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理想の姿になりました  作者: 屋野五月
7/14

お互いの自己紹介とこれから

「へー、それじゃ月夜には妹がいるんだ」

「そーなんッスよ。ワガママだし生意気なんスけど」


 あの後俺たちはお互いについて語り合った。

 ゲームや当たり障りのない事じゃなく、もう少し踏み込んでお互いについて話始めた。

 ちなみになんでセンパイなのかと訊いたら、『だって、色々とセンパイじゃないッスか』と不思議そうな顔をされた。別にいいけどね。


「それでも、妹はかわいいんだろ?」

「いや、それは、まあ、うん。かわいいッスけど」

「えー、いーなー。かわいい妹いーなー」

「いや、かわいいのは確かッスけど、あいつめんどくさいんッスよ」


 何が好きなのかとか。家族の構成とか。最近現実であった面白い話とか。

 そういう、なんということはただの日常。

 話す必要があるのかと言うと、別にある訳じゃない。

 ただ自分が話したいから話す。それだけなのに、とても心地よかった。


「めんどくさいってどんな感じよ?」

「えー?なんつースか・・・いわゆるギャルなんッスよ。髪の毛金髪にしたり、じゃらじゃらアクセサリーとか着けたり、マニキュア塗ったりしてる。こいつが全然いうこと聞かないんッスよ!」

「その娘、黒くて巨乳?」

「まず訊くことがそれッスか?白くて貧乳ッスよ。今は同じ学校通ってるんですけど、学校で話しかけると嫌そうな顔をするし、LINEとか既読無視するし」

「へー、話だけ聞くと思春期真っ只中って感じだよな」

「そりゃ話だけ聞くとそうかもしれないかもしれないッスけど、当のオレにはたまったもんじゃないッスよ。口は悪いし、素直に謝らないし、こっちが怒ってもどこ吹く風だし。オレの友人や先生とかには礼儀正しくて真面目なんスけどねぇ。・・・オレ、兄として威厳ないんスかね?」

「それは・・・、なんとも言えないけど」


 もうすでにお互い作ったキャラは脱ぎさって、素の自分を思いきり出している。

 スカートなのにあぐらかいたり、来ていたローブをはだけてラフな感じにしたり。


「もしかして、その大学生ぐらいのお姉さんが好きなのは、妹ちゃんの反動?」

「まあ、そうッスね。ああいうわがままな女は妹だけで十分っていうか。包容力ていうか、バブミ?みたいなのがある女性とか好きですね」

「へー、それ外では言わない方がいいよ。いろいろとあれだから」

「え、今って女性に包容力を求めちゃいけないんスか?」

「いや、そっちじゃなくって」


 そして男が女のいないところで自分をさらけ出そうとすれば、当然女の好みの話になるのは自明の理。自然な流れで自分の理想について語り合うことになる。


「えー・・・、バブミってそういう意味だったんスか。てっきり包容力のある女性のオタク用語かと思ってました」

「まぁ、普通は知らないし思わんわな」

「・・・一応言いますけど、違いますから。オレはあくまで年上の清楚なお姉さん派ですから」

「わかってるわかってる。て言うかどこからそんな言葉を覚えたん?」

「えー、このゲーム教えてくれた友人に『包容力のある女性に甘やかして欲しい』って言ったら『バブみを感じてオギャるのが好きなのか』って言ってて、知らないけどそうそうって」

「分からないことは分からないってハッキリ言えよ。あと、自分でもちゃんと調べろ」

「痛感しました・・・」


 月夜いわく、好みの女は黒髪ロングの大和撫子系お姉さんが好みで、逆に苦手なのはギャル系らしい。

 それでも俺とは普通に接しているのは話し方とか中身はギャルっぽくないからだそうだ。当然だけど。


「ていうか、さっきからオレの話ばっかりなんですけど。センパイはどうなん・・・いや、今の見た目が好みなのは知ってますけど。その見た目の娘とどういうのが好きなんスか?」

「俺?俺はやっぱり小悪魔系な感じで振り回して欲しいわ。デートの服とか普段行かないような所に連れていかれて、ギャルちゃんにの趣味に染められたいわ。デート中もイロイロとイタズラ気味な感じで弄られたいよ」

「イロエロと?」

「イロエロと」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「「・・・・・・ブッフォ!」」


 気づけばお互い目を合わせて吹き出してしまい、そのまま大笑いしてしまった。

 俺はともかく月夜の方は大和撫子というテーマを完全に無視して大口開けて笑っていた。


「・・・はー。あー、笑った笑った。て言うか笑ってるけど、お前もそうだろ。絶対イロエロと妄想とかしてんだろ」

「そりゃまぁ、イロイロと?」

「うわっ、ムカつく。で、どんなんよ?どんなプレイよ?」

「プレイっていうかシチュエーション?オレが学校で疲れたときに家に帰ったら月夜さんが夕飯とか作ってくれてて、それで『おかえりなさい。あれ?今日はなんだかお疲れみたいだね』、みたいな感じで優しくお出迎えしてもら「ふふっ」・・・ちょっとなに笑ってんスか」

