度は逆にルイカを抑えて店の外へと追い出す。


「はいはいこらえてこらえて ステイステイ」

「止めないで下さい、アカリさまぁ!」


 止めなかったら確実に賞金首だぞ。

 外に出た途端にどこからか湧いてきた変な兜被った連中に取り囲まれてスターーップ!されるんだぞ。流石にそれはノーサンキューだ。

 ……というかなんで俺が止める立場になってるんだ?


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