お互いに自己紹介をしよう
「それじゃ、軽く自己紹介からいきましょうか」
「そ、そうですね。そうしましょう、か」
てっきり今回のことに巻き込まれたのは俺だけかと思ったが、まさか他にもいたとは。
いきなりの展開に正直ついていけてないが、何とかしなければいけないので話を進めていこう。
「それじゃまず、・・・アタシから。
アカネって言います。
昨日フェンリル・オンラインをやってたら、こんなとこにいました。
近接が得意です。・・・他何を言えばいいんだろ」
とりあえず、口調を変えて女のふりをする。嫌だって、初対面でネカマだと暴露するのはかなりムズいし。
「ま、まぁ、いいんじゃないんですか?それぐらいで・・・。
えっと、わ、私はツキヨって言います。月に夜と書いて、月夜です。
その、基本魔法を中心に後方支援をしています。
ここに居る理由はその、アカネさんと同じです」
改めて月夜と名乗ったプレイヤーの姿を見る。
身長は今の俺より数センチ程度高めで、パッと見た感じ大学生に見える。
肌の色は白く、アバターだから当たり前だがシミ1つない。
髪は艶やかな黒で、今はひとつにまとめた髪を方に垂らすようにしている。恐らく腰ぐらいまで届くだろう。
瞳は特徴的な金色で、タレ目がちの瞳と左目の泣きボクロが何処か大人っぽさを演出している。
胸はゆったりとしたローブで分かりにくいが、そう大きそうには見えない。
全体的にはお淑やかなお姉さん、て感じ?
これ、魔法使いのローブよりも、和服とかの方が似合う気がする。そしたら大和撫子とかになりそうだわ。
しかし、まさか先輩でも後輩でもない同期のプレイヤーに出会うとは。
これはおそらく俺と同じくらいしか現状を理解できてないだろうな。
「失礼ですが、月夜さん。現状をどれ程理解していますか?」
「え?えーっと、正直なにも。多分、ゲームの世界に来ちゃったのかなぁとは思いますが。で、でも昨日やってたマップとは違うところですし、武器もいつのまにか消えちゃってるし」
やばいなこれ。俺より現状をわかってないかもしれない。
これ俺がわかったこと教えていいんだろうか。教えたことで余計混乱したりしちゃうんじゃないんだろうか。
いやでもこれ遅かれ早かれ気づくだろ。だって何処にいこうと今まで見たことのあるものがほとんど無いんだから。拠点としていた市街地もやりなれたマップも。
「・・・あの、アカネ、さん?どうかしました?」
「・・・!ああ、失礼。少し考え込んでしまいましてね。・・・そうですね、月夜さん。月夜さんが来るまでにとりあえずアタシなりに考えをまとめたんですが、聞いてくれませんか?」
結局俺は、言ってしまおうと思った。こういうことは早めに言っておかなくちゃいけないと思うんだ。
「・・・・・・・・・うそだろ」
「実際のところ、あくまでも可能性です。でもかなり可能性は高いと思います」
あの後月夜さんに俺の考察の理由を混ぜた現状の説明をさせてもらった。
体はゲームの頃のものだが、今居る世界は違う世界だと。
現在どうしてそうなったのかさっぱりわからず、帰れるかどうかも不明だと。
それでこれである。ある意味当然ではあるが。きれいなOTLになっている。
しょうがないのでその近くに腰を下ろして話を続ける。
ところで女子って地面に座るときどう座るんだろ。正座?三角座り?・・・とりあえず正座でいいか。
「アタシとしてはここでジッとしててもしょうがないので、近々ここを出るつもりでした。・・・月夜さんはどうしますか?」
「・・・・・・ちょっと分からないです」
だよね。俺も最初はそうだった。でもいつかは行動しなきゃいけないときがあると思うんだ。がんばれ。
・・・何か微妙な空気になったが、さてどうしようか?このままこの話題でいくのはよくない気がするし。
・・・そういえば、今更ながら気になることができたわ。
別に大したことはないのだが、一応訊いておくか。
俺は四つん這いをやめて地面に座りながら空を眺めている月夜さんに話しかけた。
「話変わるんですけど、その、なんで月夜さんはアタシのとこに来たんですか?というか、なんでアタシの場所がわかったんですか?」
「え?ああ、その、最初起きてどうしたらいいかわかんなくって森のなかをうろついてたんッスけど、そしたら大きい物音がして、それでこっちに来たら、その」
そういいながら月夜さんの目がとある方向に向く。色々と気になるがそれらを無視して俺も同じ方向に目を向ける。
その視線の先には俺がやらかした後と言うかなんと言うか、悲惨な感じにめちゃくちゃにされた森の一角があった。
大きい物音、ていうとやっぱアレだよな。俺が大技ぶちこんだ音って言うか。
「その、何があったんですか?こんなこと人の仕業とは思えないんですが」
「・・・えっと、その」
言いづらい!
