現状を確認しよう 3
現状を確認しよう!
今の俺!
俺が作ったゲームのアバターになってる!巨乳!
現在地!
不明!恐らくゲームの世界とは違う世界らしい!(シキ調べ)
帰る方法!
不明!現実どころか元のゲームにすら帰れるかも分からない!
どうしたらいいんだろ、これ。
ゲームの世界の住人になったと思ったら、異世界に来ちゃったとかこれもうわけわかんないわ。
これもうやっぱ夢であってくれないかな~?なんかもうめんどくさくなっちゃった。これが夢だったら俺マジ変わるから。ボランティアとか超参加するから。植樹ボランティアとか超寄付するから。
落ち着け、俺。そうだとりあえず深呼吸をしよう。
深く吸ってぇ・・・。そして・・・。
「夢から覚めろ、俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃ!!」
肺から全ての空気を吐きながら自分の両頬を思いっきりビンタァ!!いっっったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
夢じゃなかった。夢であってほしかった。
景色は変わらないし、めっちゃほっぺが痛いし、制服でノーブラノーパンだし、なんなのこれ?
ていうかこれからどうしたらいいの?何をすればいいの?というか何ができるの?俺本来ただの大学生だよ?
「・・・シキ、俺どうしたらいい?」
『・・・その質問はお答えしかねます』
だよね~。なに言ってんだろ、俺。
あ~も~、なんだろ、この感じ。なんか無性に暴れたい。武器を思いっきりブン回したい。
あ、そういや武器の確認忘れてた。でもな~、それってなんか意味あんのかな~。それができてどうすればいいのかな~。でも他にすること無いしな~。
仕方がない、やるか。
なんやかんやで必要になるだろうし、なんやかんやで。
俺は武器がくっついているベルトを手にとって、シキに質問を投げ掛ける。
「シキ、武器やアイテムってどうやって使えるようにするわけ?」
『使用したい休止状態の武器をお取りください。その状態で使用したいと念じると休止状態を解除できます。アイテムはアイテムボックスから使いたい物を念じていただくとお取りいただくことができます』
まぁ、とっても簡単。
そういうことなので、早速挑戦。
シキいわくの休止状態の武器はなんていうか、バトンリレーのバトンを光沢のある黒に染めた感じで全然武器って感じがしない。
そしてよく見てみるとベルトにはホルスターみたいなものがあり、一本一本刺さっている。そのホルスターに1から4の数字が書かれていて、おそらくこれが武器のスロットなのだろう。
そこから俺は1番の黒バトンを取り出した。俺の記憶が正しければ、この番号には俺が愛用していたナイフがあるはずだ。
すると、黒バトンは一瞬青白く光ながらコンッと鳴り、愛用していたナイフが出てきた。
そのナイフは全体の長さは大体30センチほど、刃の先からグリップの底まで黒一色だ。
20センチくらいの刃は全体的にシンプルなナイフのラインを描いている。先のところは5センチほど背のところまで研がれており、斬ることも刺すことにも向いているバランスの良い仕様となっている。
グリップの方はいくつもの曲線を描き指に嵌まりやすい構造をしており、グリップの安定をはかっていた。
「こいつももう三年間使ってんだよな・・・」
このナイフの名前は瞬影。
簡単に手に入る武器の一つだ。
普通に拠点となる市街地の武器屋で購入することは可能だ。
初心者とかお薦めされており、属性攻撃とかできない。
しかし簡単にコンボが決められる上に、コツコツと鍛えて最上級まで上げればかなり強力な武器となるので、俺みたいな高ランクのプレイヤーでも使ってることがある。
俺は瞬影を握り直すと調子を確認するように軽く振り回してみる。
ある程度振り回し終えると、今度はゲームの世界の動きをイメージして、手近な木にナイフを振ってみる。
弱攻撃、中攻撃、強攻撃っと。
「おおっ!」
できた。まんまゲームでの動きが。ていうか、試し切りした木がなんか折れそうなぐらい傷が深いんだけど!これ切れ味すごくない!
