異世界二日目
今回から文章を変えてみようと思います
ご容赦ください
異世界に来て二日目の朝である。
わかってはいたが、朝起きて今までの体とは違うことにアカネは違和感を感じていた。
横に目を向けてみると、同じように自分の体を見つめている月夜と目が合いお互いに挨拶を交わす。
結局昨日は色々とあって同じ所から動いてないアカネは、改めて今日から本格的に動いていこうと考えていた。
頭の中で今日の予定を考えながら朝食を済まし、アイテムボックスの中にある歯磨きセットで口を濯いでいると、ふと思い付いたことをシキに問いかける。
「あのさ、今の装備を違うものに変えたいんだけど」
―というかもうそろそろ服を着替えたい。
いくら今の俺にミニスカートのブレザーが似合っているとはいえ、一日同じ服を着続けるのはどうかと思う。しかし改めて見てもほんと似合うわ、俺。笑顔で決めポーズとかやっちゃうと超かわいい。これはセーラー服もいけるんじゃないか?
とにかく、今さらかもしれないがアカネは装備の変更について考え始めた。
今の装備が通用しない相手とかいるかもしれないし、今のうちに装備の確認をしたい。別にセーラー服に着替えたい訳じゃない。
そんなことを考えていると、シキから予想外の言葉が聞こえてきた。
『現在、装備の変更は許可されてません。装備の変更をするには危険区域から脱出してください』
「・・・はい?」
ー装備の変更は許可されていない?危険区域?初めて聞いたんだけど?
アカネは今までに無い対応に頭が一瞬真っ白になった。
今までは頼んだことは言った通りにやってくれたし、できないことも物理的に出来ないなど納得のいくものだった。
しかし今回のは違う。
装備は昨日目の前で出してくれたし、今までも市街地とかでなくとも装備の変更はできたから恐らく物理的には可能なはずだ。
またそこに被せるように新しく追加された『危険区域』が余計にアカネの思考を混乱させた。
アカネはフェンリル・オンラインを三年間も続けてきたゲーマーだがそんな言葉を聞いた覚えがないのだ。また、そんなところに自分達は居るという事実が混乱に拍車をかける。
ー落ち着け、俺。
予想外の展開に知らない言葉で混乱しているが、それがどうした。そんなの昨日からそうじゃないか。それでもどうにかしたのが俺だろうが。こういうとき、俺はどうしていた?わかっていること、確かめられることを順々に冷静に調べて理解していっただろうが。冷静に自分の体を隅々までさわって、確認していっただろうが。やばいムラムラしてきた。
アカネの中で色々と思考が混乱していたが、それでもなんとか疑問を絞り出すことはできた。
「・・・危険区域ってのはなんだ?」
『危険区域とは、空気中の魔力濃度が軍が規定した数値を著しく越えた環境を指します。”侵食”された土地は概ねこれに該当します。この環境にありますと装備の変更を禁止されています。装備を変更する場合は安全区域または撤退区域に移動することをおすすめします』
「・・・月夜、わかるか?」
「ここで装備の変更ができないのはわかりました」
「そうか、俺もだ」
説明に対して不備があったわけではない。
今いるここはゲームで言ったらモンスターが出てくるフィールドである、ということは分かった。
ゲーム時代は戦闘用のフィールドでは装備の変更はできなかったし。
問題は危険区域ではなぜできないのか、である。
ゲームの頃はそういう仕様だと納得できていたが、今は現実となっているのだ。多少の融通は通るものではないだろうか?
説明によると、ここは魔力が濃すぎることが原因らしい
しかし魔力が濃いとなぜ出来ないのか?
一つの問題を解決しようとすると新しい問題が生まれてくるが、それでも理解していかないとならない。
「その、なんで魔力が濃いと装備の変更ができないんだ?」
『装備の変更は精密な物体変換と亜空間技術を併用した魔法技術を使ってます。対象の体に合わせて精密に魔法をかけますので、使用する空間に濃い魔力がありますと失敗する可能性が上がります。その場合、対象者に何かしらの傷害を与えることがあり得ます』
「俺たち魔法の力で着替えてたの!?」
ーここに来て衝撃の新事実!
