閑話 満点の星空の下
読まなくても本編には大して問題ありません
会話文多目です
「それで、理想のシチュエーションだっけ?」
「そうですよ!ここまできてダンマリは無しですからね!」
異世界に来て初日の夜、満点の星空の下、寝袋に包まれながら俺たちは修学旅行の夜にやりそうな話をしていた。いや、うちの学校だと放課後や休憩時間でもこんな感じの話題で盛り上がったっけ。
それで今はさっき話した月夜の話を俺がバカにしたという冤罪で俺が今度は理想のシチュエーションを語る番が来たと。別にしちゃいねぇんだけどねー。
「そういや俺の理想の女の子って語ったけ?」
「『明るくてビ○チ感がある距離感の近い黒ギャル美少女女子高生』でしょ。さすがに忘れたりしませんよ」
「よく覚えたな、それ」
まぁお前の『黒髪ロングの大和撫子のような世話好き甘やかし系お姉さん』なんてものを覚えた俺も人の事を言えないけど。
しかしそれだけじゃぁ俺の理想は語りきれないぜ。
「あー、じゃあそうだな。まず語る前にさ、俺としては『理想の距離感』ていうものがあるんだよ」
「距離感・・・すか?」
「そうそう。幼馴染みとか、学校の先輩後輩とか。距離感っていうかポジションの方かな?そういうのが俺は大事だと思うんだよ」
「へー。・・・それじゃセンパイ的に理想のポジションってなんなんすか?」
適度に相づちを打ってくる月夜に、俺はニヤリと笑いながら宣言した。
「ズバリ・・・、『友達以上恋人未満』!・・・だな」
「・・・・・・・・・へぇー」
「なんだその反応は!良いだろう!お互い友達よりも近い関係と思っていながらも恋人とは思ってない関係!」
思わず声が強くなってしまうがしょうがない。男には引いてはいけないときがあるのだ。
「ああ・・・。周りから付き合ってるように見えるぐらい仲良いのに『お前たち付き合ってんの?』って訊かれると『ただの友達だよ』とかの返答する感じすっか?」
「そうそう!でもどう見てもただの友達には見えない近い距離感!お互いの好きなものとか嫌いなものとか知っていてそれ友達が知ってるようなことじゃないよね?っていう事を知ってる感じ!」
「普通に考えたら恋人同士でしかやらないようなことを当たり前のようにやってるような感じは?」
「あー・・・、いいね。やり過ぎもアレだが二人で遊んだりとかどちらかの部屋に遊びに行ったりとかっていうのは好きだわ」
「二人っきりで遊んだり相手の部屋に行ったことはあるのに当人たちは恋愛的な意識はないっと思ってる?」
「そうそう!」
よしよし。俺の言いたいことは大分伝わったようだな。
「というかお前もあんだろ?そういうの」
「オレですか?オレはやっぱり『昔から仲良しな近所のお姉さん』っていう感じですかね。こう、優しさと包容力を感じられそうっていうか」
「昔から仲良し?幼馴染みとかは違うのか?」
「いや、幼馴染みとは違いますよ!むしろ幼馴染みのお姉さんとかそんな感じっていうか!いや幼馴染みとかいませんけど!」
「あー・・・、なんかわかる。友達のお姉さんとか妙にドキドキしたよな」
「そうなんすよ!わかってくれます!?友達の家に遊びに行くと笑顔で出迎えてくれて優しく話しかけてきてほしいんですよ、オレ!ぶっちゃけお姉さんって最高じゃないですか!なのになんでこうかわいいお姉さんは漫画やアニメで不遇なんすかね!?」
「それを言ったら俺の好みギャルなんて影も形もないぞ」
なんか話が若干ズレてきた気がするな。このままでいい気がするけど、とりあえず話を戻してみるか。
「とにかく、理想のシチュエーションなんだけどよ。さっきお前の『疲れて家に帰ったら・・・』っていう流れなら俺もあるぜ」
「おっ!マジっすか!聞かせてください!」
何でこいつはこんなにテンション高いんだろ?