なんかテンション上がってきた!
あ、じゃあアレできるかな!ジャンプした後、空中で敵を切り刻むやつ!
「おっっらぁ!」
できたぁ!マジでできるんだ、これ!て言うかジャンプスゲー高ーい!身長よりも高く跳んだんだけど!これってアレじゃね!? バク宙とかできんじゃね!?
てかこれ他にもできることあるんじゃね!?
「やっべ、楽しくなってきちゃった!」
気づいたら俺の顔には笑顔が浮かんでいた。
きっと鏡を見たら新しいおもちゃで遊ぼうとしている子供のような笑顔なんだろう。
「・・・あー、スッキリした」
あれから数十分ほどたち、俺は疲れきって地面に横たわっていた。
あの後調子に乗った俺は瞬影だけでなく、残った三つの武器の使い心地を試した。ゲームにあった動きも、ゲームではできなかった動きもできるか確認してみた。
結論から言うと、やろうと思った動きはほとんどできた。できなかった動きもあるにはあったが練習次第ではできそうな気がする。
気づいたら全身が汗にまみれていて、動けなくなっていた。風が超気持ちいい。
ていうかこの体すごいね。
昨日の俺よりも何倍もパワーもスタミナもある。
それでさらに巨乳なのに全然バランスとか崩さないんだわ。若干存在を忘れそうになった。
でもふと下を見ると、上下左右に跳ね回ってんだから、どうなってんだか。
「・・・改めてみるとすごい暴れたな」
すごいと言えば俺が武器を振り回したところもすごいことになっていた。
武器の試し切りにしたところに目を向けると、そこは悲惨な有り様だった。
木は10本近く斬ったり折ったりしてあり、地面は何ヵ所か抉れており怪獣が暴れた後のようだ。
これを俺が面白くってやっちゃった後だと言うのだから、我が事ながら恐ろしい。こんなことをする人間が植樹のボランティアに参加していいのだろうか。
一通り事の次第を思い出した俺は、腰のアイテムボックスからなにか飲み物はないかと探してみる。確かミネラルウォーターが入っていたはずだ。
ポシェット型のアイテムボックスに手を突っ込みながらミネラルウォーターが入ったペットボトルを考えると急に手が何かを掴み、取り出してみるとそこには俺が望んだものがあった。
すかさずキャップを開け、寝転がったまま口に突っ込むとキンキンに冷えた水が口の中に流れ込んできた。まるで冷蔵庫から取り出したばかりのようだ。
「・・・そうだ、ついでにスキルも使えるか確認しないと」
スキルというのはゲームに出てきた必殺技みたいなものだ。MPを使い、色々なことができる。
一撃一撃の威力を上げるものもあれば、まんま必殺技らしい派手なエフェクトのやつもある。俺もよくお世話になったものだ。
これが使えるのと使えないのとでは大きく違うのでこの調子で使えるようになりたい。
とりあえず確認に当たってどのスキルを使うのか、だが。どうせなら派手なヤツでいきたい。いや、おふざけとか面白そうとかじゃなく、地味なやつだと本当に発動したのかわかりにくいんだよな。ちゃんと発動したのか分かりやすくするためにも派手な方がいいんじゃないかと。
というわけで、一番派手なヤツでいこうと思う。
一番派手っとなるとやはり4番スロットに入ってるアレだろうか。
「シキ、スキルってどう使うんだっけ?」
『ではまず体内の魔力を感じてください。感じましたらその魔力を出したいところに導く感じをイメージしてください。最後にどのようなスキルを使うのかをイメージして実際に動作に移行すると発動します。・・・だ、そうです』
「そこは曖昧なんだ」
『申し訳ありません。私は実際に使うことができないので、伝聞でしかお伝えすることができません』
「いや、十分だよ」
そりゃそうだ。なに聞いてもそつなく答えてくれてたから勘違いしてたけど、機械にだってわからんことぐらいある。
ええっと、まずは体内の魔力を・・・。
言われたことをやってみようと武器を持ちながら数分、その時は訪れた。
「おっ!これはイケるかもしれん!」
もともとゲームのアバターだからか、少し戸惑ったが少しコツをつかむとあっという間に言われたことが出来そうになった。
よし!このまま一気にいってしまうか!