そういやたまにどうやって着るんだろうっていう装備とかあったけど、あれ魔法の力で着てたんだ。継ぎ目の見当たらない鎧とか、一人で着れそうにないデザインの服とか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「たのむよ、そこをなんとか」
『許可できません』
「そんなことを言わずにさぁ」
『許可できません』
その後アカネたちはなんとかして装備の変更ができないかお願いしてみるが、いっこうに色好い返事は聞けない。
一生懸命に頼んでいるのは別にただセーラー服に着替えたいだけじゃなく、他の装備が使えないっていうのはかなりキツいからである。。
ゲームの通りなら戦う相手に合わせて武器を変えなくては、いつか勝てない相手にぶつかるだろう。
ゲームなら例え死んでもチェックポイントでリスポーンして終わりだろう。
だが今は現実となったのだ。ゲームの中だったら一回のクエストで五回ぐらい復活できたが、今は一回もできる気がしない。
だからこそ、装備に関しては万全にしたいのだが・・・。
『許可できません』
「・・・こりゃダメですね。頭堅すぎますよ、こいつ」
「そこはやっぱりプログラムってことか」
結局あの後、アカネと月夜でお互いのシキに頼んでみたが返事は全て同じ言葉であった。
「こりゃ本当に探すしかないんですかね。安全だか撤退だかの区域を」
「そうなるか」
ー願わくば、俺たちの旅の目的である”消えた土地”がそうであるといいのだが。他に当てもないしな。
というか地味にピンチだわ、これ。
昨日パンツは脱ぐことができたから服を脱ぐことはできるかもしれないけど、今は他の服がないし。
「尚更ここでジッとしてる訳にはいかなくなったな」
「そっすね。このままじゃオレたちずっとこの服着ていかなきゃならないんスから」
改めて、旅をしなければならないと実感する。
確かに当面は死ぬことも飢えることもなさそうだが、そんなのほんの少しの間だけだ。
元気のある今のうちに行動しなければ後々、絶対後悔する。そんな気がしてならない。
「それじゃ、行くか」
「はい!」
こうして旅の準備を終わらせたアカネと月夜は旅立つことにした。
とりあえずの目的地をめざして。
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「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
あれからどれ程の時間がたったのだろう。
最初は意気揚々と旅に出たが、今では微妙な沈黙がアカネたちを包んでいた。
今更かもしれないが、この二人は森を歩くというのは初めてである。
元々インドア派で運動が得意というわけではなく、自然を歩くというのは学校のイベントでしか歩いたことはない。その歩いたという経験も自然を壊さない程度に人の手で整備された道を歩いたぐらいである。
少なくとも、整備されてない森を左の腕輪のなんとも怪しいコンパスを便りにまっすぐ突き進むというのは、人生で経験どころか考えたこともなかった。
当然そんなことをすれば、様々なトラブルに巻き込まれるの当たり前の結果であった。
まず枝が服に引っ掛かって動きにくいから始まり、泥に足がとられる、髪が枝に絡まる、めっちゃデカイ虫が顔にぶつかる、気づいたら離れ離れになりかける等々。
細かいことを含めればこの何時間の間にいくつものトラブルに巻き込まれた。
他にもさっきから景色が変わらなかったり、時間の感覚がわからなかったりという事も彼らの精神を追い詰めていった。
幸いと言うべきか、体の方は丈夫になったので怪我もスタミナも問題はないが、心の方が大分根をあげはじめてきたのだ。
とはいえ人は学ぶもの。トラブルに巻き込まれれば、それなりに対処を考えできるものである。
枝が引っ掛かるならナイフで危なさそうなのを切りながら進めばいいし、歩き方を工夫して足がとられることも少なくなった。
「・・・今更だけど、俺たちどれくらい歩いたのかな?」
『出発されてから3時間27分ほど経過しました。移動速度と時間から設定された目的地のおおよそ6割の距離を経過した計算できます』
「・・・・・・あと4割か」
果たしてこれは順調と言えるのだろうか?ゲームの中の時間と現実の時間が違うとはいえ、ここまで距離は違うのか?そもそも自分の考えは正しいのだろうか?5時間以上も歩いて何もなかったらどうしようか?やはり違う道を考えるべきじゃないのか?
そんな漠然とした不安にアカネと月夜は嫌な沈黙に包まれながら歩き続けていた。
誰が悪いわけではないが、予想以上の疲労に話をする気力は失われていた。
しかし、そんな沈黙は関係ないとばかりに左の腕輪からポンっ、と音が鳴った。
『アカネ様、月夜様。11時の方向に、複数の生命体の反応が感知されました』
生命体。これはもしかしたら他の人間と出会えるかもしれない。
一瞬そんな希望を抱きかけたが、アカネは即座にシキに詳しく聞き出す。
「数と距離は?」
『数は感知した限り11体、距離1㎞ほどです。・・・移動を開始しました。こちらに向かってきます。距離およそ900m。・・・800m。・・・700m』
シキに確認をとらせたが、これは人間ではないとアカネと月夜は確信した。人間が森の中をこれほど速く走れるとは思えないし、それをずっと維持できるとは思えない。
そう二人が考えた瞬間、二人は腰に手を回しそこにある武器に手を伸ばした。瞬間、コンッという音と共に青白く光ると二人の手にはそれぞれ武器が握られていた。
アカネは右手に黒く短いナイフ、左手にはメリケンサックが嵌められていた。
月夜は紫色の宝石が填まった木製の杖が両手で持つよう現れた。
『距離およそ500m切りました。400m、300m、200m』
シキに言われた方向を見ると、それ自体はまだ見えなかった。
しかし確かになにかが向かってきているのか、茂みがガサガサと動いているの見えてきた。
100m、とシキが言い終わった直後、”それ”は姿が見えた。
それは一言で言うと『狼のような生き物』だった。
ギラギラとした黄色の目に白く鋭い牙。
硬そうで野性味溢れる緑色の毛皮。
ピンと尖った耳とフサフサの尻尾。
四つ足で駆けてくるそれはまさしく狼だが、全体の色がそれがただの狼ではないということ訴えかけてくる。
ウインドウルフ。
ゲームでは序盤に出てくるそれは、ゲームの頃とは比べ物にならない迫力と勢いでアカネたちに襲いかかった。