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理想の姿になりました  作者: 屋野五月
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お着替えタイム

「ん、んん・・・くぅ~!」

「ふぁ・・・。・・・おはよ~、っす」


 廃墟の街に来て一夜明けた朝、アカネと月夜はベッドの上で目を覚ました。

 あの後日が落ち電気がないため光がないショッピングモールの中を歩き回って見つけたベットは十年以上は放置されていたため埃と塵にまみれていた。当然そんな状態では眠れないと二人はできるだけ綺麗にしてみた。月夜が風の魔法である程度飛ばしてみたり綺麗そうな布で吹いてみたりしたがが・・・。


「うわ・・・。服がホコリだらけ」

「というか髪にもホコリが・・・ヘックシュ!・・・ついてますよ」


 やはりというべきか懐中電灯片手にした掃除は上手くいかなかったようであった。


「あー・・・、これは着替えなきゃダメだよな」

「というか風呂に入らなきゃダメで・・・ヘッキシ!・・・もう三日も入ってないんですから」


 そういわれて今更ながらに自身の体臭が気になったアカネは、自分の腋の臭いを嗅いでみる。ムワッとする湿気と共に独特な甘い臭いが感じられた。頭も少し痒みがあり、肌にベトつきも感じられた。


「こりゃ確かに風呂に入りたいな。というかよくこれで平気で寝れたな、俺」

「そりゃ色々ありましたからね・・・。シキ、シャンプーとか石鹸とかある?」

『検索します・・・一件ありました。アップロードしますか?』

「あるんですね・・・。なんだか至れり尽くせりって感じですね・・・ってなにこれ?」

『そちらは、水を使わずに使えるシャンプーです。災害時や断水時でも使用可能となっており、髪や頭皮の油や汚れを綺麗に拭き取れます』

「・・・なんか変なところで現実的だよな。体の方は水だけで済ますか。後は・・・後は?」

「・・・?あれ?なんか忘れてません?」

「・・・だよな?」


 アカネと月夜はお互い顔を見合わせる。なんだが何かを忘れてる気がする。昨日なにかがあった気がするのだ。

 まず思い出すのは格納庫の中にあった食料とビデオカメラ。だがこれは違う。これよりも前の事なきがする。

 この廃墟街に着いた時の感動と喜び?印象深かったがこれも違う。もっともっと前だ。

 知らない森の探索とモンスターとのバトル?大事なことだが違う。だがなんだが近くなってきた気がする。

 朝食に食べた携帯食料?思い出したくない。というか通りすぎたような気がする。


「「・・・あっ!」」


 そこまで考えてようやく二人は『装備の変更問題』を思い出した。

 朝食を食べた後、装備の変更をシキに申し出た際、魔力濃度の問題で着替えることができなかったのだ。 


「思い出した思い出した!ていうかこの件も含めてここ目指したんだった!」

「昨日ほんと色々ありましたからね・・・。途中なんでここを目指してんだかわからなくなりましたよ・・・」


 改めて昨日の出来事を思い返す。

 あるかわからない目的地に向かい歩いたこともないのに森の中を歩き、十回以上ものモンスターとの遭遇戦。数時間以上も掛けて着いたこの街を探索し見つけた物は、少なくない食料と心折なビデオメッセージ。

 心も体も疲労困憊となった二人は当初の目的の一つをすっかり忘れていた。


「それでどうします?今すぐ着替えちゃいます?」

「飯食ってからでいいだろ。今日はやれることはなさそうだし」


 そういいながらアカネは一階の方に目を向ける。

 その景色は一夜明けても薄暗い内装しか見えないが、サーサーと細かい水の音が聞こえてきた。まだ昨日降り始めた雨が止まずに、降り続いてるようだ。そもそも、雨が降ったばかりの整備されたい無いところを通るのだから、何日かはここに拘束されるだろう。というのがアカネの考えである。


「・・・ま、時間がたっぷりできたと考えればいいだろ。当分ここから出れそうにないし」

「そうですね。・・・それじゃ先に飯食いましょうか!さっき缶詰の確認してたらカレーの缶詰があったんですよ!しかもシキに聞いたら賞味期限が後30年はもつらしいっすけど、何でできてんですかね!?」

