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第九章『イブの総て』

「これ…ですか? 桑畑さん」


山本山大将、山口少将以下の海軍の主立った面々は疑似空間の

入り江の海岸で見せられたものに驚きを隠せなかった。


「ええ、大和や武蔵とはいわなくとも戦艦『三笠』でも出せればほとんど無敵

なんでしょうがね。そこまでするとこれから行く世界との整合性に無理が出すぎて

しまうもので」


「言わんとすることはわかる。兵器というものは、その国の資力、技術力を含めた

国力の結晶だ。製鉄所や造船所も無い所で大戦艦だけ出現させるわけにはいかんと

いうことだね」


「そうです山本山さん…陸軍に戦車を出せないのもそういうことなんです。

銃や大砲と違って船は目立ちすぎますから、ごまかしようもありませんし」


一応うなずいたものの、実戦部隊指揮官の山口少将はまだ納得しきれないようすだ。


「たしかに『これ』なら当分はごまかしがきくかもしれないが、ずっとというわけには

いきませんよね。おもてだった海軍の建設はどうされるつもりです?」


「相手次第ではあるんですが…明治海軍の草創期に習うしかないでしょうね」


「外国から購入するということですか…」


「資金は用意してますし、補充の当てもあります」


どこから購入するのか…とは誰も聞かない。桑畑が言うように、現時点では

未知数の部分が多過ぎて意味がないからだ。


「山口君…当面は『これ』でしのぐしかあるまい。わたしは『これ』を好きでは

なかったがね」


「わかりました…乗組員の選抜、訓練と情報秘匿に努力します。残りの兵員は

陸戦隊として訓練を積ませましょう」


「通訳用の将兵の選抜もお願いしますよ。陸軍でもネイティブと英語、スペイン語の

通訳育成をしてもらってます。昇進の条件として考慮されるとあって、皆さんけっこう

はりきってますよ。海軍の方では英語中心でやって頂きたいのですが」


こんな別の世界に来ても、序列のある組織の中では昇進はそれなりに魅力があるらしい。


「そうだね…回り中外国人だらけなんだからな。いや、話が逆か…彼らにすれば

わしらの方が外国人だが…いずれにせよ通訳はいくらいても多すぎるということはない。

士官の中には英米に駐在武官としていた者もおることだし、かれらに育成のための組織を

つくらせよう」


「インディ…ネイティブの言語は難しいのですか?」


「ええ、方言まで含めると数百種類…部族の数だけ言語があるといってもいいくらいなんです。

まあ、それでもある程度共通な主要言語がいくつかあります。『アルゴンキン語』や

『スー語』『チヌーク語』といったもので…あとは日本語や英語に身振り手振りをまじえて

意思の疎通をはかるしかないですね」


「筆談という手は?」


「彼らは基本的に文字を持っていません。ただ、口頭による伝承にすぐれ、絵画や

いれずみなどでも文化を伝えてきています」


「口頭による文化の伝承か…日本でもアイヌ民族がそうだったと聞くが」


「固有の文化…という面ではとてもすぐれてはいますが、国家や国民という概念は

育ちにくいでしょうね。日本でも青森と鹿児島の人が方言で話したらではまるで通じない

でしょう。ただ、鎌倉から室町期を通して一種の共通言語である『武家言葉』が

ひろまったおかげで、ある程度の国民的統一がなされたわけで」


「なになにでござる…というやつだね。軍隊用語もそういう意味では共通語か」


「豊臣秀吉の小田原城攻めはご存知だと思いますが…このときに、青森…津軽から

津軽為信つがるためのぶという武将が参陣しました。この人は武家言葉を

マスターしてなかったもので津軽弁で挨拶をしたのですが、なにを言ってるのか

秀吉にはさっぱりわからなかったそうです」


「ははは、そりゃこまっただろう」


「まあ、その代わりに為信は近畿出身の武士を召し抱えていましたから、その者が

『通訳』をして無事に意味は通じたということです」


「わかった、通訳育成は急務だね」



主観時間で半年ほどが過ぎた。


将兵は天幕で起居しているが、工兵隊が訓練を兼ねて建てた丸木小屋が

いくつかあり、司令部として使われている。


「…どうやら軍として動かせる段階にいたったと考えるが」


陸軍司令官の今山中将の声に一同がうなずく…もう一人の中将である本山は

軍政を取り仕切ることになっている。


「実戦を経験してる者も多かったですから、思っていたより訓練の進捗が

早かったです。もっとも、ほとんどが負け戦の経験ですがね」


独立第一愚連隊の連隊長、山下大佐が苦笑しながら応えた。


「開戦半年の快進撃の時期は別として、その後は難戦、苦戦の連続だったからな。

桑畑さん、その辺は米軍と戦うにあたって…その、心理的に弱みになったりは

しないだろうかね?」


「逆の目が出るように期待したいですね。まず、米軍…アングロ・サクソンを

なめないということが一点。日本軍の中には『米兵は安楽で遊興的な生活を好み

戦場の困苦に耐えられない』『銃剣突撃をかければ武器を捨てて逃げ出すだろう』

などといった楽観的な…妄想と言ってもいい見通しを持つ者もいたと聞きます。

少なくともここの将兵は、そんな甘い考えではいないでしょうからね」


「…そうだね。敵をのむ気概をもつことと、なめるということは別物だからな。

で、ほかにもあるのかね」


「復讐心…でしょうか。元の世界で自分を殺しかけている相手…のご先祖ですが…を

撃ち破る機会を与えられたわけです。むやみに残虐であれということではありませんが、

日本人にはどこか甘い所があります。剣道や柔道の試合のように一本とったら

きれいにひくという感性は、アングロ・サクソン相手の戦争においては無用というか

危険なものになりますから」


「弱った敵は徹底的に打ちのめす…ということか。なるほど、なじみにくい感性だが

復讐心がそれを乗り越えさせてくれるかもしれんな」


「なんといっても、皆さんは本国という後ろ盾から切り離された『孤軍』です。

ぬるいことを言ってたら生き延びられませんからね」


「あらためて銘記しよう。さて、それではそろそろ…」


ヤマト国陸軍は具体的な作戦目標に向けて準備を開始した。


まず、いくつかの小部隊がトントを初めとするネイティブの通訳たちとともに出撃

していった。目標地域の近隣の部族に『わたりをつける』ためにである。


第一期作戦目標は、策源地の確保と当該地域の敵性勢力の排除…『カリフォルニア制圧』


つづく









仕事がけっこう詰まってきました。この先しばらく更新の間があくことが予想されます。ときどき…って感じで見に来て頂いた方がよいかと思います…よろしく。

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