「いや、だってそんな具体的に語ってくれるとは思わなかったもん。くくっ、そんで?優しく出迎えてもらってどうなんの?」


 だってそれっぽい姿でそれっぽい笑顔で言うんだから、男がやってるとは思えないクオリティーなんだもん。不意打ちすぎるわ。


 なんだかこうやって話していると高校の休み時間や、クラブの後輩と話してる気分になる。

 高校生だった頃はよくこういう話題で盛り上がったものだ。

 とてもじゃないが異世界に来た初日とは思えない感じ。


「いーや、もう言いません!こうなったらセンパイも語ってもらわないと言いませんよ!」

「えー、そうだな・・・っとやばいな。もう大分暗くなってきたし、先に野宿の準備を始めようか」

「ちょっと!逃げないでくださいよ!・・・って言いたいですけど、ちょっと本気で暗くなり始めましたね」


 改めて周りを見渡すと、気づけばあれから大分時間がたち、傾いた太陽が微かに沈もうとしていた。

 いくらなんでも話しすぎな気がしないでもないが、楽しいかったのだからしょうがない。


「つっても俺、野宿とかしたことないんだけど」

「いや、オレもないッスよ」

「「・・・・・・・・・・・・」」


 嫌な沈黙が流れる。だがここで慌ててはいけない。ここは慌てず騒がず・・・。


「・・・シキ、野宿ってどうやるのか、わかる?」


 たすけて、シキえもぉん。野宿の仕方が分からないんだぁ。








 そのあとはシキの指示通りに動いたらなんとか日が沈む前に準備を終えることはできた。

 今はそこら辺で俺がへし折った木の破片を燃やした焚き火だけが、周りを照らしている。

 アイテムボックスの中に寝袋と携帯食料があったので、当面は問題無さそうだ。

 食事は既に終わらした。というか携帯食料はいわゆるブロック型の栄養食品しかなく、あっという間に水と一緒に流し込んでしまった。


「それじゃ、野宿の準備もできましたし!そろそろさっきの続きを・・・」

「待て待て。それよりも話すことがあるだろう。夜の間は見張りのためにかわりばんこに寝なきゃならんし」

『それでしたら、私が代わりに見張りをいたします。半径一㎞以内でしたらほぼ全ての生体反応を関知できます』


 そんな機能知らないんだけ・・・、もしかして、ゲーム画面の隅っこに敵の場所が記されてる地図が表示されてたけど、あれのこと?


「・・・まぁ、いいや。ちなみ今までの間、俺たち以外の生き物は居た?」

『小型の生命反応がいくつかありましたが、全てこちらに近づく様子はありませんでした』


 小型・・・。少なくとも人間ではないということか。

 それが森の動物なのか、ゲームで見たモンスターなのか。


 モンスター、いるかもしれないんだよな。

 だってゲームの設定上、”侵食”されるとそこにはモンスターがたくさんいるんだもん。

 それに巻き込まれてここに来た俺たちに、無関係だとは思えないんだけど。


 ・・・まぁ、とにかく。シキには今後、こちらに向かってくる生き物がいたらすぐにでも俺たちに知らせるよう指示を出しといた。正直、休んでいいんだったらゆっくり休みたい。


「それじゃ、今度こそセンパイの話を・・・」

「だから待て。それよりも明日の行動についてなんだが・・・」

「いや、そんなこと言ったって、ぶっちゃけ当てもなにもないですよね?」


 まぁ確かに。存在すら知らなかったこんな所に、明確な当てなんてものは存在しない。


「その事なんだが、・・・シキ。方角とか、わかるか?」

『はい。今日一日の太陽の動きからおおまかな推測は可能です』

「よし。それじゃ、シキ。それで構わないからよ・・・」


 だが”フェンリル・オンライン”でなら、一応当てはある。








「元の世界の記録から、俺が巻き込まれた地点に一番近い”侵食”の方向を割り出してくれないか?」








 そもそもあのゲームは『謎の現象により異世界の土地に侵食されている』という設定なのだ。

 では、その侵食された元の土地はどうなったのか?

 昨日までは真面目に考えることはなかったが、こうなってしまっては話は別だ。

 そんな感じで、ざっくりとだが俺なりに仮説を立ててみた。


 ズバリ、『侵食された土地も実はこっちの世界にあるのでは説』である。

 まぁ、あくまでも今俺たちが五体満足でここにいるから消えた土地もここにあるんじゃないの?という仮説だが、なにも指針がない以上、そういうのがあるだけましだろう。当てもなくさまよう方が心にも体にも悪い。

 今は何をすればいいのか分からないのだ。適当な目標を建てて、後はその場で決めればいいのだ。


「・・・ということを、俺なりに考えてたわけなんだが、どう?」

「どうって、何がッスか?」

「いや、一緒に行動する以上、俺の独断で行動するわけにはいかないしさぁ」

「あー・・・、いや、オレだって当ても考えもなかったんですし。それに、センパイについていくって決めましたから!」


 そういってくれるのは嬉しいが、正直不安の方が強い。

 そもそも本来、俺は自分で引っ張るよりも引っ張られたい派なのだ。かわいいギャルとかに。


 ・・・いや、ウジウジ考えてもしょうがない。

 問題なんて出てから考えればいいのだ。


「・・・それじゃ、明日からはそういう感じで。・・・改めて、よろしくな」

「はい!よろしくお願いします!」


 そうお互いあいさつしながら、寝袋に入る。

 こういう安心感は誰かがいないと味わえないのかもしれないな。








「ところで、センパイの妄想するシチュエーションの話なんですけど」

「おまえなぁ。たくっ、しょうがねーやつだな」


 こういう下らないことで眠れないのも、一人じゃ味わえないことかもしれない。

 まぁ、嫌じゃないけどな。


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