そう思った俺は改めて武器を上段に持ち直して、
「せーーーーーっの!」
思いっきり降り下ろした。
「・・・・・・・・・はっ!」
気付いたら俺は武器を降り下ろしたまま固まっていた。いやもしかしたら気絶していたのかもしれん。
というのも俺は自分がしでかした現状を受け付けられずにいた。
結果から言うと俺はスキルの発動自体には成功した。
その結果、森が何メートルか消し飛んでしまった。
・・・これ、人、いや、生き物に使っちゃいけないわ。
ていうかこんなの俺、いつも使ってたの?他のプレイヤーも?なにそれ、怖い。
それにこれ喰らってまだ動ける敵とかいたよね?もっと怖い。
・・・そんなのと会わないといいな。
まあ、色々あったが、これで必要かと思われることは調べ終えた。
体は丈夫でパワフルでエロいし、持病とかは無し。
武器は今まで通りに使えて、スキルも使用可能。
アイテムは減っても増えてもいないので計算通りなら一ヶ月以上は飢えも病気も心配なし。
脱いだパンツも穿いたし、ブラは無かったからYシャツを縛って固定しておいた。これで人にあっても恥ずかしくない。
それじゃ、あとは・・・。
「シキ、通信機能を使ってこの近くにハンターがいないか確認してくれ」
『かしこまりました。少々お待ちください』
これから何をすべきか、だ。
とりあえず、仲間探しから始めようか。一人はなにかと寂しいし。そこから先はそのあと考えればいい。
無論、俺と全く同じ状況の人間がこの近くにいるとは思ってない。
だが、これまでもゲームのフィールドは何回も新しいのはできてるし、これからもあるだろう。
つまり探せば俺の先輩や後輩がきっとどこかに居ると思うんだ。多分。ていうか居て。
そういうことで仲間探しを中心に、旅をしていこうと思う。
いつまでもここに一人で居るのはきついし、食料だっていつまで持つのか分からない。
ならばここでじっとしているよりも、ずっといい気がする。
これでもソロでSランクまで行ったんだ。きっとどうにかなるさ。
そうやって旅をしていれば、きっとやるべきことがわかると思うんだ。もしかしたら帰る方法とかの手がかりとかわかるかもしれないし。
とりあえずの今の方針をそう考えていると、シキが声をかけてきた。
『該当する方が一人、見つかりました。通信を繋ぎますか?』
「・・・・・・・・・え?」
該当するって、どういうこと?
え、居るの同じ状況の人?1㎞圏内に?何処に?
いきなりの事態に頭がこんがらがっていると、俺の後ろから何メートルか離れたところからガサリと音がした。
思わず後ろに振り向くと、そこには一人の女性がいた。
女性は整った顔立ちに黒い髪、金色の瞳をしている。
シンプルで装飾少な目の足首まで届きそうなローブは足首まで届きそうで、ゆったりと羽織る感じに着ている。
見た目の年は俺と・・・大学生の俺と同じかそれ以上の雰囲気がある。
そして左手には俺と同じ腕輪が嵌まっていた。
困った顔をしたその女性は、戸惑うように、それでいてそう願うように俺に話し掛けてきた。
「えーっと、どうも。・・・同業者さん、だよな?」
「どうも、同業者さん。・・・・・・お互い、大変なことになったね」
そう言った途端、女性はハァ~と大きい安堵の溜め息をついた。
こっちはいきなり旅の目的が終わってしまった溜め息も混じっていたと思う。