「なにその賞味期限?」


 なんだか月夜のテンションがいつもより高い気がするが、アカネはその事には触れず話を合わせる。


「30年って・・・それ本当に食えるカレーなのか?」

『はい。最新の缶詰加工技術により科学薬品を用いずに食品の長期保存を可能にしました。安心していただいてください』

「・・・そんな技術があるなら携帯食料の味をもう少しマシにしてほしいわぁ・・・」

「本当ですよね・・・多少栄養が落ちてもいいから旨いもん食いたいですよ・・・」

『貴重な意見ありがとうございます。本部と通信可能になりましたら、ただいまの意見を送信してよろしいでしょうか?』

「「・・・・・・・・・・・・!」」


 思いもしなかったシキの言葉に二人は数秒答えに窮する。

 本部と通信可能になる。それはつまり、元の日本に帰らなければ不可能な案件だ。いや、二人にとってはそこもまた『異世界の日本』なのかもしれないが。

 どちらにしても、この時既に二人の中に『元の世界に戻る』という考えがなくなっていたことに気づいた。


「・・・ああ。この世界から帰れたら、その時はよろしく頼む」

「ついでに、味のバリエーションを増やすようにも伝えといて」

『かしこまりました』


 だからだろうか。気づけば二人はそんなことを口にしていた。

 二人とも、本当に元の世界に帰れるとは思っていない。そもそも、シキの言う元の世界と自分達の考える元の世界は似て非なる全くの別物だといってもいい。

 しかし、そもそも目標と呼べるものがない二人には、それも有りかと考えてしまった。


 帰れるかはわからないが、元の世界に帰ることを目標とするのも悪くない、と。


 そもそもどうしてこのような状況になったのかわからないのだ。体の方はともかく、心・・・魂の部分が何故ここにあるのか?なぜ何の前触れもなく自分達は自分の作ったキャラの中に入っているのか?疑問は何一つ解決していないのである。

