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杞憂、そしてこれから

すみません。力足らずで尻切れトンボに終わってしまいました。今の所自分の実力では、これが精いっぱいです。

 霧透は勇気を出して、しとねをデートに誘うことにした。いつになるかはわからないし、自分の出番がすぐ来るかは不明だった。唯歌には、自分の思いが真剣だという事だけを伝える。今までは、普段の連絡だけだったのでボールペンで書けた。だが、今度は、シャープペンシルを使用してみた。何度も書いては消し手を繰り返した。なるべく跡が残らないように弱い筆圧で、記入しようとするが、どうしても強く書いてしまう。何度か芯が折れて飛んでいった。


 彼の思いは唯歌に伝わるだろうか。クールな彼女からは「考えが甘い」と切り捨てられそうな気がしている。でもここで、真剣さを伝えておかないと後悔すると思った。自分は女性の身体だが心は男であること、身体には手を加えないが、男として生きていくことを認めてほしいと伝えた。



 唯歌は霧透の思いのたけを綴ったメモを読んだ。彼の真剣さは伝わってくる。しかし相手のあることだし、しとねがどう思っているかは、唯歌にはまだわからない。霧透の出番に合わせて着物でやってきた、あざとさを警戒していると伝えようと思って迷った。あの日に、唯歌が来る可能性だってあったはずだ。もしかするとしとねは、本気で賭けに出たのかもしれない。その可能性も捨てきれない。


 唯歌は、二人に全てを委ねることにした。もし、しとねとの出会いで霧透の生活態度に変化があれば、日々の生活費などに影響が出るだろうし、その場合は唯歌は彼に直談判すればいいと思っていた。彼が、掴んだ幸せというのが砂上の楼閣なのか、地に足のついたしっかりとした恋愛なのかは、現時点では見当もつかない。

唯歌としては、もう一人の自分の幸せを祈りたい気分であった。


 彼女から見て、彼は女々しいし見通しの甘い所がある。もしかすると、唯歌が持ち合わせるべき女性的な部分を彼が根こそぎ持っていったのかもしれない。その上で、彼は男として生きるという難事業に打ち込まなければならないのかもしれない。それが霧透に与えられたカルマという物なのだろう。


 唯歌より先に、恋の切符を手に入れた霧透に対して、嫉妬と言う感情は持ち合わせていなかった。むしろ彼が男として、この先上手くやって行けるかを心配していた。苫米地しとねは、信用に足る人物なのかはわからない。現時点では不安の方が強いが、女の勘に頼るのも霧透に対して不誠実だと感じていた。



 霧透は、Tシャツの上にストライプ柄のシャツを着て、下は膝の出たデニムを着て男らしさを演出しようと一生懸命だった。待ち合わせ場所に、苫米地しとねが、カットソーにフレアスカートで来ると、車道側を歩いて一所懸命エスコートしている。何度も下見をした、こじゃれた喫茶店に入る。高い鐘の音がして扉が閉まる。テーブルに置かれたアンティークな置物の数々が、二人の時間を特別なものにした。


 メニューを見てお互いの飲み物を決める。やがてウェイターが注文を訊きに来た。霧透は極めて紳士的に振るまい、相手に対して丁寧な言葉で注文を告げる。彼には気負いがまるでなく、自然体のまま事を進めた。それが魅力となってしとねにも伝わっていく。いつしか、二人は本物の恋人同士というオーラを身にまとって、距離を縮め合った。


*


彼ら二人の接近をノートを通して、唯歌は少しずつ脳内で風景を組み立てていった。最初の杞憂はかき消すように消え、ちょっと異色な男女のカップルとして立ち位置を深めつつあった。苫米地しとねの性傾向が、相手がFtMでもかまわなかったようだ。このまま自然に進んでいけばいいと唯歌は考えている。相変わらずファミレスでのデートが主体だが、多層系で誰に切り替わるかわからないので、予約が取りづらいのが原因である。でも二人の間ではそのことはさしたる問題ではないのかもしれない。


 あの日、気がかりだった心配はなんだったのだろうか。もしかするともう一人の自分が余計なダメージを受けないように、防御に回っていたのかもしれない。唯歌は自分にも、弱さを発見して苦笑する。いつか自分も恋をして、男性と付き合うようになったら、その後はどうやって回していくのだろうか。気にはなったが答えは出なかった。未来の事は誰にもわからない。


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