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第15話~旅立ち~

「司! もう三日だよ。まだ元気でないの?」


 部屋の外からした花音の声で司は目を覚ます。


「うん。体が重くてやる気が出ないんだ」


 司が目覚めてから三日が経過していた。だが、司は涙を流して後悔するだけ。何もしない。何もやる気が起きない。抜け殻のようになってたいた。


「ご飯も食べてないんでしょ? 食べないと元気でないよ」


「うん。食欲がないんだ。あと、不死身だから大丈夫だよ。どうせ死ねないから」 


 司は不意に口を滑らせてしまう。それは花音にとって最も聞きたくない言葉だっただろう。


「死ねないってどういうこと! 死ぬつもりなの!」


「なんでもないよ! ほっといてくれ!」


 司は悟られると思い、強い口調になってしまう。一連のやり取りは、花音に何かを気づかせるのに十分な材料となってしまった。


「もしかして、誰かに聞いたの?」


 何を聞いたのか、花音は言わない。司は、何のことだ? と言おうとするが、なぜか声が出なった。


「………………」


 司の沈黙で花音は理解したようだ。


「そうなんだ。誰かに聞いたんだ。アインさんかな?」


「ごめん。本当にごめん」


 ただただ、謝罪の言葉が頭に浮かんでくる。


「どうして謝るの? 嘘をついた私がいけないんだよ」


「ごめん。ごめんなさい」


 司は嗚咽まじりで涙を流しながら謝罪し続ける。


「私に攻撃したことも知ってるんでしょ? 気にしなくていいんだよ。あれは司の意思とは関係ないし、同じことがあっても絶対に私が助けてあげる! 守ってあげるから! 司は何も悪くなよ」


 花音の言葉で、司はさらに涙を流す。


 まただ。また守ってもらう。その優しさは嬉しくないよ。全部悪いのは自分なのに。暴走して人を傷つけて。花音の優しさを無視して真実を知りにいった。その結果がこれなのに。どうしようもなく、自分に腹が立つ。本当に消えてなくなりたい。


 一週間の間、司は考え続けた。今後どうすべきか。どうなりたいのか。強くなって花音を守りたいという気持ちはまだある。でも怖い。また記憶を失い暴走して、誰かを傷つけるかもしれない。次もしなったら、今度は花音まで………。恐怖が司の思考を縛り付ける。


 その日の夜、司は決意する。花音から離れよう。誰もいない場所でひっそりと息をひそめて。そうすれば花音も傷つけないですむ。司の考えは変わっていなかった。花音を傷つけるぐらいなら自分が犠牲になる。その一心だった。


 明日にはこの国を出よう。司がベットに入ろうとすると、部屋の窓が急に開き、窓から誰かが入ってくる。誰か確認しようとしたがフードを被っているので顔が分からない。


「だれだ!」


「お前はこの国に必要ない!……だそうだ」


 口ぶりからして、この国の誰かなのは確かだろう。


「暴走するからか? また人を襲うかもしれないからか?」


「そういうことらしいな。だからお前をこの国から追放しに来た」


 やはり、この国にとっても邪魔な存在らしい。さっさと消えるとしよう。司の決意がさらに固くなる。


「それなら心配なく。明日、この国を出ていきますから」


「そうか。だがそれは許可できん。私も任務として来たんだ」


「もしかして、アインさんですか?」


 どこかで聞き覚えのある声、それはアインさんのものだったと司は気が付いた。


「ハッハッハ」


 笑いながらフードをとる。その顔はアインさん本人だった。笑い終わると、真剣な眼差しになる。


「やっぱりばれるよな。小細工は無しだ。俺はとある人物からお前をこの国から消すように頼まれてる。理由はさっきのとおりだ。本当は殺してからどこか遠くに移動させるってことなんだが、俺はそんなことをしたくない。君は不死のようだが痛みはあるんだろ? だから、自分から出て行ってくれ。どこか遠くに俺たちの目のつかない場所に」


「…………でも」


 アインさんの言っていることは正しい。司はそう思っていたが、一つだけ気がかりなことがあった。


「東条さんのことが心配なんだろう? それなら心配するな。必ず守ってみせる」 

 

 アインさんからは、書庫であった騎士団員のような嫌な感じはしない。嘘を教えている側より、嘘を信じている側といったところだろう。多少安心して任せられる。ただ、やはりこの国は危険な感じがする。


「それでは」


 窓から司がでようとすると


「君は東条さんを傷つけないために国を出ていこうとしたんだろう?」


「そうですよ」


「それなら、能力を使いこなせるようになれ。まずは知ることだ。知れば知るほど恐怖はなくなる。君は強い。使いこなせれば誰にも負けないほど強くなれる。必ずだ!」


「いろいろとありがとうございます」


 司はお礼を言って窓から出ていく。アインに言われた裏道を通り、門の外に出た。


 次の日、一人で出て行ったとしたら、司は何も考えず何もしない。抜け殻のままだっただろう。一生花音に会うこともなく。

 だがアインの一言で、司は変わっていた。花音を守れるぐらい強くなる。別れ際の一言で、再び司の心に灯がともったのだ。


「花音。いつか必ず、強くなって帰ってくる。何が来ても花音を守れるぐらい強く!」


 司は歩きだした。先の見えない暗い道を、どこに向かうかも分からないまま。 

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