おもしろそうだから大技ぶちこんだらこうなったとは言えない空気。
「・・・・・・アタシも、月夜さんより少し早く来ただけで、何があったかは」
「そうですか、ですがここにはこんなことができるなにかが居るんですよね?その、怖くないですか?」
「・・・そうですね。すいません」
「?なんで謝るんですか?」
何か謝りたくなって。嘘を言ったこととこんな嘘を信じてくれたことも恐ろしいことを遊び半分でやったことも、なんかすべてに謝りたい。
うん、話変えよう。
「そういえば先程、武器がなくなってたといってませんでした?」
「ああ、はい。あれ、そういえばアカネさんはちゃんと武器を持ってるんですね?」
「それはですね・・・・・・」
よし、このまま俺が知ってることをレクチャーしよう。
そのあと一通り、俺の知ってることをレクチャーした。
「いやーありがとうございました。一時はどうなるかと思いましたよ」
「いえいえ、こういうときは助け合わなくちゃ」
これで月夜さんは武器とアイテム、それとスキルとして魔法が使えるようにはなった。
そのせいか月夜さんの顔が先程よりも明るくなったように感じる。
その後は他愛ない話を二人でした。といってもほとんどフェンリル・オンラインの話だったが。
やれあの敵は強かった。あれはこうしたら簡単に倒せた。本当はあの装備がほしかった。でも手に入らなくって悔しかった。
なんだか本当の自分のことやこれからについて訊く気にはなれなかったのだ。
話しててわかったのは月夜さんは本当は共学校の高校生だということ。まだゲームを今年の春から始めたばかりで、レベルは30代に乗ったばかりでCランクに上がったばかりであること。後衛なのは誘われた友人と組んでいて、その友人が前衛を勤めていたことなど。
その友人は今は何処に、と訊くと違うゲームに嵌まったらしく最近はどこかのパーティーに入れてもらうか、一人で安全なところで採取クエストをやってたそうな。
俺が大学生でゲームは3年目、レベルは上限の100でSランクハンターだと言うと本気で驚かれてしまった。まぁ確かに今のブレザーとかSランクとかじゃなくても手に入るからな。でもこれも超強化しまくってそこら辺の鎧よりも防御力高いからね。
その後、シキに月夜さんをフレンドリストに入れとくよう指示を出したら、これまた驚かれた。
なんでもゲームの頃は音声ガイドの声なんて真面目に聞かずに音声設定をオフにしていたらしい。
そういえばさっき装備を取り出すとき向こうの腕輪からはなにも聞こえなかったな。
さらにこちらの話を聞いて言われた通りに作業をしてくいて驚いていた。
これで話しとかないといけないと思うことは一通り話終えたと思う。後は・・・。
俺が実は男であると言うことについてだ。
この事について果たして言うべきだろうか?
いや言わなくてもいい気がするんだけどさ、俺できれば月夜さんとは一緒に行動したいんだよ。
だって一人で行動するの怖いしさ。こんな状況で「俺は好きにやらせてもらうぜ」なんて言えるわけないしさ。
でもそれでさ、願い叶って一緒に行動をするとなるといつかはバレると思うんだよな。ずっと女のふりをするわけにはいかないし、さ。
そしてバレたのが色々とやらかした後とかだと、一気に険悪ムードになりそうで怖いし。
でもここで実は俺、男なんですってカミングアウトして気持ち悪がられたらどうしよう?
もしそのままチームを組めたとしても、絶対気まずいと思うんだけど。
「・・・あの、いいですか。アカネさん」
「・・・ん?ああ、はい。なんですか?」
考え事をしていたら、月夜さんの方が話し掛けてきた。顔を見ると笑顔が消えてなんだか思い詰めた顔をしていた。
「実は、私なりにこれからのことを考えて言っておきたいことがあるんです」
「・・・・・・・・・・・・」
いったい何を話すのだろう?これからのこと?とにかくなにか、大事な話らしい。
俺は月夜さんが話を始めるまで黙って待つことにした。
そして、少し長い沈黙を挟んだ後、月夜さんは手を地面について思いっきり頭を下げ、
「すいません!オレ、実は男なんです!」
そう、俺に告白した。