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第十六章『ロスアンゼルス会戦…3』

ヤマトの火砲の手は長い。至近まで引き寄せられているアメリカ軍が

その射程から逃れるまで、どれほどの火の雨を浴びなくてはならないか…


後退命令を受けた歩兵部隊は潰走を始める。だが、パニックに陥りながらも

銃を捨てるものは少ない…敗走する軍隊の兵が、身軽になるために武器を捨てるのは

よくあることだが…彼らは『それ』に命を預けて未開の原野を開拓してきた。

それゆえに、もはや身体の一部と化しているのかもしれない。


将来アメリカに未開の地がなくなり、どれほど銃による犯罪が多発するようになっても、

彼らに銃を手放させるのは容易ではなかろう。


命令が伝わらなかったのか、地面に伏せて射撃を続ける兵もいる。

銃眼から飛び込んだ弾に当たった恐山おそれやま伍長がこの戦いにおける

独立愚連隊最初の戦死者となった。


また、アメリカ軍の中には目はしの利いた指揮官に率いられ、地形の微かな

起伏を遮蔽物としてヤマト軍陣地に接近した小部隊もあった。


だが彼らは絶望せざるをえなかった。陣地の前の棒杭にはそれほど密ではないが、

刺のついた鉄線が張られておりそれ以上の接近を阻んでいたのだ。

彼らは『鉄条網』の前面で一人残らず撃ち殺されるしかなかった。


砲撃が退却する敵兵の集団を追って射程を延ばす中、待機していた騎兵…

ネイティブ中心…が五百騎、落ち武者狩りを開始する。


神聖な自らの土地を侵略する憎むべき白人…メキシコ人もそうなのだが…を

駆逐する絶好の機会を与えられた、彼らネイティブたちの戦意はいやがおうにも

盛り上がりまくる。


カーニー大佐の騎兵隊は、またまたネイティブの襲撃を受けながら後退していく。


「とにかくいそげ!! ここを脱出するのが最優先だ!!」


砲撃で重傷を負ったウール司令官がカーニーに出した命令は、ただひとつ…


『このメキシコ・インディアン連合軍の恐るべき戦力の情報を、派遣軍総司令部に

報告せよ』


だが、中継の基地サンタフェですら、まだ一千キロの彼方…である。



情報秘匿のため、少し離れた壕に入れられていたメキシコ軍将兵も

眼前で繰り広げられた戦闘に驚愕していた。


『なんじゃこりゃあ! ヤマト・インディアンとは何者!? とりあえず味方で

あることはありがたいが…しかし……』


「ルチア中佐、司令部までお越し下さい」 


彼らは山下大佐から、この戦闘結果をメキシコ政府およびサンタアナ将軍に

報告するよう『依頼』され、この地を離れることになる。


『依頼』されるまでもない。ルチア中佐は一刻も早くこの情報を届ける必要を

感じていた。ヤマトの正体については考えるのを…とりあえず…やめた。


『ロスアンゼルス駐屯軍の将校に、できるだけ探るようには言ったが…

それよりも、問題は将軍や政府が私の報告を信じてくれるかだ』



戦場では『後始末』がおこなわれていて、ときどき銃声が響く。


「まだ集計中ですが、敵の遺棄死体は二千五百を越えています。

負傷者も五百以上いるようですが、近づくと発砲したりナイフで

斬りかかってきますので手を焼いています」


「抵抗する者は射殺するとして…桑畑くん、この時代のアメリカ軍は

降伏ということを知らないのかね?」


「ヨーロッパの国家間の戦争では、少しずつ国際的な規範のようなものが

できつつありますがね。捕虜の扱い等を定めた『ハーグ陸戦規約』が

結ばれるのは1899年…まだ五十年ほど先になります」


「この時代では投降すれば何をされるかわからん…というわけか」


山下大佐の脳裏に、ネイティブの群れに囲まれたアメリカ軍将兵の

姿が浮かんだ。


「仮に条約があったとしてもです。日露戦争が…特に日本軍において…

ハーグ条約が遵守された希有の例とされていますから」


「守られん方が多かった…たしかにな。都市を爆撃して住民を殺傷するなどの…

おそらく条約の精神に反することを…わしらもやったし、その何百倍、何千倍を

アメリカ軍にやられた」


「ギリシャ、ローマから中世ヨーロッパ時代の戦争では、捕虜はほぼ奴隷と

同義でした。ローマ帝国の対外戦争などは労働力…奴隷獲得の意味合いも

大きかったといいます。中世では騎士以上の階級では捕虜になっても身代金で

解放されるケースも多かったようです。ヨーロッパ人の捕虜の概念はそうした

歴史の上にでき上がってきたのでしょう」


「わが国…日本では捕虜になることを禁じていたが、それも歴史の上…か?」


「山下さんはどう思います? 『武士道とは死ぬことと見つけたり』とか

『生きて二君にまみえず』…なんてことが日本古来の伝統だと?

私にいわせれば、あれは平和がつづきすぎて、自らの存在意義も

変革の可能性も失った、江戸時代の武士がひねり出した『新説』ですよ。

戦争が常態だった戦国時代の武士はそんなものではありませんでした」


「主君のために命をかける…それが武士ではなかったと?」


「いや、もちろんそういう要素は多分にありましたよ。ですが、身分や階級が完全には

固定していない戦国時代においては、主従の関係はかなり流動的だったということです」


『士は己を知る者のために命をかける』『君、君たらずとも臣は臣たれ』

武士をあらわす矛盾した二つの言葉…使われる時代が違うのである。


たとえ主君が人の上に立つに値しない『ろくでなし』でも、家来は忠誠を尽くすべし…

というのは、ほかに就職口を見つけるのがほとんど不可能な泰平の世の生き方だ。


戦国時代には自分が適正に評価されないとなれば、主君を見限ることも稀ではなかった。

そもそも、そんな主君のもとでは命がいくつあっても足りないから…


「そんな『泰平の世』の感覚で近代の軍隊の規範をつくること自体が無理でした。

まあ、それでも明治の軍隊では常識的な運用をされた…といえますがね」


「なんだかんだいって、維新以降も江戸時代を引きずっていたわけだな」


最終的に、この『ロスアンゼルス会戦』では三千五百のアメリカ兵が戦死した。

捕虜は負傷者がほとんどだったが、約二百名。


ヤマトについての秘匿は今後も必要だが、ある程度の『お披露目』が済んだ以上、

全員を『処分』する段階は過ぎたと判断された。彼らはヤマトが定めた…ハーグ条約に

準じた既定で扱われることになる。


五百ほどのアメリカ軍がとりあえず脱出に成功したとみられるが、輜重部隊の

荷車などは置き去りにされており、食料もろくに持たない敗残兵が『敵性種族』が

待ち受ける中を自分達の勢力圏まで戻るのは容易ではないだろう。


ヤマト国、第一独立愚連隊の損害…戦死十二名、負傷者二十八名…



戦場となった斜面の中程に、青い制服の胸から血を流した鼓笛隊の少年が

倒れている。


「こんな可愛い子が死んじまうとはなあ」


…可愛くない子は死んで構わない…という意味ではないが。


「まだ女も知らないだろうに…」


「ああ、男もな…」


ジョニーは戦場に行った…そして凱旋はできなかった。


つづく







 





よく言われることですが、決まり事…法律とか条約とかは『蜘蛛の巣』みたいなものです。弱い者はひっかかりますが、力のある者は突き破ってしまいます…よね。

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