「例えばさ、俺がバイトとかでミスしたとかで落ち込んでてそれで家に帰るだろ?それで家に帰るとそいつがいるところは同じなんだよ。俺の場合部屋の中で料理を作ってくれたりとかしないで、ドアの前で待ってて遊びに来たって感じで」
「ほうほう」
「それで向こうも訊いてくるわけだけど、でも俺そういうの言いたくないんだよ。弱音とか愚痴とか吐くの。それを向こうも知ってるわけ!」
「おお、それでそれで!」
「だから向こうも深くは訊かずに話を変えてくるわけだよ。今日こういうことがあったとか最近はまってるドラマとか。そういう当たり障りのない話をオーバーな感じで話して盛り上げてくれようとしてくれるわけよ!」
「ほう!」
なんか話してくうちにどんどん俺のテンションも高くなってきちゃうけど、こんな話普段しないから仕方ないよね。
「それで必死で元気にしようていう感じに俺もいつもの調子を取り戻すんだよ。それでもなんていうか微妙な空気が漂ったりするんだけどね。それでふとそいつが遊びに来たのを思い出して何するのか訊くんだよ。そしたらなんでか映画を見ることになるんだよ。なんでかね」
「ほ、ほう!」
「いきなり映画とかって話していると気づいたら近くのレンタルショップに一緒に行くことになったりしてな。それでそいつは俺が好きなシリーズのやつを持ってくるんだよ。それでそのまま帰りにコンビニなんかでお菓子を買ったりした後、俺の部屋で上映会よ。その時当然だけど二人並んで座るんだけど、お互いの肩がくっつきそうなぐらいに近いんだよ。近いけど、別にお互い意識してないんだよ。無意識にそんぐらい近い距離にいるというか。それで・・・」
「ちょっと待って!」
人が大分テンションが上がって来たタイミングで月夜が止めに入ってきた。いったい何よ?これから映画の感想を言った後の俺なりの萌えポイントの話になるのに。
「今さら訊きますけど、これセンパイの妄想ですよね!なんか話細かすぎない!?」
「バッカお前!こういうのは一度勢いつくとどんどん生まれてくるんだよ!もう止まんねえんだよ!ねえのか!?そういうの!?」
え!?もしかして俺だけ!?こういうの!?やべー、そうだとしたら今さらながらに恥ずかしいんだけど。俺だけじゃないよね?
「そう・・・いうもんですかね?いや、わかりますけど俺の場合もうちょっとアバウトって言いますか。考えてみたらどうして俺の部屋にいるのかとか考えたことなかったすね。というか妄想の中ではオレ独り暮らしですし」
「まあみんな口に出さないだけでこれぐらい妄想してるよ。飽きずに続けているとどんどんクオリティーは上がっていくから。ていうか他の友人からそういう話しないの?俺の高校時代はそういう話題で盛り上がってたけど」
そういうと月夜はなぜだか微妙な顔をした。どうした?
「あー・・・、オレ、学校では非オタのふりしてるんですよ。だからこういう話で盛り上がったことがないっていうか。女子ともたまに仲良くしてるのであんまオタクな話できないんですよね」
「え・・・。お前、リア充なの?」
「どう・・・なんですかね?クラスの中心みたいな奴とは仲良くしてますけど、あいつは誰ともそういう感じだし。・・・その、実は高校入るときに脱オタしようと思ったんですけど、なかなかやめられなくて。でも今さら『オレ実は・・・』とかカミングアウトできなくて」
「へー、共学だとそういうのあるんだ」
やっぱそういうの男子校とは違うんだな。少なくともうちの学校はオタクを隠すやつはいなかったのに。
「センパイはそういうの無いんすか?」
「うちではそういうのなかったな。最初っからオタクだって堂々としてたわ。それで苛められるとかなかったし、オタ友とかその時にできたな。フェンリル・オンラインもその友人が教えてくれたし。ていうかお前も友人に教えてもらったんだろ?」
「オレの場合、中学校時代の友人ですよ。違う学校に行ったんですけど、家が近所だからよく会いにいってたんですよ。・・・そっちの話できるのそいつだけだったんで」
「・・・今度からは俺も聞いてやるから」
「センパイ・・・」
・・・なんだかしんみりしてしまったが、よくよく考えたらこいつオタクじゃない友達はいるんだしそんな気にする必要ない気がしてきた。いや、別に良いんだけどね。
「それじゃ、次はお前の番な」
「え?」
「え、じゃねーよ。疲れて家に帰ったら・・・の続きだよ」
「え?ええ?」
「話聞いてやるっていっただろ?ほら続き。料理しながら出迎えてくれてそれからどうするんだよ?」
「ええええ!いや、それ言ったらセンパイの話も途中ですし!オレの話なんかよりもどうぞ続けていただいて結構ていうか!」
「遠慮するな。じっくり聞いてやるよ」
そういいながらお互い譲り合ったり交代しながら話をし、気づけば二人仲良く寝落ちしていた。
・・・なんだか本当に異世界に来たというよりも友達とキャンプをしているような気分だが、こんなんで大丈夫だろうか?