 何もわからない。帰れるのか、帰れないのかも。


 ならば帰る事を目標とするのも悪くないのかもしれない。

 たくさんの異世界転生モノでは帰れないのがほとんどだが、今は現実なのだ。何から何まで小説の通りに動くとは限らないのだ。







~~~~~~~~~~~~







「それじゃ、飯も食ったしお着替えタイムといきましょう!」

「お着替えタイムって・・・センパイ、女装楽しむ気満々ですね・・・」

「楽しむしかないだろ。こういうことは冷静になったらダメだ・・・」


 数十分後、食事を終えた彼らは改めて昨日就寝する際に使ったベッドとその周辺を綺麗にし、それで汚れた自身の体を綺麗にしてから装備を変更することにしたのだった。現在は同じ階にある洋服売り場に移動し、大きい姿見の前である。


「それじゃ・・・どうする?なんかリクエストとかある?」

「いや、そんなこと訊かれても・・・ていうか何があるんですか?」

「色々あるぞ~。だって俺、衣装だけはガチで集めまくったからな。確か衣装装備のコンプ率は全体の90パーセント越えてるからな。多分全部合わせて二万個はあるんじゃないか?」

「にまっ・・・!」


 月夜は思わず変な声が出てしまったが『フェンリル・オンライン』は本来、自由なキャラ作成と多種多様な衣装が売りのゲームである。毎月定期的に新装備が追加され、そのための期間限定クエストが起こり、さらにはガチャ限定の装備や少々のお金で購入できる装備もある。

 そしてアカネはこのゲームを『自分の理想の女の子に色々な衣装を着せたい』だけで始め、気づけばレベルMAXのSランクである。

 当然、衣装の収集は人並外れた熱意を燃やしており、その為の金欠や寝不足は最近では本人の中では当たり前になってしまっていた。


「んじゃまあとりあえず・・・シキ、俺の装備を『お気に入りセット』の二番にして」

『かしこまりました。アップロードを開始します』

「お気に入りセット?」

「あれ、知らね?このゲーム自分好みの装備を保存できんだよ」


 『お気に入りセット』はその名の通り、プレイヤーの好みの装備を保存できるシステムである。最大20セット保存でき、一つのセットに一通りの衣装・・・上半身と下半身、それと頭と籠手の四つ・・・と最大四つの武器、さらに4つのアクセサリーの保存が可能である。また、このセットに保存しておくと自動でロックがかかり、うっかり間違えて処分・・・などということがなくなるのである。

 ・・・ということを説明していると、準備が終わったのか腕輪からピーッという電子音が鳴り出した。瞬間、青白い光がアカネを包み、光が消えると・・・。


「うわっ!」

「おお・・・」







 そこには、先程までは架空の高校のブレザーを着ていたアカネが架空の高校のセーラー服に着替え終わっていた。








「いや、あんた!どんだけ女子高生好きなんですか!」

「う、うるせー!かわいいだろうが!・・・まあいい。とにかく、これでちゃんと装備の変更ができるのは確認できたな」


 アカネは改めて変更した自身の姿を鏡で確認する。

 先程までは濃い茶色と白を基調とした夏服のブレザーだったが、今度は紫と薄い灰色を基調とした冬服のセーラ服となっている。スカートは相変わらず短いが、膝下までの紺色ソックスを履いていたた脚は今はルーズソックスが履かされており、茶色のローファーに良く映えている。真っ直ぐのストレートヘアーだった髪は今度はふわふわとしたボリュームのあるツインテールとなっており、可愛らしいリボンが両の髪をくくっていた。


「おお・・・本当に着替えるのは魔法なんだな・・・」

「ガチで一瞬でしたね。オレたちいつもあんな感じ装備変えてたんですね」

「街のど真ん中でどう着替えてんだろうとは思ってたけどよ・・・」


 そのままアカネは不具合がないか体を動かして確認する。軽くの全身のストレッチをしたり、その場で何回もジャンプしたり、その場で一回転してキメポーズをとったりしたが違和感は無く、どうやら装備の変更は問題なく終わったようである。

 

「・・・しかし改めて考えるとすごいな、これ」

「え?なにがですか?」

「この装備変更システムだよ。どんな服も一瞬で着替え終わる上に、髪型までも変更可能とかふつうに考えたら凄いことだろ」

「あー・・・言われてみたらそうですね。アニメとかでは当たり前ですけど、現実すごい技術なんですよね。・・・ちなみにこれ失敗したらどうなるんですかね?」

『過去の失敗した記録によりますと、衣服の一部が体に食い込んだり、毛髪が抜け落ちたり、逆に指定したところとは違うところに生えたりしたそうです』

「・・・よくそんなもんの使用許可が降りたな」

『魔力濃度が低いところであれば失敗はしませんでしたので、安全装置をつけることで許可が降りました』

「いや、俺が言いたいのそこじゃ無くってな?・・・まあいい」


 アカネはそこで話を切ると、考え込むように黙る。そして数秒ほど静かに考え込むと・・・。


「シキ、俺の装備って今どれくらいの数があるんだ?」

『計算いたします・・・少々お待ちください』

「?どうかしたんですか、急に?」

「いや、せっかくだから俺の武器を何個かあげようと思ってな」

「・・・へっ?いやいや、別に大丈夫ですよ?オレも半年ぐらいやってますから、それなりに装備持ってますし・・・」

「だとしても、質の良い武器は持っておくべきだ。・・・市街地に行けない以上、武器の強化も製造もできないんだからな」


 『フェンリル・オンライン』では武器の強化や製造は市街地の中にある『武器整備課』と呼ばれる所に行かないとどうすることもできない。つまり、二人は物資の援助も援軍も、武器の問題も今あるもので何とかするしかないのだ。


「そう・・・かもしれませんけど・・・」

「なんだ?俺のお下がりは嫌いか?」

「いや、そういうわけじゃなく・・・あー・・・なんだがセンパイにお世話になりっぱなしな感じがしてですね・・・」

「別に気にする必要もないと思うが・・・本当に大事なもんはさすがに渡す気はないし・・・」


 そんなことを話していると、シキから計算が終わったという報告があった。


「ほら、そんな気にするな。さっきも言ったように、俺は二万個ぐらいは集めたはずだから、ちょっとぐらい大丈夫だ。・・・で、いくつ?」

『装備は総計198点です』

「・・・・・・はい?」「・・・・・・え?」

『装備は総計198点です』


 思わず二人は聞き返してしまう。が、シキは同じ言葉を同じようしかに返さなかった。

 その言葉に真っ先に食いついたのは当人のアカネだった。


「いやいやいやいや!うそだろ!それは嘘だろ!おまえ、俺がこのゲーム何年やってどれぐらい課金したと思ってんだよ!そんなことある・・・訳・・・」


 最初は顔を真っ赤にして怒鳴るように喋っていたアカネだったが、途中何かに気づいたかのように勢いがどんどん萎んでいった。


「あー・・・シキ?もしかして、もしかしてなんだけど・・・俺は違ってて良いんだけど・・・ていうか、違ってて欲しいんだけど」


 アカネの背中にはネットりとした汗が流れ、着替えたばかり服が肌に張り付く。この時点でアカネは答えに気づいていたが、そうであって欲しくなくてシキに確認をする。







「装備のデータ、消えた?」

『はい。侵食に巻き込まれた際アカネ様の装備は98.5%が消失いたしました。残った装備は198点です。現在、本部と連絡がとれないので装備の修復は不可能です』







 その言葉にアカネは石のように固まった。月夜は驚愕という表情を顔一杯に張り付かせ、言葉を失っている。

 なぜ、三年間かけて集めた装備がないのか?答えは至って単純だった。

 消えて無くなったから無いのだ。

 夜更かししフラフラになるまでイベントで集めた装備も、食費を削ってガチャを回して手に入れた装備も、この世界に来た時消えていたのだ。


 ・・・何秒たっただろうか?数秒なのか数十秒なのかわからないが、石のように固まったアカネに動きがあった。否、正しくは動いたわけではない。


 アカネは石のように固まったまま、顔面から地面に倒れた。


「センパアァァァァァァァァァァァァァァァァイ!?」


 慌てて月夜が駆け寄ると、アカネは・・・。


「ウソ・・・だろ・・・」


 そう一言言い終わると、そのまま気を失った。

 その後、月夜がいくら声をかけてもアカネの起きることはなく、意識が戻るのは一時間ほど後である。






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