困惑のぱんちらいん その2
「でも一か月ってもうすぎてるわよね?」
「ああっと、現実での一か月」
「とすると、現実で三週間、ゲーム内であと二か月半ほどですわね」
「追いつける気、しないんだけど。いや、それより」
「なんで、というのは言いっこなしですわよ? リアル大事」
リアル大事。
廃人と呼ばれる超ディープなプレイヤー「以外」で通じるゲーマーの合言葉だ。ゲームはゲームであり、現実世界の生活に悪影響があってはならない、というものである。学校や仕事をさぼったり昼夜逆転生活をしたり、家族や友人とのかかわりをないがしろにしたりしてはいけませんという意味のこもったマナーである。
さらに言えば相手の現実世界でのプライバシーを詮索しないということでもある。
互いのリアル、現実を、大事にする。
かつてオンラインゲームで流行したあるゲームで、ゲームのために仕事をやめろと仲間に言い放った例があったというが、現在ではそこまで酷い者は……あんまりいない。
今も昔も極端な人はいるものである。
「えっと、だからあと74日くらいになるのかな」
「うーん」
「長いようで短いですわね……」
しんみりしてしまった。
ちなみにReFantasic Onlineではゲーム内の時間は現実時間の3.5倍に設定してある。これは、ゲーム内に時間経過の要素があるために、毎日同じ時間に遊ぶ人が同じ時間帯にばかり当たらないための措置であり、また、現実世界で短時間のプレイでも十分遊べるようにするためでもある。
なので、当然毎日24時間一日中遊んでいられるわけでもなく、現実での生活もあるので74日といっても実質はもっと少なくなるわけだ。ふつうは。なんせ現実世界で6時間寝てご飯食べてとやってる間にゲーム内で1日過ぎているのである。
「で、とりあえず月に行ってみようと思って」
「え、海は?」
「空気はどうしますの?」
気を取り直してうさみが今後の目標を宣言すると、即座に突っ込みが入る。
「海は、そのー、頼んでおいてごめんなさいだけど、ほかのひとも手が出せると思うし。でも星界はわたしが中心にならないと、多分始まらないでしょう?」
「それはそうね」
「空気はー、宇宙活動用の魔法を作るところからかな。もしかしたら宇宙線とかあるかもしれないからあったらそっちも」
「ふむ」
「なにより、るな子が星界でも平気だったんだ」
みんなの視線がるな子に集まる。るな子を抱っこしていたメリーがすやすやしていた。昨日も遅かったし。
「わたし死んだけど。るな子は平気だったんだよね」
ぷ。
るな子が小首をかしげる。
「悔しかったのね」
「おぅしっと?」
バニさんが大仰に肩をすくめてあーはー?と外人の真似をする。
うさみがむーと膨れる。
「バニさんそれ芸風違うでしょー」
「ほほほ。ごめんあそばせ」
ぺしぺし。ほほほ。苦笑い。
そんな具合でうさみとバニさんとベルさんがいちゃいちゃしていると。
突然。
「っしゃできたおらあああああああああ!」
「うひゃあ」「ひぇ」「うおぉ」「おっ」
ずっとウィンドウにかかりきりだったあいすが立ち上がって両手を上げつつ叫んだ。
ぼそぼそ系クールキャラ崩壊である。暴走だ。
「え、ちょっとどうしたの?」
うさみがうろたえる。メリーが寝起きと合わせて混乱だ。あわあわ。
「原稿が上がったようですわね」
「原稿?」
「ああ、はじめて立ち会ったわ」
バニさんとベルさんは事態を把握している様子。
うさみは考える。
「あ、前言ってたやつ」
「そう! うさみーがモデルの漫画が完成したのうははははははは!」
これが漫画やアニメならめがぐるぐるしていただろう。
あいすはずずいっとウィンドウをうさみに差し出した。
「あら、かわいい」
横から覗き込んだバニさんが目を細める。
そこに描かれていたのはデフォルメされた金色の髪女の子が主人公の漫画であった。
耳がとがっていることからエルフであると見受けられる。
赤いおおきなリボンが印象的だ。
「これ、もしかしてわたし? さっきも思ったけど、上手だねえ」
「一応プロですから」
「プロ!?」
あいすがぶいぶい。と右手でブイサイン。
「ゲームのアンソロジーとか描いてますのよ。RFOも公式アンソロが来月に出る予定でしたわよね」
「もう締め切りぶっちぎってて一刻も早く提出しないといけなかったり」
「え、それってまずいんじゃ」
「うんそう。つまってたんだけど。素晴らしい題材をもらえて感謝。それで、モデルのうさみーにチェックしてもらいたい」
若干テンションがもとに戻ってきたあいすの言葉をうけて、うさみはぱらぱらと読み進める。
それは破天荒な少女が竜に出会い、飛躍する話。
「わたしここまで無茶しないよ」
「そこはそれ、キャラ立てとデフォルメ」
「あ、星光竜さんかわいい。かわいく無い?」
「もうちょっとかっこいいほうが」
「いやこれはこれで」
「いや」「いやいや」「いやいやいや」
いやいやいやで会話するひとたち。
そして読み終わる。
うさみは顎に手を当ててうむーとうなった。
「どう? まずかったら編集さんに謝らないといけない。発売延期で大問題」
同じポーズでうむーとうなるあいす。
仮にそうなっても大体あいすのせいである。が、うさみはわかっていても慌てた。
「えぇ!? えええと、これ商業誌に載るの?」
「雑誌ではなく単行本ですわよね」
「うん」
「なんかちょっとはずかしい……あとタイトルは?」
「まだ確定してないから合成してない。最有力候補は……」
溜めるあいす。
「初心者うさみの冒険」
「……えと、名前そのままはちょっと」
そう言ってうさみは頬をかくのであった。
おわり。
こんにちは。ほすてふです。
【超初心者うさみの困惑】はこれでおしまいです。お付き合いありがとうございました。
正直なところ【冒険】と比べてだいぶ迷走した感があります。もっかい書き直したら話数だいぶ減らせそうですね。
実は執筆中に大きく環境が変わりまして。一年もかける予定はなかったのですがこんなことに。
身内が入院したり亡くなったり自分の職場が変わったりとバタバタが続き公私ともに大混乱の一年でした。
来年はそこまで大混乱とはならないでしょうが面倒ごとがあるのも見えておりなんかもう全部放り出してどこかに行きたい。みたいな。
さてつまらない話は置いておいて今後の予定ですが。
【うさみすぴんなうとVR】【異世界転移初心者 うさみ】のふたつを検討しています。
【うさみすぴんなうとVR】はRFOでのうさみの短編、中編。組み込めなかったネタなどを供養する感じです。
【異世界転移初心者 うさみ】は時系列的には【超初心者】、【すぴんなうとVR】のあとにうさみが異世界転移する話です。一応つながってはいますが読まなくてもいいようにする予定です。
うさみでやる必要はないしむしろやらない方がいいんじゃねと思われる方もいるでしょうが、ほすてふも結構そう思っているので中止するかもしれません。
どちらも検討中で、絶対やるぜとはいいきれず、場合によってはこれでお別れかもしれませんが――。
ともあれ、今までお付き合いありがとうございました。
次がありましたらまたよろしくお願いします。




